第20話 宿で起こったことを話そう

 結論から言うと、とりあえず村長から身分証代わりの許可証を借りることができた。

「借りる」と言ったが、実は許可証は使い回しているというのが理由である。

 とりあえず、俺たちはこれで村に泊まることができるようになった。


 ところで、村長に伝説扱いされた魔石は、結局村長の前で取り出してはいない。おとぎ話にしか出てこないと言われたため、表に出せばおそらく大騒ぎになるだろうからだ。


 いや、別に表に出すのが怖いから出さないわけじゃないんだ。

 普通に金が欲しいからだ。


 だって、その魔石を伝説扱いしているこの村長の言葉を聞くと、この村に住んでいる人も同じ考えを持ってそうじゃん?

 虹色の魔石が伝説だというなら、俺たちが村民の前に出した瞬間真っ先に疑われるだろう。

 それはどこから持ってきたんだ、とか。それは本物か、とか。

 良くて拷問、悪くて拷も……拷問されることしか考えられないんだが……。


 もちろん、真っ先に口走りそうなリーベは、最初に釘を刺しといた。

 リーベは門番にも言われた通り、奴隷らしくなく、天然というか、頭がお花畑というか、馬鹿というか……。

 はっきり言って、転生する前から転生した後を比べると、後の方が明らかに馬鹿になっている。ほわほわ感がアップしている。


 もちろんそれをリーベに言った。


 夕食時に仲間たちにも伝えた。フェリアたちには転生云々は伝えなかったが、お花畑云々は同意してくれた。


 ライズは相変わらず食いまくっている。

 というか、この宿で食いきれたやつはいないという、オーガド村名物の一つ、『鬼握り闇』というものを食べていた。


『鬼握り闇』とは、普通のおにぎりをバスケットボールほどの大きさにし、ご飯の白い場所が見えなくなるまで海苔を巻いたものである。

 塩で味付けしてあるが、流石に何時間も食べていれば飽きるだろう。


 この村の男衆の中でも、数十分かけて食べきった者もいたようだが、ライズは数分で食べきった。


 宿のおばちゃんは、ライズの食いっぷりに喜んでいた。


「いやー、考えた甲斐があったわ!」


 流石にライズが二つ目を頼んだ時は、「一人一つまでだよ!」と笑いながら注意していたが。


 ちなみに、ライズのこの発言に、ライズの食いっぷりを聞いて集まっていた村の男たちは、少しだけ悔しがっていた。


 *****


 二日後、王都へ向かう馬車がこの村に寄ることを聞いた。


 この村に来るのは明日らしい。

 一応自分たちがもっているバッグが魔法鞄であることを伝えているため、宿のおばちゃんが俺たちのためにおにぎりを握ってくれた。

 ライズのだけ、鬼握り闇が三つほど混じっていた。


 おばちゃん曰く、「この村の名物を広げてほしい」だそうだ。


 村に立ち寄る馬車はどんなものかはわからないが、王都に行けるだけで嬉しいものだ。

 やっと学校へ行くことができるのだからな。


「何一人で完結してるのか知らないけど、リーベを見てなくていいの?」


 俺のモノローグに割り込んできたのは、銀髪金眼のルナだ。今日は珍しく精霊の蝶を連れている。


「え?」


 俺はルナの言葉に宿泊している部屋の中を見渡す。

 先ほどまでグースカと寝ていたリーベがいなくなっていた。


 バタンッ


 そう、扉の閉まる音が聞こえた。


「今、部屋を出たみたい」

「……今、誰か近くにいない?」

「いるわけないでしょ」


 その言葉に、俺は部屋を飛び出した。


 なぜか?


 リーベは一人にすると、すぐ何かやらかすからだ。

 今回の宿では、部屋を俺とリーベ、ルナとフェリア、そしてライズという風に分けたのだ。しかし、俺が先に起きてリーベを置いて行った際、何をしようとしたのか部屋が水浸しになっていたのだった。


 当然、リーベを叱った後、部屋は俺が乾かした。


 どうやら水を使った魔法の練習をしていたらしい。


 少し何かを練習しようとすれば、必ず何かをやらかすリーベを一人にはしていけないと思ったルナ達は、俺をリーベの監視役に任命した。


 いや、奴隷の主人だから監視しているのは当たり前なんだけど、さっき言った通りリーベはお花畑だから……。


 話を戻そう。


 部屋を飛び出した俺を待っていたのは、何かもふもふとした塊だった。


「ファッ!?」


 部屋を出ていきなり目の前にそんなものがあったら、誰でも奇声をあげたくなる。

 宿だから静かにしていろって?無茶言うな。


 しかしよく見てみると、もふもふとした塊には尻尾のようなものがたくさん生えていた。

 いや、普通に尻尾だった。


 ズボッっという音とともに、塊の中から手が伸びてきた。


「〜〜〜〜〜っ!!」


 何やら叫び声が聞こえるが、何を言っているのかわからない。


「何の声……っ……いや何それ」

「俺もわからん。部屋を出たら目の前にあった」


 今のくぐもった叫び声が聞こえたのか、部屋の中からルナが出てきた。

 部屋の前にあったこの塊を見て、ルナも奇声をあげそうになったようだが、何とか堪えたようだった。くそぅ。


「うーん……」


 ルナは何のためらいもなく、もふもふとした塊を触る。


「にゃー」

「ルナ?」

「待って、わたしじゃないよ。

 と言うか何でわたしだと思ったの?」


 猫のような声が聞こえたため、もしかしたらと思いルナに確認したが、なぜかジト目を向けられた。解せぬ。


 とりあえず、目の前に出された手を引っ張ってみようと思う。


「ということでルナ。この手引っ張るの、手伝ってくれ」

「わかった」


 俺は手をガシッと掴む。

 もちろん、手もガシッと俺の手を掴み返してきた。


 そして、俺は勢いよく引っ張られ……待て待て待て!


「ちょ、ハイド!?」

「あっぶねえ!もうちょっとで引き込まれるところだった!!」


 いや、確かにこの塊の中はどうなっているんだと少しくらい興味を持ったけど!


 気を取り直して、俺とルナは塊から出た手を引っ張る。


 少しずつ。そう、少しずつだが、手首から肘、そして肩……塊から人間が出てきた。


 そしてその人間は……リーベだった。


「またか!?」


 いや、わかってたよ。

 リーベが部屋を出た瞬間、俺もすぐに追いかけて出たんだから。

 そしてリーベがそんなに足が速くないことくらい知ってるよ。


 俺たち5人の中で一番足が遅いのに、そんなにすぐに外に出れるとは考えられないよね。


 そして、俺とルナがリーベを塊から引っ張り出すのと同時に、塊は崩れて床にゴロゴロと転がった。


 リーベはぐったりとしていたが、床に転がった物……いや、生き物を見た瞬間、今度はルナが反応した。


「ねこー!!」


 ねえルナさんや。


 少し静かにしてくれませんかね?

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スローライフに奴隷は付き物? ひまとま @asanokiri884

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