第19話 村長宅での出来事

 俺たちは身分証を持っていないため、村の村長の家に向かっていた。

 門番から名前を教えてもらい、さらに村長宅への道も教えてもらった。


 村の中を歩いていると、木を組み立てたログハウスが見えてきた。

 村にあるの家は、ほとんどがこのログハウス風のものだが、村長の家は周りの家とは少し違う。


 村長宅に近づいた時、俺はふと上を見上げた。するとそこには、街のマークだろうか。鬼のような角の生えた頭を象った側が掲げられていた。これが村長の家が、周りの家と少し違う理由である。


 五人を代表して、フェリアがドアをノックする。


 すると、少しして中からしわがれた男の声が聞こえてきた。


『どなたかな?』

「初めまして、フェリアと申します。

 ここはこの村の村長さんのお宅で間違いないでしょうか?」


 フェリアが男の声に対し、今まで聞いたことのない口調で話し始めた。


『何用かな?』

「友人五人でこの村に訪れたのですが、身分証を持っておらず、門番のウィリーさんから村長の家に寄るように言われて来ました」

『ほっほっほっ……まあ入りなさい』


 フェリアの声に、扉の向こう側にいる男は内開きのドアを開ける。

 扉を開けたのは、仙人と言われても間違いではないような、真っ白なヒゲを蓄えた老人だった。


 *****


 老人に中へ案内された俺たちは、木でできた椅子に、村長と向かい合って座っていた。

 村長の家の中は、外見とは全く違った。部屋は広く、煙突がないのに暖炉があり、外では二階建てに見えたのに、中は三回建てという奇妙な空間になっていた。


「さて、初めに自己紹介をしておこうかの。

 わしはこのオーガド村の村長をしている、ガイルじゃ」


 オーガド村……オーガヘッドの略じゃないだろうな?


 そんなことを考えつつ、俺たちは自己紹介をした。

 その途中、俺たちの目の前にカップが音もなく置かれた。


 カップが現れた方向を見ると、茶色で木目が目立つ人型のものが、一礼をして足音を立てずに去って行くところだった。


「……ふむ、お主は精霊が見えておるのかの?」


 俺の様子を見ていたのか、ガイルさんが話しかけてきた。


「え、精霊?」


 ルナはガイルさんの言葉に首を傾げながら、あたりを見渡す。しかし、先ほどの茶色の人形が見えなかったのか、再び首を傾げた。


 その様子を見たガイルさんは、ほっほっほっと笑って説明してくれた。


「この村に建ててある家には、一家に一人精霊が住み着いておってな……掃除や皿洗い、あとは客に茶を淹れてくれたり、家の持ち主が出かけた際の留守番をしてくれたりしてくれるのじゃ」


 家政婦みたいなもんだろうか。

 しかし、精霊というからには、契約はしているのだろうか?


「その精霊とは契約しているのですか?」


 フェリアがガイルさんに質問をする。

 白の大陸の村では、成人になると精霊と契約していた。

 しかし、フェリアのように、精霊が認めないと契約できない、という例も存在する。


 では、この村ではどうだろうか。

 精霊と契約するには何か条件が必要なのだろうか。

 それとも、無条件で契約をするのだろうか。

 はたまた、辺境の村のように、契約せずに共存しているのだろうか?


 ガイルさんは口を開いた。


「契約はしとらん。じゃからわしは見えない。

 それと精霊は、精霊自身が気に入った場所にしかいない。

 それこそ、日常的に見ることができないからわからんがの」


 なるほど。つまり、俺が小さい頃に壊した物に宿っていた精霊は、そこがお気に入りの場所だったと。

 うん。罪悪感が半端ねえな。


 昔のことを嘆いても仕方がない。

 この村長の話から、この村は精霊と共存していることがわかった。


 あれ?そしたら、あの暖炉で燃えているのはなんだ?


 俺が暖炉の方を向くと、そこで燃えていたのは薪ではなかった。


「お主が気になるのは無理もないじゃろう。

 わしらは木を燃やすことを代々許されてはおらぬ」


 木を燃やすことができない?どういうことだ?

 暖をとるのにも薪など燃やすものが必要だ。

 他にも、この世界にあるかどうかはわからないが、木炭を作るのにも燃やさなければいけない。あれ?木炭は密封して燃やすんだっけ?


 俺が思考にふけっていると、ガルムさんは「じゃが……」と続けて言った。


「許されてはおらぬが、それは木以外のものなら燃やしても良いということじゃ。

 例えば……暖炉をよく見てみよ」


 ガルムさんの声に、他のみんなも俺の視線が向いている方へ向いた。


 そこで燃えていたものは……赤い石だった。


 ……赤い石?


 石が燃えている?


「驚いたか?あれは『炎の魔石』じゃよ」

「「「「「炎の魔石?」」」」」


 俺たちが知っている魔石は、よく辺境の村を襲う魔物が持っている、あのデカい魔石のみ。しかも、あれは虹色だが、これは真っ赤だ。


「む?お主らは見たことがないのか?」


 燃えるような真っ赤な魔石を見て驚いている俺たちを代表して、フェリアが彼の質問に答えた。


「はい。あたしたちは、魔石といえば虹色だと昔から思っていたので……」


 彼女の答えを聞いたガイルさんは、目を見開き、そして大声で呵々かかと笑った。

 俺たちがその笑い声に狼狽うろたえていると、その様子を見た彼は笑いを止め、深呼吸をして俺たちに教えてくれた。


「お主らが言っておるのは、あの伝説の魔石のことじゃろ?

 あれは御伽おとぎ話にしか出てこぬものじゃよ」


 そんな馬鹿な……じゃあ俺たちが持っている魔石は一体何だ?

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