第18話 村に入る前に
森を出るまで、本当にマッチョさんが護衛をしてくれた。しかし、魔物は一匹も出ることはなかった。
何だろうか……野生の感だか何だかで、強者だと認識しているのだろうか。
いや、流石に森の中で魔物に襲われたくはなかった。
なぜだと思う?
「元気のいい奴隷じゃねぇか!」
「でしょでしょ〜」
これが、
何をやっているんだ、この奴隷は。
この状態で襲われたら、流石にマッチョさんも対応できなかっただろう。
森のくまさん(仮名)たちが、どのくらいの強さかもわからないし、準備もしていないのに対峙して戦えなんて言われたら、きっと俺たちはここで死んでいる。
というかリーベ、お前は何故そのデカいやつの上に登ろうと思った。あれか?頭の中がお花畑なのか?薄々そうじゃないかと思っていたんだが、本当にそうなのか?
「ハイド、私はお花畑じゃないよー」
なんだこいつ、エスパーか!?いや、どことなく返事がずれているのは、やはり頭の中が平和だからだろうか。
「平和っていいよね〜」
やはり、どこかずれているようだ。
こんなどこか緊張感のない空気のまま、俺たちは無事に森を抜けるのだった。
*****
「よし、着いたぜ。ここが森で一番安全だと言われている、森の出入り口だ」
その情報はどこで言われている情報だろうな。人間の間ではおそらく使われていないだろう。
しかし、森の外には何もないな……所々に木は生えているものの、草を刈っただけであろう道や、どんな効果があるかわからない花や草。向かって左手側に見えている、何やら茶色い柵っぽいものがあるのだが、おそらくそこが、マッチョさんの言っていた村だろう。
「つーことで、オレら悪魔人族や魔人族は、人間とはあんまし仲良くねぇからな。人間に見つかる前に戻らせてもらうぜ。じゃあな」
マッチョさんは、そういうと、周りを気にしながら戻っていった。きっと、人間に見られていないかどうかを確認したのだろう。
つまり、人間に見つかったらヤバいということである。そんな危険を冒してまで俺たちを森の外まで案内してくれたマッチョさんに、俺たちは素直に感謝したい。ありがとうマッチョさん、また会う日まで!
さて、村に向かうか。
*****
「何者だ!止まれ!!」
「だが断る!!」
「断るな!!」
上から、村の門番の人、リーベ、俺の順番である。
門番の言葉を無視してそのまま村に入ろうとしたリーベを、俺は慌てて引っつかんで戻した。
「いやー、うちの奴隷がすみませんねー」
「えへへ〜」
奴隷の奴隷らしからぬ態度に眉を寄せていた門番だが、俺の『奴隷』という言葉に目つきが変わった。
「奴隷だと……?」
俺はこの目つきを知っている。一度見たことのある目つきだ。
そして、門番は口を開いて言った。
「そんな奴隷っぽくない奴隷がいるわけないだろ!?」
そう、門番の目つきは、ツッコミどころ満載の相手に向ける驚きとツッコミを含む目つきだった。
「それに、一般の奴隷は、どこかしらに奴隷の目印をつけておくんだ。誰かに取られないようにな」
さらに、門番がとても良い情報をくれた。
なるほど、奴隷に目印か……考えておくか。
「それで、お前たちは何者だ?」
あ、話が戻った。
このまま忘れて、普通に村に入ろうと思っていたのに無理だったか。
むしろ、そんな簡単に入れるわけないよな。そんなことになったら大問題だ。
「俺とこの奴隷らしからぬ奴隷、あとはこのぽっちゃりと学校に通うために田舎から来たんだ。それで、学校がある国に向かう馬車がここに来るって聞いたんで、この村に寄ったんですよ」
奴隷らしからぬ奴隷とは、もちろんリーベのことであり、ぽっちゃりとはもちろんライズのことである。あ、今回は何も食べてない。珍しいこともあるもんだ。今日は何かが降ってくるに違いないな。
空から少女が落ちてくるなんてことは無いようにしてほしいが。
「なるほど、それで後ろのお嬢ちゃんたちは?」
俺たちの目的を聞いた後、残りのフェリアとルナに聞いた。
「あたしたちは、冒険者になって旅をするために彼らと同じ田舎から出てきたの。この村に寄るのは、この男性陣と途中まで道が一緒だからよ」
彼女たちの言葉を聞き、門番は目を閉じた。
何やら考え事をしているようだ。
そして、目を開くと言った。
「とりあえず、お前らの目的はわかった。嘘を言っているわけでもないこともわかった。だがな……身分証がないんだよなぁ……」
身分証かー……そればっかりは、俺もみんなも持ってねえわ。
「あと、この村には身分証を作れる場所は無いんだ。何せ、青の大陸の隅っこにある村だからな」
身分証が作れないだと……?
「仕方ない。とりあえず、村長の家に行ってくれ。俺の名前を出してくれればいい。村には入れてやるが、まずはそれからだな」
どうやら、村で休めるのはまだまだ先のようである。
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