No.18『血祭りにあげてやらぁ!』
ファミレスからどこに向かっているかもわからない
「なぁ良かったのか? 付き合ってること普通に言っちまって」
「
「そか」
付き合っていることは秘密にしておこうと言ってきたのは春夏秋冬の方だったので、突然あの場で付き合ってると言ってしまった春夏秋冬に俺も別の意味で驚いてしまったんだが。
どうも春夏秋冬にとってはそこまで重大な秘密、墓場まで持っていくような重大な隠し事という認識ではなかったようだ。
まぁ春夏秋冬のプライド的にも言われっぱなしは嫌だったのだろう。
「んでそのー、復讐の作戦とやらは本気で練るつもり?」
「もちろん寝る間も惜しんで練りまくるつもりよ」
「じゃあマジで復讐するんか」
「ええ、マジで復讐するのよ」
そう言う春夏秋冬の目はギラッギラと光り輝きに輝きまくっている。
えー、何なのこの子まだ復讐果たしてもないのに超楽しそうなんですけど。
「でも復讐っつったって、具体的にはどんなことを? これまでやられてきたことをそっくりそのまま返すとか?」
「それはそれで面白いけど、どうせならもっとキツく精神的にクるのが良いじゃない?」
「キツく、精神的にクる……」
「うん。でも安心して、私の復讐に直接手を下させることはしないから。穢谷は作戦を練るのを手伝って」
「んまぁ、それは全然構わんけど……大丈夫かなぁ」
「珍しく弱気ねー。大丈夫だって。私と穢谷が本気出せば皆んな私に土下座して謝りに来るくらいヤバイ復讐が出来るわ」
今からその状況を想像してか、ぐふふと腹黒い笑みをこぼす春夏秋冬。可愛い、ゲスでもやっぱり可愛い。
俺が彼女の復讐作戦を練ることを手伝って何かメリットがあるかと言われれば全く無いけれど、一二に本音をぶつけられ、ここまでやる気になっている春夏秋冬に『ごめん、やりたくない』なんて言えない。
ただ個人的にはこのちょっと強引で自己中な感じの春夏秋冬は懐かしくて実にとてもベリーグッドです。
「まずはやっぱり
既に春夏秋冬の中では復讐の構想が作られ始めているのだろう。ニヤニヤ意地悪い顔で
「……復讐学旅行」
「え?」
「そうよ、絶好のチャンスだわ! 高校の修学旅行を最悪の思い出にしてあげるのよ!」
「お、おぉ。なんか、ノリノリだなー……」
普段の春夏秋冬なら復讐と修学旅行をかけたしょーもないギャグなんて絶対言わないのに。
復讐という日常生活の中で馴染みない行為を本気で行おうとしていることでボルテージの上がり過ぎによりテンションがおかしな方向に向いてしまっているようだ。
そんなワクワクした顔の春夏秋冬を眺めていると、そこで学ランの内ポケットに入れたスマホが継続して振動、着信がきた。ボタンを上二つほど外し、スマホを取り出す。
「ん、
いつもスタ爆かウザい画像連投ばかりなのだが、メッセージでもなく直接電話をかけてくるとは何事だ。
俺と春夏秋冬は一度足を止め、近場にあったケーキ店の軒下に移動。俺はスマホを耳にあてる。
「もしもし?」
『『穢谷くんヤバいよ!』』
「耳イッテ……。ヤバいって何が」
突然の大音量にキーンと耳鳴りがする。俺が復讐をするとしたら第一のターゲットは確実にコイツらで決定だ。
とそんな呑気なことを考えていたのもつかの間、次に華一と
『『穢谷くんと朱々が付き合ってるってツイートがあるんだけど!』』
「「はぁ?」」
『あ、今朱々も一緒!?』
『じゃーやっぱこの写真は今日撮ったヤツなのかな』
「しゃ、写真ってなんだよ」
華一が『ちょっと待ってね』と言って少しすると今度は春夏秋冬のスマホが揺れた。華一から送られてきたその画像は、ツイッターのスクリーンショット。
「何これ、いつ撮られたのよ……」
『腹黒女、まさかの彼氏持ちwwww』という文章と共に、俺と春夏秋冬の後ろ姿を撮った写真がツイートされていた。投稿時間は今から小一時間ほど前。俺と春夏秋冬がファミレスに向かっていた時間帯だ。
ツイートから一時間ちょっとでリプ欄には、数々の根も葉もない噂が挙げられている。ひどいもんだ。
「嘘、どうしよう……」
「…………」
「穢谷、ごめん。私と一緒にいたせいで穢谷まで変な目に遭っちゃうかもっていうか、もうこれが変な目だけど……」
春夏秋冬はさっきの勢いはどこへ行ったのやら、オロオロとどうして良いかわからないといった様子だ。
しかしながら俺にはそんな春夏秋冬を気にかける余裕は無かった。様々な感情が心中で渦巻き、掻き乱され、荒れ狂っていた。
「どうせコイツぁ俺たちが本当に付き合ってるとも思ってねぇんだろーな……」
「ど、どういうこと?」
「許可無しでツイッターなんかに画像載せやがって……俺のプライバシーを侵害した罪は重いぞ」
「ね、ねぇ穢谷ホントにどうしたの?」
「上等じゃねぇかボケカス! 俺のことナメやがって今に見てろ泡吹かして血祭りにあげてやらぁ!」
俺の荒々しい言葉に春夏秋冬は目をパチクリと
「春夏秋冬、決めた。俺もお前の復讐、作戦練るだけじゃなくてもっとガッツリ手伝うわ」
「え、いやそれはダメだって! 穢谷まで巻き込むなんてしたくないの!」
「何言ってんだよ。今もうこうしてツイートされてお前と同じく小馬鹿にされてんだ。もう充分巻き込まれてるよ」
「うっ……それはごめん。やっぱり学校出ても一緒にいない方が良かったわよね」
シュンと俯く春夏秋冬。俺はそんな春夏秋冬の肩をガシッと掴み、少しだけしゃがんで春夏秋冬と目線を合わせる。
「いいか、俺もこんなヤツらのネタにされて流石に腹が立ったんだ。それにこれまで春夏秋冬が嫌がらせされてんの見て、許せねぇ殴ってやりてぇって思ってた。でも……思ってるだけで、俺は何も行動に起こせなかった。彼氏失格だよな」
「それは違う! 穢谷は私のお願いを聞いてくれてただけで……だから穢谷はなにも悪くない!」
「いや悪いよ。さっきファミレスで一二が春夏秋冬への悪口に対してあんな風に本気で怒ってるの見てさ、俺超情けねぇなって」
春夏秋冬は俺の言葉に黙って耳を傾けてくれる。俺がこんなこと言うのも珍しいし、俺の話に聞く価値があると思ってもらえたようで嬉しい。
「今こんなこと言ったってダセェだけなのはわかってる。でもこの復讐作戦に便乗して、俺彼氏としてお前のためになることがしたいんだ。だから俺も春夏秋冬の復讐、しっかり手伝わさせてもらう」
俺はそこまで言い切り、春夏秋冬の肩から手を離す。春夏秋冬はもにょもにょと口を動かし、諦めたようにはぁとため息を吐いた。
「私に嫌がらせしてきたヤツらを、この話を聞いた人全員が引くぐらい痛い目に遭わせてやるわよ」
「……おう!」
歩みを再開しながら、俺に向かってぶっきらぼうにそう言う春夏秋冬。俺は自然とニコッと笑みを浮かべ、頷く。
俺が今まで春夏秋冬に対しての嫌がらせを見ていながら何もしていなかった罪は今更どうにもならない。過去に戻ることは出来ないから。
でも罪の償いは出来る。だから俺はこの償いに春夏秋冬の彼氏としての穢谷葬哉を賭けようではないか。
それに久々に本気でがっつりクズと化すことが出来そうで俺も結構ワクワクしてきてるし、なかなか楽しい修学旅行になりそうだ。
『あのー、お二人さん? 電話繋がったままなの気付いてる?』
「え?」
「あ……」
『そこでちょぉっとお聞きしたいことがあるんですけど〜、お二人の関係につい――』
――プツッ。全て言わせる前に俺は電話を切る。まずったな、一番バレちゃいけないヤツらにバレた気がしてならない。
この後華一と籠目のスタ爆と着信の嵐により俺と春夏秋冬が折れるまではものの数分だった。
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