こぼれ話
『穢谷&春夏秋冬のちょこっと会話Part5』
葬哉宅で行われたクリスマスパーティー。夫婦島の提案した『愛してるゲーム』をすることになった。
「じゃ、私からいくわよ」
「おう」
対戦するのは葬哉と朱々の二人。面と向かって座り、ジッとお互いの目を見つめる。
「愛してる……」
「……」
少しだけ恥じらいながらも葬哉に向かって愛を呟く朱々。照れたら負けという判定者の主観ゲーでもある敗北条件であるため、葬哉はジッと真顔を貫いた。
「愛してる」
「愛してる!」
「愛してる」
「愛してる!!」
そのような工程を数度繰り返し、結果として朱々の降参に終わった。
「ゲーム内容、勝利条件、ルール、熱中度、そして満足度などの様々な観点から見て、愛してるゲームほどの神ゲーはこの世に存在しないという判断に至った。マジ愛してるゲーム最高」
「あんたそれ満足度のパラメーターだけ振り切れてない?」
呆れたような口調の朱々の声は、生まれて初めて人から愛してると言ってもらえたことで満足げな表情をした葬哉には届かなかった。
△▼△▼△
「私って、天才って言われるのが嫌いじゃん?」
「いや知らんけど……」
葬哉は朱々に対して『仕方ないから聞いてやるけど、なんで?』と首を傾げる。
「天才って生まれながらにして才能を持っている人間のことを言うと思うのよ。だから私は天才じゃない、これまでたくさん努力してきた。もし私が天才だったら努力なんてしてない。よーするにね、たった漢字二文字で私の十年の努力を片付けないでほしいのよ」
「じゃあなんて呼べばいいんだ?」
「うーん。努力家とか」
「おっけー、これからお前のことはそう呼ぶことにするよナルシー」
ちょっとふざけたつもりの葬哉だったが、朱々のグーパンが肩にジャストミートしてその後数分間悶え苦しむのであった。
△▼△▼△
「あ、蛙だ」
朱々が草むらの中から飛び出してきた黄土色の両生類を見て、ポツリと呟く。
「もうすぐコイツら冬眠か……」
「いいなぁって思った?」
「ふっ、甘いな春夏秋冬。俺レベルになると冬眠よりも永眠の方に羨望するんだよ。学校行かなくていいし、将来働かなくていいし」
「はぁ……穢谷ママが可哀想だわ。ちゃんと親孝行しなさいよ?」
朱々の言葉に葬哉は鼻で笑い、声のボリュームを上げて言った。
「はっ、親孝行なんてもん、実に笑止千万である!」
「イマドキ井伏鱒二の『山椒魚』ネタぶっ込んだって誰もわかんないでしょ」
「お前わかってんじゃねぇかよ」
「……」
△▼△▼△
「私って、お前って言われるのが嫌いじゃん?」
「……あーそう。なんで?」
聞き覚えのある疑問形文に葬哉はため息混じりに首を傾げた。
「なんでって言われても、なんかムカつくからよ。ちゃんと名前があるんだから名前で呼んでもらいたいじゃない」
「つーことは、俺ほとんど春夏秋冬のことお前って呼んでたから、ずっとムカついてた感じですか」
「うーん、でもまぁ今呼んでくれたからムカつきは解消したかなっ!」
「はぁー?」
ニコニコと満足そうな朱々に、葬哉はまた首を傾げるのだった。
【Part6に続く】
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