エピローグ

『セックスに関する男女の関係性についての無駄話』

 クリスマスイブ。この聖なる夜に肉体関係を結ぶカップルは多い。性の六時間なんて言葉が存在してしまっているように、クリスマスイブの二十一時から翌日深夜三時までの間は、日本で一番性行為に及ぶカップルが多いとされているのだ。


「待って穢谷けがれや、まだちょっと痛い、からっ」

「わ、わかった……じゃあゆっくり、するから」


 事に及ぶ流れは色々あるだろう。その場の勢いだったり、酒に酔ったノリでだったり、悲痛な思いをして傷付いた女の子を慰めるためだったり。

 それがどんなあらすじだろうと、合意の下ならば誰も否定、糾弾することは出来ない。


「んっ、アぁッ。ごめん……やっぱり私が動いてもイイ?」

「あぁ、好きにしてくれ」


 お互いが未経験の場合もあれば、片方は経験者だということもあるし、両方が経験者であったりもする。要するに誰だって初めての時があるわけであり、その初めてを経て大人への階段を一段上るのである。


「あっ、んァッ! んッ!」

「お、いっ! お前急に……っ!」


 美しく清らかな男女交際なんて言葉を時折耳にする。この場合の美しく清らかなは一体何を指しているのか。単純に考えて手を繋いだりキスやそれ以上のことをせず付き合っていることが、美しく清らかであると言うのだろう。

 じゃあキスやセックスしてばかりのカップルは美しく清らかではないのだろうか。もちろんそうとは言い切れないはずだ。本当に愛し合った者同士のセックスは美しいものだから。


「あ、ァんっ! ヤバい、これ結構ヤバいかも……」

「いや、うん、あの……俺もヤバい気がする」


 では、彼氏彼女の関係でもなく友達でもない、他人以上友人恋人未満の男女のセックスは何と呼ぶべきであろうか。他人と言い切るほど遠くなく、友人と言うには程遠い。そんな曖昧な関係性の男女が一夜を共にした時、その二人は一体何と呼べば良いだろうか。

 友人でもなければ恋人でもない。そんな二人の間に愛があるとは言えない。愛のないセックスは美しくない。であればこの二人は清らかな関係ではない……と断定することも出来ないのが、この話をわざわざする理由にもなっている難しい点なのだ。理由でも無ければこっちだって七文前の問題提起はしない。当たり前だが問題を提起するに値する理由があるから、答えを導くまでの道程が難しいから問題を提起しているのである。


「ねぇ、こっちも触って……。私もするから」

「お、おう。ありがと」


 話を戻そう。こちら側が出した問題の解答を説明するにあたり、愛のないセックスをする者が何故清らかな関係ではないと言い切れないのかについて説明する必要がある。

 そもそも愛のないセックスをする関係とは一体どんなものか。風俗でのセックス、援交でのセックス、セフレ同士のセックス。ざっとこういった例が挙げられる。しかし今挙げた三つの例には確かに愛はないかもしれないが、客とサービス者のような関係性がちゃんと見て取れる。

 つまり、愛のないセックスが清らかでないとするならば、清らかでない関係と断定する以外に客とサービス者のように別の関係性を言い表すことが出来るのだ。これにて清らかでない関係と断定出来ない理由は説明終了。最初の問題は解決……とも言えない。


「ンぁッ! そこ……キモチぃ……」

「ほ、ホントか? それなら良かった……」


 先程の三つの例は、実は最初の提起した問題の例としては全くと言って良いほど機能していない。なら何故この三つを例だと嘘偽ったかと言えば、まずそうした方が難しい点を理解し易いからだ。

 こちら側が提起した問題文を思い返して欲しい。彼氏彼女の関係でもなく友達でもない、の男女の関係性は何と呼ぼうかと言ったはずだ。

 要するに、風俗援交セフレの三つの例は確かに愛はなくとも、他人以上とは言えないのである。ただ風俗も援交もセフレも、リピートが出来たりしてそれを繰り返し何度も会えば他人以上になるだろうと思う者もいると思う。

 しかし、それは全てセックスだけで繋がっている関係ではないだろうか。ないだろうかと言うか、確実にそうだ。そして他人以上友人恋人未満の曖昧な関係にある男女は、その連結部分が何であれセックスというものでは繋がっていない。

 わかってもらえただろうか。これこそが他人以上友人恋人未満の男女がセックスした時の関係性を何と呼ぶかの答えを導くことの難しさなのである。曖昧だからこそ関係をはっきり言い表すことが難しく、関係をはっきり言い表せないから曖昧なのだ。


「穢谷は? キモチぃ?」

「うん……俺も気持ちいい」


 それではようやくお待ちかねの本題へ入るとしよう。曖昧な男女の関係性を何と呼ぶべきか、何なのかしっかりと考えてもらった上で解答を聞いてもらいたい。

 この問題の答えは、実に単純明快だ。何故ならば、から。つまるところ、模範解答は『わからない』である。長々と説明してきたが、きっと多くの人間が何を言っているのかさっぱり理解出来ていなかったし、する気もなかったんじゃないかと思う。それで良い、それが正解なのだ。関係性を断定しようとすること自体が間違いなのだ。ここまでの思考全てが間違いで、無駄な行為だったのだから。

 ただ、今までやってきたこと全て無駄で答え無しというのも後味が悪い。だからここらで今現在、穢谷葬哉の部屋で行われている穢谷葬哉と春夏秋冬朱々のセックス、他人以上友人恋人未満代表の二人の関係性を今の段階で『慰めて欲しい慰めてあげたいの関係性』とでも仮称しておくとしよう。


 とまぁ長々と話を続けてきたが兎にも角にも。葬哉の部屋のシングルベッドはその夜、初めて人間二人分の体重を知り、ギシギシと悲鳴を上げるのであった。




【Vol.6終わり】

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