No.9『一緒に周る友達いないっしょ?』
劇が終わり、俺も不思議とひと段落ついた気分だ。大したことする気は無かったのに、変に働かされちまったからなぁ。社会不適合者日本代表の名が廃る。春夏秋冬との勝負に俺が勝手に負けた今、もうこの肩書きも情けないものとなってしまった。……いや、普通に元から情けなかったか。
俺はちょっと自分で悲しくなりながら、先ほど売り歩きしていた生徒から買ったじゃがバターを口に運ぶ。うん、めちゃくちゃうめぇ。これは多分アレだな、料理が上手いんではなく芋とバターそのものが美味いんだな。
「おーい穢谷先ぱーい」
「あぁ?」
じゃがいもの旨さに舌鼓を打っていると唐突に先輩呼ばわりされ、俺は後ろを振り返る。そこには三白眼が特徴的なキャラメル色の可愛らしい制服に身を包んだ少女が立っていた。
少女はノーマルタイプ穢谷葬哉のにらみつけるに対してジト目で小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「うっわ、目付きやぁばいっスね。だからひとりで文化祭回るようなことになるんスよ」
「あぁ、なんだ佐々野か」
「……だぁかぁらぁ!!
「わ、わかってるわかってる……! ちょっとした冗談だって」
最初に小馬鹿にしてきたのそっちじゃん。なんで俺がイジったらんなキレるわけ? 実に理不尽極まり無い。まぁ俺は年上で頭も大人なので目を瞑ってあげますけどね、えぇ。
佐々野改め
「はぁ、せっかく久々に会ったって言うのに先輩相変わらずっスねー」
「相変わらずなのが悪いみたいな言い方すんなよ。昔と変わらないって言ってくれ」
「昔と変わらないってのもなんか、成長してないみたいで言い方的にはマイナス感強くないスか?」
「…………で、何が相変わらずなわけ?」
「相変わらずモテなさそうな顔してるなー、ってイダイイダイ!! なんで頭潰そうとするんスか!」
「あぁすまん、ついイラっとして」
こんな年上ナメたクソガキ娘でも、颯々野は実は偏差値ドチャクソ高い名門私立中学校の生徒だったりする。風俗店である女の子のボディガードをしてほしいと頼まれ、コイツと出会うことになったのだが、そういやアイツは一緒じゃないのかなとふと思った時。
「はぁはぁ……もぉー、凉弛ちゃんひとりで勝手に行かないでよぉ〜!」
「あー、サーセン
「ひどい〜! 凉弛ちゃんが学校案内してって言ったんでしょお〜!?」
我が愛後輩、
「まぁいいじゃないスか。どうせ一二先輩、一緒に周る友達いないっしょ?」
「もぉ……それはそうだけど、あたし凉弛ちゃんが案内してくれって言ってこなかったら葬哉くんと回るつもりだったんだからね〜?」
「穢谷先輩と約束してたんスか?」
「うぅん、無理やり連れ回すつもりだった〜。断ったらこれで脅してね……」
「ちょ、一二先輩目がヤバいっス! 後ここでそんな危ないもん出さないでくださいよ!」
一二はふっふっふっと謎に不敵な笑みを浮かべながら、持っていたカバンからスタンガンを取り出し、颯々野に向ける。おそらく護身用だろう。
まぁ一二のこれまでのアレコレを考えたら、持っていてもおかしくはない。またいつ例のアイツらみたいに援交時代のヤバい客がレイプしにくるかわからないしな。
「にしてもお前らやっぱり二人で回ってたんだな」
「そうですよ〜」
「来年は凉弛、ここの生徒なんで見学も兼ねてっス」
「まだそうと決まったわけじゃないだろ」
「いや絶対受かります。凉弛の頭の良さはこの制服が証明してます」
「チッ、小賢しい……」
自分のキャラメル色ブレザーの裾をヒラヒラさせる颯々野に思いっ切り舌打ちをかましてやった。それでもドヤ顔を続け得意げな顔をする颯々野へ、一二が言う。
「でも凉弛ちゃん、頭良くなってきたのは最近だって言ってたよね〜?」
「……凉弛そんなこと言いましたっけ?」
「言ったじゃ〜ん! 『穢谷先輩にガツンと言われてから本気で勉強し始めて、それで学年ビリ近くだったのが今や十番代にまで上がってるんっス』って、すっごい嬉しそうに言ってたよ〜」
「ちょ、やめてください一二先輩……///」
「え〜?」
一二の暴露に恥ずかしそうに頰を染める颯々野。しかし一二はキョトンと可愛い顔して首を傾げるだけで、全く悪気はないようだ。
ホント一二は悪意ゼロで言ってんだからタチ悪いよなぁ。怒るに怒れない。けどまぁ可愛いから全然許せる。世の中顔全て説が今俺によって立証された。
「あ、そうだ葬哉くん観てましたよ劇〜。感動的でした〜」
「そうか。満足してくれてるみたいで良かったよ」
「穢谷先輩なんかしてました?」
「葬哉くん自体は劇では何もしてないよ〜。でも多分裏方として仕事させられまくってるはずだからね〜。こういう時労ってあげたら男の人は勝手に喜ぶからっ!」
よくおわかりじゃないですか一二さん。その通りですよ、裏方として働かされまくりました。ただ最後のセリフはあんまりこっちに聞かせない方がいいけどなー。
颯々野は一二の見解に、大して興味無さそうにしながらも一応聞いといてあげるみたいな感じで俺に問うてきた。
「ふーん、先輩そうなんスか?」
「当たり前だろー。俺めっちゃ仕事押し付けられてたからな」
「ははっ、なんか簡単に想像出来るっスわw」
なんで半笑いなんだお前、頭マジで潰すぞおい。
「朱々ちゃんの演技もすごかったし、何より超可愛かったよ〜」
「あー、あのヒロイン役の人っスよね。ありゃ確かにやばたにえんだったっスわ。穢谷先輩同じクラスでも絶対喋ったことないタイプっスよね〜」
「ふっ。残念だったな颯々野。俺はアイツと全然喋ったことある!」
「えぇ……マジで言ってんスか? 先輩の妄想じゃなくて?」
「妄想なんかじゃないよ〜。喋るどころか葬哉くんと朱々ちゃんはすっごい仲良しなんだよ〜」
「えぇ!?」
一二の言葉に自分の耳を疑っているであろう颯々野は、驚くほど目を丸くして叫んだ。周囲の歩行者は突然大声を上げた名門校の制服の女の子に当選ながら困惑の顔をしていた。
制服で人の価値観を決められてちゃたまんないよなぁ。だけどそれだけ制服というものが学校を印象付けるものとして重要なものだということだ。ひとりが外で制服を着て悪い行いをすれば、ソイツだけでなく学校そのものが悪い行いをするのだと印象付けられてしまう。制服を着て一歩学校の外に出れば、学校の代表になっているようなものなのだ。
良かったー、俺劉浦高で。外で何やっても校長が金の力で揉み消してくれるし。
「仲良しって、絶対嘘っしょ? あんなキラキラ眩しい人がこんな口悪底辺先輩なんかと仲良しなんてイメージつかないっスよ」
「おい誰が口だけカスゴミクズ男だ」
「いやそこまでは言ってないんスけど……もしかして、同中とかスか?」
「そうだぞ。中学校一緒だ」
「なるほど……いやそれでも穢谷先輩とあの美人の先輩との接点がわかんないっスわ」
「まー、色々あんだよ。後、多分お前が想像してるほど仲良くはねぇからな」
細かく説明したら長くなりそうだったので、というか絶対長くなるから俺は曖昧に返事をしておいた。
すると颯々野の方もそこまで追求してはこず、今度は俺の手に持つじゃがバターを指差して口を開いた。
「あ、ていうか穢谷先輩そのポテトどこ売ってたんスか? 凉弛も食べたいっス、一二先輩次それ買いに行こ」
「は〜い。じゃがバターは売り歩きでしかも人気みたいだからすぐ無くなっちゃうかもだし、そろそろ行こっか〜。葬哉くんも一緒に回る〜?」
「いいよ恥ずかしい……」
女の子二人と、しかも後輩といたんじゃ周囲からどう思われるかわかったもんじゃないし。
「そっか〜。それじゃあまた今度ね〜」
「穢谷先輩来年の入学式楽しみにしといてくださいっスよ!」
「はいよー」
そう捨て台詞を残して一二と颯々野の二人はじゃがバターの売り歩きを探して廊下を歩いていった。
俺も面白い後輩に恵まれたな。来年が楽しみになることなんて初めてかもしれない。
少し口角を上げながらそれを隠すようにじゃがバターを口に含む。俺はパンフレットを眺め、次に平戸さんのクラスへ行ってみることにした。
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