No.4『吹奏楽部におけるやる気とは』

「あー、ドッと疲れたわー」

「方言も強過ぎると可愛さなくなるよねーww。蓼丸たでまるちゃんは顔可愛いからボク的には全然オッケーだけど」

「いやそんなこと聞いてないです」


 階段を下りながらはぁとため息を吐いて言う春夏秋冬ひととせに、平戸ひらどさんが聞いてもいないことを勝手に喋る。


「それよりも、どうするのよ。私、一向にやる気出させる方法浮かばないんだけど」

「あぁ、今回はいつにも増して難しいな。俺もどうすりゃいいのかさっぱりだ」

「二人は一学期の時からこんなことやってたんだよねw?」

「そうですね。基本的に俺の考えで全て解決してきました。コイツはほとんど何もやってないんで、俺の功績が大きいですね」

「は? ところどころあんたにヒントやって案が出るように影ながら支えてやってた私の方が功績あるでしょうよ」

「ヒントぉ? なんも出してねぇだろ」

「メイドさんの話振ってあげたりレイプ野郎見つけたのも私だったじゃない」

「そんだけじゃん。たかだが二つのヒント如きでデカい顔すんじゃねぇっての」

一番合戦いちまかせ先輩にずっと勉強教えたし、みやびん時は全部私の功績でしょ!!」

「オッケーオッケーww。わかったから喧嘩はやめてくれw」


 話振っといてまあまあと宥めてくる平戸さん。その喧嘩の原因はあなただからね? まぁこれぐらいならまだ喧嘩とは言えないような気もするけど。いや俺と春夏秋冬における通常会話がおかしいのか。でも最近は口喧嘩少なくなってきてるんだよなぁ。一学期序盤のいがみ合いが懐かしい。


「前までのお手伝いがどんな感じだったのかは知らないけど、確かにこれは難しいねぇ」

「部員が来ないのは楽器出来ない蓼丸さんから指導されるのが癪だからなのか、もしくは蓼丸さんのことを単純に嫌いなのかですよね」

「まぁ例え部活に来させられたとしても、部活動にやる気になっているかは別問題だと思うけど」


 そうなのだ。俺たちが試行錯誤して部員を部活動に来させることが出来たとしても、ただ来させることが出来ただけで、部員たちが部活動にやる気になっているかどうかはまた別問題。校長からの命令である『吹奏楽部にやる気を出させる』が達成出来たことにはならないのである。

 そもそも、どういう状態になれば吹奏楽部にやる気が出ているということになるのだろうか。例えば野球部であればベンチ入りを目指して仲間と競い合っている状態、美術部であれば賞を取るべく美術教師にアドバイスを求め、作品のクオリティーを上げようと奮闘する状態、とそれぞれの部活動でそれぞれやる気が出ている状態の形式が違うはずなのだ。

 ということはつまり、思考する前に吹奏楽部におけるやる気というものを定める必要がある。吹奏楽部の活動はその名の通り、吹奏楽。吹いて奏でるって書いてるけど、実際には大抵打楽器も入ってくる。ちなみにそこに弦楽器が入ると吹奏楽からオーケストラに名称が変わる。

 まぁ今はそんなことは置いといて。吹奏楽部ならばどういったことがやる気に繋がるだろうか。やはり団結し、演奏を極め、大会で賞を取るために部全体で切磋琢磨するみたいな感じが通常の吹奏楽部におけるやる気が出ている状態のように思えるのだが、残念ながら劉浦りゅうほ高吹奏楽部では同じことは言えない。それ以前の問題だ。部員が部活動に参加していないのだから。

 部員が部活動に積極的に参加している状態。この状態であることが、どんな部活動であろうとだ。しかしながらうちの吹部はそうではない。部員が部活動に積極的ではない。つまり、その逆をいけばいいわけだ。

 吹奏楽部の部員たちに、部活動に積極的に参加させるようにする。これが今回の面倒ごと『吹奏楽部にやる気を出させる』においての最終目標だ。


「穢谷くんの言うことは至極真っ当だと思うよ。ボクも賛成。だけど、結局その部活動に積極的に参加させるってのが難しいんじゃないww?」

「そうね。問題はそこだわ。……でも、楽器出来るのに先輩からの指導が嫌なだけで部活サボるのかなって思うよね」

「どういう意味だ?」

「部活サボって先輩直々に部活来てって言いに来られて、それでも来ないようなヤツらなのよ? 楽器出来ない先輩に指導されるのがウザいって思ったぐらいで部活行かなくなるって、ちょっとおかしいでしょ。先輩命令に堂々と逆らえるような度胸あるんなら、自分の方が上手いんで自分が皆に指導しますとか言えそうじゃない?」

「なるほどな……」


 言われてみれば、確かに春夏秋冬の言う通りだ。先輩がわざわざ自分に部活に顔出せって言いに来てるのに、それをガン無視するような度胸の持ち主なら、下手クソからあれこれ言われるのをウザいと感じたくらいで部活をサボるだろうか。多分自分で入部届けを提出し、自分が入りたいと思って入った部活で、部費も払っているんだろうからそんな簡単にサボるとは考えにくい。


「全員が全員、本当にサボりたくてサボってるわけじゃないのかもねぇw」

「と言うと?」

「部員全体でサボるように話を合わせてるかもしれないってことさ。まぁそんな悪質なことする人たちかどうかわからないのにこんなこと言うのもアレだけどね~w」


 平戸さんはそう言うが、あながちその推測は間違っていないかもしれない。誰かひとりが部長ウザいなと感じたとして、それを他の部員に愚痴ったとする。その愚痴を聞いた部員がまた他の部員に愚痴り、それを聞いた部員がまた愚痴り……これを繰り返せばいずれ蓼丸たでまる癒詈ゆりは部員たちの中でウザい先輩だと定着し、共通の敵となってしまう。もしこれが本当に起こっているのだとしたら、俺たちが部員たちの蓼丸さんの悪イメージを払拭させるか、もしくは――。


「――蓼丸さんそのものを変えるかだな」

「その心は?」

「蓼丸さんが自分がウザかったってことを認めて、またひとりひとりに謝罪するんだよ。んで、部活動中も一切口出ししないようにするんだ」

「でもそれって、蓼丸先輩が不憫じゃない?」

「蓼丸ちゃんは部長としての責務を全うしてるだけだしねぇw」


 まぁ何にせよ、結論を出すにはまだ早いわけで。明日また蓼丸さんと話し合って色々と確認を取っても遅くはない。

 頭を使って疲れてしまった俺は、もう考えるのやめた。

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