第1話『うち、下手やけど下手なりに頑張っとるっちゃけんね!』
No.1『うちの学校、吹奏楽部とかあったんだ』
九月一日の翌日翌々日、つまり二日と三日、劉浦高校では実力テストが実施された。一日目が現文、物理、英語。二日目が数学と現社という日程だったらしい。らしいと曖昧な言い方をしているのは、俺がテストを受けていないわけではなく、勉強してないからわかるわけがないと諦め、ほぼ全ての時間睡眠に当てていたからなのである。
そして現在、俺は例によって担任に呼び出しをくらい、職員室にいる。周りの教師たちは皆『あぁまたコイツね』みたいな目をしている。わぁ、俺って有名人。
「穢谷、この点数は一体何をどうしたらこうなるんだ? 逆に教えて欲しいくらいなんだが」
担任が俺の五教科の解答用紙をコピーしたものをデスクに並べ、首を捻る。
「そうですね。夏休み、自分の欲に素直に生活したらこれぐらいの点数誰でも取れると思いますよ」
「なるほどなー。よし、今日から来月いっぱいまでお前放課後補習な?」
有無を言わさぬ……と言うかうんと頷かなきゃ殺すぞみたいな意味合いを持っているであろう疑問系の言葉に、俺はこくこくっと首を縦に振ることしか出来なかった。有名人は有名人でも、悪名高い方で有名だった。
「はあ……。俺言ったじゃん、実力試験はせめて赤点回避くらいはしてくれって」
「確かにそう仰ってましたけど、なにぶん記憶力が悪いんで夏休みの間は忘れてました」
「今覚えてるじゃないか」
「今思い出したんです……イデッ!」
「補習期間延ばされたいか?」
「すんません。それだけはやめてください。もうナメた口利きませんから」
「はあ……。もういいよ帰って」
ため息を吐いて諦めたように言う担任。これは補習期間延長を回避したとみていいんですかね?
「あ、多分外に
「
初めて聞く名に、俺はそっくりそのまま問い返す。
「お前自分の名前順の後ろの人の名前も知らないのか……」
「知らないんじゃなくて興味が無いんです」
「どっちでもいいよ……。じゃこう言ったらわかるかな。クラスにいるゴリゴリのがっつりギャル」
「あー、アイツか」
始業式の日に俺に突っかかってきたあのギャル女の名前だったらしい。あれ、あの日はなんて呼ばれてたんだっけ……。
いやいや今はそんなことどうでもいい。問題は別にある。
「先生見てたでしょ。俺、ソイツにめちゃくちゃ敵視されてんですよ」
「みたいだなー。春夏秋冬がお前と一緒に校長室に呼ばれ始めてから特に。ああいうギャルっ娘は独占欲が強くて困るよなぁ」
「敵視されてるヤツに自分から話しかけたくないんですけど」
「うん。頑張れ」
担任はデスクに広げた俺の解答用紙のコピーを片付け、新たに違う解答用紙のコピーを広げ始めた。氏名欄には『
「あれ。もしかしてあのギャルも俺と同じでバカですか?」
「あ、コラ見んな見んな。早く呼んで来いって」
「……へーい」
担任にしっしっと手を振られ、職員室を出ると、すぐに定標此処乃世は見つかった。と言うか職員室前で気だるそうに立ち尽くしていたので、否が応でも視界に入ってきた。
「……呼んでたぞ、担任」
「あっそ」
定標は俺の言葉に素っ気無く返し、校長室に入る時の春夏秋冬の如く何も言わずに扉を開けてズカズカと職員室に入っていった。怖ぇ……ワンチャンどこぞのヤンママアルバイターよりも怖ぇよ。
ただまぁこれで担任から言われたことはしっかりこなした。さっさと帰宅したいところではあるが、そのまま隣の校長室へと入室。今日はまた校長からお呼びがかかっているのだ。ここに来るのは始業式以来。と言っても、たった三日ぶりだけど。
「やぁやっと来たね穢谷くん」
校長が読んでいた週刊少年マガ◯ンから目線を上げる。既に校長室内には春夏秋冬と校長室登校のキモデブオタク
「夏祭りぶりっすね穢谷パイセン! 元気してたっすか?」
「あぁ、元気してたよ。そういうお前も相変わらずすーすーうるさいな」
「あはは。夫婦島くん、ホント皆んなにそんな喋り方なんだー。体育会系って感じで、ボクは良いと思うよw」
「そっすよねぇ! 平戸パイセンはやっぱ第一印象通り、良い人っす」
「だけど喋り方体育会系でも、ちょっと体型がねぇww。残念だよなぁw」
「んなっ! 平戸パイセン意外と言っちゃうタイプっすか……!」
平戸さんの後に付け加えられた言葉に夫婦島はビクッと肩を震わせる。その様子を見て平戸さんはケラケラと笑い声をあげた。
「あはは。冗談だよ冗談ーw。面白いね夫婦島くんw」
「笑いながら言われても冗談とは思えないんっすけど!?」
先日、平戸さんに街を案内してくれと言われ、結局春夏秋冬と共に街中歩き回ることになったのだが、そこで気付いた平戸さんの特徴。ずっとニヤニヤしてるとか常に笑顔とかとにかく口角が上がってるとかいくつかあるのだけれど、何より一番は人懐っこさだろう。
まずは人を疑ってかかる系男子の俺でさえも、その日の帰りには普通に自分から話しかけてしまっていた。もしかすれば春夏秋冬なんかよりも対人関係の構築に長けているかもしれない。
今だってきっと初対面であろう夫婦島に、少しイジりを入れながら会話するという高度な陽キャスキルを使用している。平戸さんマジぱねぇ。
「あ、穢谷くんこないだはホントありがとねーw。おかげで道に迷うこともなくなりそうだよ」
「そうですか。そりゃ良かったです」
「ねぇ、世間話はそれくらいにしてくれない? さっさと今日の仕事の話に移りたいんだけど」
「えぇ~、つれないなぁ春夏秋冬ちゃんw。ボクは春夏秋冬ちゃんとももっとお話したいのに~」
「春夏秋冬パイセン目が職人っす……。もう校長先生の面倒ごとのプロと化してるっすよ」
「ふふふ、わたしの忠実なる
「せんせー。寝言は永眠して言って」
春夏秋冬、日に日に校長への当たり強くなってないか……。教師にそんな口利かねぇだろ普通。
「辛辣にも程があるとは思うけど、今は置いておこう。今日君たちに頼みたいのはずばり、吹奏楽部の部員たちにやる気を出させて欲しい!」
「やる気を出させる……?」
「うっわぁw、すっごいアバウトー」
春夏秋冬は鸚鵡返しで首を捻り、平戸さんは校長の言葉の大雑把さにクスクス笑う。
「そもそもうちの学校、吹奏楽部とかあったんだな」
「そう……そうなんだよ穢谷くん! この劉浦高の吹奏楽部はあまりにも影が薄過ぎる。それもこれも……まぁここから先の話は実際に行って確かめてみてくれたまえ」
説明するのが面倒になったのか、校長は途中で話を止めた。
「百聞は一見にしかず、我が劉浦高校の吹奏楽部の実態を見に行くといい。いつも通り、手段は問わない。やる気を出させられるのであれば何をしてもいいよ」
「うっし、僕やってやるっすよ~。何気にこうしてパイセンたちと学校内で一緒に何かするの初っすからね」
「いや夫婦島くん、君は引き続き書類の判子押しだよ」
「えぇっ!? マジっすか!?」
「当たり前だろう。君、判子押すくらいの単純作業しか出来ないじゃないか」
「そ、そんなぁ~……」
涙目になる夫婦島に手を差し伸べるようなヤツ、この中にいるわけもなく。俺と春夏秋冬と平戸さんは吹奏楽部へと向かうことにした。
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