『穢谷&春夏秋冬のちょこっと会話Part1』

「ねぇちょっときいてー?」

「ん、なに?」


 葬哉と朱々の二人が初めて校長に労働を課せられた日――つまり夫婦島の一件で夫婦島宅へ向かっていた時のこと。中学生の女子二人が葬哉たちにまで聞こえる大声でお喋りしていた。


「最近シャンプーの減りが激しいなぁって思ってたんだけどさ、またお父さんがうちのシャンプー使ってたの! マジ腹立つ……っ! 何回言っても懲りずに使うんだよね」

「それは確かにヤダねー。私はめんどうだけど使われたくないから自分の部屋にシャンプー置いてるよ。でお風呂入るときに持っていくの」

「あー! それいい! うちも今日からそうしよ~」


 その会話を聞いた葬哉がボソっと呟いた。


「自分の娘にシャンプー使われただけで毛嫌いされるなんて、世の父親たちも可哀想だな」

「いやいやあんたよく考えてみなさいよ。自分と同じ匂いが父親からもするのよ? イヤでしょ」


 朱々は中学生二人を擁護するように葬哉に反論。しかし葬哉は首を捻って言う。


「なんでだよ。家族なんだから同じ匂いするだろ。それに『うちのシャンプー』って言ってたけど、そのシャンプー代だって父親が稼いだ金を小遣いとしてもらって買ってるもんじゃねぇか」

「わっかんないヤツね。その金銭的な考え方自体が間違ってるの、女子ってのは現実的なこと抜きにめんどうなこと考える生き物なんだから」

「なるほどな。だからお前と会話すると一々めんどうなんだな」

「あ? それどういう意味?」


 とてつもない眼光で睨まれた葬哉はそそくさと目的地へ足取りを速めた。




 △▼△▼△




「『結婚願望の強い女は合コンでは非難の嵐』か……。ふーん……」


 夫婦島をメイド喫茶に連れてくる作戦が成功し、暇な葬哉と朱々。朱々は置いてあった結婚情報誌を読んで声を漏らした。


「お前、合コンとか興味あんの?」

「なによ、私が合コンに興味あったらダメなの?」

「そうは言ってねぇだろ。なんかちょっと意外だなと思ってな」


 はぁ? と首を傾げる朱々。葬哉に意外だと思われた理由がわからないのだろう。


「合コン以前に結婚とか全く興味ないと思ってたんだよ」

「私だっていつかは身を固めなきゃなとは考えるわよ。言っとくけど、私家事とかマジ完璧にこなすから」

「なんだよその私いい嫁になりますよアピール。そういうのも合コンじゃ非難の嵐になるんじゃねぇの」

「ん、確かにそうね。でもまぁ、合コンなんて基本的にヤリモクの集まりでしょ? 行くだけ無駄よねー」

「……本気で婚活してる人だっていると思うんだけど」




 △▼△▼△




 乱子の援交の証拠写真を手に入れるべく、風俗街へとやって来た葬哉と朱々。制服を着ているせいか、若干周りの人間からの目が訝しい。


「うーん。ここ初めて来たけど……すごいわね」


 朱々が目を細めて都会に出てきた田舎者のようにキョロキョロと風俗店やラブホテルを見渡して言った。


「すごいって、なにがだ?」

「なにって……言い表せないけど雰囲気が!」

「あー、まぁ、その気持ちはわからんでもないな」


 葬哉もキャッチの人間や風俗嬢と思しき女性を見て呟く。そんな葬哉の顔を覗き込んで口を開く朱々。


「にしてはあんた、いつも通りのつまんない顔してるわね」

「おい、つまんない顔とか言うんじゃねぇよ。ぶっ飛ばすぞ」

「あ? ぶっ飛ばしてみなさいよクズニート。んでブタ箱でゆっくり寝てろ」

「んだとコラ、ボケが。てめぇこそ男何人もたぶらかして詐欺で捕まれ」

「私がいつ男をたぶらかしたってのよ!?」

「いっつもお前告白されまくってんだろーがよ! たぶらかしてんじゃねぇかよ!」

「たぶらかしてないわよ! 勝手に私に惚れてるだけでしょ!」


 お互いに譲ることなく、バチバチと目線で火花を散らす二人。

 

「あの……」

「「なに!?」」

「何じゃねぇよ! 店の前でゴチャゴチャ痴話喧嘩してんじゃねぇ! ぶっ飛ばされてぇのか!? あぁん!?」

「「あ、すいませんでした……」」


 風俗店のオーナーらしきいかついスーツの男にブチギレられ、二人は押し黙ったのだった。


【Part2へ続く】

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