『バカ同士繋がるものがあるのね』

 これはセックス中毒ビッチ、一二つまびら 乱子らんこと留年脳筋バカ、一番合戦いちまかせ うわなりの二人が仲良くなるきっかけになったワンシーンである。




 △▼△▼△




 葬哉そうや諏訪すわにボコボコにされ、校長室で葬哉と朱々しゅしゅがなんだかちょっとラブコメっぽい雰囲気を醸し出した後。


「ところで今さらだけど、一二つまびらって目の色違うんだな!」


 うわなりがずっと思っていたことを興奮気味に口にした。乱子の目は右目が黒色、左目が灰色で左右の色が違うのだ。


「そぉですよぉ〜。オッドアイって言うんですっ。前まではこれがホントに嫌だったんですけど、葬哉そうやくんが悩んでいたあたしを救ってくれたんですよぉ〜」

「そうなんか! 穢谷はやっぱすげぇなぁ。いっつも精気宿ってないゴミみたいな目をしてんのに、やるときゃやるんだもんなぁ!」


 うんうんと頷いて乱子もそれに同意。若干けなしている感も否めないが、二人とも葬哉のことを賛美する気持ちはあるようだ。


「それにしても、オッドアイか。めちゃめちゃ中二心をくすぐられるぜ」

「あぁ〜それ葬哉くんも言ってた〜。ちゅーにしんってどういう意味なんですかぁ?」


 中二心という葬哉にも言われた言葉の意味を未だ理解できずにいる乱子は、コクっと小首を傾げて問うた。

 

「ん、中二心ってのは……なんか超かっけぇヤツのことだよ!」

「かっけぇヤツぅ……? むぅ、よくわかんない」

「じゃオレが実演してやるよー!」


 ニヤッと笑い、嫐が元気よく右手を掲げる。小さく震わせているその手を左手で抑えながらこんなことを言い出した。


「くっ……! 我が右手に宿ってしまったソロモン七十二柱が一悪魔の力が、漲ってくるっ! ダメだ、出てくるんじゃないアスタロト!!」

「わわっ!! 何ですかそれぇ…………超、じゃないですかぁ〜!」


 嫐の渾身の演技に引いてしまう……どころか乱子は目をキラキラ輝かせて羨望の眼差しを向けている。


「おっ、そうだろそうだろ! 一二もやってみろ!」

「えっと……。うぅぅ〜、吾輩の左目が疼くぅ! このままじゃまた我を失って、この世を半壊させてしまってもおかしくないよぉぉ〜! こんな感じかな〜?」


 意外にも乱子にはその筋があるのか、そこそこ上手く中二病を演じることができていた。するとその上にさらに嫐が被せ出した。


「落ち着け一二つまびら……! その目に宿った色欲の悪魔、アスモデウスに囚われるんじゃない! 強い心で自我を保つんだ!」

「ダッ、ダメだよこれ以上近づかないでっ。うわなりさんは今のうちにみんなを連れて逃げてぇ〜!」


 打ち合わせも何もしてないのに何故か息ピッタリの嫐と乱子である。

 二人の間での設定は、自身の身体の一部に宿る悪魔に自我を奪われてしまいそうになってしまうというものだろう。嫐は右手、乱子は左目にソロモン王が封じた七十二の悪魔がそれぞれ宿っているらしい。


「まずい、オレの右手もそろそろ限界だ……。ぐぁぁぁ!!」

「そんなっ。うわなりさんがダメなんじゃあたしは、もうっ! いやぁぁぁぁ〜!」


 二人して叫びながら床に倒れこむ。本人たちはとても楽しんでいるようだが、その様子を校長室に集まっていたその他の面々はジト目で眺めていた。


「バカ同士繋がるものがあるのね、きっと」

「ちょ、ちょっと春夏秋冬ひととせさんっ。失礼、ですよっ!」


 朱々しゅしゅのいつも通りの悪口に、みやびがあたふたと手を動す。葬哉が朱々にプレンゼントを渡したことで流れていた甘酸っぱいラブコメ空気は、いつのまにか消えてしまっている。


 だがそんなことはつゆ知らず、まだ乱子と嫐の二人は楽しそうに中二病ごっこを続けるのであった。

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