こぼれ話

『怠惰な校長先生の一日』

「あ、あの校長先生?」


 ビクビクと怯えた態度で恐る恐るといったようにわたしを呼ぶ声が聞こえる。まったく、狩猟クエスト中のわたしに話しかけるなんて何奴なにやつだ。

 ゲームをポーズさせてコントローラーを置き声のした方を向くと、白髪のところどころ混じった髪をした我が校の教頭が立っていた。


「なに? わたしは今ゾラ・マグ◯ラオスを相手するので手一杯なんだけど」

「ぞ、ゾラマグ……? そ、そんなことより校長先生! 今日は午後から教育委員会の会合に参加する予定でしたよね」

「あー、そういやそんな話になってたっけねぇ」


 ここ最近は別のことで頭がいっぱいだったからなぁ(主に武器やモンスター)。すっかり忘れていた。


「は、早くしないともう時間がありませんよ! ただでさえ教育委員会からの我が校のイメージは東西南北よもひろ校長先生がやって来られて低くなる一方なんですからね!?」

「でも受験者の数はバンバン上がってるんだろう?」

「それは確かにそうですが……大事なのは世間からの目なんです!」


 むぅぅ。面倒な教頭だなぁ。クビにするぞ。


「じゃあ君が代わりに行っといてくれ。わたしはインフルってことで〜」

「なっ、ダメですよそんなの! そうやって校長はまた……!」

「教頭先生? あなたはわたしに意見できる立場でしたか? 何なら、今すぐあのことバラしちゃってもいいんですよ?」

「うぅっ……! わかりました、代わりに行ってきます……」


 ショボンとした顔で肩を落とし、教頭はため息をつきながら職員室へと戻って行った。はぁ〜、これでやっとクエスト再開できる。

 と思った矢先、また別の声がわたしに話しかけてきた。


「校長先生、教頭の弱みまで握ってるんすか?」


 『〜っす』という口調が結構イラッとするデブの男子生徒、夫婦島めおとじま あきらである。彼は元不登校生で、まだ教室に行くのが怖いという理由から校長室登校しているのだ。ま、その代わりにわたしの仕事を手伝ってもらってるんだけど。

 今も本来ならばわたしが書類に押さなくてはいけない判子ハンコをひたすら押してもらっている。


「まぁね。言ってみれば七十人近い職員の半分の弱み握ってるよ」

「ま、マジっすか!? そりゃぱねぇっす!!」

「いいから君はさっさと書類の判子押しを終えたまえ」

 

 テレビ画面に集中したいのに話しかけてくる夫婦島めおとじまくんが鬱陶うっとうしくなってきたので、仕事の方を優先させる。


「ていうか、校長先生ゲームするくらいなら教育委員会に行けば良かったじゃないすか」

「うるさいなぁ。今のわたしはモンスターハントが仕事なの!」

「いやでも忙しいから人に仕事を手伝わせてるって言ったけど、先生全然暇そうじゃないすかー」

「うっ……!」


 確かにそんなこと言ったような気がしないこともないけど……。あくまでていで言ったことだしさぁ。そんな本気にされてもなぁ。


 それにわたしはあくまでゲスでいないといけないし。


「暇なのに仕事押し付けるとか、校長先生怠惰デスっすねぇ〜」

「むむっ。ペテルギ◯スか……なんだかリ◯ロを見返したくなってきたな……。よし、夫婦島くん今からゲ◯で借りてきたまえ。お金はこれで払っていいから」

「りょーかいしましたっす!!」


 普段ならノロノロしている夫婦島くんも、アニメのこととなると動きが素早い。財布から万札を取り出すと、それを受け取りそそくさと校長室を飛び出して行った。


「ふぅ〜、これでモンハンに集中できる」


 わたしはコントローラーを握り、テレビ画面に視線を向けたのだった。

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