エピローグ
『俺たちはまたこの放送で』
本日、ここ
「よーし、一学期おつかれさんお前ら。怪我なく始業式でまた会えることを祈ってるぞー。はしゃぎ過ぎて死ぬなよ、特に
「ちょっとちょっと先生何言ってんすか〜。始業式は今以上に元気になって帰ってきますから!」
「いやお前はもう少し静かになって帰ってきてくれ」
イケメン野郎の冷静なツッコミコメントでクラスがドッと湧いた。もちろんのことながら俺はその様子をボケーっと眺めているだけで、クスリともしない。
諏訪の野郎、俺をボコボコにした張本人にしてはだいぶヘラヘラしてんな。まぁ別に大して気にしてはないけど。
「それじゃ、いい夏休みをなー。はい、号令」
「起立。気を付け、礼」
『さよならー』
HRも終了し、クラスの連中はそれぞれ部活動にいったり、帰路を辿ったり、寄り道してゆくのだろう。
かく言う俺は二つ目。速攻で家へ下校だ。俺が荷物をまとめ、教室を出ようした時。
クラスのでしゃばり王子がでしゃばりだした。
「よっしゃ、それじゃ一学期終了おめでとう打ち上げ会しますかー!」
「一学期終了おめでとうって、一々そんな打ち上げしてたら切りないだろw」
「まぁまぁまぁいいじゃん! おーいみんな、来れるやつは今からカラオケ行くぞっ!」
諏訪のかけ声でスクールカースト中位や下位やらがわらわらと群がり始めた。ま、当たり前のだけど諏訪の言う『みんな』に俺は含まれていないわけで。
というのもついさっき諏訪と目が合い、めちゃめちゃ睨まれた。んだよ、気にしてないように見えて結構怒ってんのか? めんどくせぇ男は嫌われるぞ。
「朱々も……来るだろ?」
諏訪は、群がるクラスメイトたちから垣間見える、まだ席に座っている春夏秋冬をジッと見つめて言った。
対する春夏秋冬は……。
「うん、もちろん行く気だったよ? あれ、もしかして私ってお呼びじゃない感じ~?」
「ハハッ! そんなわけないっしょー!? うっし、さっそく行くぞみんな!」
久々の春夏秋冬ブッキング確定に諏訪は露骨にテンションを上げ、クラスの連中を引き連れて教室を出てゆく。春夏秋冬もその波に身体を預け、教室を後にした。
さて、俺も帰りますかね。
△▼△▼△
靴箱に向かっていると、まだ一学期が終わっただけだと言うのにドッと疲れが出てきた。きっとこの三ヶ月ちょっとの期間で密度の濃い時間を過ごしてきたからだろうな。
思い返せばこの一学期、色んなことがあった。というかあり過ぎた。
そしてそれに連なって色んな出会いもあった。
ゲス校長から始まり、キモデブオタク。その次にセックス中毒ビッチ、脳筋バカ。それからコミュ症根暗リケジョと恋に恋するヤンママ。
こうして考えると全員キャラ濃いな……。
だがしかし、その全てが大変なこともありながら、楽しいものでもあったということは言うまでもないだろう。校長の持ってくる面倒ごとはどれも本当に面倒で何度想像で校長を殺したことか。
でもまぁ
あの人のおかげ、と言うと
いや、再戦と言うのはおかしいか。そもそも勝負は始まってもなかったのだ。
だから戦いの開始の合図をしてくれた校長は、俺にとっては面倒な強制労働を課してくるクソ上司であり、恩人でもある。
まぁアイツのこと嫌いであることに変わりはねぇから迷惑じゃないって言ったら嘘になるけど。
そんな風に思考を巡らせていると、校内のスピーカーから、もはや聞き慣れてしまった例の放送が流れた。
『二年六組の
うっわぁ……何となく予想はしてたけどあのゲス校長、夏休みも俺らに休ませる気ねぇな。いやしかしもちろんのことながらここでばっくれて校長室に行かない、なんてことは出来ない。
そんなことすれば容赦なく俺は留年確定、春夏秋冬は腹黒を暴露されてしまう。
あれ、でも待てよ。春夏秋冬はもう諏訪たちと遊びに行くことになっているじゃないか。
「チッ。タイミング悪ぃ……」
せっかく俺がついこないだ身体張って春夏秋冬の株をキープしてやったってのに、ここで校長に秘密を暴露されてしまったら全部無駄になってしまう。よりにもよって終業式に召集かけるかねあの女……。
とにかく俺だけでも行って事情を説明した方がいいかもしれない。春夏秋冬はクラスの連中と遊びに……いやこんなバカ正直に言うのはダメだな。なんかもっともらしい、あの鬼畜校長も仕方ないと言わせれる上手い嘘の方がいい気がする。
…………あれ、気付いたら俺、また春夏秋冬を助けてやろうとしてるぞ。
とその時。廊下で立ち尽くした俺の右肩をポンと誰かが叩いた。その手には、見覚えのある淡い虹色をしたシュシュが巻かれている。
「
「っ!?
「うんまぁそうなんだけど、断ってきた」
「……な、なんで」
これ以上付き合いを悪くしてたら、また先日のように陰口を言われてしまうかもしれない。俺でも思いつくことだ。であれば春夏秋冬が気付かないわけない。
「なんでってそりゃ……あの放送が流れたら、絶対行かなきゃでしょ?」
何故かニヤッと愉快そうに口角を上げる春夏秋冬。俺はその表情に少し面食らい、パチパチと瞬きをするが、つられて徐々に俺も口の端が歪んできた。
そうだな。お前の言うとおり、あの放送が流れたら、素直に向かうしかない。
「さ、行きましょ」
「あぁ」
そうして俺と春夏秋冬は、これまでの絶妙に他人っぽい距離感ではなく、初めてちゃんと横に並んで校長室へと歩みを進めるのだった。
【Vol.1終わり】
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