『連絡先交換しようよっ!』

「あ、そうだ~! みんな連絡先交換しようよっ!」


 中二病ごっこを終えて、乱子らんこが突然そんな提案をしてきた。


「また急だな……なんで?」


 怪訝な顔で葬哉そうやが首を捻る。すると乱子は立ち上がって言う。


「え〜? なんでって……よく考えたらみんなと仲良くなったのにラインも電話番号も知らないんだもん」

「私、仲良くなったからって必ずしも連絡先を交換する必要があるとは限らないと思うんだけど」


 朱々しゅしゅが明らかに交換したくないのであろう顔で発言した。しかし不思議なことに声音は不機嫌そうなのだが、普段よりも表情が若干明るいような気がしないでもない。

 それが葬哉から貰ったシュシュで髪を結っていて顔がよく見えるようになったからなのか、はたまた葬哉からプレゼントを貰ったことを素直に喜べず無意識のうちに表情に出てしまっているのか……。


「もぉ~、朱々ちゃんはすぐそんなこと言うんだから~!」

「いいじゃないすか春夏秋冬ひととせパイセン。僕、是非ともパイセンのライン頂きたいっす……!」

「え……なんかキモいからヤダ」

「ぐっはぁ! 一二つまびらに続き女性陣の方々、僕に厳しくないっすかぁ!?」


 泣き顔になって訴えかける夫婦島。だが誰ひとり夫婦島と目を合わせようとはしない。彼に同情したら負けみたいな流れが出来上がってしまっているのだ。


「とにかく! みんなスマホ出して~! ふるふるしよっ?」


 乱子の言葉で、その場にいた全員がポケットからスマホを取り出した。そしてラインの友達追加機能のひとつである、ふるふるの準備する。


「あれ? どうしたんだ穢谷けがれや、お前も早く準備しろよ」

「準備ぃ? 言っておくが、俺は緑を基調としたアイコンの無料メッセージアプリはインストールしてないからな」

「なんでそんな回りくどい言い方すんのよ。てかあんた今どきライン入れとかなくて不便しないの?」


 怪訝な顔で朱々が問うと。


「連絡取り合うような仲のヤツ、いねぇし」

「…………」

「……だ、だからこそっ! いまここで連絡先を交換しましょうよぉ!」


 若干静まりかけた空気を乱子は取り繕うように笑顔で誤魔化した。そこにフォローを入れるかのごとく校長も口を開く。


「いいじゃないか穢谷くん。今後わたしからの仕事をするにあたって、連絡が取り合えるのは便利だと思うよ?」

「はぁ……わかったよ。アプリ入れるからちょっと待ってくれ」

「はいっ!」


 葬哉がそう言ってスマホをいじりだすと、乱子は嬉しそうに笑みを浮かべる。その他の面々もふるふるの準備は万端、葬哉を待つだけだ。


「オッケ。設定した」

「はーい。じゃ、いきますよぉ。せーの!」


 乱子の掛け声と共に皆スマホを振る(葬哉のみ画面タップ)。程なくして画面にそれぞれの連絡先が表示された。


「……連絡先追加しても使うことないと思うけどなぁ」


 葬哉はそう言いながら、全員の連絡先を追加していく。葬哉がこのアプリの便利さに気付くのはもう少し、と言うよりもめちゃくちゃ後のことになるのだった。

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