『青春を殺し隊』
俺が
ありがたいことに、こんな俺を心配してくれるヤツも何人かいた。年配二人組はボコボコにやられた俺を見て爆笑してたけど。
「
「……?」
爆笑していたひとりが俺を呼んだ。
俺はやいのやいの盛り上がっている春夏秋冬たちからそっと抜け出し、校長の横に並ぶ。するとすぐに校長がニヤニヤしながら口を開いた。
「君もいい友達に巡り会えたようだね」
「友達……なんですかね、アイツらは」
「自分のことを心配してくれる人を友達と言わずしてなんと言う! ワ◯ピースですぐやられるザコ海軍兵士のひとりの如く、ボコボコにされた君の安否を心配して彼らは集まったんだよ?」
例えがわかりにくい……。ようはモブキャラだろそれ。
「それはまぁ、ありがたいですけど。なんか、信じられないですね」
「信じられない? 彼女らのことをかい?」
「例え自分が友達だと思っていても、相手が友達だと思ってないかもしれないし、もしかしたら心の中じゃめっちゃ悪口言われてるかもしれない」
俺の言葉をただただ黙って聞く校長。お喋り好きのこの人には珍しい。
「陰口言われてるかもしれないし、裏アカとかで叩かれてるかもしれない。全部かもしれないだけど、かもしれないってことはかもすることもあり得るしかもしないこともあり得る。どちらの可能性もあるわけだから、信用なんて出来ませんよ」
「アハハハッ。君って……結構臆病な性格してるんだねぇ」
最後まで聞き終えた校長は、柔和な微笑みを浮かべてそう言う。
臆病な性格、か……。
「それって極論を言えば、友達だと思っていた人間に裏切られるのが怖いから僕は友達を作りませーんってことだろうw?」
「いや、まぁ確かにそうですけど……」
「いいねぇ、青いじゃないか穢谷くん。それこそ青春だよ」
「は? やめてください。俺は青春なんて」
「いーや! 誰がなんと言おうと、君の今の話を聞いた人間なら『青春してるね』と言う!」
ビシッと俺の方を指差して宣言する校長。何なのその絶対的自信。
「高校生って生き物は、どんなことを考えてもどんな行動をとってもどんな発言をしようとも、その全てが『青春してる』という言葉で片付けることが出来るのさ」
「何ですかそれ……」
「論理的に考えちゃダメだよ。これは、そういうものなんだから」
東西南北校長は、片方の瞳を閉じて得意げに言った。
正直、校長の言ってることの意味はちっともわからない。だけど校長の話なら、今俺がこうしてわからないと考えていることさえも青春ということになる。
わからない。マジでわからない。
「友達関係のことで悩むとか若い時じゃないと出来ないからね。羨ましいよ。ちゃんと今を大切にしないと!」
「……そんなにですか」
「うむ。そんなにです」
俺は未だにやいのやいの言ってるヤツらを観る。月見さん、祟、一番合戦さん、一二、夫婦島、そして春夏秋冬。正直、俺は彼らを友達と言うには遠い存在だと思う。
たかだか数回会っただけの月見さん、友達の友達レベルで大して会話したことない祟、脳筋だからそもそも会話にならない一番合戦さん、頭ん中男のイチモツでいっぱいの一二、キモオタ過ぎて近寄りたくもない夫婦島。
そして少しだけお互いを認め合えそうな春夏秋冬。
……あー、ダメだ。俺がコイツらと仲良く笑い合ってる姿を想像することもできねぇ。
「それでも俺はやっぱり、青春は嫌いです。殺してやりたいです」
「頑なだねぇ。春夏秋冬くんと中学時代に何かあったみたいだけど……まぁ教えてくれないだろうから訊かないや」
「そうですね。別に教える義理も何もないんで」
「だけど、わたしは君の弱みを握ってるんだよ? 留年とその秘密、天秤に掛けた場合、君にはどっちが大きいのかな?」
校長の問いに、思考がフリーズしてしまった。と言うよりもその答えは簡単に出てきた。ただそれを校長に言うかどうかで悩んでいるのだ。
俺は弱みよりも、春夏秋冬とのあの約束を選ぶ。中学時代に決めたあの約束の方が俺の中では大きい。校長は今を大切にするようにと言ったが、俺にとってその過去は今よりも大事にしないといけないものなんだ。
「ちょっと穢谷? あんたさっきからせんせーと何話してんのよ」
「いんや、別に大したことは喋ってねぇよ」
「そろそろ僕ら帰りますけど、穢谷パイセンも帰るっすよね?」
「ファミレス寄ろーぜ、ファミレス! オレ腹減ったわー!」
「あたしも賛成です〜。いつものファミレス行きましょぉ〜!」
どうやら今日の夕食はファミレスで決定のようだ。俺が校長の顔をチラッと見ると、ニコッと笑みを浮かべ。
「行って来るといい。彼らのこと、早く信用できるようになってあげなよ?」
「……はい」
蚊の鳴くような声で返事をし、俺は春夏秋冬たちとファミレスへ行くべく荷物を持つ。とそこで校長がフッと思い付いたように声をあげた。
「君たちは、あれだね。青春を殺し隊だ!」
「は?」
「あれ、意味わかんない? 穢谷くんがよく言う青春を殺してやるっていうのと、軍隊とかの隊をかけてるんだけど……」
「いやそれはわかりますけど。そう言ってるのは俺だけでアイツらは違うし。隊って言うのはおかしい気が……」
校長にそう反論すると、ニヤニヤと意地の悪い笑顔で言った。
「ひとりよりも彼らと、青春をぶっ殺せたらいいんじゃないかな?」
「…………そうかもしれないですね」
それはかもしれないし、かもしれなくないかもしれない。でも俺もひとりよりかは、仲間がいた方がいいのかもなって、そう思えるようになっている気がした。
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