No.27『社会不適合者のゴミカスでも』
「は? なにあんた。どういう意味?」
「そのままの意味だよ。お前らの大好きだった
「変えたって……じゃあやっぱりあの放送でいつも朱々が呼ばれてるのは、お前が原因だったのか!」
うぉ。予想以上に食い付いてきたちょっとびっくりだわ。あんまバカ過ぎだろ諏訪よ。
「あの放送があってからだよね。朱々がちょっと変になったって言うか、いつもとは違う感じになったのって」
「うん……付き合い悪くなったのもそっからだし」
勝手に話を深めていってくれてありがたいことこの上ない。どんどんアイツらの中で勝手な妄想、想像が膨らんで俺が悪役になっていることだろう。うん、それでいい……。
「春夏秋冬はな、校長室でいつも俺の更生を手伝わされてんだよ」
「更生?」
「あ~、バカのお前らにもわかるように教えてやる。校長は俺みたいな社会不適合者をうちの学校の卒業生にするのはマズイとか思ったんだろうな、俺本人には言ってないけど絶対そう思ってるはずだ。それで成績優秀スポーツ万能の人気者春夏秋冬に俺をまともな人間にさせる手伝いをさせてるってわけ」
ひとまず春夏秋冬の好感度を上げなくてはいけない。付き合いが悪くなったのも、少し前と雰囲気が変わった感じがするのも、全て俺のせいということにする。そうすれば春夏秋冬の好感度は元に戻り、少なくとも陰口を言われるほどではなくなるはず。
「なんて言うんだっけあれ……あ、そうそうカウンセリングだ。春夏秋冬と俺の二人っきりで色々話をして、俺の病的なまでに捻くれた思考回路を改善しようとしてるみたいでさ。校長もバカだよな~、そんなんで治るわけねぇってのにww」
「じゃあ朱々は、あんたと話してるせいで疲れ果ててるってこと……?」
「さぁ? 俺があまりにも改善する見込みがなくって逆に頭おかしくなっちゃったのかもな~」
狂人、ヒールを演じる。俺は異常なまでに狂っているフリをする。他人を不快にさせるのは大の得意だ。
でもまだだ。まだ足りない。全面的に俺が悪いことにしなくてはいけない。
「はぁ~ホントちゃんちゃらおかしいよなぁ! 会話だけで性格が変わるわけねぇよな。もしホントに変われるんなら人選ミスだわ、あんな顔だけが取り得の女と話ししたって変われるはずがねぇもん」
小馬鹿にするような言い方をする俺に、彼女らは睨みを利かせてきた。するとギャル女がガタっと椅子を倒して叫ぶ。
「あんたに朱々の何が分かるってのさ! よくも知らないで、朱々を語らないで!!」
「そうだよ! 朱々はきっと必死で君をマジメにしてあげようと頑張ってるのに。君はそれを知っててその性格を治そうとしてない……ひどいよ!」
「ひどい上等! その程度の暴言、俺は聞き飽きるほど浴びせられてきた! お前らこそ、俺のことを何も知らずに悪口言うのやめてくれませんかねぇ?」
おそらく俺のその物言いにブチっときたのだろう。我慢の限界になった諏訪が、俺の胸ぐらを掴みそのまま教室の床に押し倒されてしまった。
「気持ち悪いんだよお前! 二人の言う通り、朱々がどんな子か知らないくせにバカにするな!」
うるせぇな……。お前らだって知らないだろ。春夏秋冬が実は腹黒で、暴言吐きまくりの性格ブスだって。だけどここで俺がキレ返してはダメだ。あくまで悪役を。
「へぇ~、いっつもお調子者キャラの諏訪くんもそんなに怒ることあるんだな」
「ふざけるなっ! お前みたいなゴミがいると、このクラスごとゴミになっちまう!」
なんだよそれ。俺は腐ったみかんってか?
「生きてる価値もねぇよ。校長先生がお前をこの学校の卒業生にしたらマズイって思う気持ちがよく分かる! 口だけのクズが!! なんとか言えっ!」
「っるせぇって……」
「社会不適合のゴミカス野郎……お前なんて、産まれてきたのが間違いだ!」
「うぅぅっるせぇって言ってんだろバカがぁぁ!!」
ドンと諏訪の身体を押し返し、俺はゆっくりと立ち上がる。
あぁ、もうダメだ。俺の方が我慢の限界だわ。
「確かに俺は社会不適合者だよ。無能で存在価値のねぇ粗大ゴミ以下の人間だ。だけどなぁ、俺だってお前らと一緒で命があって生きてんだよ! 気持ち悪くても、口だけのクズでも、社会不適合者のゴミカスでも必死に生活してんだよぉ!!」
なんて情けない叫びだろうか。まさに負け犬の遠吠えである。だけど俺はこのことわざを作ったヤツに言ってやりたい。
負け犬なんだから、遠吠えくらいさせてくれよと。
「それとなぁ! お前らだって知らない春夏秋冬を、俺はたくさん知ってる!」
「……」
「青春なんてもん、俺がぶっ殺してやる!! 社会不適合者日本代表のこの俺に殺されて、一生後悔しやがれ!!!」
社会不適合者日本代表。こんなまったくと言っていいほど誇れない称号を、俺はずっと何度も自分から名乗ってきた。それにはもちろん理由があってのことだ。
中学三年生の卒業間近。この称号の由来はそこまで遡る。
△▼△▼△
そんな俺は今、帰宅してまた学校へと戻っている最中。とういうのも、家に帰って気付いたのだがサイフをどこかに落としてしまったようなのだ。別に大した金額入っていたわけでもないが、全ロスはさすがにキビぃ。
残念ながら歩いてきた歩道には落ちていなかった。となればやはり教室の引き出しに入れっぱなしにしていたのかもしれないな。
中学校の門をくぐり、靴を履き替え教室へ。すると、何やら物騒なことを叫ぶ女の声が聞こえてきた。
「あぁぁぁ~~、きもっちわるい! 気安く触んじゃねぇよブタがぁ!!」
ガッシャーン。ガタガタガタ……。
机と椅子かな? 廊下にまで倒れる音が響いてきている。
「それにいつ名前で呼んでいいっつったのよ! 慣れなれしいから消えろ!」
ドガッ、ガダダダダダ。
今度は教卓を蹴ったくったようだ。今までで一番鈍い音がした。
「死ね、マジで逝け! なんで一回目フラれて二回目成功すると思ったんだよ馬鹿か!!」
めちゃめちゃブチギレてんなー。でも俺はこの女の正体を知っているわけで。気にせず扉を開けた。
刹那教室が静まり返り、中にいた暴言女、
「なんだー、
「チッ……」
「なによその目。そんなんだからずっとぼっちなのね」
日々の生活で溜まったストレスを放課後発散する春夏秋冬。この秘密を知っているのは俺ただひとりだろう。
だけどこの女はそれを気にも留めなかった。俺のようなぼっちの言うことを信じるヤツなんていないと判断され、それ以来俺とコイツは一切関わりを持っていない。
まぁ個人的にはいつかこの腹黒女に一泡吹かせてやろうと勝手に闘志を燃やしているわけなんですが。
「ぼっちで何が悪いってんだよ腹黒が。俺はな、いつかお前みたいな青春大好きとか抜かしてるバカ共をぶっ殺してやるんだ!」
「はぁw? なにそれ。意味わかんないんだけどww」
「決めたんだよ。俺はぼっちのまま、孤独のままでお前ら青春満喫野郎共をどん底に叩き落してやるってな」
完全に青春を満喫出来ていない非リアの僻みなんだが、別に冗談で言ってるわけじゃない。俺はいたって本気だ。まぁ具体的にどうこうは全く考えてないけど。
「へぇ面白いじゃん。それじゃ、勝負しましょうよ」
「勝負?」
「そ。私に吠え面かかせることが出来たらあんたの勝ち。高校三年間を学校一の人気者として卒業出来たら私の勝ちってことで」
「なるほどな……いいぞ、その勝負受けてやろうじゃねぇか」
不思議とワクワクした気持ちが心の中で巻き起こった。クイっと口角が上がってしまう。
「うーん。でもあんたが勝った時にただのぼっちじゃしょうもないわね」
「は? どういうことだよ」
「ほら、私が勝ったら学校一の人気者って今でも使われてる称号がさらに輝きを増すじゃない?」
「いや増すかどうかは知らんけど……」
ていうかそれ称号だったのか。自分大好きにもほどがあるだろ。
「だから穢谷も何か称号があった方がいいと思うのよね」
「称号なぁ……」
「えぇ……そうねぇ。社会不適合者日本代表! とかどぉ?」
「はぁ!? ふざけてんのかよ、ダサ過ぎだしザコ過ぎだろ!」
「何言ってんのよ。ザコ過ぎるからこそ勝った時にすごいってなるじゃない。ゴミカスの存在が頂点を倒すんだから。まぁそれ以前にあんたが高校受かるかどうかが問題だけど」
確かに高校に受からなければそもそも勝負にならない。その時点で俺の負けだ。でも、社会不適合者日本代表か……。
「わかった。それじゃあ俺は社会不適合者日本代表として、お前に一泡吹かせてやる!」
「望むところよ。私は学校一の美少女で学校一の人気者として、三年間を送ってみせるわ」
「なんか学校一の美少女ってのが付け加えられてる気がするけど……まぁそれはいいや。だけど、俺がお前に一泡吹かせるまで、絶対に人気者でい続けろよ」
「当たり前じゃない。私は絶対落ちぶれたりなんかしないわ」
教室の窓から差し込む夕焼けが、不敵に笑う俺と春夏秋冬を照らす。俺たち二人は、これから始まるかもしれない戦いに子供のようにドキドキとワクワクを感じていたのだった。
△▼△▼△
それからのことはあまり覚えていない。と言いたいところではあるがはっきりと覚えている。
ぶっ殺してやると啖呵を切り、諏訪に殴りかかった俺は無残にも惨敗。逆に返り討ちに遭い、ボッコボコにされてしまった。
夕焼け色に染まる教室にひとりねっころがる俺。身体の節々が痛み、正直動きたくない。
だがそろそろ帰らないとこの姿を見られてしまうのは、少々問題がある。いやそれはそれで諏訪のことチクってやれば停学くらいにはさせてやれんじゃないかな。
「ったくよー……。手加減ってもん知らねぇのかぁ」
痛む身体を無理矢理動かし、床に転がったバッグを肩にかける。もう今日は帰ろ。んで明日はサボろ。春夏秋冬の誕プレもまた今度でいいだろ。
足を引きずりながら扉に手を掛け、一気に開いた。するとそこには。
「あっ」
「……
「これは、違うのっ! 廊下を歩いたら声が聞こえて、外から隠れて聞いてたんだけどって……ちょ、ちょっと
何度も何度も呼びかけてくる春夏秋冬の声が徐々に薄れていくのを感じながらも、俺はこの一学期の間、見慣れるほど見たその顔を目にした安心感から、人生で初めて気を失ってしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます