第6話『青春なんてもん、俺がぶっ殺してやる』

No.25『気持ち悪くても』

 恋に恋しちゃってるヤンママ、月見つきみ うさぎの娘、月見 よもぎの子守を終えた(実際俺は何もしていない)翌日、俺は自分でも驚くことにたたりに自信を持たせるために訪れていたあのショッピングモールへと足を運んでいた。

 相変わらず大量に人がごった返していて、憂鬱な気分になる。


 いやしかし、これはホント自分でもびっくりだよ。一二つまびらに春夏秋冬へ遅れてしまっているが誕生日プレゼントをあげたら仲良くなれるんじゃないと言われただけ。たったそれだけで俺はこうしてひとりで買い物にきてしまっているのだ。


 何故だ。自分で自分がわからん。俺はどうして大嫌いで天敵である春夏秋冬ひととせ 朱々しゅしゅのためにこんなことをしているんだろうか。


 一二つまびらに言われたからか? いや違うな。それだけで俺は春夏秋冬のためにせっかくの休日を無駄にはしない。

 じゃあ俺は春夏秋冬と仲良くなりたいのか? ないな。全然仲良くなりたいとも思わない。むしろ一泡吹かせてやりたい。

 だったら俺の本心が実は春夏秋冬にプレゼントを渡したいと思っているから? いやこれも違う。俺はアイツのためにお金を出すなんてことしたくない(無理矢理奢らされたりはしているが)。

 

 考えればいくらでも理由の候補は浮かんでくる。だがどれもしっくり来ない。理由として不十分なものばかりだ。

 一体何が俺をここまで動かしたのか。最近俺は自分と春夏秋冬との関係性がどんなものなのか、自分でもわからなくなってきている。

 一度これまでの春夏秋冬との関係や出来事を振り返ってみることにした。


 まず最初は中学校。一方的に俺がアイツのことを嫌っているところで、実はとてつもない腹黒女だったということを知る。その際に俺はその秘密を使って、大嫌いな青春を満喫してるヤツの代表とも言える春夏秋冬を貶めてやろうとしたんだ。

 しかし春夏秋冬のたった一言に論破されてしまい、俺はそれ以来春夏秋冬を目の敵にしていた。チャンスがあれば一泡吹かせてやるとそう考えていた。

 思い返してみれば、その頃はまだ自分を社会不適合者とも思っていなかったな。ぼっちのクラスにひとりはいる陰キャ、それが俺のポジションだったから。


 それから月日は流れ、受験シーズン。俺は大してしたいことも夢も何もなかったから、なるべく近場の学校を受ける気でいた。そんななかでこんな情報を耳にした。


 あの人気者、春夏秋冬 朱々は劉浦りゅうほ高校を受ける、と。


 幸いにも劉浦高は自宅から自転車、電車で三十分もかからずに登校出来る距離にあった。そうして気付いた時には劉浦高の願書を書いていたのだ。

 春夏秋冬と同じ学校にしたことに他意はない。ただ通学が楽だったから。春夏秋冬が高校でどんな動向を見せるのか気にならなかったと言えば嘘になるが。

 あの子と一緒の学校に、なんて恋する人間の考えで選んだわけでは断じてない。


 断じて、ないはずだ……。


 今こうして俺が嫌いな人間のために動いている理由を考えてみたが、やはり納得のいく理由は思いつかない。

 無能で得意なことも好きなものもない、世の中に文句ばっかりの社会不適合者である俺がいくら考えてもわからないことなのかもしれない。だったら考えるだけ無駄だ。アイツへのプレゼントを何にするか考えることにしよう。


 しかし昨日祟と一二に言われて気付いたことなのだが、俺って自分で思っていたよりも春夏秋冬のことを知らないんだよな。女同士、同姓だからわかることとかではなく、それは異性の俺でも気付こうと思えば気付けるレベルのことなのだ。

 逆に俺はアイツの何を知ってるんだろうか。

 

 表では猫かぶりで超いいこちゃんぶってるけれど、裏では仲良いフリをしていた人間の愚痴を叫びながら物に当たってストレス発散するような腹黒だということ。口が悪くて暴言のレパートリーを異常な数持っているということ。うん、それぐらいか……。

 好きなものとか嫌いなものとか、そういう系はまったく知らない。というか知ろうともしていなかった。


 そう考えると中学時代の腹黒だと知らなかった時、俺は何も知らない状態でただ青春を満喫している人気者というだけで忌み嫌っていたのだ。内面のことは何も知ろうとせずに。

 いや高校生になった今だってそうだ。全然春夏秋冬のことを知ろうともしていなかった。

 

 春夏秋冬は、俺のこういう部分も嫌っているのかもしれない。内面を見らずに、人を判断してしまうようなクズさ。人のこと言えないのに文句言ったり小馬鹿にしたりするゴミカスな性格。

 それらで形作られた俺の社会不適合者性に嫌悪感を抱いているんじゃないだろうか。

 

 だけども、社会不適合者日本代表という俺の人生で唯一になるであろう称号。これを付けたアイツとの約束ともとれる勝負を果たすまで。その日までは社会不適合者を辞めれない。

 大嫌いな青春をぶっ殺してやるまで俺はこの称号を一生背負っていくつもりなのだから。

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