No.23『誕生日はもう終わってるわよ』
「へぇ~、二人ともちっちゃい子苦手なんだぁ~。
さすがに俺と春夏秋冬の二人だけに子守を任せるのは心配過ぎるということで、校長は助っ人に
一二は案の定自身も子供好きであり、よもぎの方も人見知りせず泣いたりはしていない。祟は触れ合いたいけど踏み出せないみたいなな感じで遠目に微笑みを浮かべている。
「おい勘違いするな
昔からそうだった。乳児幼児に近付くとギャン泣きされてしまうのだ。赤ん坊特有の男嫌いとか人見知りの類ではなく、俺という存在、ジャンルそのものが嫌いみたいな。俺のアビリティはアンチ
「きっと子供の無垢な本能が無意識のうちに悟るのよ、この男に触れると社会不適合者になってしまうって」
「あ? んじゃてめぇが触ると将来その子は腹黒決定だな!」
「は!? 私が触れば美少女決定よ!」
「そーかそーか。じゃあ今すぐ抱っこしてあげろよ! 出来ねぇのか、おぉ?」
「うっ、うるさい! 無理なものは無理なの、じんましんで死ぬ人だっているんだからね!」
じんましんを理由に逃げる春夏秋冬。その様子を横目に、一二がよもぎと喋る形で戯れはじめた。
「二人とももったいないなぁ~、こんなに可愛いのにぃ~。ねぇ~、よもぎちゃんっ。朱々お姉ちゃん、よもぎちゃんに触れないんだって」
「うぁ~?」
「うんうん、腹黒になってもいいから抱っこしてもらいたいよねぇ。だってよ朱々ちゃん! よもぎちゃん抱っこしてあげましょうよぉ。柔らかくってスベスベですよぉ?」
しかし春夏秋冬は一二の呼びかけにも無表情でソファに腰掛けたまま、動こうともしない。何があったらじんましんが出るほど子供嫌いになるんだよ……。
そんな春夏秋冬は、未だによもぎに近づけずウダウダしてる祟に向かって口を開いた。
「私の代わりに遊んであげて」
「じ、自分がっ、ですか?」
「あんた以外いないでしょ。ていうか、よく校長に呼ばれてほいほいやって来れるわね」
「だっ、だって。春夏秋冬さんの、ピンチだって言ってたしっ……。それに自分も、皆さんのように校長先生と、条件付きで仕事を手伝うことになってますし」
「は? それマジで言ってんの? いつ、なんでそんなこと……」
祟の言葉に驚きを隠すことなく食い付く。質問攻めされた祟は、少し狼狽しつつもゆっくりと説明を始めた。やっぱりまだ完璧にコミュ症は治ったわけではないようだ。この言葉がつっかえつっかえになってしまうのは、今後人との会話が増えれば改善されていくとは思うけど。
「えとっ、自分、は理系教科以外がてんでダメダメなのでっ、校長先生が文系教科の内申点を上げてやるから、代わりにわたしの仕事を手伝えって……」
「それで、その条件呑んだのあんた」
「そういうことになります、ねっ。だっだだけど、そのおかげで余計なことを考えず研究に集中できますしっ」
「はぁ……わかってない、わかってないわよ。あのゲス校長の恐ろしさとメンドくささをわかってないわ」
これでも俺と春夏秋冬は一ヶ月以上あのゲス校長、
例えばあの校長がサービス残業ガチ勢もびっくりな強制労働を課してくることに罪悪感さえ持たないヤバい人だということを、祟はまだ知らないだろう。無知は人を破滅へと導いて行くのである。
かっこよく言ってみたけど、ようは祟今後の学校生活乙ってことですね。
「でもっ、自分を、変えてくれた春夏秋冬さんのお手伝い、にもなるかなって思って……」
自分で言い出して照れているのか、頬を紅潮させて指をもじもじさせる祟。それを聞いた春夏秋冬はと言うと。
「あっそ……そりゃどうもっ。それよりも
もちろんまんざらでもないようで、言葉は素っ気無いが声音から嬉しさが伝わってくる。春夏秋冬の問題発言、『その小さい人間』が気にならないくらいこの二人の雰囲気が百合百合しぃ。
「あぁ~! 朱々ちゃんタタリンのこと名前で呼んでるぅ~!」
「なによ、ダメなの?」
「むぅぅ〜、ダメじゃないけどズルいぃ! あたしだって二人と仲良くなりたいって思ったから校長先生に自白したんだからぁ」
「まぁいいじゃない。苗字呼びの方が後輩感が出るし」
「うぅ〜。いつかは朱々ちゃんに乱子って呼ばせてやるんだからねっ!」
メラメラ謎の闘志を燃やす
だがしかし、キャッキャッと楽しそうだったよもぎの表情が徐々に暗くなっていった。そしてついにぐずりだしてしまう。
「わわわっ、ど、どうしてっ!?」
「どうしたんだろぉ。朱々ちゃんっ、ここはひとつ、子守唄で寝かしつけちゃいましょぉ〜!」
「えぇ……。私子守唄とか全然知らないんだけど」
「ちっちゃい子に慣れるための練習だと思って、一曲歌った方がいいですって〜」
「仕方ないわね。じゃあ……」
虚空を見つめ、何を歌うか考えているようだ。全然知らないとは言っているが、聞いたことくらいはあるだろう。
「終わらない歌を歌おう〜、クソッタレの世界のため〜♫ 終わらない歌を歌おう〜、全てのクズ共のために〜♪」
「いや選曲どうにかならなかったのかよ……」
「うぁぁぁ〜ん! あうぅ!」
春夏秋冬が子守唄に選んだのはまさかの終わらない歌。ブルーハ◯ツの世代じゃねぇだろお前。しかも全然泣き止んでねぇし。
「仕方ないじゃん、咄嗟に浮かんできたんだから」
「……さいですか」
「タタリンちょっと変わって」
「あっ、はいっ!」
一二が祟からよもぎを受け取り、上下に軽く揺らしながらあやしてみるも、泣き止まない。
世の母親たちはすげぇなぁ。マジで子育てご苦労さ〜ん。
「う〜ん、オシッコもうんちもしてないみたいだから、やっぱりお腹空いてるのかなぁ」
「「…………」」
「……ふぇっ!? どっ、どどどっどうしてお二人とも自分をそんなガン見するんです、かぁっ!?」
「この場で一番授乳出来そうなのは
「俺はあっち向いとくから、存分に吸わせてやってくれ」
「ちょっ、けっ穢谷さん。それセクハラ、ですぅぅっ///!!」
そうして一悶着あった後、隣から泣き声を聞いた保健室の先生に離乳食を食べさせてもらったことで、よもぎは泣き止みましたとさ。
△▼△▼△
食事を取り、腹が膨れてウトウトしだしたよもぎ。今は保健室のベッドでグッスリ眠っている。
普段からよもぎが眠ってしまうと校長は保健室のベッドに寝かせていたらしく、保健室の先生はいつものことだと笑っていた。
いやー、とにかくこれでひと休憩できるな(何もしていないが)。
「あ〜やっぱり可愛いですねぇ。子供欲しくなっちゃいましたぁ〜」
「うん、お前はとりあえず俺の股間に手を伸ばすのやめようか」
パシッと一二の手の甲をはたくと、むぅと唸りながらプクッと頰を膨らませた。
いや俺の方が絶対的に正しいからな? ここでおっぱじめるのはヤバいって考えたらわからんかね。別にどこだろうとおっぱじめる気はないですけど。
その時、一二がふと思い出したという感じでポンと手を叩いた。
「葬哉くん、お誕生日いつ〜?」
「俺? 俺は一月十四日、『良い死』の日だ」
「あっ、あんまりいい語呂じゃないですね……」
「あんたの葬るって名前といいその日を狙ったとしか思えないわね」
あぁ、なるほど! 俺の名前の由来ってもしかして誕生日の語呂からきてるのか! 産まれて十六年経ってまさか春夏秋冬に気付かされるとは。
「それじゃあまだまだ先かぁ〜」
「何する気だよ、本気で怖ぇよ」
「お誕生日プレゼント、期待しててくださいねっ!」
怖い、ホントに怖い。コイツ、バイト先の風俗店の仲間連れて俺の家に凸ってきてもおかしくないくらい頭ん中男の下半身だからなぁ。
「じゃあ朱々ちゃんは!? お誕生日いつ〜?」
「私はもう終わってるわよ。五月三日」
「ゴミの日か」
「ブッ……w!」
「穢谷、あんた後で処刑ね。あと
「ごっ、ごめんなさいっ。自分が思ってたのと同じことを穢谷さんが言ったのでつい……w」
祟、それお前も春夏秋冬の誕生日をゴミの日だと思ってたってことになるから余計失礼だぞ。
「はぁ、まぁいいわ。私、ちょっとトイレ行ってくる」
「は〜い」
春夏秋冬は若干苛立ちの表情を見せながら、校長室を出て行った。
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