第5話『頼むから、アタシと誰か恋愛してくれ……』
No.22『俺は苦手じゃない、そっちが俺を嫌いなんだ』
思えばあれは今年の四月とほとんど同じ状況だった。財布を無くし、教室にまで戻り、アイツのストレス発散を見、そしてアイツと約束を交わしたのだ。勝負とも取れる、未だ決着のついていない約束。
俺はその勝負に勝った時、本当に胸を張って社会不適合者日本代表と宣言することができるのだ。学校一の人気者に泡吹かせた、吠え面かかせた社会不適合者日本代表と。
△▼△▼△
土曜日の強制労働を終え、日曜日を挟み月曜日、から四日経った本日金曜日。
あれから祟は大学での研究発表を無事終えたらしい。もうファミレスで会ったばっかりの時の、すぐリスカしますとか言ってた超根暗リケジョではなくなっただろう。
その祟の研究発表の評価が思いのほか高かったと
そう言えば、祟は今度の休日にまた春夏秋冬と買い物に行くとのことだ。気が合ったのかなんか知らんが、不思議とあの二人はそこそこに仲良くなっている。
何となくだけど、春夏秋冬の性格が少し丸くなっている気がしなくもない。
少なくともあのクズ三人(キモオタ、ビッチ、脳筋)より接し方が優しい。まぁなんて言うんだろ、祟の場合はすごく応援したくなるクズなんだよなぁ。親心(親でも何でもないのだけど)をくすぐられるって言うか、つい見守っててやりたくなるんだよ祟って。
あれ、もしかして特大ブーメランかな。
「だからお前も親心をくすぐられて祟と仲良くしてるんじゃないかっていう結論に至ったんだけど、どうだ?」
「検討はずれにもほどがあると思う。考え直さなくていいから今すぐその使えない脳みそを切除してくるといいわ」
違うらしい。だったらこの性格ブス陽キャ春夏秋冬が俺同様に友達いない陰キャの祟と仲良くしている理由って何なんだ?
「この前も言ったでしょ?
「なんだよアレコレって。お前のことだからどうせ裏があるんだろ?」
「なんで私のことだから裏があるって決定づけられたのかわかんないんだけど」
だってお前普段から仲良いフリしてるヤツらの悪口をめっちゃ言いながら教室を殴る蹴るしてるじゃん。
それを知ってる人間としては、春夏秋冬が普通に仲良くしているのが信じられないんですわ。
「じゃあもしかしてお前は、本当に女子としての常識を何も知らない祟を心配してあげてるってのか……? あの、春夏秋冬 朱々が人を心配……?」
「なによそのにわかには信じ難い考え難いみたいな反応。私だって世の人間全員が嫌いなわけじゃないのよ」
「ほーん、さいですか……」
春夏秋冬も意外と普通な女子高生というわけか。なんか知らんけどちょっとショック。春夏秋冬はもっと冷徹で全ての人間を見下してると思ってた。
そう考えると俺の春夏秋冬へのイメージ最悪だな。
「さて、そろそろ話は終わったかな?」
「いやどっちかと言うと俺たちがあなたを待ってるんですけど」
今いるのは実は校長室。今日も今日とていつもの放送で召集がかかった。のにも関わらず、
今もかちゃかちゃコントローラーを操作して狩猟中のようです。
「悪いねぇ、もう少し待ってくれたまえ。どうせならもうちょっと採集して行きたいんだ」
あ、狩猟じゃなくて採集クエストでした。俺もモン◯ンしてぇ。
△▼△▼△
結局丸々五十分間の採集クエストを終えた
「いや〜すまなかったすまなかった。新作のモン◯ンずっとやりたくてさ」
「だとしても職場にテレビとプレ◯テ持ってきてまでやらないでしょ」
春夏秋冬の手厳しいツッコミにも、あははと笑いで返す校長。相変わらずつかみ所のない人だ。
「それにしても前回の祟くんの件は驚いたよ。まさかあそこまでフォルムチェンジしてくるとは」
「元が良いからできたフォルムチェンジよ。
「あ、今の本音か。やっぱ楽しいんだな」
イテッ。春夏秋冬が俺の発見に無言で腹パンして来た。やっぱ一緒にいて気が合うんだろうな。ちょっと可愛いところもあるじゃないですか春夏秋冬さ~ん。
「はぁ……ねぇせんせー?」
「なにかな」
「私たちって、いつまでせんせーの仕事手伝ってればいいの?」
「はははっ。安心したまえ。卒業すれば君たちは、はれて自由の身だ!」
「そ。それならいいんだけど」
春夏秋冬は安心した、というよりも何故かよりいっそう不機嫌そうな表情で腕を組んだ。卒業すれば……つまり残り一年と少し、俺たちは校長の犬として働かざるを得ないわけか。キッツ……。
「それじゃあお楽しみである今日の仕事を発表するとしようか!」
「いや全然楽しんでないんだけど」
「今回は、君たち二人にベビーシッターをしていてもらう!」
「「……はぁ?」」
春夏秋冬の言葉を無視して校長の口から飛び出した言葉に、二人して問い返してしまう。ベビーシッター、日本語で言うところの子守。それを俺たちにさせるということは、考えられるのは近場の幼稚園にお手伝いとか?
「ちょっと待っててね~」
この校長室は左に職員室、右に保健室と隣接している。一々外に出なくても、室内にある扉から移動が出来るのだ。
校長は右の保健室と繋がった扉を開けて中に入っていった。そして戻って来た校長の腕の中には。
「あぁう~~」
「「かっ、隠し子!?」」
「いやいやわたし結婚してないしそもそも公表してる子供もいないよ?」
赤ん坊が抱かれていたのだ。おそらく一歳か一歳に少し満たないくらいの女の子だと思う。どこか誰かに面影のあるその赤ん坊は、校長の顔を見てキャッキャッと優木〇なばりの笑い声をあげた。
「この子はわたしの幼馴染の子なんだ、名前は
「へぇー、なんか意外ですわ。校長先生、ちっちゃい子嫌いそうだから子守とか出来ないかと思った」
「むむむっ! 失礼なヤツだなぁ。わたしはこれでも子供好きなんだよ? あのお兄ちゃんひどいねぇ~、社会不適合者って言うんだよ~」
「うぁぁ~?」
「おいやめろ。ちっちゃい子にそんな言葉を聞かせるな」
覚えちゃったらどうするんだ! なんて別に人の子だしどうでもいいけど。そんなことを考えながら何故かずっと黙っている春夏秋冬をチラっと見てみると、まるで崖っぷちに追い詰められた犯人みたいな険しい表情をしている。
……もしかしてとは思うがコイツまさか。
「そういう君たちはどうなんだい? 子供、苦手じゃないだろうね?」
東西南北の問いかけに、ビクっと無言で肩を震わせる春夏秋冬。あー、ダメだこれ。確定だわ。
「……」
校長がそっと赤ん坊改め月見よもぎを床に立たせる。すると、意外にもしっかりとした足取りで真っ直ぐ春夏秋冬の足元に歩いてきた。
「うっ、あぁ~」
「ひぃっ……!」
よもぎの小さな手が足を触っただけなのに、小さな悲鳴を漏らす春夏秋冬。
「春夏秋冬。お前、子供苦手なんだな……」
「……べ、別に」
「触られて悲鳴出す時点で、苦手以外の何者でもない気がするんだけどなぁ」
「……ちょっとだけ、じんましんが出るだけよ! 苦手じゃないわ!」
「アレルギー反応出るとかガッツリ苦手じゃねぇか!」
春夏秋冬の首筋には赤いプツプツが大量に浮き出ていた。ちょっとじんましんが出るの量じゃないだろ。それホントにダメなヤツじゃん。
痒そうにポリポリしだした春夏秋冬にため息を吐きながら今度は校長が俺を見てきた。
「
「えぇ安心してください。俺はちっちゃい子は全然嫌いじゃないですよ。イキがりだす幼稚園から小学六年生とがっつりイキりまくる中一から高二はぶっ飛ばしたくなるほど嫌いですけど」
「それならいいんだけど……」
「いや別に良くわないわよね。それつまり四歳くらいから十代後半の若者全員嫌いってことになるんだけど」
「ただ、ひとつだけ問題があります」
俺は春夏秋冬ツッコミを無視して、校長の足元を赤ちゃん語を喋りながら歩き回るよもぎの身体をそっと持ち上げる。すると、俺の予想通りのことが起きた。
「うっ、うぅぅ、ぁあああああああ~~!! ぎあゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃ~!!」
「この通り俺は苦手じゃないんです、赤ちゃん側が俺を嫌いなんです」
俺の腕の中で尋常じゃないレベルの泣き声を叫びまくるよもぎ。校長は泣き叫ばれまくっている俺とじんましんをかきまくっている春夏秋冬をジト目で見つめ、深いため息を吐いてスマホを取り出した。
「君たちが子守に向いていないことがよく分かったよ……」
はい、それは本人が一番身に染みてわかってました。
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