No.11『性病なんて気にしません〜』

「むぅ~、じゃあ校長先生に頼まれてあたしを尾けてたってことですか~?」

「あぁそういうことになるな」


 風俗街からそこそこ離れたところにあるファミレス。夫婦島の件で作戦会議し、ヤンキーウェイトレスさんにブチギレられたあのファミレスだ。

 そこに俺と春夏秋冬ひととせ、そして一二つまびら 乱子らんこの三人でやって来ていた。ちなみに席の配置は俺の隣に春夏秋冬、でその前に一二だ。


「でもどうして校長先生は先輩がたにあたしを尾行させたんですぅ?」

「決まってるじゃない。あんたの援交疑惑の確たる証拠を手に入れるためよ。あの校長のことだから、どうせその写真を脅しの材料にしてあんたのこともコキ使う気でいるのよ」

「援交~? 人聞き悪いですよぉ、あたしはお金をもらってエッチしてるだけです!」


 小柄な割に結構大きい胸をたゆんたゆん揺らしながら一二が言った。

 うん、そのお金もらってエッチすることを援交って言うんだけどなぁ。ていうか飲食店でエッチなんて言うなよ、周りの客がジロジロ見てるから。


「ヤバイわね穢谷けがれや。この子、夫婦島よりもバカだわ」

「あぁ、今の一言はバカ丸分かりだったな」

「ちょっと先輩たちさっき会ったばっかりなのに失礼じゃないですかぁ? それにあたし、勉強は出来ませんけど、男の人を喜ばせるワザならたくさん持ってるんですからね~!」

「お、おう……」


 だから飲食店でその結構エグめの下ネタやめてくれないかな。幸いにも今日はあのヤンキーウェイトレスさんはいない。夜はシフト入れてないのかな。


「そうだ! 穢谷先輩、今からあたしと一晩ひとばんどうですか?」

「は?」

「家誰もいないんですよぉ〜。穢谷先輩、結構あたしのタイプだし、サービスでお安くしますよ❤︎?」

「…………うぐぁぁぁぁ! 今日の洋服代とラブホ代さえあればイけたのにぃぃいって、イッテェ!」

「アホッ! ホントこれだから童貞は……」


 スニーカーの踵で俺の足を踏んづけてきた春夏秋冬。俺の嘆きもこれだから童貞はと切り捨てられてしまった。


「ていうか、なんでお金もらってまでヤるの? 金欠?」

「えぇ〜そんなの決まってるじゃないですかぁ。本人の口から言わせるなんて、もぉ春夏秋冬先輩のイジワルぅ〜」

「穢谷どうしよ。この子にイライラし過ぎて下手したら鼻へし折っちゃうかも」


 春夏秋冬の皮肉を無視したのか聞こえなかったのか知らないが、一二は頰を赤く染め、濃茶色をしたミディアムヘアの毛先をクルクル弄りながら言った。逐一所作がなまかしい……。


「お金を稼げるって理由もありますけどぉ。やっぱり一番の理由は、あたしが……エッチが大好きだからです!」

「「……うん?」」

「初めてエッチした時、あたしは知ったんですよぉ。この世にこんなにキモチ良くて、えっちな気分になれることがあったんだって〜!」

「「うん……」」

「以来あたしはセックスの虜です〜❤︎ おチ◯チンあむあむするのも、手でコシコシしてあげるのも、それで男の人がよがるのを見るのも、あたしは大好きなんですぅ〜❤︎」

「「…………」」

「セックスすると男の人から愛してもらえるんです。愛してもらうことはとってもキモチぃんですから〜!」


 席を立ち上がり、恍惚の表情でセックスを語る一二。興奮した様子で、なんか知らんけどはぁはぁと呼吸が乱れている。ちょっと怖い。

 そんな俺と春夏秋冬の様子を見て、一二は恥ずかしそうに頰をかきながらゆっくりと席に着く。


「あ、ごめんなさいです。あたしだけ盛り上がっちゃった感じですよねぇ〜」

「あ、いやそれはいいんだけど。お前の援交の証拠は……」

「それって〜、あたしに見つかった時点でダメなんじゃないですかぁ〜?」

「そりゃそうだが……」


 確かに今さら写真を撮るなんて無理だ。ファミレスの写真じゃ意味ない。援交の証拠じゃないといけないのだから。

 俺が言葉に詰まると、一二はニコっと可愛らしい笑みを見せて立ち上がった。


「それじゃあ、あたしは帰らせていただきます。ここの代金、これで払ってくださいね〜」


 そう言ってテーブルの上に一万円札を一枚おいて、一二はファミレスを出て行った。


「ふぅ……典型的なセックス中毒だな」

「そうみたいね。初めて見たわ、あんなに男の人と身体の関係だけになりたい子」

「いや〜、アイツが求めてんのは身体の関係だけじゃねぇと思うぞ」

「?」


 首を傾げて怪訝な顔をする春夏秋冬。


「アイツ言ってただろ。男の人から愛してもらえるって」

「あの子が快感だけじゃなくて愛も欲しがってるって言いたいの? だったら何人も男と寝ないでしょ」

「違うんだよ。セックス中毒のヤツってのは、愛とセックスをイコールで結んでやがるヤツが多いんだ」

「愛とセックスを、イコール?」

「あぁ。セックス中毒……性行為依存症ってのは幼少期に親から愛されていなかった人がなりやすいらしい」


 春夏秋冬は俺の言葉を聞いて、顎に手を当てて目を閉じた。何かを考え込んでいるようだ。

 そしてすぐに目を開けて言った。


「親からの愛情を受けてこなかったから、多くの他人から愛情を求めているってこと? セックスをすることで一時的に人から愛されようとする的な」

「うーん、まぁセックスで他人が自分を愛してくれていると勘違いしているケースが多いんだ。それで何人もセックス相手を求めるって感じじゃねぇのかな。アイツも愛を欲してんだろうよ……知らんけど」

「なるほどねぇ。親の愛もバカには出来ないってことか……」


 なんだかやけに真剣に話してしまった。まるで夫婦島めおとじまの時みたいに、今回も一二つまびらを救おう的な流れが出来てしまっている。


 しかし何度も繰り返すが、この件で俺たちが一二の援交をやめさせようとか、一二のセックス中毒を良くしてあげようとか考える必要はないのだ。

 ただ援交の証拠を校長に提出すればいいだけ。俺たちはじゃない。弱みを握られて動いているだけなんだから。


「とりあえず、今日は帰るか」

「そうね。一応、校長には尾行してたのバレたことは黙っときなさいよ。あのゲス女、何するか分からないし」

「あいよー」


 春夏秋冬が念を押してきたので、軽く返事をして俺と春夏秋冬は互いに帰路を辿り始めるが……。

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