No.9『ラブホ童貞卒業したった』
校長によると、今日の夜にも援交疑惑の女子生徒が男性とホテルへ行くらしい。その証拠写真を撮って来て欲しいというわけなのだが。
あ、そうそう。夫婦島は『メイド喫茶に行かなきゃいけないんで僕、今日は帰りまっす! 頑張ってくださいっす!』『ビッチには気を付けてくださいっすよ! 性病うつるかもしれないっすから』とかなんとか抜かして消えた。やはり予想通り使い物にならなかった。
その夫婦島の時とは違い、もちろんのことながらその女子生徒が家にいないのでどこにいるか分からない。ただこの街のラブホは一箇所に集中している傾向があるため、そこを張っていればいつかは見つかるだろう。
というわけで今、俺たちは風俗店やラブホが建ち並ぶ風俗街を訪れていた。俺も初めて来たが、ピンクっぽい雰囲気ってのはこういうことなんだな。
時刻は五時を少し回ったところ。風俗通いっぽいなーって男の人や、なんでこんなところにいるんだろうと疑問に思ってしまうほど若い女の子、看板を持ってしつこく客引きするキャッチなどなど。
体験したことのない『大人の世界』という感じで、まだまだガキンチョの俺はワクワクしてしまう。
「今さらだけど、ここに制服で来たのはちょっとミスだったわね」
「ん、確かにそうだな……。一回帰って着替えるか?」
「イヤよ、あんたに私服見せたくないもん」
「さいですか」
一々挑発してくんなー、コイツ。マジいつか絞める。
しかしながら制服のままというわけにもいかない。時間が遅くなるに連れて風俗街にいる学生の場違い感は増してしまう。とりあえず何かに着替えなくては通報されてもおかしくないし。
それを春夏秋冬に伝えると、カバンの中からサイフを取り出して俺に押し付けてきた。
「え、なに」
「これで服買って来てって言ってるのよ」
「いや一度も言ってなかっただろ」
「文句ばっかりうるさいわねー。いいから二人分その辺で買って来い!」
チッ……、なんで上からなんだよ。めっちゃ高額な服買ってサイフすっからかんにして返してやる。
「言っとくけど、その金。
「……」
勝てねぇ。ま、社会不適合者が青春女王に何しても勝てるわけねぇか……。
△▼△▼△
適当にぶらつきながら近くにあったユニク〇で服を調達。やっぱユニ〇ロ最強だわ。安いし質はいいし! プチプラってヤツだな! ゆーて俺、ユ〇クロとG〇でしか服買ったことないけどな!
ちなみに俺はすでに着替え終わっている。よく分からん英語が書かれたTシャツとジーパン、そしてチェック柄の半袖ワイシャツ。変ではない、と思いたい。
「
「あ? なんだよ」
路地裏の影で着替えていた
藍色のワイシャツに緑のガウチョパンツ。そのコーデに学校のローファーは合わないかと思ったので真っ白のスニーカーを一応買っていたのだが、それも履いている。俺の買ってきた服で完全コーデだ。
「あんた、意外にセンス悪くないじゃん……なんで?」
「いやなんでって聞かれても……」
無難なヤツを選んだだけなんだが……。単純に春夏秋冬が何を着ても似合うってだけな気がしないでもない。調子に乗ってウザいから口には出さないけど。
「あんたならワザとめっちゃダサい服買ってくるかと思ったのよ」
「おい、ひとつ言っとくが俺はお前みたいに性格ブスじゃねぇ。口が悪いだけだ」
「私だって性格ブスじゃないわよ。悪いのは口だけ、それ以外は完璧だし」
おーおー
だが事実でもあるから強く言い返すことが出来ないわけで。俺は春夏秋冬の言葉に口を噤んで、校長からもらった書類に目を通す。
「えっとー、探してる女の名前ってなんだっけ?」
「
「乱子……まるで乱交するために生まれて来たような名前ね」
「おい今すぐ全国の乱子さんに土下座して来い。でそのあと首吊れ」
劉浦高校一年生で部活動は何もしていない。そして驚くことにこの女は小さなアパートにひとり暮らししているそうだ。校長の裏調べによると、クラスではイジメに近い嫌がらせも受けているらしい。
「なんで援交なんてすんだろ。ヤりたい盛りなのかな」
「どうだろうな。嫌だけど金がないって理由でやってるヤツもいるらしいけどな」
「ふーん、その書類なんか書いてないの?」
「これには
確かに貧乏だから身体を売って稼いでいるって話は考えられ得る可能性だ。
しかしながら俺たちがそれを思案する必要はない。今回はただ援交の証拠写真を収めるだけでいいのだから。
「ん、ちょっと穢谷! あの子そうじゃないの? あのスーツの男と一緒にいる子」
春夏秋冬が指差す先には、濃茶の髪色をしたミディアムヘアの少女の姿があった。その容姿は
男と二人でホテルや風俗店の建ち並ぶ風俗街へ来る。これは援交確定とみても間違いないようだ。
「……確かにそうみたいだな。どうする、お前が写真撮るか?」
路地裏からこっそり写真を撮るなんて、盗撮してるみたいで背徳感がすごい。あ、盗撮してるみたいっていうかがっつり盗撮か。
「私、スマホの充電切れてるからあんたが撮って」
「はいはい」
「『はい』は一回ね」
「黙れ腹黒」
「私は穢谷の将来のために言ってあげたんだけど。あんた仕事で上司に『はいはい』って言うの?」
「は? なんでお前が上の人間前提なんだよ。何様だてめぇ」
「あ、でもあんた仕事出来ないか。社会不適合者だったもんねw!」
あー、もう相手すんのもめんどくせぇ。空が暗くなって夜も近付いてきている。さっさと写真撮って帰ろう。
スマホのカメラを起動し、レンズ越しに風俗街を通して見てみると。
「…………あ、ヤベ」
「なに? その長い
「……ちょうどホテル入って行くところだったから、背中しか撮れなかった」
「はぁ? 何してんのよー、ホント無能ね。ちょっと見せて」
俺のスマホをひったくり、写真を確認する春夏秋冬。そしてはぁとひとつため息を吐いて俺に画面を向ける。
「あのさ、背中しか撮れなかった以前になんでこんなにブレブレなの!? これじゃ誰が誰かもわかんないでしょーが!!」
「う、うるせぇな! 写真なんてめったに撮らねぇから不慣れなんだよ!」
「あのゲス校長は確実な証拠って言ったのよ? これで許されるわけないじゃん。もー、穢谷マヌケすぎ、話になんないー」
「あぁん!? そもそもお前が撮れば良かった話だろうが! なんだよ充電切れてるって、マヌケはそっちじゃねえのかよ」
「デカい声出さないでよ恥ずかしい。だだこねるガキじゃないんだから」
「デカい声出さしてんのはそっちだろうがよ」
いつものように終わりの見えない口論が勃発してしまう。基本俺が黙る場合が多いが、今回は春夏秋冬の方が口を閉じた。
もう一度ため息を吐くと、何を思ったか路地裏から出ようと歩き出した。
「お、おいどこ行くんだよ」
「決まってるじゃない。あの子が入ってったホテルよ」
いやそんななに当たり前のこと聞いてんのアホなのバカなの死んでくれないみたいな顔されても困るんだけど。
「休憩だったらまだしも、宿泊とかだったら待つだけ無駄でしょ? フロントの人からうまく聞き出すわ」
「あ、おい待てって!」
俺の呼びかけに反応することなく春夏秋冬は路地裏を出てホテルへ。
俺が付いて来るという絶対的な自信を持った足取りに俺は仕方なしに後を追いかけた。
△▼△▼△
「すいませーん、ここにこれくらいの身長の女の子来ませんでしたー?」
「はい……さっき男性と二人でいらしてましたけど」
うおー春夏秋冬すげぇ。俺は初のラブホにドギマギしてるってのに、まるで経験者みたいな顔でフロントのお兄さんと話してやがる。
さすがは吉◯里帆(表)と新◯結衣(裏)に似た顔を使い分ける女。表情筋の筋トレでそこまで出来るなら俺もしてみよっかな。
「ねぇ聞いた
「え、あ、あぁそうなんだ」
「実は私たちこれから3Pする予定だったんですよぉ。それなのにあの子ったら好みの男見つけたらすぐナンパしてホテルですよ、ひどくないですかぁ?」
「はぁ、そうですね……」
若干引き気味のフロントさん。そりゃ初対面で3Pの予定だったとか言われたら反応に困るわな。
「その子たちが入ってる部屋どこか分かります?」
「あぁえっと……407ですね。休憩で入られてます」
「そっかー、休憩ですか」
目的通り情報を得ることができた。休憩、つまり数時間滞在するものだ。逆に宿泊は言葉通り一泊するもので、多くのラブホはこの二つの形態が多い。
「それじゃあ、その隣の406に休憩でお願いします」
「は!?」
「分かりました。チェックアウト時は室内の精算機にお支払いください」
「はーい。ほら葬哉、行こっ!」
「いや、ちょっ、待て待て待て待て……!」
俺の腕を強引に引っ張っていく春夏秋冬。コイツどういうつもりだ。休憩か宿泊か聞くだけじゃなかったのかよ。
まさか……ラブホ童貞卒業してすぐに普通の童貞も捨てれるのか俺は! いや春夏秋冬に限ってそんなまさかな。
まぁ俺としては春夏秋冬、スタイルはいいから春夏秋冬だと認識しないように目をつぶってヤれば全然イけると思われます(ゲス顔)。
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