発想/アイディアの出し方の話(後編)
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「今回の話は、発想のメソッド=”発想とは自分の中に有るイメージの言語化である”というのを踏まえて、ではボンヤリした発想から優れた発想を生む方法を考えて見ようとか、他の発想法についていろいろ考えて見ようとか、そんな話ですね」
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「よーし、じゃあ始めようかしら」
「あ、その前にちょっと質問があります」
「え? 何? 私、今凄くやる気出してたのにソレを止めるの? ウワー、やる気なくなっちゃいそウ――」
「じゃあ質問無しで行きますか。やる気見せて貰う感じで」
「…………」
「……やっぱり質問行こっか」
「何でこの動物は素直に流れに乗れないんですかね……」
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「で、質問って何?」
「アッハイ。前回、”発想とは自分の中に有るイメージの言語化”みたいなこと言いましたけど、よく、発想をするメソッド的に言われるのって、アレですよね」
「何?」
「”いいものをたくさん見て、蓄積しましょう”って、アレです」
「アー」
「アレは間違いなんですか?」
「間違いじゃ無いわよ? つまりこういうことだもの」
・自分の言語化レベルの位置まで、いろいろ蓄積してイメージをハッキリさせる
「アー……」
「たとえばね? 下の四角には色が入ってるんだけど、何色かしら、コレ」
「ンン!? 色、入ってるんですか?」
「入ってるわよ? じゃあ、同じ色のレイヤーを10枚重ねて見るわね? この色は何?」
「ンンン……? 黄緑色?」
「じゃあ、同じ色のレイヤーを100枚重ねるわね」
「アー! 黄色です!」
「解ったかしら?
今、見せたもので言うと、こういうことよ」
・色のレイヤー
=何か見たときに脳内に残ったイメージ
・重なったレイヤー群
=いろいろ見て蓄積していったイメージの総和
・色を判別する目
=言語化のレベル
「”いいものをたくさん見て蓄積しましょう”って。
つまり、アンタの言語化レベルでも解るくらいに、脳内にイメージをたくさん重ねてハッキリさせなさいってことなの。
――で、もう一回”つまり”って言うけど、つまりこの方法は、時間と蓄積回数をコストとして、アンタの言語化レベルを一切上げないという、楽な方法でもあるのね」
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「ちょっと話題がズレるけど、――無論、多くの”いいもの”は単色じゃ無いわ。
いろいろな配色で、グラデーションや分布を持って、私達の中で”イメージ”となっている筈よね。
たとえばこんな感じで、それらがあるとするじゃない?」
「それぞれ個性がありますね……」
「そう。でも、脳内に入ってしばらくすると、濃度は下がって10%とか、下手すると1%未満になるわ。
だけど、蓄積すると、いろいろな、しかも曖昧なレイヤーが重なって、幾つかの”色や分布”を主張し始めるの。
さっきの4枚、各レイヤー10%にして重ねてみるわね」
「ンンン!? ちょっと解りにくいですね……」
「じゃあ各レイヤー30%にしてみるわ」
「あ、色や分布が何となく解ります……!」
「そうね。このくらいだと、”青だ”とか”赤だ”とか、それらの分布が言い切れるようになってくるわ。
これを”発想”として見た場合、”青=世界観””赤=キャラ”とか、そんな風に見て貰えると、どういうことか解るんじゃないかしら」
「蓄積して、レイヤーを重ねて行くことで、段々と色や分布が浮き上がってくる訳ですね……」
「そう。そして人間の脳はイメージを勝手に作り出す構造になってるの」
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「そうなんですか?」
「ええ。だから空耳とかしたり、暗闇に何かを感じたり、触れても無い火を熱いんじゃないかと思ったりするのよ。
こういう、”そう思え”と脳に指示してなくても勝手に生じるものってたくさんあるでしょ?」
「というか、勝手に脳にイメージされてくるものの方が多いように思いますね……」
「そう。”脳は勝手にイメージを造成する”ものなの」
「じゃあそれは、蓄積されたレイヤーについても同じなんですね……?
蓄積されたレイヤーが作る色や分布に、何らかのイメージを勝手に見る、と?」
「そう。
人間の脳は、無意識に、蓄積レイヤーの中から何かを作ろうとして、いい色や分布が出るようにレイヤーを変形させたり、スライドし続けてるの」
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「ええと、じゃあ、よく、散歩や風呂の中で発想したとかいう人がいますけど、それって……」
「脳に指示することが無い状態に身をおいても、脳の自動イメージ造成はずっと行われているわ。
寧ろ、脳が勝手に作るイメージは、自分が何も指示してない状態でこそ受動しやすくなる。
だから散歩や風呂の中では、脳が自動で組み合わせて作ったレイヤー重層に”色や分布が出来ている”ことに気付きやすくなるの」
「アー、ボーッとすることが大事ですとか、よく言われますけど……」
「脳の中にある情報を、脳が勝手にイメージにすることで、つまり”整理”してるのね。
しっかりとイメージ化された情報は、もうそれ以上考えなくて良い訳だから。
だからボーっとするというのは、こちらが何も脳に負荷を掛けず、脳の勝手イメージ処理を全開で走らせると、そういうことなの」
「ええと、じゃあその、さっき言った”色や分布が出来ていることに気付く”というのは……」
「そうやって勝手に作られて続けたイメージが、自分の”言語化出来るレベルに、達した”ということ。
これが”降ってくる・天から与えられる”の正体よ」
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「何のことはない。ギフトとか、”降ってきた”とかいうものの正体は、次の通りの手順で出来るものよ」
・イメージ素材を蓄積する
:蓄積量は、自分が言語化出来るイメージを生むまで
:蓄積によって、自動的に、イメージは重層する
↓
・蓄積イメージから、新しいイメージを脳が自動生成し続ける
↓
・イメージを受容しやすい状態に自分を置く
:能動的に受容しようとすると、自動生成が阻害される
=能動的に受容しようとすると、受容しにくくなる
↓
・イメージは受容出来た?
:Y:良かったね
:N:蓄積を重ねる
「一種のメソッドですね……」
「アー、一応は”蓄積のメソッド”よね。
でも、個人間で再現性ないし、欠点多いわ」
「そうなんですか?」
「ええ。だって考えてご覧なさい。まず、蓄積の方向が間違っていても、自分には解らないのよ」
「アー……」
「こっちは青が欲しいと思っても、自分の中の蓄積や捉え方で青が小さかったり、青だと思ってる素材群が別の色だった場合、延々と蓄積を待つことになるわ」
「何だか、”自分のやりたいことと出来る事の違い”みたいなのに繋がりそうですね……」
「そうね。そしてまた、”こういう色が欲しい”という場合に対して、余分・過量の蓄積をする場合が多発するわ」
「例えば?」
「剣戟シーンだけが見たいのに、映画一本丸々見てしまうとか」
「アー」
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「無論、そういう”無駄な蓄積”こそが、他で活かせたり、応用力になることは多々あるわ。
でもコスパで言ったら、剣戟のいいシーンとか、90分映画の中の20分しか要らないのよね? そしてまた、例えば日常シーンが欲しい場合は、やはり30分くらいしか要らないのよ。
90分映画一本見れば両方賄えるかもしれないけど、――両方欲しいだけなら合計50分よね。
だったら映画じゃなく、別のものを見た方がよくない?」
「タイパの鬼みたいな考えですね……」
「余裕がないとは言うけどね。
でも今の時代、自分の必要なものを選別して取り込んでいける手筈は揃ってるわよね?
映画だって、たとえば90分全部見るとして、じゃあ”皆が見てる人気映画”よりも”今必要な映画”は何か、解るわよね?」
「解ります。だけど、やはり、余裕が無いのでは?」
「おお、解ってるじゃない」
「? 何がですか?」
「――つまり”蓄積のメソッド”って、余裕ある人向けのものなのよ、基本。
だって、時間という最大最悪のコストを、無限に使えることを前提としてるから」
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「時間を無限に使えるって、解る?
――”趣味でやって、上手くいかなくてもいいじゃない”って、そういう方法なのよ」
「そうなんですか?」
「ええ。だって、蓄積のメソッドにおいて、リスクって何?」
「ええと、……たとえばハズしたものを見てしまった場合?」
「いや、それだって”何らかの役に立つ”から、リスクじゃないわ」
「じゃあ何です?」
「――”貴重な創作時間を失う”って、そういうこと」
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「アー……」
「いい? でも蓄積のメソッドを語る場ではこのリスクを教えないでしょ? 何故かしら」
「……それをリスクとして考えないことを前提としている?」
「そうね。
蓄積のメソッドの現場では、発想は天から降ってくるもので、降ってこないならしょうがない。
そうしてる間に創作の時間が無くなったとしても、発想が天から降ってこなかったからしょうがないと、そういうことになるの。
――それが赦されるのって、プロの現場ではあり得ないわ。
あるとしたら、”趣味でやっていて、上手く行かなくてもいいじゃない”っていう、楽しむことが美徳のアマチュアイズムの現場よね」
「……それはそれで、正解ではありますよね?」
「ええ。そういう現場では、それが正解。
カリカリしてる輩は別でやってくれ、って話よ」
「アー、メソッドごとに住む領域が違うというか」
「そうそう。
蓄積のメソッドの住人がいる場所は、たとえ何も生むことが出来なくても、そういう工程や、その中にいる自分や人の付き合いを楽しむものだし、そこから何か生まれたら奇跡として喜ぶべきものだから。
だからそれでいいの。
だけどね?」
「だけど?」
「――それじゃあ駄目な人間もいるのよね」
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「なお、たとえば週に三回30分のアニメを見たとすると、一年間で約4577分を消費するわ。
約76時間。
その時間を創作に回していたら、何が作れたかしら?」
「ベンツ理論来ましたね?
一応数えますが、普段から毎日2時間を創作に回していたとしたら、76÷2=38日分ですね……」
「そうね。
だとすると、アニメ週3本で、一ヶ月/年強のアドバンテージになるの。
12年それを続けた場合、それをやってない人とは一年分の差が出来るわ。
そしてその差を縮めるのは至難よね」
「対抗出来るとしたら週3アニメからの蓄積を活かした創作をすることですね……」
「そう。何となく観てたら駄目よ。一ヶ月/年を引き換えにしてるんだと、そういう考えがあってもいいんじゃないかしら」
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「待って下さい」
「聞こうじゃない?」
「蓄積によって、イメージのレイヤーは枚数を増やしますが、つまりそれは色に深みを与えますし、重なって生じる分布は広がりや複雑性を作ります。
だから蓄積のある人とない人で同じ題材を作ったら、蓄積のある人の方が深みと複雑性のあるものを作れるということです」
「あのさ、忘れてる?」
「何です?」
「蓄積のメソッドって、――言語化する能力のレベルを上げなくて済む方法なんだけど」
「…………」
「……アー!!」
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「解る? 蓄積のメソッドって、基本的に”待ち”なの。
そうしてる間、言語化する能力を上げる訓練をしないならば、”それ”はどんどん落ちて行くわ」
「ええと、じゃあ、蓄積をたくさんしたとして……」
「言語化能力が低いままなら、深みのある色も、分布の複雑さも意味が無いわ。
キッツい黄色じゃないと”黄色!”って解らなかったでしょ?
あの状態で色の深みや分布の複雑さが言えると思う?」
「アー……」
「ほら、よく、大家や御大と言われる人達が、年を食ったら生産力落ちたり、何か味のないものばかり書くなー、ってのがあるでしょ」
「自己紹介のコーナーですか」
「棚に上げるコーナーよ。忘れたの?」
「アーまあそれはそれとして」
「ええ。でもその原因って、コレにあると思ってるの。
”天から降ってくる”を使って大家や御大になった人達は、蓄積が大きくなる一方で、言語化レベルをあまり上げることがなかったせいで、蓄積したところで”それ”が”いいもの”に見えなくなってしまったり、またはいい形に言語化出来なくなってしまったんじゃないか、って」
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「言語化能力を上げるには”書くしか無い”んですけど、それに対して”待ち”の戦術は禁忌ですね……」
「そうね。だから今はその補助としてテンプレがあるんだけど、テンプレも使った分だけ言語化能力は捨てることになるから注意が必要よね。
だって、テンプレを作った人達は、それをテンプレとするために”考えて書いた”訳だけど、ではそれをテンプレとして使った場合”上をなぞる”から、基本、実力は伸びないの。
そういう意味ではテンプレの”以前・以後”で、その界隈の言語化能力は該当テンプレとその量分は落ちることになるわ」
「テンプレの功罪ですね……」
「別にテンプレに限らず”私は●●さんのフォロアです”とか、そういうのも充分同じことになりやすいから注意よね。
”自分のもの”にしない限り、何もかもは落ちていくんだから」
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「……だとすると、蓄積をしながら書くのが正解なんですけど、蓄積は”待ち”なので、それが出来ないですよね……」
「そうね。じゃあ、どうしたらいいのかしら」
「ええと、でも、言語化レベルを上げるために”書く”のだとしても、欠点があります」
「聞こうじゃない」
「はい。
蓄積無しに書いた場合、色は薄く、分布も小さく単純で、つまり”浅い”です。
そんなものを無数に書いた処で、評価も何も得られないですよね」
「そうね。
でも、色が薄くても、テンプレ主導の現場だったら”僅かな個性が差になる”から、それでやっていけてしまう場合もあるわ」
「アー」
「アー」
「まあそれはそれとして」
「ええ。――でもそういうことじゃないのよね?」
「アッハイ。
そういう投稿ガチャに任せるのではなく、”書く”やり方で、では、蓄積のメソッドで出来るものより、上のものは作れるんですか?」
●
「じゃあ、ちょっと考えてみて? 蓄積のメソッドって、実はあるものの代用を作ろうとするメソッドだと私は思ってるのね。
――では、その代用って、何を代用しようとしてるのかしら」
「? 蓄積が……、代用?」
「そうそう。莫大な知識、そして天啓のような発想、これって、あるレアカテゴリだったら持ってるものなんだけど、そのレアカテゴリって、何?」
「……莫大な知識と、天啓……」
「……賢者?」
「賢者は知識倉庫だけど天啓は持ってないんじゃないかしら」
「えーと、だとすると、そういう天賦の才を持っていると言うことで……。
何でしょうか……?」
「今、答え言ったわ」
「え?」
「……アー! 天才!!」
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「そう。蓄積のメソッドって、肝心の言語化レベルを上げることを考えない一方で、要素としては”天才”を叶えようとしてるの。
莫大な知識と、天からの発想。
実際の天才は知識とかゼロでも発想でそれを上回るものだと思うけど、世間一般は莫大な知識を持った完全無欠の天才を求めるのよね」
「デカい主語来ましたね……!」
「ヘイヘイ今回は気が大きいからね!」
「じゃあ、”書く”方としては、どうするんです? 些末なイメージしか拾えないと思うんですが、それで天才を超える方法って、あるんですか?」
「有るから、今回の話があるのよ?
ほら、脱線したものをスタートラインまで戻すけどね?
――ボンヤリしたイメージから”優れた発想を作る”メソッドよ、今回のネタは」
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「聞きましょう」
「ええ。これまでに話したわよね?
どんだけボンヤリしたイメージであっても言語化しろ、って 」
「ええ。よく考えたら”蓄積のメソッド”を視界に入れない処からの方法だったんですね」
「そういうこと。全ては謎解きのように繋がってるわ」
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「さあ考えて。
何か作りたいと思って、漠然と、呆然と、凄いもの作りたいと、そんな馬鹿なことを考えるの。
そうすると、取るに足らないような、関係無いような、浅いイメージが幾つも手元に生まれてくると思うの」
「ファンタジーと言ったら勇者、みたいな浅いアレですね」
「そうそう。そういうのでいいの。
というか、それでこそいいのよ」
「いいんですか!?」
「いいわよ。そして、そういったものが自分の手元で言語化出来たら、次のことを考えて欲しいの」
・このネタは既に世に出ているので、そのままだと使えない。
「……否定するんですか!?」
「そうよ。
自分が浅く思いついた程度のネタなんて、絶対に誰かが思いついてるわ。
今、自分の観測範囲になくても、自分が世に発表する前に誰かが先に出す。
どんだけ特殊で、優れたものを思いついたとしても、そのようになるんだと考えて」
「どうしてです?
特殊で、優れたものならば、他の誰も思いつかないから、否定しなくていいじゃないですか」
「解らない? それが自己採点でしかないからよ」
●
「……どういうことです?」
「あのね?
――私達は天才じゃないのよ。
思いついたものが、どんなに優れていると思っても、他にないものだと思っても、凡人の発想なら凡人が作れるわ。
だとしたら先出し勝負なんだけど、今もう既に他の凡人がそれを作ってないという、そんな保証はあるの?」
「いや、有るわけないじゃないですか」
「だったらこう考えなさい。
凡人が思いついた程度のネタなんだから、優れているように見えても、他の誰がやってないように見えても、そんなことはあり得ない、って。
ええ。こういうことね」
・このネタは既に世に出ているので、そのままだと使えない。
「……ええと、これを思ってダメ出ししたら、どうするんですか?」
「ええ。ダメ出しをして、使えないと、そう自覚したら、こう考えて」
・だが改良すれば、使える。何故なら、凡人はそれをそのまま使うが、改良しないから。
「……これ、人間不信なのか人間全肯定なのか、どっちなんです?」
「まあいいじゃない。言ってる意味、解るわね?」
「凡人の発想でも、それをそのまま使ったら凡人のまま。
でも改良したら、凡人の発想ではなくなる……?」
「そう。
凡人の凡人たるところは、凡人の発想をそのまま使ってしまうから。
凡人は自分が凡人であると、自己証明するがゆえの凡人なのよ。
だけど己が凡人だと自覚して、それを改良したならば、少なくとも、凡人より上のものが出来るの」
●
「昔ね? バトルものとかを色々見ながら考えていたとき、自分の作っていたあるタイトルの要素から、こういうものを思ったの。
――異世界の、滅亡と生存を掛けた”異世界”戦争って凄くない? って」
「アー……」
「でもね? それを世に出せるようになるまで、自分の実力が満ちるまで、時間が掛かるのは解っていてね。
だから、その間に、これと同じネタは誰かが世に出すだろうと、そう思ったの」
「じゃあ、そのネタは、使わないこととして……」
「ええ。だから、こう考えたの」
・改良すれば、使える。何故なら、凡人はそれをそのまま使うが、改良しないから。
「そこで思いついたのが、”異世界戦争の戦後交渉”。
異世界戦争というネタは強大だから、書く人がいたとしても数年かかるでしょう。だったらその先にあるものを先取りすれば、誰も真似出来ないわ」
「アー……」
「だから今の作家には、私よりも先行ったものを作って欲しいのよね。私が凡人だと認定したネタなんかやってたら、時間が勿体ないじゃない。
だってそれは新しい地平を切り開いてない。
私が既に過去にしてやったものなんだから」
●
「じゃあ、私達の極東が日本史+世界史の構造なのも……」
「日本史ファンタジーや世界史ファンタジーなんて、凡人の発想でしょ?
誰だって思いつくわ。
じゃあ両方合成したらどうなの?」
●
「解る? 凡人は凡人を超えられるの。
”それ”を重ねたら、天才を超えるかもね」
「そこまでは言い過ぎな感もありますが、メソッドとしては、どうなります?」
「まず基礎にあるのは、これね」
・思いついたネタは、そのまま使わず、必ず改良を通して別のものにする。
「気をつけねばならないのは、洗練したらダメってこと。
凡人の発想を別のものにしなければならないのに、洗練して、更に凡人さをアップしたら駄目よね」
「アー、洗練出来るほど要素の多いものを考えられるなら、凡人じゃないですよね」
「そういうこと」
「じゃあ、改良の方法は?」
「大体こんな感じのパターンだと思うわ」
・加算
:ある発想に別の発想を加える・合成する。
・倍算
:ある発想を複製する。
・減算
:ある発想から、それを構成する任意の要素を消去する。
※発想が小さくなって使えなくなる場合があるので注意
・割算
:ある発想を、分割、または分割して片側を消去する。
※発想が小さくなって使えなくなる場合があるので注意
・変換
:ある発想の要素を、別のものに置き換える。
※ただ名前を変えた、とかではなく、要素を変える。
・誇張
:ある発想を誇張、または構成する任意の要素を誇張する。
・逆転
:ある発想を逆転、または構成する任意の要素を逆転する。
・推移
:ある発想を、時間的に推移後、または前の状態にする。
「結構、よく言われる”バリエーション”のアレですね」
「そうね。倍算は加算の一種、割算は減算の一種だけど、失念しやすいので別にしてるわ。
また、置き換えも、名前を変えただけ、みたいなのじゃなくて、要素を置き換えてね」
「ちょっと、例みたいなの、出来ますか?」
「じゃあ、異世界戦争でやってみるわね」
■「異世界戦争を題材とした一例」
・加算
:ある発想に別の発想を加える・合成する。
▼異世界が一個ではなく複数ある
・倍算
:ある発想を複製にする。
▼異世界としてこちらの複製世界がある
・減算
:ある発想から、それを構成する任意の要素を消去する。
▼異世界全てではなく一部を懸けて戦争
・割算
:ある発想を、分割、または分割して片側を消去する。
▼異世界戦争の保険として各世界を分割し、平和世界と戦争世界に分ける
・変換
:ある発想の要素を、別のものに置き換える。
▼異世界戦争の各異世界がアパート内の各家族にその役を与えられる
・誇張
:ある発想を誇張、または構成する任意の要素を誇張する。
▼異世界”間”ではなく全異世界が一つの世界となってバリートゥード
・逆転
:ある発想を逆転、または構成する任意の要素を逆転する。
▼異世界戦争が始まる前に、それをしない方策を巡る
・推移
:ある発想を、時間的に推移後、または前の状態にする。
▼異世界戦争後の交渉、または異世界戦争前のドラマ
「”改良のメソッド”って感じね」
「確かに、ストレートな異世界戦争ではなくなりますね……。
というかクロニクルって、こういうものの複数改良ですよね」
「そう。改良は一回じゃなくてもいいの。
一回改良すると、”この改良で大丈夫か?”って思えるようになるのよね。
そうなったら、納得するまで形を変えた方がいいわ」
「そうなんですか?」
「ええ。何回も同じのを掛けてもいいし、別のものを掛けて行ってもいい。それらを掛けるごとに、元のイメージからは変わるし、掛けた分だけ、その変動性は高くなって別モノとなるわ」
「アー……、確かに、私達なんかの装備とかもコレですよね。極東インナースーツとか、和服やスーツ系の幾つもの発想が改良されて出来てますから……」
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「――で、大事なのって、この改良は、言語化のレベルを上げることになるの」
「何となく解りますね……」
「ええ。ボンヤリした、何処にでもあるような発想だったり、既存のネタだったりしても、それを改良する際、どのようにしようか考えないと駄目でしょ。
”どのようにするかを考える”って、イメージの言語化そのものなのよ」
「そしてネタを逐一改良することで、自分の好きなものや作りやすいものの方向性とか見えて来ますね……」
「そう。
薄い、単純なネタでも、改良することで濃く、複雑になっていくわ。
でも、そこには当然、自分の方向性が出るわけ」
「アー……、やろうと思えばずっと改良出来ますからね……」
「そういう意味では、この”改良”による”優れた発想”を作るメソッドの欠点は、”一般的”から離れやすくなることね。そしてまた……」
「何です?」
「これが出来るようになると、――テンプレが不要になるわ」
「アー……」
「ようこそ、テンプレ不要の自己満足の世界へ。
もはや”改良”があるために発想を待つ必要もなければ、枯渇もないわ。
ただ、他人との共通項がなくなるかもしれないから、そこは注意だけど……」
「だけど? 何です?」
「自分だけのものだと、確信出来るものが作れるって、クセになるわよ?」
●
「さあ、どうかしら?
貴方は天才?
それともテンプレ派?
それとも蓄積”待ち”派?
または凡人ダメ出し”改良”派?
どれでもいいわよね。仕事じゃなければ尚更好きに楽しめば良いわ」
「気をつけることは、ありますか?」
「改良派は自動的に言語化レベルが上がるけど、他は意識しないと上がらないわ。
だから自分が改良派じゃないと思ったら、意識して”書く”ようにして、言語化レベルが下がらないようにして欲しいわね。
あと”改良派”は、自分の発想に正当化バイアスを向けないこと」
「発想すると、いいものだと思いたがりますからね……」
●
「いや、もう私事だけどね? 新人さんの書いたもの読んでいて、そこでメインとなっているネタが、自分が昔にやったもので、更には何の改良もなく”そのまま”だったときって、何か凄く残念+無力感を得るのよね……」
「一方的な残念ですね」
「ええ。でもね? 私が過去にやったことはこの業界を前に進ませなかったし、新人のこの人も、やはりこの業界を前に進ませなかったのよね、って思うと、自分の力不足でホントすまないと思うわ。私のやってた事がもっと広まってれば、この新人さん、もっと凄いものを作れていただろうに、って」
「よく考えたら担当のリサーチ不足な気が」
「担当の、ネタに対する深掘り不足ってのもあるから、ここはそれでいいか!」
●
「しかし、こうして考えると、小説を書くのって、発想を言語化する作業そのものですね……」
「面白いわよね。
だって、勝手にイメージを作りまくってる脳があって。
そこからどのようにイメージを拾い上げて。
そのイメージをどう扱うか。
それらのメソッドと、使い手の色や分布の見方の差によって、発想も、作り方も変わってしまうわ。
この場合、私達って、脳の出力に振り回されてるのかしら。
それとも、脳の出力を使いこなしているのかしら。
でも、出来たものを読む”読者”は、その”読む”においてどれに対しても等しいのよね。
どこに”作り方”の結論があるんだと思う?」
「以前にあった”犬”という文字から、どんな犬を想像するかは人それぞれだけど、犬を想像することは外さないという……、そんなことを思い出しました」
「……私、それ、忘れてたわ……」
「またそういう振りでオチにするつもりですね!?」
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