発想/アイディアの出し方の話(中編)
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「今回の話は、前回からに引き続き、”発想”ということを考えてみます。発想のメソッドは無いと言いつつ、では”作る”メソッドはあると。でもそれはどんな方法だろうねと、そんな話ですね」
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「……で? 何の話だっけ?」
「えーと、何か解ったようなリスト出して発想の要素分解ですとか言ったあとで、じゃあ発想を行う際にもコレは役立つわみたいな。ホントですか? みたいなアレです」
「指示語が多いわ……。まあこういうことかしら」
■影響性・独立性
A:何かの影響を受けている
B:何かの影響を受けていない
■直接性・間接性
A:”発想”として、そのままを用いていない
B:”発想”として、そのままを用いている
■既存性・新規性
A:今までにもあったものである
B:今までに無いものである
「発想を要素として見た際の分類。これらが、発想を行う時にも役に立つの」
「どういうことなんです?」
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「発想ってさ、凄くしっかりと具体のあるものだと思う?」
「? えーと、どうでしょう。そうであるときもあるし、そうでないときもあるし、そうでない時の方が多いような?」
「そうね。漠然とした、言語化出来ないようなイメージの時の方が多くて、明確に”これだ!”みたいなのはなかなか無いわよね。
――でも、それら全てが”発想”な訳」
「アー、何となく解ります。でも、タイトルを世に残した多くの創作者の話を聞いてると、発想の部分では凄く明確なことを語ったりしますよね。あれは、どういうことなんです?」
「そりゃまあ、何らかの作品を作れるくらいに自分が仕上がってる場合、発想だってそれなりの形になってるからでしょ。
その発想にいたるまで、多くのボンヤリとした発想が、消されたり、素材になったりしてるだけよ。
で、コレ、”ウォールドの生存性バイアス”みたいな話だと思ってるわ」
「? 何です? それ」
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「何のことか解らない人に説明すると、WW2の際、米空軍が爆撃機の被弾状況統計を見て”生還率を上げるために何処の装甲を厚くすべきか”を検討した際、数学者のエイブラハム・ウォールドが”被弾していない箇所の装甲を厚くしなさい”と提案した話ね」
「? どうしてです? 被弾が多い箇所の装甲を厚くすべきでは?」
「よく考えて見なさい? 統計データは”生還した機体”からしか、得られてないの。つまり、生還した機体が被弾していない箇所は、そここそ被弾したら撃墜される可能性が高い可能性があるの」
「アー……、成程」
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「解る? 成功した連中は、これみよがしに”発想”の方法論を述べたり、自分の発想が如何に明確だったかを語るものだけど、実際は、違うんじゃないかしら?
それってつまり”俺はこんなに被弾したけど生還したぜ!”なんじゃないかしら?」
「ええと、ではこの場合の”被弾してない箇所”は何処なんです?」
「さっきも言ったじゃない。
ボンヤリと言葉にもならないような、どーしようもない発想の群よ」
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「ちょっと落ち着きましょう」
「? どうして?」
「発想のメソッドはありません。再現性があったら、同じ発想をするからです」
「ええ。そうね」
「じゃあ、何をするんです?」
「解らない? ――発想ガチャよ」
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「えーと……」
「クソのようにボンヤリしたイメージだったらね、結構、思いつくものよ。
たとえば”ラブコメ”って聞いたら?」
「アー、何か学校があって、制服の男女? みたいな?」
「じゃあファンタジーって聞いたら?」
「何か中世風の街を誰かが歩いてる的な?」
「そう。そういうボンヤリしたのでいいの」
「いいんですか!?」
「ええ。とりあえず、ガチャやってみようじゃないの」
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「ガチャっていいますけど、どういう?」
「そうね。でもその前に、ちょっと準備として、条件決めておこうじゃないの」
「条件?」
「ええ。何が★3やSSRなのかを決めるの。そして決める要素は――」
■影響性・独立性
A:何かの影響を受けている
B:何かの影響を受けていない
■直接性・間接性
A:”発想”として、そのままを用いていない
B:”発想”として、そのままを用いている
■既存性・新規性
A:今までにもあったものである
B:今までに無いものである
「コレよ。コレ」
「どういう風に使うんですか?」
「ここまで読んできた輩なら、企画書のあたりはウロでいいから憶えてるわね?
じゃあ考えて。
自分は、どういう現場で、どういうポジションにいたいの?」
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「現場には、個性があるわ。
それは、トガったものが好きだったり、テンプレが好きだったり、ね。
だとすると、発想の要素は、現場を想定した設定にも出来るの」
「ええと、じゃあ公募の場合は……」
■影響性・独立性
B:何かの影響を受けていない
■直接性・間接性
A:”発想”として、そのままを用いていない
B:”発想”として、そのままを用いている
※どちらでもいい
■既存性・新規性
B:今までに無いものである
「建前としてこういうの、望まれるわよね」
「ええと、じゃあ、web小説とかは……」
■影響性・独立性
A:何かの影響を受けている
■直接性・間接性
A:”発想”として、そのままを用いていない
B:”発想”として、そのままを用いている
※どちらでもいい
■既存性・新規性
A:今までにもあったものである
「場所にもよると思うけど、こんな感じかしら。あ、0か100かみたいな見方で”それは違う”とか言われても、”他の人も違うんじゃない?”で返すから御容赦ね」
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「えーと、つまり発想をした際、その発想が、上記の要素に合致してそうかを見て、それで★1か★3かを判断する、と?」
「そういうこと。
そして、気をつけて欲しいことがあるんだけど」
「何です?」
「コレ、一回で、本を作れるような発想になる訳じゃないからね?」
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「ここまで来た人は、世界は幾つもの要素で出来てるって知ってるし、物語だって複数の要素で出来てるって知ってるし、キャラだって無数の要素で出来てるって知ってるわよね。つまり――」
「あの」
「? 何? 巨乳が最近小さく感じる? 大きく描けばいいの? そうなの?」
「いえ、そうじゃなくてですね。今、何かいろいろ並べてるの見て思ったんですが」
「?」
「世界は幾つもの要素とか、物語だって複数の要素とか言いましたが、――世界の作り方と、物語の作り方って、ここまでで説明してないんでは?」
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「…………」
「……キャラは?」
「キャラは、キャラ設定の話をしました。何か経歴書みたいなの書く的な」
「アーやったやった。あれ? でも、世界とか物語の云々、やらなかったっけ?」
「やってないです」
「…………」
「アレー……?」
「あの。この前、長期にわたって小学校から今までのクソのような思い出話をやりましたが、それでやったような錯覚を得ているのでは」
「アー……、そうかもねー……」
「…………」
「……今回の話、駄目じゃない? そういうのやった後で話すネタなんだけど」
「私に言われましても」
「じゃあ今回のネタはここで終了。またそういうのやった後で続けるってことで」
「コラっ」
「え? ここ、私が叱られる処?」
「どう考えても貴方が叱られる処です」
「おかしいわね……。何か、世界が私を中心に回ってない気がするんだけど」
「フツーそうなんですけど、とりあえず話を続けなさい」
「ンー、まあじゃあ”そういうこと”として話を進めようかしら」
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「じゃあまあ話を続けるけど、とりあえず世界とか物語とかキャラとか、いろいろ決めておくことが多いのよ」
「……一気に雑になりましたね」
「いやまあ二回目だし。
それでね? 発想をするというか、ネタを考えるとき、それをガチャ要素で分類することもだけど、ちゃんと物語に必要なものを揃えるようにしていかないと駄目よ」
・ストーリー
・世界観
・キャラ
・ガジェット(魔法とか武器とか)
「大体こういうものかしら。
これらについて考えて、SRとかSSRが出たらメモしておくのが良いわね。
そして蓄積していくの。
世界観として発想1~10とか、キャラとして発想1~10とか、そんな感じで。10超えても行けるならば行けば良いし、そこらへんはテキトーね」
「テキトー? 蓄積に基準はないんですか?」
「基準はあるわよ?
――これなら書ける、と思えるまで」
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「いい? 企画書もプロットも設定書も、こういう発想の蓄積も、結局のところは、こういうものなの」
・――書くために必要なのは、”書ける”という自覚である。
「アー」
「解る? コレが強い人は準備無しで書き出すし、コレが弱い人は綿密に準備するの。
発想のメソッドが無いのは、再現性もだけど、この部分がホント人それぞれであるため、人によっては”決定的”になる発想も、人によっては”積み上げる一つ”でしなかったりするからなの」
「でも大事なのは、それらによって”書ける”という自覚を得ることなんですね」
「そう。企画書もプロットも設定書も、編集部を通すためというプロダクトを除外するならば、全ては”これだけ準備したら書ける”という自覚を得るためのものよ。
逆に言えば、こういう、相反することでもあるの」
・――準備をすることは”書ける”という自覚を持つためである。
・――”書ける”という自覚を持てない準備には意味が無い。
「アー、難しいですねコレ。人によっては準備しても準備しても”書ける”と思えない場合もありますから……」
「そう。でもその場合、準備の方向性が間違ってる場合があるのよね。
つまりその人は、キャラが固まってれば書けるのに、世界観をどうにかしたいと思ってるとか。
このあたり”自分が望むものと自分が書けるもの”のジレンマとかもあるから上手くは言い切れないけど、何が揃えば自分が書けるようになるか、そこらへん深掘りしておくと良いわね」
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「ええと、じゃあ、ここまでの流れで質問あります」
「何かしら」
「発想ガチャとかSSRとか言いましたけど、そもそもの”思いつき”はどうするんです? 思いつくかどうか、という根源部分をどうするかは、アンサーを出してないですよね」
「え? 何? アンタ、ひょっとして悟りを開いてるの?」
「ンン? どういうことです?」
「あのね? 今回で言ってる発想の”思いつき”って、ホント、どうでもいいようなボンヤリしたことでいいのよ? そういうものすら無くて”自分の中には思いつきが無いんだ”って言うなら、ソッコで出家しなさい。寺に入ったら無我のヒーロー扱いですぐ高僧になれるから。ええ。そういう輩にはそっちの方が向いてると思うわ」
「アー……」
「まあ言いたいことは解るけどね? 考え方を変えなさい」
「どういう?」
「”優れた発想じゃないと発想じゃない”という、自分を天才だと勘違いしてる思考を捨てろ、ってこと」
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「人は常に何かを発想してるわ。しかし大半は言語化出来ないの。
ボンヤリしすぎていたり、とりとめなくてね。
だけど、”優れた発想”って幻想を捨てて、とにかくレベルを下げると、自分は常にいろいろと考えてるってのが解るでしょ?」
「でもそれは、ボンヤリしていて、とりとめないですよね?」
「でも、それを言語化するのが、小説を書くときの”発想”って作業なの。
解る? それを言語化する作業=発想。
それをここでしないと駄目なの」
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「……発想を、”作る”訳ですね!?」
「そう」
・――自分の中のボンヤリを言語化する。
「これが”発想を作る”ためのメソッド。
発想自体は常に心の中に浮かんでいるんだから、後はそれを言語化するだけ。
そのことを自覚しないで”発想が出ない”って言ってる輩は、”じゃあ心の中に有るものを言語化しようね”って処から始めなさい」
「アー。……”発想が出ない”じゃなくて”発想が作れない”となると、作れない=言語化が甘い、ってことになりますね……」
「何故か発想は天からの贈り物のように、降ってくるのを待つようなイメージあるわよね?
でもね? 発想は、脳の働きなのよ? 神様が与えるものでも無ければ空から降ってくるものでもないの。脳の働きを、言語化出来るかどうかなの」
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「ついでに言うと、文体とかの処で言ってるわよね。
文章が相手に通じるのはどういうものか、って」
「ええと、単純にいうと”書き手が読み手との記憶の共通項を言葉で提示すること”です」
「そう。だったら、自分の心の中に浮かんだボンヤリを、可能な限り、自分の記憶の共通項となる言葉で書きなさい。そうして出来たのが、アンタの”発想”」
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「上記のことから解る通り、発想の具体化は文章力と共に上がるわ。
”発想が無い”って言ってるのは、初心者だったら当然のこと。
自分の表現力が低いものね。
だから、なおのこと、初心者の場合、自分の心の中にあるものを捉え、言葉にする訓練として”発想”した方が良いわ」
「ええと、じゃあ、もし”発想”にメソッドがあるとしたら……」
「色々書いて、思って、表現しなさい。――表現力が上がると言うことは、自分が心に思ったものを表に出せると言うこと。つまり”発想”を具体表現するには、その”力”として、表現力を上げるしか無いわ」
「アー、地道な作業というか経験というか」
「そうね。そこから逆算すると、発想の天才って、頭の中の引き出しに、他の人とは違うものが入った上で、何らかの表現能力に優れた人のことだと思うのよね。
これは生まれた時の脳の構造にもよるから、一種のギフトだわ。
だからそうじゃない私達は、訓練と経験をしながら、それを獲得していくしかないと、そう思ったりするの」
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「あの、でも、これって、結局は”天才の発想”ですよね?」
「どういうこと?」
「ええ。さっき”発想ガチャ”として現場などで求められる要素を決めました。そしてそれに合致する発想を出すまでガチャな訳ですけど。
――結局、”自分の中の天才が来るまで待つ”ようなことになりますよね」
「アー、つまりガチャ状態になったら、あり得ないような”優れた発想”が来るまで待つと、そういうこと」
「そうです。そしてまた、これまでの話では、”優れた発想”を作るメソッドは話していません。
つまり現状だと、ボンヤリした発想で、私達はものを作る事になります」
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「確かにそうね。”優れた発想”なんて、ホント、何万って人間が何時間も考えて、そこから生まれるようなものだもの。
そこには当然、メソッドは無いわ」
「だからボンヤリした”平凡な発想”を、それでもいいから”作れるようにしておく”というのがここまでの話なんだと思います」
「――でも結局、良いものを作るには”優れた発想”が欲しいから、無理を承知でそれを待つしかない、と」
「ええ。メソッドが無いなら、何かのきっかけで偶然それが発生するのを待つしかありません」
「アー、マーよくあるわよね。
風呂入ってるときに思いついたとか。
散歩中に思いついたとか。
そういうの」
「そうです。結局、それ待ちになりますよね」
「じゃあ、そういうのを待つのが面倒くさいし、いつになったら出るのか、ってのもあるから、――”優れた発想”を作ってみようじゃない」
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「ンン? ”優れた発想”を生むメソッドは無いんですよね?」
「無いわよ? でも”作れる”の」
「どういう?
「そうね。それなりに長くなりそうだから、次にしましょう。
皆の方では、以下のことを自覚しておいて」
・自分の中には、何か”思いつこう”としたとき、ボンヤリしたイメージが生まれる。
「深く考えなくて良いの。”現代ファンタジー”とか”ソシャゲ”とか言われたら、何となく頭の中で連想する、または想像出来るでしょ?
そういうボンヤリしたイメージが自分の中に”ある”のだと、解っておいて欲しいの」
「何も思いつかない、と意地を張る人は?」
「人間の脳は言語からイメージを経て理解するから、つまり”現代ファンタジー”って言われて何も思いつかない場合、”現代ファンタジー”って言葉を知らない事になるわ。
知っているのに思いつかない場合、ぶっちゃけ、――発想というものが出来ない人だから、どうするか解る?」
「発想をしないで書く方法を探す?」
「テンプレ」
「アー、テンプレ重視の現場に行けばいいんですね!」
「そういうこと。発想の大概をテンプレが肩代わりしてくれるから、発想の負担はかなり軽減される一方で、そういうものを求められてるから、堂々と書けば良いわ」
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「まあそんな感じで、次回ですね」
「ええ。次回、そのボンヤリした平凡発想を作るメソッドから、”優れた発想”を作ってみようじゃない。そんな感じで御期待ね」
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