発想/アイディアの出し方の話(前編)

「今回の話は、いろいろなアイデアを出す場合において、天才じゃない人間がどのような方法をとるか。その発展系を含めて考えてみようと、そんな話ですね」


「何か頭が良いんじゃないかと、そう思われそうなネタってある?」


「”良い”じゃなく”良いんじゃないか”というのがビミョーですね……」


「頭が良いって思われると、それはそれで面倒増えて嫌なのよね……」


「アー」


「まあそんな感じで実は二十行くらいいろいろ書いたけど中途半端に頭良い人達から何か言われそうだから消したわ……」


「気を遣うことが出来るんですね」


「ええ、私も進化したわ……」


「皮肉ですよ皮肉……!」


「ンンン、じゃあ頭の良くない人が良い人に勝つ方法とか」


「それ”うわあ! よく解った!”って人を暗に馬鹿って言ってないかしら……」


「まあそこらへん、ニュアンス的にそんな感じで」


「じゃあ発想の話」


「発想?」


「そう、ものの考え方というか、アイデアの出し方」


「…………」


「……思った以上にフツーの創作話になりそうで驚いています」


「私としては今までもフツーの話をしてきたつもりなんだけどね」


「まあ当人にとってはフツーということで。

 でも発想というか、アイデアの出し方って、どんなものです?」


「じゃあ質問するけど、発想って、何?」


「ええと?」


「発想って、解りにくいわよね。アイデアって言い方もあるけど、それは何? って言われるとなかなか説明しづらいわ」


「強いて言うなら”思いつき”ですかね……」


「そうね。それも有りね。大事なのは、発想って言う言葉は、そのままだった場合、どんなものでも有り得るの」


「どんなものでも?」


「ええ。それはもう、優れたものであっても、凡するものであっても、発想の内には含まれるわ。

 でも、大概の場合”発想した人”にとっては、”発想した!”って段階で超優れたものよね」


「アー」


「こうしてみると、発想って、酷く主観的で、また、それが出来た時点で本人の感覚を眩ますものだと言えるわ」


「じゃあ、”優れた発想”をしないと駄目ですけど、その方法は、あるんですか?」


「そんなものがあったら、そいつ多分世界一の金持ちになって、世界の有りとあらゆるものがそいつの傘下になってると思うのよね……」


「アーマア確かに」


「このことから、次のことが解るでしょ?」



・”発想する”ということは、再現性の無いものである


「アー」


「そう。大体、再現性があった場合、それから生まれる発想って同じものになるじゃない?」


「言われてみるとそうですね」


「でしょ? だから基本的に、”発想を生む”みたいなメソッドって、再現性が無い方法論で、つまりは御気持ち創作論だから、そういうのを見たらチョイと警戒した方が良いわね」


「ええと、じゃあ、発想の話は?」


「基本的にそれを生む方法に再現性が無いし、お気持ち創作論になるから、無いわよ。

 終わり」


「コラッ」


「え? ここ、私が叱られるターンなの?」


「発想の話をする、として始めた訳ですよ」


「いつもの1/3くらいの内容で終わる回があってもよくない?」


「それは今回でなくても良いと思うんですが」


「アーハイハイハイハイハイハイ」


「話をしますか」


「供述を迫られてる犯罪者の気分だわ……」


「じゃあどうぞ」


「ンー、じゃあ、発想の逆って何?」


「定型ですか? ”型”がソレですよね」


「または素材とかもそういう意味になるかもしれないわね。アセットデータとかもそういう風になるのかしら。またはライブラリとかも。

 総じてどう言うか、解る?」


「アー」


「アー」


「……テンプレート!」


「そう。創作においてテンプレートは発想の逆。本来、発想が必要だった箇所を先に定型で埋めたものよね。

 当然、集合知や市場原理で作られたものだから優れているわ」


「肯定的ですね」


「あら? 私自身もテンプレートは各所で多用するもの」


「どういう?」


「ええ。たとえば以前に説明した”クロニクルにおける交渉”のパターンなんかは、そうでしょ? そしてそれらを経た上で完全自由形なホライゾンがあるけど、脱テンプレが出来るのはテンプレが先に有ったからと、そういうことでもあるわ」


「アー、確かに……」


「あと、キャラ設定でも、たとえば”経歴がここまで同じ!”みたいなのって結構あるのよ。私達で言うと”生まれが武蔵”組なんかは、高等部までの大体の流れが似るから、だったらテンプレ一個作って、それの各所を置き換えてった方が作業で削れるメンタルコストを低く出来るし、精度も情報量も高く維持出来るわ」


「RPGとかのベースキャラみたいな考え方ですね」


「そうそう。

 一個一個を全て別に作ろうとしても、所属環境が同じだったら似てる箇所が出て来て当然。

 そういう場合、テンプレを用意して、それを改変して行く訳ね」


「しかし何で発想の話で、テンプレの話を? ある意味、逆ですよね?」


「そうそう。でもね? ”テンプレがある”ってことを知っておくことが、”発想”のためには大事なの」


「そうなんですか?」


「そうよ? だって、ぎりぎりの逃げ場に出来るし、有用しようと思えばこれほど強い味方もないから」


「ホントに肯定的ですね」


「当たり前よ。

 よく考えてご覧なさい。例えば”テンプレ的”って悪意ある評を受けたとするじゃない?」


「例示であって実際の経験ではあり……、ここではそうではないということで御了承下さい」


「何か面倒な前置きね……」


「まあそんな感じで。ハイ、そういう評を受けたとします」


「言った人が”テンプレ”って感じた箇所は、全ての人々にとって、そう感じる箇所かしら」


「アー……」


「解る?

 いろいろテンプレがあるとして、まず、それをテンプレだと反応出来る人は、そういったものに触れているというのが前提。

 そうではない人にはテンプレに見えないし、そもそもテンプレの大半は、それを知らない人か、知った上で有用する人に向けて作られているので、文句を言う方がおかしいんじゃないかしら」


「ファーストフードとかで”セット”があるとして、それを利用する人は、そこに利点を求めていたりしますからね……」


「そう。大多数が楽しんでいるならば、それをテンプレだ何だというのは”外の人? 生まれた沼に帰りなさい! さあ!”でいいと思うのよねー」


「一部主語がデカかったりしますが、気にしないで下さい」


「感じ感じ。

 そしてまた、テンプレをテンプレと感じるか否か。それを良いものと感じるか悪いものと感じるかは人それぞれだから、テンプレを一括りに悪いものとか良いものとか、善悪で判断したところでその人の中のカテゴリ分け以外に意味は無いと思ってるの。

 ただ私の方では、それに対して”肯定的”であるけど、”肯定的”であることは、否定が一切無いって訳ではないから、そこらへんは御注意ね」


「まあつまり、テンプレって、集合によって作られるものだから、時代の流れでそれが廃れるのでなければ大いに頼るといいんじゃないかしら」


「…………」


「……話がここで終わったりしないでしょうね」


「アンタ何でそんな疑り深いの」


「じゃあこの先の話をどうぞ」


「ええと、……ちょっと待って今から考えるから」


「それ! そういうの!!」


「――で、改めて言うけど、発想がないときはテンプレを頼るといいんじゃない、って処が、つまりスタートライン」


「そこをスタートに設定したのは、何故ですか?」


「私はプロだから、”必ず何かを作って完成させないといけない”の。

 期日が決まってる場合もあるわ。

 そういうとき”作るための準備”の”保証”は必要な訳」


「アー、完成望まれるとそうなりますよね」


「趣味とか、そういうのだったら気にしなくていいと思うから、そこらへんは個人の自由ってことで」


「じゃあ、ここからどういう風に”発想”の話を?」


「ええ。さっき言ったわよね? 基本的に、発想ってのは、その発生に再現性が無いものだって」


「何となく、さっきの”テンプレをテンプレと感じるのも人それぞれ”に繋がるような気がします」


「ンー、どうかしら。

 テンプレを不動性の高い発想の一つとして考えた場合、人それぞれの反応があるから、テンプレであっても確定した評価は得られない、ということで、発想としての再現性が低いと言えるかも?」


「何かわざと難しい言葉使ってません?」


「簡単に言えば”テンプレを面白いと感じるかどうかも御気持ち”よね」


「では、発想に再現性が無いとして、どのように発想を生むんですか」


「ええ。生むんじゃなくて作るの」


「??? どういう?」


「解らない? 発想を生むことは出来ないわ。でも、作ることは出来るの」


「それは――」


「発想を生む方法に再現性は無いけど、発想を作る方法には再現性があるってこと」


「……詐欺くさい話になってきたので、気をつけながら話を進めることにします」


「えーと、じゃあスマホの指示に従ってPCを立ち上げて……」


「ハイハイハイハイ、真面目にやる……!」


「そうね。じゃあ、発想というものを、考えてみましょう」


「発想は……、アイデアでは?」


「そうそう。”発想”という言葉って、二つ意味があるじゃない?

 行動としての発想と、出力物としての発想」


「アー、動詞の方は発想”する”でサ行変格活用がつきますけど、確かに意味としては二つになりますね」


「そう。だから私達、基本的に”発想”ってものを混同してるのよ。

 発想やアイデアのメソッドを語る時、それは行為のことなの? 出力物のことなの?」


「基本的には行為のことだと思いますが、行為の場合、再現性は無い訳ですよね……」


「そう、再現性があった場合、皆が同じアイデアを考えることになるわ。それは発想というものの独自性を否定しているから、発想のメソッドは、有り得たとしても、そこから生じる発想はこちらの望む発想じゃないの」


「さっき”発想とは、優れたものであっても、凡するものであっても、発想の内には含まれる”とか、そんなこと言ってましたが、つまり”発想のメソッド”から生まれる再現性の高い発想は、出力物としての”発想”であっても、私達の望む”発想”じゃない訳ですね」


「そういうこと。だから読本とか講義とかで発想法を語る輩が出たとき、こういう”行為と出力物”とか”発想のメソッドの再現性”とかについて説明がなかったならば、その輩の”言葉に対する経験”って、その程度だと思って良いわ」


「じゃあ行為としての発想のメソッドはとりあえず放っておくとして、出力物としてどういうものがあるか、考えて見ましょう」


「??? どういうものがあるか?」


「そう。具体じゃなくて要素ね。

 要するに、”発想”を要素としてみた場合、どうなるか。

 とりあえず自分的に示してみるわ」



■影響性・独立性

A:何かの影響を受けている

B:何かの影響を受けていない


■直接性・間接性

A:”発想”として、そのままを用いていない

B:”発想”として、そのままを用いている


■既存性・新規性

A:今までにもあったものである

B:今までに無いものである


「大体この三要素」


「これしか無いんですか!?」


「付け足そうと思えば付け足せるわよ? 時代性とか。理解性とか普遍性とか?」


「そのあたりを入れないのは何故ですか?」


「時代性なんて、その時代に合ってるものが大半だから、加えたところでほぼ全てがオンになるわよ?

 理解性は読む人それぞれだけど、それって”発想”側のことではなく受け手側の事よね。

 あと、普遍性も、発想段階では解らないし、そもそも条件次第で変化するわ」


「アー、”発想”というものに絞り込んだらこのくらい、というか」


「感じ感じ。なお、各要素、”・”で対義語みたいにナンタラ性を二つ並べてるけど、AとBは対極なので、AとBどちらを重視するかで”・”の左と右どちらを自分が選ぶかが変わる感ね。ここらへん、好きにして」


「ともあれチョイと解説しておくわ。

 ”■影響性・独立性”における”何かの影響”って、たとえば自分が見てきたいろいろなコンテンツだけじゃなくて、これまでの経験や記憶、そういうものも含むからね?

 だから”夕日がキレイだった”も”今就いてる職業”も同じ。

 ”何かの影響”元だと考えて」


「”直接性・間接性”の”そのままを”は、どういうことです?」


「発想って、そのままだと使い物にならないこと多いのよ。だから捻って使ったりするんだけど、それによって別の形になる場合もあるのね」


「アー、元の発想から違う用法とか形になってることにチェック入れておくと、派生形とかも生みやすいですよね」


「そうね。たとえばクロニクルの”全竜交渉”は”異世界同士のデスゲーム”を”そのまま使わなかった”という発想よね」


「私達の”歴史再現”も、そのまま使ったら歴史を再現するだけの話ですが、それを政治的なカードにして争うのは、同じ”歴史再現”でも、やはりそのまま使ってないということになりますね」


「そういうこと。結構、出来るものに差があるし、元の発想から離れることもあるから、この要素は大事だと思ってるの」


「じゃあ最後の”■既存性・新規性”は?」


「いやもうコレはそのまま。今まであったかどうか、ってことね」


「成程! と思いますが、コレ、意外に自分やったときは気付きにくいものではありますね……」


「今はネット検索もあるからいろいろ解るけど、昔は大変だったわ……」


「たとえば、天才的な発想って、こんな感じの要素じゃないかしら」


------

■影響性・独立性

B:何かの影響を受けていない


■直接性・間接性

B:”発想”として、そのままを用いている


■既存性・新規性

B:今までに無いものである

------



「”一個”感が強いですね。そして新しいことが解ります。

 一方の、普遍的な発想って、こんな感じでしょうか」


------

■影響性・独立性

A:何かの影響を受けている


■直接性・間接性

A:”発想”として、そのままを用いていない


■既存性・新規性

A:今までにもあったものである

------


「解りやすく対極ね……」


「しかしこの要素分解、いろいろ解析とかするのには良いと思うんですが、作り手としてはどんな意味があります?」


「そうね。まず、これは”発想”のメソッドにはならないということは解るわよね? 方法論でもなければ再現性なんて無縁のものだから」


「そうですね。だからこそ、有用性を知りたい感です」


「大事なのは、自分が何となく無自覚に行っている”発想”を、自覚的にすることなの」


「自覚的?」


「ええ。だって作り手には個性というものがあるわ。

 その個性が、では、何処に位置していることで、自分の支持が得られているのか。

これが解ってないと、作るものごとに個性が変わってしまって、読者は離れていくのよ」


「アー、何となく解るというか……」


「そう。そして物語や小説の根幹は、やはり”発想”。

 だから”自分のこれまでの発想”がどういうものだったのか。

 そしてそこから、”自分のこれからの発想”を考えるとき、どのような要素が自分らしさであるのかを考えるのは、大事なことで、この要素分解は、それを教えてくれるの」


「また、発想を行う際にも、これは役に立つわ」


「そうなんですか? メソッドにはならないとさっき言いましたけど」


「ちょっとワンクッション置く感じね。じゃあ、そのあたりは中編で行こうかしら」



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