『終わりのクロニクル』”交渉”というものの物語的捉え方


「今回の話は、クロニクルにおける戦後交渉のあり方というか、作る側としてどのようなことを考えていたのかという、そんな話ですね」


「ホントに何か考えてたんですか?」


「ダイレクトに疑って来たわね……」


「いやまあ今までの流れからして……」


「そうね。交渉だけに高尚な……、とか、正純が言いそうなネタじゃない?」


「アー、まあ確かに」


「でまあ、実際に当時何を考えていたのか、憶えてる筈が無くてねえ……」


「またそういう不安になるフリから始める気ですね!?」


「というか、交渉については、以前に前後編に分けてまでやってんのよね。

もう一回ここでそれをやる理由って何?」


「えーと、以前の内容は前半部分と後半の大部分は与太でしたので無意味として、後ろの方でクロニクルの作り方を交渉から紐解くように述べました」


「アンタ言葉を選ばないわね……」


「まあそんな感じで。でも、何で”交渉”を軸に据えたのか、そういう”理屈”の話や実践の話はありましたけど、実際にクロニクルの物語において交渉はどのような機能を持っているのか、俯瞰した話が無かったんですね。

 なのでそこらへんの深掘りを、”交渉”という言葉をベースとして」


「つーか、”交渉”を軸に据えることで、いろいろなものが見せられるようになる利点があるわよね。

 でも、実際はそういう利点の前に、手順を考える訳よ」


「”何の”手順かを言いましょうって」


「戦後交渉モノね」


「ぶっちゃけ当時ネゴシエーターって言って、どのくらいに通じるのかしら、と、まずはそういう話」


「メジャー処で言うとマスターキートンとか、ですかね……」


「勇午とかもあるけど、戦後交渉とか、そういうデカい規模のものって無いのよね。実際、佐山が行っていることは”交渉”という行為ではあるけど、”交渉人”とされる人々が行っている交渉とは内容が違うの」


「政治交渉に近いですよね」


「そういうこと。政治家よね。

ただまあ、ここらへん、解りにくいなりに難しいものもあってね?」


「何です?」


「”政治家”って言葉の難しさよりも”交渉役”の方が、解らないなりに”難しい”感は低くなるのよね」


「アー……。難度Sと難度Cだったら難度Cの方が解りやすい、みたいな?」


「そうそう。

 政治を題材にしたラノベは幾つか出ていたし、当時は架空戦記のブームがあったから、政治の部分が物語に関与する傾向は上がっていたと思ってるの。

 でも、ラノベのメイン読者層にそういうものが浸透していたかというと、まだまだじゃないかな、って」


「個人の観測です」


「でまあ都市では巴里や新伯林などで戦争描いたけど、政治は主人公達よりも上のレイヤーで行われていて、登場キャラ達は上の作った流れに翻弄される……、みたいなのが多かったのね」


「都市は正史の逸史ですから、正史の部分はそれなりに正確に動くんですよね」


「そう。だからホライゾンみたいに歴史再現のルールが無いならば、そこには現実と同じような流れしか存在しないの。

 この場合、政治の側を書くのって、イレギュラーが無いから面白くないのよね」


「単なる歴史モノの亜種になりますからねー……」


「しかし、都市のそういう流れを見ていると、クロニクルはまだ”修行と実験”の中にあったんですね」


「言って見て」


「戦争と政治と交渉が、別パートに分かれているんです」


「そうね。都市とクロニクルを比較すると解ると思うわ」



■都市

・政治

 :主人公達は関わっていない

・戦争

 :主人公達は現場にいる

・交渉

 :無い


※流れ

・上位レイヤーの決定した政治的判断がある

・上記判断によって、現場にいる主人公達が戦争に関わる


■クロニクル

・政治

 :主人公達は政治的判断の現場にいる

・戦争

 :過去の戦争には関わっていない

  :但し現場を見ることは可能

 :現在の紛争では主人公達は現場にいる

・交渉

 :主人公達は現場にいる


※流れ

・自分達の政治的判断によって主人公達は動く

 :相手に対する調査などを行い、交渉内容など決める

・主人公達が交渉を行う

・交渉結果によって紛争などの解決に乗り出す


「都市は争いと解決の現場の話。

 クロニクルは争いと解決を事業とした話ですね」


「そうね。都市は”とにかく現場!”という感で、与えられたミッションをクリアしていく話だったけど、クロニクルは自分達でどのような現場を作るか、そのマネージメントも含めた話になっているのね」


「そういう意味では、交渉役が始めに調査などを行う訳ですね」


「そう。だから”物語の構造”としては、こういう風になることが多いわ」



※流れ

・自分達の政治的判断によって主人公達は動く

 :相手に対する調査などを行い、交渉内容など決める

・主人公達が交渉を行う

 :しかし何らかの理由で齟齬があり決着しない

・自分達の政治的判断によって主人公達は動く

 :相手に対する調査などを行い、交渉内容など決める

・主人公達が再交渉を行う


「齟齬による再調査と再交渉。

 クロニクルが”優れてる”と自賛出来るのはここなのよね。

 つまり相手の実情や過去について。

 一回目は表層を触れて、二回目以降は深掘りをしていくの」


「交渉によって相手側の実情やキャラが見えてくる訳ですね」


「そう。そして戦争中の過去を見ることは、それに関わった祖父世代達の過去を見ることにもなるから、主人公達のルーツや、自分達の現状における深掘りを見ることともなるの。

 ここをテンプレ的に一回の調査と決めつけず、幾度も、しかも獏(過去にアクセス出来る獣)を使うことで、イージーにそれが行えるのね」


「ある意味、この再交渉こそがクロニクルの面白さとなる訳ですね」


「なお、以前にもクロニクルの交渉については、フローを書いてるのよね。

 そのときのものを見せるから、重ねて参考になれば幸い」



■交渉の調査で見るもの

遙か昔:10個の異世界間で戦争や交流をやっていた

60年前:祖父の代で異世界が滅びる

?年前:父達の代で何かがあった

今:戦後の再交渉を行う


■交渉役のすること

交渉相手を認識、確保する

相手(異世界)のプロフィールを知る

60年前の滅びる経緯、理由を知る

:異世界間の戦争や交流を知る

祖父達の因縁を理解する

交渉相手に、自分達が60年前からの引き継ぎ役だと理解させる

交渉をまとめる


「交渉によって相手の深掘りをする。そのためのテンプレート的な流れも用意して、読者への理解もよくする。

 ……コレ、どういうことか解る?」


「? 交渉の単純化ですか?」


「それもあるけど、私達として言うなら、こういうことよね。

 ――交渉というものをテンプレートシステムで”物語”化した」


「アー」


「交渉というと駆け引き云々もあるけど、そこに至るための調査や解決の判断は、ミステリやサスペンスに繋がるカタルシスがあると思ってるの。

 だからさっきも言ったように、ミステリやサスペンスだと推理ミスなどから出直しとなる部分を”再交渉のための調査”という”事業に必要な行動の枠”にハメたのが、クロニクルの優れてる処だと思うわ」


「しかしよく考えたら、再交渉を受け入れてくれる相手の人達、ケッコー優しいですよね」


「立場的にはこっちの方が遙かに上だものねー……」


「私達、ホライゾンでは、この流れはどうなったんですか?」


「ホライゾンでの交渉はホライゾンで話せばいいことだと思うけど、ぶっちゃけ非テンプレ化と普遍化したわ」


「? どういうことです?」


「ええ。クロニクルでは、上記のような流れを作ったことでフクザツな交渉を深掘りしたじゃない?」


「はい。しましたね」


「でも私達の場合、複数勢力と同時に渡り合ってんのよね」


「アー……」


「クロニクルは基本、各巻で単一勢力と交渉するのね。

 でも私達の場合、同時進行で幾つもの勢力と交渉するし、その結論が巻を大きく跨ぐことだってフツーにあるわ。

 また、クロニクルは交渉の結果として戦闘が御約束的に入るけど、うちの方も正純が戦争好きということを除いて、戦闘以外の形で決着するケースは結構あるのよね」


「交渉が非テンプレして、先が読めなくなったんですね……」


「そう。何が起きるか解らない。でもちゃんと深掘りはするし、物語は見せていく。ホライゾンの方では戦争すらも交渉の一部と言っていいくらいに交渉が前に出るけど、でもその基礎はクロニクルで作ったこのテンプレートにあるのよね」


「もしもクロニクルが無かったら、私達どうなってましたかね……」


「どうかしら。クロニクルと同じような発想で、ひょっとしたらテンプレ作って一国一国を攻略していくような話になったかもね」


「アー、それもまた有りといえば有りですね……!」


「でまあ、ちょっと話は続くのよ」


「?」


「以前の交渉話前後編で語った通り、クロニクルの交渉は、前準備としての設定を作っておくことが必要なの」


「四代に渡っての人物や歴史のプロットですね」


「そう。それがあるから、何度も過去の調査をやっても矛盾なく、また、物語が”返してくれる”訳ね。

 でも、その意味って解る?」


「意味?」


「ええ。考えてごらんなさいよ」



・交渉と調査によって、キャラや勢力を深掘りし、立てることが出来る。

・交渉と調査に応えられる過去設定を事前に作っておく必要がある。


「アー、つまり、再交渉による調査の深掘り、その重要性に気付いたとしても、事前に設定ちゃんと作っておかないとダメなんですね!」


「そう。以前にも語ったけど、事前に設定をどれだけ作っておくかが勝負なの。

 交渉は”行為”だけど、その行為によって得られるリターンの量と質こそが大事。

 そしてこの事は、もう一つの事実を導くわ」


「それは?」


「クロニクルのような話は、準備を完全としない書き方では不可能ということ」


「アー……」


「こうすれば出来る、ということは、こうしないと出来ない、ということでもあるの。

 だから,もしもクロニクルや、そうね、ホライゾンのようなものを書きたいと思った人がいるならば、注意して。

 これらは”書く”こともだけど、それ以上に準備がもの言うジャンルだからね」


「やっぱり準備が大切ですね……」


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