『創雅都市S.F』川上作品としてイラストノベルを行う意義


「今回の話は、Sf連載の意義を、川上作品の視点から見てみようと思います。実はビジュアル的に結構大切なだけではなく、いろいろなものを受け継いでいるんですよねと、そんな話ですね」


「受け継いでるって、何がかしら……」


「自分で振っておいてそういう流し方をしない!」


「でもまあ、Sfって前回のような意義とは別で、川上作品にとってケッコー大きな意味を持ってるのよね」


「どういうことなんです?」


「エエー? すぐ叱る人に教えるのヤダわあ」


「何言ってるんですか。私は叱るようなことはしませんよ。ただ怒るだけです」


「程度が更に低くなったわ……」


「Sfにおける、川上作品への意味ってどういうものなんです?」


「そうね。巴里のあたりで始めたことが、とにかく大事だったの」


「それはどういう?」


「ええ。巴里が、かなり気合いを入れたこともあって、ぶっちゃけ都市シリーズの代表作みたいになったのね」


「アーハイ、アレは確かにそうですね。でも、それが何か?」


「私の性格」


「…………」


「アー! ”こういうもの”って決められるの嫌いですよね!」


「”こういうものを書く”って決めつけられた時点で、それに逆らうまで、その作家の寿命って決まってしまうと思ってるのよね」


「確かに、新しいことを始めないと、古くなって行きますよね」


「でしょ? それでいて、川上作品って読者が固定されてきていて、新しいことをやっていても外に広まりにくくなっていたの」


「なかなか厳しい時期ですね」


「そう、だから、解りやすく、当時の読者の”外”に広まるタイトルが必要だと思ったのよね」


「一方で、だからと言ってフツーのものを作ったら、宣材になるかもしれないけど、川上作品にはならないのよね


「じゃあそこで、何をやるかが大事ですね」


「マーそんな感じの時期に、都市の連載を電撃hpで、ってのがあったのね。電撃hpが隔月化するから、そこで出来ることないか、って」


「アー、そういう時代でもありましたね!」


「そうそう。でも隔月連載ってケッコー大変なのよ。自分のリソースがガリガリ削れるし、巴里の次は新伯林に行こうと思ってたから、新伯林と並行で隔月連載はMURIよね、って」


「文章ネタとしては、何かやれそうなものはあったんですか?」


「ええ。幾つか候補はあったわ」


「どういう?」


「こんな感じだったかしら」



・香港の次世代の話

 :G2とかが出る

・DT

 :主人公は匪駄天のディアブロと青江(正式DTの青江とは別人)


「何かいろいろありますね!」


「ぶっちゃけると、香港2(仮題)は、ゲームとして予定を考えていたの。

 つまりOSAKAの次のゲームタイトルとして、新香港洞を舞台に、OSAKAみたいなシステムで各階層の事件を解決していく、と、そんな感じでね」


「そうなんですか? でも、ゲーム化はしなかったんですよね」


「ええ。いろいろ理由はあるけど、スポンサーがゲームから離れて行く時期に入ってた感じね」


「アー……。当時、PSやSSから始まったゲームバブルが一息ついていて、セールスが見込めなくなっていましたよね」


「PS2の話も出ていたけど、開発機器の値段や費用がかなり掛かるのも解っていて、全体的に絞り込まれていく感があったのよねー……」


「それで、どういう判断を下したんです?」


「ええ。自分のゲームの企画アイデアを、小説の方に活かして行こうと、そう考えた訳。つまりこれまでは、基本的に”小説は小説・ゲームはゲーム”みたいな別口アイデアで考えていたのね」


「確かに、OSAKAなどは、小説とゲームが別の内容ですね……」


「そうそう。でも、ゲームを作る事が、もう、そのアイデアや内容じゃなくて”撤退”みたいな感じで潰れるなら、”出せる媒体を優先”して、コンテンツを出して行った方がいいじゃない、って思ったの」


「それで香港2などのアイデアが、企画に出てきたんですね」


「ちなみにゲーム版香港2は、やっさんの企画ラフがあるわ」




「濃いめのキャラを出してるわね-」


「結構いいレベルで出来てますね!」


「初期はホウとテイムレスしかいなくて、後輩としてG2が合流するあたりで、香港洞の地下で凍結状態のベネディクタスを見つける……、と、そんな話を考えていたわね」


「ちなみにDTの方は私のラフしかなくて、ちょっと申し訳ないわね」




「アーマアそこらへんはこういうコラムなので」


「でも何となく解ることがあるでしょ?」


「どちらも、メインキャラ(ソウ・ディアブロ)が有翼系なんですね」


「そうね。巴里とOSAKAで、そこらへんを見せていなかったけど、やはり有翼系のインパクトって大事だと思ってたのね」


「香港のあたりのイメージを重視するということですか?」


「ええ。有翼系にまつわるデザインとしての”うちらしさ”を考えたとき、こういう要素があった訳ね」



・普通の天使とは違う翼のデザイン

・有翼専用の服飾デザイン

・有翼系が存在する都市デザイン


「都市デザインって何ですか?」


「例えば窓から入ったり出たりするための窓枠デザインとか、あるでしょ? そういうのがあると、建物だけじゃなく、町の構造が変わっていくの。

 空をある程度開けておかないといけない、とか。商業用の街中空路は専用で開いている、とか。屋根などに公共の休憩場所があるとか、ね」


「全部、武蔵にあるものですね……」


「ホライゾンの世界はそういうのの集大成だもんね……」


「でも、それが何で、香港2やDTじゃなくて、Sfになったんです?」


「いや、香港2やDTは小説だったのよね」


「……いきなり解りやすい答えが来ましたね」


「うん。いろいろ考えていて、ビジュアル重視の企画にしようというのが出て来てね。それでほら、前回話したような内容が出て来た訳」


「アー、絵描きの人達をバックアップするような企画としてのイラストノベルですね」


「そうそう。そしてイラストノベルとして考えたとき、担当さんと話してて、とりあえず担当さんからこういう話があったの」



・DTは都市としての日本の知名度が低いのでは


「何て応えました?」


「何言ってるんですか! ロボコップの舞台じゃないですか! 全人類(極大主語)の中でポール・バーホーベンが嫌いなヤツなんていませんよ!!」


「ポール・バーホーベン好きですよね貴方」


「品の無い展開と高速カット変更やカットインをさせたら世界一よね。ギャグにまで見境無しにカット変更使って来るのが凄いけど、本人の中でギャグのつもりじゃない可能性が高いのがまた凄いわ……」


「でまあ、DTはキャラも少なくて、話の展開が厳しくなりそうだったし、何よりも”ゲーム的背景”がコスト高そうだと言うことから、イラストノベルの候補から外したのね」


「今更気付きますが、正式DTがビジュアル的にいろいろアイデア豊富だったのは、この頃からアイデア積んでいたんですね……」


「まあそんな感じ。そして香港2をイラストノベルにしたらどうなるか、という自分ラフを描きつつ、ちょっとした問題に気付いたのね」


「どういうことです?」


「いや、上にアップしてあるラフの内、有翼系のデザインを見れば解るわよ? どうせなら、ちょっとSfと比べて見る?」




「えーと……」


「…………」


「あ! 翼のデザインが、香港の頃と変わってないんですね!」


「そう。ホウの翼もコレ四枚翼で、G2も同じ。新しい形が無いのね」


「どうしてです?」


「香港2はゲーム企画でしょ? PS1の解像度でポリゴン化したとき、6枚翼は無理だと判断して、シルエットがX字状に格好良い四枚欲をメインにした訳」


「アー、何か懐かしいポリ絵をいろいろ思い出しました……」


「うちは常に新しいものを作って行くから、イラストノベルになった場合、既存のものの焼き直しだったら意味が無いのね。

 さっき言ったでしょ? 宣材にはなっても、川上作品ではないものになってはいけない、って」


「それで、どうしたんですか?」


「ええ、有翼系の極め付けとなるデザインを作ろうと思ったの」




「六枚翼……、ではありますが、駆動的には二枚翼の六枚主羽根ですね」


「私達に繋がる香港式の六枚翼は作画が大変なのよね-」


「アー、イラストノベルだから何度も描きますものね……」


「だから”六枚”ということをポイントとして、閉じてると二枚翼。上部副翼を入れて四枚翼にも見えるこれをデザインした訳」


「どのあたりが工夫ですか」


「有翼系デザインには弱みがあって、それが”身体の前へのアプローチが無い”こと。どんなに頑張ってデザインしても、大概は”前に人体・後ろに翼”のパターンになっていて、身体の前側へと届くアプローチが無いの」


「だからサラの場合、主翼を上げると副翼が顔横から前に出て来る訳ですね」




「何となく、肩砲の迫り出しみたいよね。

 その上で、天使にしろ悪魔系にしろ、翼は単色が多かったので、サラは香港2のデザインをベースに、二色分けにした上でメッシュやラインを入れているわ」


「で、いろいろ考えた末、Sfになった訳ですね」


「そうね。香港2を下げたのは、こういう理由もあったの」



・話が香港洞内に集中して、違う風景があまり無い

・都市知らない人にとって、香港洞や風水五行で話が進むのは敷居が高い

・Sfに比べて”絵でやる意味”が薄い


「アーマー確かにそうですね! としか言いようが無いですね」


「これが小説だったら香港2が残るんだけどねー。

 そんな訳で、絵としてやる意味や、町中の風景、四季なども見せられるSfが採用となったの」


「更にSfでは、”世界を描き変える”という技術によって、作中の絵柄が変わったり、季節によって風景が変わったりする訳ですね」


「”絵”って何だろうね、というのをさりげなく遊んでみせるという手法よね。これらによって、Sfは当時の川上作品の中では以下の意義を持ったわけ」



・川上作品としてのデザインを、読者以外の人々に見せる

・他作品よりも新しいデザインを見せる

・川上作品における”絵”の捉え方を見せる


「思った以上に大事な役目ですね……!」


「そうね。だからこそ作風は気楽にイージーテイスト。ギャグ的な展開と、しかしちょっといい話で終わるという流れね。

 そしてコレは好評が続き、連載人気上位のままで終了。それが電撃初のムックとしてまとまったのね」


「成程……! と言いたい処ですが、ナルゼやナイトなんかは、Sf式の六枚翼ではなく、香港式の六枚翼ですよね。どうしてですか?」


「何? 私達に喧嘩売ってんの?」


「いや、そういう訳ではなくて、単純に興味本位です」


「その言い方で答えが貰えると思ってるメンタルは凄いわ……」


「マーそんな感じで宜しく御願いします」


「そうね。単純に言うと、私達の場合、身体の前側へのアプローチがあるの」


「そうなんですか?」


「うん。――白嬢と黒嬢。特に魔女服のホウね」




「常に身体の前や横に大物の機殻杖を抱えてる上に、この魔女服装備よ? これで翼も前にアプローチとかあったら、情報量が混雑するのよね」


「アー、確かに……」


「まあ、アンタの巫女服みたいに正面から見たら”オパイ・ヘソ・コカーン・脚”! みたいなシンプル反則装備でも、追加情報量は入れない方がいいかな、ってことになるけどね……」


「いろいろ言いたくなりますが、翼がメインになるときは高速で操縦してるときでしょうか。身体を前に倒しているから、翼が”前”にアプローチしてる感が出ますね」


「そう。だからデザインしているとき、そこらへん検証しながら、Sf式のにしようかどうか、やっさんと相談してね。

 ”黒嬢と白嬢と魔女服・前に出る副翼”という区分けで考えると、前者に集中した方がいいよね、と、そういうことになったの」


「一応考えているんですね……」


「一応とか言わない……!!」


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