『創雅都市S.F』電撃初のムック本展開
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「今回の話は、電撃文庫初のムック本として発売された創雅都市-Sf。イラストノベルとして電撃hpでスタートしましたが、その発起とはどんなものだったのか。そんな話ですね」
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「今回短めに」
「いきなりどうしました」
「いや、イベントの用意は昨日終わって”ヨッシャ! よくやった!”って思ってたら落雷停電の影響でプロバイダに繋がらなくてねー……」
「アー」
「原因不明なんで、結局プロバイダに電話してこっちの状況見てもらって、どうも無線APの一つが調子悪くなって競合してる? みたいなの解ったから、新機材投入って感じ」
「何だか慌ただしいですね……」
「おかげで午前が潰れて昼からコレ書いてんのよね。予言するけど担当さんが大変だわ……」
「アーマア何はともあれSfのスタートとかって、どういうものだったんです?」
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「Sf自体には幾つか意味があって、都市のビジュアルイメージを伝えるっていうのが、まあ解り安いわよね」
「アー確かに確かに」
「確か初回が第八号(季刊)で1999/12? 巴里が出たばかりよね。実は新伯林より先にスタートしてるの」
「結構、早い時期からのスタートですね」
「とはいえ都市は”35・倫敦・香港・OSAKA・巴里”と出ていて、ここまで重なると、ちょっと簡単に手が出せないイメージが生じてたのね」
「全部読まないといけない、みたいな?」
「そうそう。どれから読んでも変わらないんだけどね」
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「モー、話を脱線してホントに何度でも言うけど、うちの本はどれから読んでも構わないし、そういった作りになっているからね?」
「アレ不思議なのが、何で”昔のものを読んでおいた方がいい”って言うんでしょうね……」
「勧めた人が新作読んでないだけでは」
「アーマアそういうダイレクトなのは放っておくとして。
よく考えたら解りますが、新作は、旧作の要素が入るとしても、別の要素も入って、内容としては拡大している訳です。
だとすれば、旧作を先に読んでも、新作の一部しか解像度が上がりませんが、新作を先に読んだ場合、旧作の全体の解像度が上がることになりますよね」
「そこまで単純かどうかは別として、旧作の要素が旧作で使用したときより洗練されて跡継ぎされる訳だから、同じ設定でも新作の方が理解されやすいように書いてるし、文章やリーダビリティも新作の方が上だものね。あとまあ……」
「何です?」
「旧作って、終わってるから、読んでも今に繋がらないのよ。
新作は継続してるからコミュニティも生きていて、新しく入ってくる人達もいるんだけど、旧作を読んで、じゃあそこに入れるかって言ったら入れないわ。
そうなると、結局、新作を読むまで、勧めてくれた人としか話しが出来ないし、書店や電書で”今”を感じることが出来ないの。旧作を勧めるということは、その人を”過去の人”にしてしまう要素があるというのは憶えておいて欲しい感ね」
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「何か語ってしまいましたが、Sfの話です」
「アーハイハイ。まあそんな感じで、都市は続刊してても新規読者を獲得しないといけないじゃない? そのために、いろいろ案が出た上で”解りやすく、大勢が目にする都市”を作ろうってことになったのね」
「それでビジュアルとしてのSfですね。
では、他、どういう意義があったんです?」
「ええ。細かい経緯とか、実際の流れは別で語るとして、”やる意義”としては、こんな感じで、担当さんと話をしてたの」
・イラストノベルというものを電撃に定着させる
・イラストノベルが”本”になるということを実証する
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「ンンン? どういうことです?」
「マー単純な話、電撃hpがビジュアル的にクソ弱い雑誌だったのね。書店でパっと開いて文字ページばかりが続く、みたいな」
「アー、何というか、文芸誌の作りでしたよね……」
「そう。そしてまた、当時は、今に比べて遙かにイラストの代金とかも低かったのね。段階的に上がって行ったけど、イラストレーターがそれだけで食っていくのが難しい時代で」
「アー、段々話が見えてきました」
「そう。つまりイラストノベルというのは、イラストレーターにとって、”本”を出して食っていけるシステムなの」
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「もうちょっと詳しく」
「幾つかのパターンを考えたの」
・連載を描き下ろす
:原稿代が一気に発生するので、これは難しい
:連載で分割して支払う
・連載
:連作を書き、ストーリー、テキストもイラストレーターが作る
:連作を書き、ストーリー、テキストは小説家が先に考える
:この場合、本の印税はイラストレーターと分ける
:連作を書き、ストーリー、テキストは小説家が後から考える
:この場合、作家は原稿料だけ貰い、本の印税はイラストレーターに行く
・読み切り
:単発作品を書き、ストーリー、テキストもイラストレーターが作る
:単発作品を書き、ストーリー、テキストは小説家が先に考える
:この場合、本の印税はイラストレーターと分ける
:単発作品を書き、ストーリー、テキストは小説家が後から考える
:この場合、作家は原稿料だけ貰い、本の印税はイラストレーターに行く
「読み切りでも、やってることは連載と変わりないわね。
特殊なのは、たとえば単発として、”一枚で完結している絵”でもいいの。
なるべく同じ世界観でまとめれば、一冊に仕上げるとき、問題ないから」
「違う世界観になるとテーマ無しの短編集になってしまうから面倒ですね。
しかしコレって……」
「何かしら?」
「システム的には、”作家・イラストレーター”の立場を逆にしたシステムですね!」
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「そう。生産力の差はあるけれどね?」
:ストーリー、テキストもイラストレーターが作る
:ストーリー、テキストは小説家が後から考える
「このどちらかのシステムを選択した場合、イラストレーター側主導で行けるから、これまでは不可能だった”イラストレーターが作家になる”が出来る訳。
つまりイラストレーターと作家の立場が逆転し、定期収入としては連載、不定期の大型収入として単行本、そういう形を考えたの」
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「印税入るの大きいですね……」
「巴里のあたりで、デジタル入稿が印刷所の方でも考えられるようになって、つまりグレースケールを活かした印刷が出来るようになったの。
これはどういうことかというと、グレスケではない白黒二色に慣れてないイラストレーターも、グレスケ挿画で活躍出来るという時代が来てると、そういうことな訳」
「アー、うちがいろいろやらかしてる一方、時代はそうなって行ってた訳ですね」
「そうそう。でも、この事実に気付いてるのって、あまりいないハズなのよ。
だからそういう、”これからのデジタルの時代”に対し、”デジタルだけど活躍の場が無いイラストレーター”を囲えるんじゃないか、ってね」
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「当時の電撃で言うと、ビジュアルとしては緒方剛志さんや椎名優さんが前に出ていた感がありますね」
「そうね。このあたりから”電撃のビジュアルイメージ”が出来ていく時代だと思うんだけど、もっといろいろなイラストレーターに活躍の場を与えられると思ったのね。
ほら、当時は、何か出したらシリーズ化前提、みたいなバブル期でしょ?
イラスト主導で見て映える文庫本って、あったらいいじゃない」
「一レーベル持てそうな感ありますね」
「そうね、チャンスだと思ったのよ。当時、blogもまだ流行して無かった時代、個人サイトとかで出したり、同人誌に出していたイラストが、食えるネタになる訳だから」
「ちなみにblogが日本で盛んになるのは2002年以降です」
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「何となくですけど、今の、Twitterとかにアップした漫画が本になるとか、そういうのに近い感ありますね」
「発想としてはどうかしら。編集が声を掛けて……、という範囲にいれば、似た構図になるかもね。
ただ、イラストレーターが、絵を描いていた人達が、文庫本の作家となる、という選択肢は、あっていいと思った訳」
「その実証として、イラストノベルであり、ムック本だったんですね」
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「言われてみると、電撃hpや文庫マガジンで、イラストレーターが絵を描き、それにテキストを当てる……、みたいな企画はありましたね」
「あれはうちと関係無いけど、マーそういう発想よね」
「でも、この思案、結局どうなったんです?」
「ええ。大きな事業として行うにはリスクが高いから、内々で、という感だったんだけど、結局は自然消滅」
「アー」
「だからあの当時、何かいろいろ考える系のイラストレーターの人は、電撃に何か持ってきたら私達と並列連載出来てた可能性があるのよね」
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「成程……! という潰えた夢? 今の時代には今の時代なりのやり方があると思いますし、また状況も違うので、これはホントに過去というか、一時代の専用話ですね」
「今に適用するのはちょっと大変だけど、逆に今は、さっきも言ったようなネット発があるから、いい時代よね」
「しかし、何でいきなりこの話を?」
「ええ。それを話し合ってた席で、あの人がいたのよ。――中北晃二さん」
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「アー……」
「丁度、OSAKAゲームのプレゼント本の絵を持って来られたときでね。うちの担当さんと、他イラストレーターの人達と、食事しながらそんなことを話して。
先日の訃報から、Sfのスタートに繋がるコレを思い出した訳」
「まさかコレが東京ロボット新聞に……」
「いやソレは無いけど、でもホント、昔を思い出すとしても寂しいものだわ。
いろいろ御世話になったものね。どうも有り難う御座います」
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「ちなみに、電撃でああいうムック本が出たのは、当然、Sfが初。
以後、身軽な大判本としていくつかのコンテンツで使われたようだけど、TOKYOも含め、ファンアイテムとしてはいい感じよね」
「単に都市のビジュアル紹介かと思ったら、思わぬネタと思わぬ処に繋がりますね……」
「25年ってのはそういうものだけど、ただ単に長いだけじゃ無くて、”当時だからこその状況”を食ってきた25年なのよね。もはや通用しない企画であっても、ひょっとしたら何か発想の源になるかもしれないし、――読んでて面白いわよね、こういうの」
「自分で言ってたら駄目なんじゃないですかね……」
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