ホライゾンに至るテーマの変遷:後編?

「今回の話は、ホライゾンに至る作品のテーマの遷移と、作品のテーマとは何だろうね的なことを……、というアレの後編の筈ですが何故こうなった? そんな話ですね」


「端折る?」


「マーここまで来たらガッツリめで」


「ダメよそんな風に、諦めちゃ」


「諦めてもないし誰のせいかも解ってるんですけどね……!」


「そうね。とりあえず自分的なテーマとして、長編TOKYO以後、”自分だけのものを作る”に”何かになること”が入った訳」


「具体的なようでいて結構曖昧ですね」


「そうね。そして上海や原盤としてのOSAKA、剣神壊などを書いていって、コレ自分と相性いいな、って思った訳」


「そうなんですか?」


「ええ。

 まあ自分が現状”将来への疑問を抱えている”ということに対し、キャラの多くが同じような環境にいるから、思考の発生とかスムーズに行きやすいわよね。

 でもコレ、テーマというものを考えると、以下のように言えるの」



・展開や、キャラの言動を考えたり、判断に迷った場合、テーマはその判断基準となる


「アニメの時にあった”読者が得をする方を選ぶ”に似てますね」


「そう。書く際に迷った場合、物語の大前提となるテーマはその判断基準になり得るの。ただ、ここで考えて欲しいのは、これはキャラや読者への判断基準では無く、書き手の判断基準だということ」


「作品全体に対するものだとすると、作品全体から漂う空気感とか、そういうお気持ち感想の元となりそうなものですね」


「ええ。これをキャラに言わせたりト書きに書いたら”押しつけ”感満載だからアウトね」


「しかしテーマと言うことは主題なので、読者にとっては読むときのガイドにもなります。何か上手い”チョイ見せ”みたいなのは出来ますか?」


「こんな方法どうかしら」



1.言い換える

:作中のキャラや、社会が、テーマを現状に即した別のものとして言い換える。


2.ギャグにする

:メタ発言など使用する。


「アー成程、って感じですけど、ギャグ便利ですね……」


「メタ発言させてギャグ扱いにするけど実は本音とか、そういうフクザツなハイコンテクストとして使えるから、ホント強いわよね」


「しかし”1”の言い換えとは?」


「ええ。何だかんだ言って、テーマは漠然としすぎてるのよ。

 だから大体は具体性を与えるわ」


「話題の絞り込みみたいな感じですね?」


「そうそう。そのようにして、作中キャラクターが自分の向き合う問題に自覚的であるようにするの」


「アー、何となく解ってきました」


「そう。

 テーマは作者の判断基準。

 だから作中のあらゆるものを設定するときに、その方向性を決めるのにも使えるの。

 だから”何かになること”がテーマだとして、以下の設定を見てみて」



・自分が本気になれる人間だろうか

・自分には”詞”が無い

・奪われたオマエの全てを取り返してやる


「アー……」


「そう。

 解るでしょう? 

 箇 条 書 き マ ジ ッ ク よ … … !」


「ギャグによるハイコンテクストをしない……!」


「まあそんな感じで書いていて、旧版倫敦が電撃のゲーム小説大賞の最終選考オチをしたじゃない?」


「アーまあ、しましたね」


「そこでホント、岐路に立った訳よ。

 自分が”何かになれるかどうか”って話で」


「アー」


「思いっきり自分自身の問題じゃない?

 だからこのとき、このテーマは”自分だけが作れる”とも重なったの」


「そして次に書き上げるのが――」


「――連射王よね」


「表のアクティブテーマとしては”本気になれるだろうか・本気になれるものがあるだろうか”というのがありますが、パッシブとして見ると”何かになること”の言い換えですね」


「そう。主人公の高村だけの問題でもあって、他とまず共有出来ないのよね。

 それが先達などに会って、しかしまた一人になることで自分の問題に対し”純粋に一人で超えて行く”。

 そういう話な訳」


「それでどうなったんです?」


「書き上がったのは1995年の9/17ね。当時の後書きファイルを見たら1995/09/19だったから、書き上げて推敲軽く当てて後書き書いたんだと思うわ」


「以前、クロニクルの原版も書き上げたのが17日でしたね」


「何か縁があるのかしらね。台風直撃の二日目で、深夜に書き上げたあと、ベランダ出てみたら晴れてたわ」


「月齢確認したら半月ですね」


「しかし後書きファイルが19日なのに書き上がりが17日とか、よく憶えてましたね」


「ほら、さっき話したとおり、台風。二日連続のデカいのが来たのよ」


「その中でラストを書くのは異様に盛り上がりますね」


「そうそう。そして抜けた後はガチ晴れでしょ?

 だから執筆終えたし気分転換に書店巡りでもするか、って昼過ぎに自転車で走っていたら、近所の高校のグラウンドがあってねえ。台風の後で水たまりあるから、授業で使われないのよ」


「アー、いい感じですね」


「そしてその高校、ちょっと変わったことに、南面の表グラウンドは陸上用で、北側裏面のグラウンドで野球とかやるのね。私が見てるのは北側グラウンド」


「ええと、つまり学校の北側から、校舎裏の裏面グラウンドと校舎の裏側を見ている?」


「そうそう。校舎超逆光で、その上側は台風抜けの超青空よ。そして目の前に使われてないグラウンド。

 私の中で青空って、アウトランのRGBくらいしか印象無かったんだけど、コレはホント、一生憶えてる青空ね」


「しかし連射王、書き始めはいつだったんですか」


「そこはよく憶えてないのよね。1995年の8/2に落選の報告があって、結構メゲたんだけど、二週間後には書きだしていた筈」


「大体一ヶ月くらいで原稿用紙一千枚書き上げたってことですね」


「そうね。だから後書きの一部でこんなこと書いてるわ。口調失敬という感じだけど」





「いいですねえ! 弱冠二十歳の若造のリビルドとビルドゥングス!」


「何でも書けるとか言っておいてホライゾン書けないんだけどねコイツ」


「そういう落とし方をしない……!」


「というかこの後書きでいってますけど”それ”とか、モロに今ここで話題にしているテーマの”それ”ですよね」


「ホント、一貫して何も変わって無いわよねー……」


「ともあれ落選の後、連射王を書いたことで、自分の中で何かピースがハマった感じがあったのよ」


「それはどういう?」


「ええ。自分は多分、誰かに望まれて無くても、自分が生きていくために何か作り続けて行くんだろうなあ、って。

 何か作ることで自分の現状を”救える”というか、”晴れる”のね」


「アー」


「小学校の時のボードRPGで得た成功体験とか、そこから続く小さな成功や失敗が後押しとなって、何かが出来上がると”自分が晴れる”の。

 それが解ったから、落選とか、将来とか、そういうのはあるかもしれないけど、”作る力”みたいなのを信じて行こうと思ったのね」


「作り手としての自覚みたいなものですね」


「そう。だから担当とガチ口論したりする厄介な動物が発生した訳よ」


「言い方! 言い方!」


「でまあPANZERに行く訳だけど、心持ちが全然これまでと違うのよね。

 将来とかそういうものに対する不安感とかあるんだけど、それも含めて楽しもうよ、って。

 だからアイデアとして、”今、自分が楽しんでるもの”から出そうということになったの」


「アー、それが縦STG……!」


「そうそう。詳しくは35のあたりで述べてるけど、”何でも書ける”という若造の自惚れはホントに強力でね。

 それが出来るかどうかの恐れがないのよ。

 だからゲーセンの帰りに不意に思いついたネタを友人にいきなり語り出してね」


「なお、以前に35の話で”TGSの帰りだったかしら”みたいなこと言ってたけど、TGS(東京ゲームショウ)は1996年8月からなので違ったわね。

 前身となるCSG(コンシューマ・ソフト・グループ)のゲームショウも95年は3月に名古屋開催なので違うわ。勘違いすみません」


「だとするとどういうことです?」


「立川方面からの帰りの電車だったのは憶えてるのよね。それでまあ、一緒にいた友人(ゲーセン店員)が主にうちの方に来るには車の人で。

 その人が電車に乗るのは都内方面に行く場合だから、勘違いしたんだと思うわ。

 多分、実際は秋葉原あたりに行った帰りだったんじゃないかしら」


「アー、それだと辻褄合いますね」


「都市に着手したことで、自分の中のテーマは変わりました?」


「そうね。連射王を経たことで、自分には”出来るものがある”って解ったのよね。

 だとすると将来の不安などは有るけど、”出来る力”がそれに立ち向かう武器になるじゃない? それがまだ未発現だったり、無自覚だったりするけど」


「アー、都市の主人公は大体それですね……!」


「ええ。その根源にあるのは”何かになれるだろうか”という疑問に対する”自分の出来ることを信じろ”ってことなんだけど、これを私はこう捉えたの」


「それは?」


「”可能性”って」


「マー、”何かになる”以外の面でも、いろいろそれなりに経験してきたりしてね。人間ってものに不信感とか、絶望とかって、ある程度も抱かなかった人って、まずいないと思ってるのよ。小さい後悔とか、あるでしょ」


「アー、ハイ」


「将来とか自分とかも含めて、そういういろいろなものに対して”晴れる可能性”はあるのだろうかと」


「アー、そういう可能性……」


「ええ。現実厳しくて、ダメになったりメゲたりすること多いけど、それを晴らす可能性を人は持ってるのかしら、と」


「自分だけの問題だったものが、他のいろいろなケースではどうだったのだろうかと、視界が広がった感ですね」


「その”可能性”を、都市では”進化”という言葉に結びつけてる場合があるわよね」


「あれはどういう?」


「うん。1980年代中盤から日本では何度目かの恐竜ブームが起きてね。

 幕張メッセとか国立博物館では恐竜博とかよくやってたのよね」


「アー、ウルトラサウルスとかいましたね! 今、色々勘違い発覚でいなくなっちゃいましたけど」


「ゾイドのウルトラザウルスが1986年だから、ブームの力って凄いわよね。

 でまあ89年あたりから、恐竜とは別で小生物達の方もなかなかスゲーぞって発見や解析が進んできたの」


「それは一体?」


「ええ、カンブリア爆発と呼ばれる、カンブリア期における小生物の多様化ね。これはスティーブン・ジェイ・グールドの名著”ワンダフル・ライフ”の日本版が1993年に出て、一気に広まることになるわ」


「進化の不思議、ってヤツですね」


「そうそう。進化学は発見や解析のドラマも含めて面白くて。

 言葉として”可能性”の置き換えにも効くから使うようになった訳」


「それで、都市は書き進められていった訳ですね」


「そんな感じ。いやホント、書いてていろいろ勉強になったもんだわ」


「でも都市は、DTで一区切りですよね。

 その理由は以前にもちょっと話したと思いますが」


「話したっけ?」


「アレ? どうでしたっけ?」


「まあいいわ。ソレはいずれ、都市の項目で総合的に話すとして、ここではテーマ的なものとして話をしましょう」


「テーマ的には、どういう区切りだったんです?」


「ええ、区切りを付けたのは諸要素有るけど、ほら、前に言ったじゃない?」


「何をです?」


「コレ↓」


-------------

「コレ、私のパッシブテーマの一つだと思ってるんだけど、”自分の現状において、問題では無いものを、作中の主題に扱わない”ってのがあるのよね」


-------------

「ンンン? 何か該当したものがありました?」


「ええ。それは都市の独自テーマである”可能性”よ」


「一体どういう?」


「ええ。人間の”可能性”として、”何かになれる”かどうかや、人そのもの自体を信じられるか、とか、そういうのがあったんだけど、ホラ、DTまで書いて来たじゃない?」


「……大体予想はつきますが説明御願いします」


「ええ。そこまでで、かなりの問題ごととかを作中でクリアしてきたら、”可能性”の有無については”あるじゃん?”ってくらいには思えるようになってしまったの」


「軽く言いましたね」


「軽く言いました」


「ケッコー大事ですよね」


「ケッコー大事です」


「でもまあ、アレですね」


「そう。私の中で、少なくとも作中において、”可能性”の部分についてはそれが”ある”とクリア出来てしまったのね。

 そうなると”可能性があるかどうか”で話を書くのは、解りきった答えを書くことになるから、嘘になるの」


「”嘘”の意味が、ちょっと難しいですね」


「そうね。言い換えるなら、これまでは自分でも懐疑して、そこから答えを出したものを読者に提示していたんだけど、それに気付いた後は、自分では懐疑してないものを、懐疑してるかのような話として読者に提示する事になると、そういうこと」


「言い換える、って言って、全く言い換えてませんね」


「そのもの言ってるから自分でもビックリだわ……」


「とはいえ、自分で作った話を見ていて”懐疑がなくなった”って、それは当たり前のような」


「セルフエコーチャンバーと言えばそうだものねえ。でも、ケッコー無茶な難問とか人間関係をぶつけて見ても、手を尽くして諦めないようにすると、大概は6割くらいの成功度で上手く行くのよね」


「何を成功とするか、にも拠りますからねー」


「そうそう。そして私の書き方、あるでしょ? 群像劇とか、手順をちゃんと踏むというアレ」


「アー、ありますね。アレが何か?」


「うん。よく考えたら、そういうのをちゃんとやるって、以下の事よ」



・人材

・費用

・物資

・期間


「コレらが揃っていて失敗するって、もはや逆に作者側が変なねじ曲げでもしない限り、失敗しないんでは」


「アー、作風自体がそもそも失敗を回避するプロダクト方式!!」


「そう。ここまでゲームデザイナー志望としてプロジェクトの立ち上げや失敗しない方法を学んできたから、作風的に、キャラクター達が皆で手順を尽くして実力を出せば”出来る”のよね」


「はい。それは間違ってないんですが、何か間違ってるような……」


「ほら、ゲームデザイナー志望とか言ってたのが、ここで活きる思わぬ伏線に」


「全く思ってないですよ!!」


「よく考えたら、うちらの話から交渉と戦闘を抜いたらフツーにプロジェクト系の話になります?」


「感じ感じ。戦闘と交渉が、両者の成功ラインのどちらに載せるかの分岐点として働いてるわよね」


「アー、確かに確かに」


「以前に話したように、作中で、人災とか、そういうのを極力排除するじゃない? つまりクズ避けとかもするから成功率が高くなるの。

 でもコレ、その経緯こそが”何かになる”のドラマでもあるから、間違ってないし、寧ろソレが面白いのよね」


「でもそれを繰り返していたら、可能性があるということが解ってきて……」


「ええ。何というか、都市を書く原動力である”懐疑”を解く方法が、それなりに解ってしまったのね」


「だとすると、以後の”可能性”は、確かに形骸化しますね」


「そこに作者が疑問を抱いてないのに、疑問に見せかけたもので釣ったら、読者に嘘ついてることになるものね」


「だとすると、とりあえずここで一区切りですが、そこからどうやってクロニクルをスタートしたんです? あ、テーマ的に語る感じで」


「うん。それでまあ、そこについてだけどね?」


「……アッハイ、ここで大事なお知らせがあります」


「どうぞ」


「今回、ここまでで後編終了。次回が完結編です」


「これで次、五行くらいで終わったらビックリよねえ」


「そんなことが出来たらホライゾンが五巻くらいで終わってると思うんですよ……」


「その五巻のページ数言ってみなさい? ンン?」


「まあそんな感じで次こそテーマ編終了! 宜しく御願い致します……!」

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