ホライゾンに至るテーマの変遷:前編


「今回の話は、ホライゾンに至る作品のテーマの遷移と、作品のテーマとは何だろうね的なことを今回こそ考えて見ようと、そんな話ですね」


「そんな訳で自作のテーマという話にようやく辿り着きましたが、どういう風に話をします?」


「テーマ自体がかなり観念的なものだから、フワフワ話をしてて良いってことじゃないかしら」


「またそういう危険なことを言ってると脱線して戻らなくなるような……」


「ライブ感ライブ感。大事なのは勢いよ」


「そういや以前に小学校の頃から”自分だけのものを作る”が基本テーマみたいなこと言ってましたね」


「…………」


「……ヤバい。言ったの憶えてるけど、どのあたりだっけ……? ちょっと回を重ねすぎたわね……」


「アーマアどうでもいいことなんで大丈夫です」


「今回のネタを完全否定してない?

 まあでも基本通念として”自分だけのものを”はずっとあるわよね。

 あと、プロになってからは”トップを獲る”は当然」


「まあ、そういうのは殿堂入りとして、作品テーマの変遷としてはどんな感じなんです?」


「アー、ちょっと待って。前提として、幾つかあるわ」


「この期に及んでですか?」


「いや、この期に及んだから言えるようなことでさ」


「それはどういう?」


「ええ。テーマって、作家の人間性から出るのよ」


「まあそうでしょうね」


「うん。逆に言うと、作家の人間性以外の部分からは出てこない。もし出ていたとしたらそれは担当編集などが示唆したとか、そういうことね」


「アーマア」


「でね? ここからがちょっと大事なんだけど」


「何です?」


「テーマって、作家の人間性全てではない場合が多い、ってこと」


「ンンン? テーマは作家の人間性から出ていて、しかしその全てでは無い?」


「ええ。一部、または表層って場合が結構あるの」


「それは一体……」


「たとえば作家の人生体験があったとして、それをそのまま表に出せないとか。

 また、人間性の部分から生じた矜恃みたいなのを出しているとか」


「アー、ワンクッション置いたものを御出ししている的な」


「そういうこと。ぶっちゃけコレは人それぞれだから、私、たとえば”第一作目には作家の全てがある”みたいな意見苦手なのよね」


「参考までのうちの第一作は?」


「手を付けたのはホライゾンだけど最初に完成したのはクロニクル?」


「多くの人は連射王あたりだと思ってるんじゃないかと……」


「マーそんなもんよね。うちの場合は引っかけ問題に近いけど」


「しかし、そういう意味では、アクティブテーマとパッシブテーマみたいなものがありそうですね」


「アー、あるある。解りやすいから書いておくわ」



・アクティブテーマ

 :作品のテーマとして出せるテーマ

・パッシブテーマ

 :作品のアクティブテーマを生む、原動力や真意ともなり得るテーマ


「コレ、作家がパッシブテーマを表に出そうとしたら、編集はちょっと話し合った方が良いわ」


「どうしてです? というかアクティブテーマとパッシブテーマの区別ってつくんですか?」


「パッシブは、その性質上、プライベートなことや、感情的なこと、また逆に何らかの”信条”による場合が多いの」


「アー……、つまり炎上案件」


「そう。勿論、炎上商売もあるけど、それをやるべきかどうか判断して、そうじゃないと思ったら、そのテーマを”裏テーマにしましょう”と持ち掛けてはどうかしら」


「裏テーマ?」


「”無くす”のはダメでしょ? そこから生まれる多くのものをスポイルするから。

 だから裏に仕込んで、無くさないし、寧ろ表テーマよりも重い、という風にするといいの」


「それで大丈夫なんですか?」


「ええ。

 だってネガティブテーマを表に出すと、作者が疲弊するのよ」


「…………」


「ロジックで説明を御願いします」


「じゃあ、まずソレがウケなかった場合。

 この場合、作者は渾身の主張が届かないことになるわよね。編集に通して貰った手前、出版社にも迷惑を掛けたことになるし」


「アー、まあ。じゃあウケた場合は?」


「ええ。その場合、良くも悪くもナラティブが加速して話題になることがあるんだけど、読者の多くはそれを娯楽として楽しむし、だからこそ本当に気付いて欲しかった読者はこう言うの? ”ファッションで扱うなよ”って。

 秘めてるものを表に出すというのは、扱いを軽くするということでもあるの」


「アー」


「そして評価が割れたり、見てほしいものを見て欲しい形で見て貰えなかった場合、作家の疲弊は半端ないわ。

 ”売れたからいいじゃないですか”で、本来やりたかったことは代用出来ないのよね」


「ウケた場合、読者は次も同じようなものを求めますからね-……」


「ネガティブテーマが本音であればあるほど、”皆に解って貰う、ということがもう不可能”という空回りを続けることになる訳よね。

 それでいいとする場合、自分の秘めていたものを軽く扱うということもだけど、それによって”読者が踊る”のを解った上でやるということだから、読者に媚びつつ、また、馬鹿にしているということでもあるの」


「まあそれこそ、そういうやり方もありますね」


「自分に向いてればそれでいいけどね。それしか出来ない、という人もいるし。

 ただ、私の周囲で”バッドエンド主義”みたいなこと言ってた人達、既に書かなくなっていたり寡作状態になっていたりするから」


「疲弊しますねー……」


「あの、パッシブ系のものを表に出すと大変ということで、作家側というより編集的な視点から何となく解ることがあるんですが……」


「何?」


「”表”に出す場合、それって、コンプラとかいろいろあってスポイルされるんですよね。

 でも、”裏”に仕込んで”気付く人だけが気付く”とか”言外情報”にするならば、制限は無いんです」


「アー確かにそうね。

 そしてそういうことが出来る”技術”を持っているのが”職業としての作家”よね。

 書かれていないのにそれを読んだ記憶がある、と、そのくらい出来る技術力は持っていたいわね」


「さてそんな感じで前提が出来てきましたが」


「マーここまで言ってるから解ると思うけど、たとえば私のパッシブとか、その原因となるプライベート部分なんかには触れないで行くわね。私中心のコラムってそういうものだし、大体が関係者まだまだ存命だもんね」


「アー、遣える気があるんですね……」


「おっと、もっと褒めときなさい」


「じゃあどのあたりから、テーマが”自分だけのものを”から変わって行ったんです?」


「区切りは長編TOKYO書いたときね。あれが自分にとって”自分だけのものを”の塊だったから、こう思ったの。

 ”あ、自分には、自分だけのものが作れるんだ”って」


「物的証拠が出来た訳ですね」


「そうそう。そして自分なりに気付いたことがあったのよ」


「何です?」


「コレ、私のパッシブテーマの一つだと思ってるんだけど、”自分の現状において、問題では無いものを、作中の主題に扱わない”ってのがあるのよね」


「どういうことです?」


「馬鹿売れしてる作家が”恵まれないがハングリーな主人公”を書くのは嘘があるんじゃないか、って思うタイプってこと」


「アー……」


「いやホント、長編TOKYO書き終えて”あ”って思ったの。書く原動力みたいなものの、一つが無くなったぞ、って」


「ちなみにこの”自分の現状を~”ってのは、他にもケッコー影響を与えていて、たとえば私、”誰かの代弁者になる”のがダメなの」


「たとえば?」


「実際の被災地とか舞台にした内容や、そこ出身のキャラとか。軽く触れるならいいけどそこに由来する主張とか始めると”お前、当事者じゃ無いのに何を偉そうに言ってんの?”って思うのよね。あ、他の人は知らんから宜しく」


「アー、だからクロニクルだと関西大震災が……」


「そうそう。阪神大震災にした方がリアル、ってのもあったんだけど、そこは担当さんと意見が一致。

 クロニクルは特に過去でも獏によって客観的に見られるから、こっちとしても救かってるわ」


「よく考えたら以前話した”架空史の逸史”にするのは、そういう傾向かもですね」


「アー、そうかも。実際の”史”を主題にしないものね。都市はWW2とか扱っていても、都市のWW2だし」


「そういう意味ではケッコー影響強いような?」


「そうねえ。

 災害の状況とか推移をドキュメント的に書くのは、写実系だから向いてるんだけど、そこから生まれる心情とかは、”ンー苦労してる知らん人達のことを、勝手にその気になって書いてるなー”とか思ってしまってホント駄目なのよね」


「まあうちがやってるのはエンタメだってのもありますからねー……」


「でまあ、書く原動力の一つが、証明されることで無くなって、どうなったんです?」


「ええ、だからここで、初めて”テーマを考えよう”って思ったの。

 自分がそれを書こうとするモチベーション? それは何だろうって」


「……気付くの遅すぎませんかね」


「いや、とりあえず気付いて良かったわよ。楽しいだけのブースト期間は終わって、作り手として何を主題にしていこうかって話になったわけだから」


「そういう意味では”自分だけのものを”というのが終わって、”何を自分だけのものにしていこう”になった訳ですね」


「そう。そしてこう考えたの。

 ”何を”の部分に、社会問題とか世界情勢とか、そういう一時的なものや、経時によって消えていくものではなく、永続的かつ自分の中にあるものを用意すれば、一生作家でいられるんじゃないかって」


「何というか、理屈ではそうですけどねえ……」


「ここらへん、自分の中で”冷める”というか、そこらへんの感覚強いわよね」


「で、何が見つかったんです?」


「ええ。時期的に将来のこととか考えないといけないじゃない? 第一志望はゲームデザイナーとして。しかしホントにそれになれるかどうかとか解らないし、なったとしてもそういうものを続けていけるかどうか解らないのよね」


「……段々、以前のネタと繋がってきた気がします」


「そうね。だから私は、テーマにそれを選んだの。

 ”人間としての成長と、成功出来るかどうかのドラマ”ってのを」


「つまりビルドゥングスロマンですね!?」


「そうそう。登場人物からしたら”私、何かになれるのかなあ”、という疑問よね。

 そして自分もまた、顧みると”どうなのかなあ”、って。

 それでまあ、よく言うじゃ無い?」



――常に初心を忘れず、課題を持つようにしておけば、そこには無限の成長がある。


「アーよくあるよくある的な」


「そう。

 それはもう、誰もが言うようなことだけどね」



・”永続的なテーマ”を捜してる自分と。

・永続的な成長を人間は持っている”という提言。


「この二つはいい感じで結びついたのよ」


「そういう意味では”自分が読みたかったもの”をジャストで書こうと思った訳ですね」


「そう。だからここでいろいろなものが繋がってくるじゃない? 群像劇もだけど、何故、”自然な流れでの事件の発生をする”ことに拘るのも」


「御約束みたいな物語では、自分がその結果を信じられないからですね!?」


「そう。だって私自身が、将来のこととか思案して、答えのようなものを見たいと思っているのに、作者の饒舌や”そういう物語”での進行とか、あったらダメでしょう」


「御都合な展開だと、書いてる自分がそれを信じられないですからね……」


「ええ。

 だから多くの人が関わり、動き、関係することで事件が生まれ、動いていく訳。

 その中でキャラクター達がどうするか、ってのが見たいのね」


「これって、プロット派とは相性悪くありません? だって、一回プロット構築時に答えを見ているから、執筆による作家当事者としてのカタルシスは薄いですよね」


「ライブ感覚で書いてアンハッピーエンドに行ったら私がリアルに死ぬわよ。

 だからプロットで確認しておくの。大体、書いてみたら課題や障害が軽かったとか、そういう逆のことも有り得る訳だし」


「アー、商品として見た場合、手を抜いていたらダメですもんね……」


「勿論、小説の中でキャラが上手く行ったら私の人生が上手くいくとか、そういうことは無い訳よ。創作は創作。どんなに作り込んだ世界だって、私の中に有るもの以上のものは出てこないわ」


「でも、と言いたそうですね」


「そうね。――でも、可能な限り調べて考えて作ったら、それなりのものにはなるし、都合良くも悪くもないフツーの世界の上で、キャラが頑張って結果を出すならば、ちょっとは自分を信じてもいいんじゃないかしら?」


「何処まで話したっけ?」


「自分の現状と、成長という永続的なテーマが結びついた処です」


「もう一回言って」


「自分の現状と、成長という永続的なテーマが結びついた処です」


「誰、そんな高尚な話してたの……? 私……?」


「ハイハイそんな感じで自己評価高めてる処に一つ報告です」


「? 何よ一体」


「何か長くなるのでここで前半終了です」


「アー、結局一回で終わらなかったわねコレ」


「クズ話しなきゃ良かったですねー」


「アンタが振ったのよ、アンタが」


「まあそんな感じで、次回、都市あたりからのテーマ話になっていきますので、宜しく御願いします……!」

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