『ホライゾン』と『クロニクル』の発生について(後編)
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「今回の話は、主にクロニクルのホライゾンに至る作品のテーマの遷移と、作品のテーマとは何だろうね的なことを考えて見ようと、そんな話ですね」
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「さて……、じゃあクロニクルのストーリーがいつ生まれたかの話ね」
「どういう経緯だったんです?」
「ええ。ホライゾンが自作のボードRPGからの発展で物語が出来ていった話はしたわよね」
「ええ。RPGのシナリオ作成法をベースにしたストーリー作りということで、25年キャリア積んだ作家が公開するには誰の役にも全くならない驚愕の真相でした」
「だから誰も興味持ってないから大丈夫。セーフ」
「企画としてはアウトだと思うんですが、そこらどうなんですかね……」
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「――で? ホライゾンの話は前回やったんで、クロニクルです」
「ええ。私は世界を作りたいから、RPGの方に行って、AVGの方には行かなかったって、そう言ったわよね?」
「ええ。そんなこと言いましたね」
「うん。――クロニクルはAVGのストーリーを作ろうと思ったのがスタート地点」
「何 の 前 言 撤 回 で す か 一 体 ! !」
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「いやまあチョイと話を聞きなさいよ、この巨乳」
「アーマア企画なんで聞きましょう」
「中学上がる時点で、AVGはぶっちゃけ視界から入らなくなっていたのよね。あ、コレは物語としてではなく、ゲームとしても」
「どうしてです?」
「ええ。AVGが単語入力式じゃなくなったから」
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「…………」
「説明しましょう。若い人、全然解らない話だと思うんで」
「どの辺から?」
「最初から」
「アー」
「アー」
「えーと、ね。まずAVGって、いろいろあるじゃない? 例えばレイトンシリーズも謎解きをメインとしたAVGと言えるし、ソシャゲの多くは育成や対決シーンがあるとしても、メインはストーリーであることが多いわよね」
「アー、”明確に明示されるストーリーによって進行するもの”は、広義のAVGである理論ですね」
「そうそう。ストーリー部分がプレイヤーのナラティブではなくて作り手がビジュアルシーンなどで見せてくるものね。でもね?」
「でも?」
「昔のAVGってそうじゃなかったの」
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「……予防線として、自己観測の範囲の話であるとしましょう」
「アーマア了解」
「しかしどういうことなんです? AVGって、ストーリーが明確に語られながら進行していくものですよね?」
「ええ。だけど……、ってまた同じ事言っても意味が無いわね。
とりあえず世界初のAVGの話をすると、1976年にスタンフォード大学のコンピュータに作られた”コロッサル・ケーブ・アドベンチャー”(以後:CCA)がそれね」
「スタンフォード大学のコンピュータ?」
「ええ。当時は大学などの公的機関が大型コンピュータを所持していて、校内LANによる端末を使用して”コンピュータを使う用がある人”が、それを利用していたの」
「今とは大違いですね……!」
「そうね。1974年に世界初のパーソナルコンピュータ=個人所有用のコンピュータが発売されたけど、それが一気に普及するのは77年のAppleⅡから。
だからCCAは、スタンフォード大学の所有していたコンピュータのデータバンクに、ちょっとしたゲーム的なものとしてあるプログラマが仕込んだの」
「それは……」
「ウィリアム・クラウザー。ARPA(現DARPA)による軍事開発チームの一員で、その構築のためにスタンフォードのコンピュータを使用していたの」
「えーと、ARPAの仕事をしてる人が、何で、スタンフォードのコンピュータにゲームを……?」
「仕事の息抜きに決まってるじゃない。ついでに言うと、このときに開発されていたのは、核戦争後でも生き残るネットワーク。何のことか解る?」
「あの、まさか……」
「ええ。インターネット。――その前身となるARPAネットの開発チームの一人が、洞窟探検が好きでね? 娘が遊べるようにと、ちょっとファンタジー仕立てにした”ケイビング”をゲームにしたって訳」
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「ベースのアイデアとなったのは、自身が探検してマップを作り上げた大洞窟と、当時ハマっていたD&D。
画像は無く、情報は全てテキスト。
洞窟を構成する66のルームを”動詞+名詞”を基礎としたコマンドをタイピングすることで冒険していき、出口から脱出したらスコアが出るの」
「ええと、コマンドをタイピングということは……」
「ええ。全ての行動はコマンドをタイピングしないと発生しないわ。移動するときは"GO WEST"、松明を点けるなら"ignite torch"ね。
ゲーム中、反応する単語は193。
この”コンピュータと、コマンドを使って対話してゲームを進行する”というアイデアは、後のAVGの基礎となったし、今、私達がよく遊んでる”ローグ”系の”ローグ”にも影響を与えてるのよね」
「というか、ゲーム側の課題に対してプレイヤーがアクションを起こしてクリアしていく……、というのがゲームだと思うんですが、そこにコマンドの”対話”というのは凄い発想ですね」
「テーブルトークの経験者だと解るわよね。つまりゲームマスターに対し、”動詞+名詞”で行動宣言していくようなものだわ。
――だけどコレ思いつくのが凄いわよね……」
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「アー、でも、何となく解りました。
初のAVGは、66ものルームがある巨大な洞窟探検ですが、その内部は課題があるとしてもある程度行ったり来たり出来て、コマンドを思案して打ち込んで当てるとか、そういう”プレイヤーのナラティブが生じる箇所”があったんですね」
「そう。
大事なのは”対話型”ということなの。
コマンド入力式のAVGは、プレイヤーがまず”ここで何を行動すべきか”を考えて、それをコマンドに置き換える思案が必要なのね」
「凄く自由度高そうに感じますが、実際はどうなんです?」
「実際は”正解は一つ”なことが多くて、テーブルトークのGM相手みたいには行かないわね。そのあたりを頑張ってクリア方法やレスポンスを多く持ったゲームも出たけど、やはり”言葉探し”みたいな言われ方をしたものね」
「アー……」
「でもね? 正解が一つで、自分の行動が外れまくったとしても、脳内ナラティブではそれは”トライアンドエラーのエラー”になるの。
何故なら、自分でちゃんと一から考えた上での失敗だから」
「ゲーム側が無反応でも、プレイヤー側としては”思考した”分、時間が経過している訳ですね」
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「日本でも、パソコンのゲームといったら、花形はこのコマンド式AVGだった時代があるのよ」
「そうなんですか!? と行きたい処ですが、とりあえず話を聞きましょうか」
「そうね。日本ではAVGの渡来からすぐにビジュアルをつけたものが出てね。更には思考ゲームでしょ? つまり”コンピュータでなければ出来ないゲーム”として解りやすかったんだと思うの」
・ミステリーハウス:洋館から宝物を奪取する。今の脱出ゲームに近い内容。
・デゼニランド:巨大テーマパークから財宝を奪取する。パロディネタ多し。
・ザース:SFアニメのようなビジュアルと展開でアポカリ後の世界を救う。
・アルファ:画面の高速描き替えによるアニメを導入した恒星間SF。
「……とか、時代を変えて行った代表作品かしら」
「思い出深いのは何です?」
「ボンドソフトの”タイムトンネル”とマイクロキャビンの”は~りぃふぉっくす”ね。
前者は宇宙人に支配された地球を救うんだけど、その方法が時間移動システムであるタイムトンネルを利用して、過去から行われていた侵略を阻止するというもの。
各国、各時代を行き来してクリアのための物資や武器をあっちこっちと使ったり、クリア手段によるマルチエンディングだったりしてね。
プレイしたの小学校四年の時だったけど、歴史への興味持ったのはコレが始まりかしら」
「後者は?」
「ええ。母狐が子狐の病気を治す”油揚げ”を受け取りに旅する、って話なんだけど、SD化された動物達が凄くいいデザインでね。ぶっちゃけうちの”狐”好きは、このゲームの狐デザインにかなり影響受けてるわ」
「いやホント、いいデザインなんですよ……」
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「でもまあ、この”コマンド入力式AVG”は、急速に消えていくの」
「どうしてです?」
「”言葉探し”が古いと言われる一方で、家庭用ゲームやアーケードゲーム、特にRPGが一気にアガってきたから」
「アー……」
「そして日本ではファミコンが国民機となる一方で、ほら、ファミコンだとコマンド入力が至難でしょ?」
「パソコンだけのものというステイタスが、逆に首を絞める結果となったんですね」
「そう。だから……、という訳じゃないけど、そのあたりを解決するものが生まれるの」
「それは?」
「今に通じる”コマンド選択型AVG”よ」
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「それが採用されたのは、後にドラクエで名を馳せる堀井雄二氏の”北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ”ね。
厳選された汎用的なコマンドにナンバーが割り振られていて、キーボードからナンバーを打ち込むことで、”言葉探し”をせずに済むものとなっていたの。
出来る行動は制限されるけど、とにかく解りやすいわよね」
「コマンド選択式というから、ボタン一発かと思ったら、打ち込むんですね」
「そう。コンシューマではパッドで選択って感じね。これは”言葉探し”からプレイヤーを解放し、家庭用でも再現出来ることから広まり、コマンド入力式はほぼ無くなったわ」
「そして後にAVGはアクションアドベンチャーや、サウンドノベル、オブジェクトクリック型とか、いろいろ出てくる訳ですね」
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「しかし、と……、ここまで長くお膳立てして置いた上で言うわ。
私、――コマンド入力式が好きだったのよね。
あの、ゲームと対話してる感じというか、目の前にある機械とシーンに”通る”言葉を自分の中で発想するのがホント楽しくてさあ」
「……まあ、解らんでもないです」
「でまあ、RPGの方に流れて見て感じたのは、やはり”世界”作るならこっちだなってことね。AVGのシステムでは、どうやっても”世界”を作るのは不可能だわ」
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「……と、そんなことを当時は思っていた訳だけど、今だったらAVGの”世界”再現システム、作れるわよね。AIで」
「アー、確かに!」
「世界の要素、つまり自然環境や宗教や政治、食糧や燃料などの分布や浸透を数値化して、その数値が移動や変化するルートと頻度を設計。
そこからAIによって”今いる場所”の画像とテキストを生成して、プレイヤーの行動に対しては対応する数値から結果を出せばいいんだわ」
「”探す 食事”とか打ち込むと、その土地における食事店舗の頻度と道路状況から案内開始、店が見えてくると食糧の輸送ルートと頻度、そして宗教や政治の浸透率から何が主に出される店かが決まるとか、そういうネタですね」
「そうそう。AIに生成させれば出来るわよね。現状の対話AIだって”世界をファンタジーに置き換えて、私が旅人だという前提で”で出来る部分大きいと思うわ」
「最初の数値化も、今だったらかなりのものが出来ますね……」
「流石に自然環境の変化は多くがテーブルに頼ると思うけどね、出来るんじゃないかしら」
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「思い切り脱線しましたが、マー個人的な嗜好もあって選択式AVGが出て以降、AVGにはほとんど触れてなかったんですね?」
「一応、ジーザスとかスナッチャーとかのメジャー処はプレイしていたけどね」
「じゃあ、それが何で、クロニクルをAVG用のストーリーとして立ち上げようと、そう思ったんですか?」
「ええ。AVG制作ツールが出たのよ」
「ツール?」
「そう。パソコン雑誌LOGINは当時かなり本格的なクリエイター志望者の支援を行っていてね。ゲーム制作ツールも作り始めていたの。
その一つが1987年7月に発売された”アドベンチャーツクールmkⅡ”。
Ⅰからの進化としてグラフィックが出せるようになっていたことと、何よりも”オホーツクに消ゆ”が作れるという、つまりコマンド選択式のオホーツクエディタだったの」
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「ADVの代表作の一本が作れてしまうというのは、随分なものですね」
「実際、テスト素材としてオホーツク一本入ってたのよね。それがブラザー工業のゲーム販売機”タケル”で発売されたから、マー買ったわ当然」
「では、それでクロニクルを?」
「いや、その頃はまだストーリーを小説のように成文化する、ということを行ってなかったのね」
「何故です?」
「ほら、中学生の自意識過剰で、そういうのをやってるのって”特殊”に見られるから恥ずかしいみたいなのあるじゃない」
「アー。まあ今更ですよね。何言ってんだ、って感じですけど」
「そうね。だけどそれ以前にそういう技術も何も無いから、とりあえずエディタを使えるようにする一方で、友人に依頼した訳。単純でいいから何か一本、って」
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「どんな感じになったんです?」
「ええ。結論から言うと頓挫したんだけど、友人とはいろいろ話をして、私としてはRPG流行だからファンタジーとかどうよ、って振りだったんだけど、友人の方はファンタジーだとドラクエになるから現実がいいって話だったのね」
「当時のドラクエの強さが解りますね……」
「87年7月って、ドラクエⅡが出てまだ半年(ドラクエⅡは1987/1/26発売)って時期だもんねー。FF1は87年12月だから、ファンタジーって言ったらドルアーガかドラクエか、ってくらいに”流行の回転が遅い”のが、あの時代よね」
「そこで現実モノやろうって言う友人も、結構な逆張り派ですね」
「まあそういうのが身近にいたもんよね」
「――で、その頓挫ってのは」
「いや簡単、導入部分をルーズリーフに書いて出してきて、以後動きが無くてね。”どうよ”って聞いたら”駄目だわ”って話になって」
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「何が駄目だったんです?」
「やはり”書き方”が解って無くて、書いてて”何かそうじゃない……”ってなってしまうらしいのね。あと、ゲームのシナリオとして考えた場合は会話だけにした方がいいのかどうか迷ってしまった、とか」
「アー、未経験者の陥りやすい”迷って出来なくなる”ですね」
「そう。そして友人らは部活とかで忙しくなる傾向でね。だからアドベンチャーツクールの方は私の手元に全部戻ってきた訳」
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「それから、どうなったんですか?」
「仕方ないから、自分でシナリオ書くか、って」
「出来たんです?」
「いやクロニクルは初期verがちゃんと出来たんだって」
「あ、そういえばそうですね……! じゃあ、どのような発案だったのかが聞きたいです」
「単純な話よ。友人がちょっと書きだした内容が、米軍横田基地の地下で魔界召喚の実験が行われていて、そのミスによって世界に魔界が落ちてくるって導入」
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「魔界召喚は当時の結構なメジャーネタでしたっけ」
「魔界都市-新宿を筆頭に、結構あったと思うわ。だからその一つよね、と思ったし、逆にどうしてそこからが書けないのか謎に思ったくらい」
「厳しいですね!」
「マー自分がやってないものね。そう言う意味では純粋な疑問」
「でもそれで、どうしたんです?」
「うん。自分にそれが預けられるような感じになって思ったんだけどね?
――魔界って何?」
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「ええと、魔界と言うと……」
「CAPCOMが魔界村と魔界島とかファミコンで出してたけど、それとは違うわよね? 私、小学校の頃から”将来は和風ファンタジー作るんだ”って感じで”和”に関する資料集めていたけど、魔界って、仏教用語で仏界の逆界として扱われたり、逆に欲界内の上位界、つまりケッコーポジティブな意味で欲を扱う界を示す言葉でね? まあつまり、言葉として考えたら私達が想像してる”魔界”ってイレギュラーなものなのよ」
「アー……。警察感出てしまった訳ですね」
「そう。世界を作ろうってことでいろいろやってた私にとって、何の脈絡や設定も無く”魔物がいるから魔界”は、正直、都合が良すぎてダメだったの」
「じゃあ、どうしたんです?」
「ええ。そうはいっても、仏教以外に別の原点があるかもしれないじゃない? だから図書館に通い浸って、神話とかいろいろ調べてね? 何処かの神話に”魔界”があるかどうかアタック掛けた訳」
「アー……」
「そうしたらマア、無い訳よ」
「まあそりゃ、ゲームとかエンタメにおいて、都合のいい”不穏な敵”を出すためのギミックですからね……」
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「ちなみにドラクエだけど、少なくともこの頃は”魔界”が無いの」
「そうなんですか!?」
「ええ。Ⅰの竜王は竜の王だし、Ⅱのラスボスであるシドーは邪神だけど、魔神じゃないから、少なくとも”魔”界の住人ではないのよね。Ⅲのラスボスのゾーマだって地下世界の大魔王だから魔界は無いのよね」
「だとすると当時の魔界って……」
「伝奇小説とかが由来なのかしら。魔界転生とか? 何というか、”人外魔境”あたりの言葉から、魔境があるなら、その向こうは魔界とか、そんな言葉だったのかもね」
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「そうやって調べていて気付いたのは、当時から世に溢れてる”魔界”もだけど、そういうものから由来していた妖魔とかが、実は現実の神話とか物語に由来せず、単に作者の創作に過ぎなかったものが多いってことね」
「神話や物語も創作ですが、何というか、”裏打ち”みたいなの欲しかったと?」
「立脚点が現実にあるものと、単に作者の思いつきだったら、前者をベースとした方が現実での存在する説得力が上だと思ったのよね」
「……アー、何だかよく解らない”妖魔”出すくらいなら、”ゴブリン”とか出せ的な?」
「いや、ゴブリンそのまま出しても面白くないでしょ。だから”ゴブリン級”とか、そういう扱いで”妖魔”を出せって話」
「アー」
「前に言ったでしょ? ”自分だけのもの”を、って。だから神話や物語があったとして、それをそのまま使ってるんだったら、神話や物語で充分なのよ。
そういった旧来のものを出すにしても、今のものとして、自分のものとして出す。
そして自分のものを出すにしても、思いつきじゃなくて、現実に立脚出来る作りで出す。
そういうこと」
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「ちなみに、うちでは妖物なども含みで”怪異”としてまとめているし、神も魔族もドラゴンやゴブリンも広義の”異族”ね」
「アー、つまり”怪異””異族”という、”自分だけの枠”に全て放り込んでおくことで、その存在は現実に立脚しつつ自分だけのものになるという、フィルターマジックですね!」
「そういうこと。”怪異””異族”の他にも、こういう”私だけのフィルタ”はたくさんあるわよ? そしてそれが”ある”ことで、読者は、たとえば現実に既存するものであっても川上作品では”川上稔アレンジが入る”って理解出来てるのよね」
「”襲名者”とか”歴史再現”とかも、そのフィルタ効果ありますね」
「”都市シリーズ”とか、最大のフィルタかもね」
「そういう風にすることで、何か他の効果ありますか?」
「現実の国家や宗教、人物ではなくなるから、”特定の○○に偏ってる”みたいなことを言われても”それ架空のものですけど?”って返せるところね」
「アー、そういうのが作品の表現としてあるのは強いですね」
「副次効果だけどね?
でも、私にとって自分の創作はあらゆるものから自由でなければ面白くないし”自分のもの”であるならばそうならなければいけないの。
元ネタには敬意を払いつつ、私の創作物は私の支配下にあり、それが私を決めるものであってはならない。
外からそういうの押しつけようとしてる輩には事前カウンターにもなるからいいことだわ」
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「――では、どうしたんです? ”魔界”については」
「ええ。それが存在しないなら、存在するもので、もっと強めのヤツを出してやりゃいいじゃない、って思ったの。そして――」
「そして?」
「……ここから先は、以前に語ったようなことだから、言わなくていいとか、そういうの無い?」
「無いですねー」
「じゃあまあ話すけど。一応、”神州世界対応論”について語ったコラムを確認しておいてね?」
「アー、確かにあそこと丸被りですね」
「だから無意味感あるんだけどね……。でまあ、書く前にまず設定を準備してる段階で、いろいろ発想した訳」
「そこで神州世界対応論が出る訳ですか!」
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「そう。魔界なんてあやふやな便利ボックスを世界に落とすのもありだと思うけど、私としては自分が作ってるものに説得力欲しかったの。
だからホライゾンとクロニクルの設定を行き来しつつ、クロニクルの方に、魔界の代わりとしてもっと説得力ある”神話”を落としたのね」
「それで日本のどの位置に落とそうかなあ、とやってる中で神州世界対応論が生まれてきた訳ですよね」
「そういうこと。だから発案としては、よくある流れなの」
・当時のメジャーネタであった”魔界召喚”
↓
・しかし”魔界”は定義が弱いので、神話を用いることにする。
↓
・日本の各地に神話を落とす
↓
・神州世界対応論がそれらから生まれる
「以前のコラムがこんな処で伏線になるとは……」
「話題が繋がってるから、一個の処で話すと膨大化しちゃうのよね。だから各話題に分けつつ、該当話題ではない部分は語るの余所にしてるから、まあそうなるわね」
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「そういう訳で発案はそんな処よ」
「じゃあ、次の段階として、どのように書いたんですか?」
「ええ。原稿用紙型のルーズリーフって、あるじゃない? それを買って来て、夜、いろいろな作成を終えてからベッドで執筆を開始したの」
「ベッドで?」
「そうそう。画板をベッドの宮台の方に置いて、ベッド脇にラジカセで深夜放送流してね。小さなライトを光源に書きだしたの。
それが私の”物語を書き出した”の原点」
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「どんな風に書いていたんです?」
「ええ。友人の失敗談を聞いていたら解ることがあるじゃない?」
・方法論で迷って失敗するなら、迷う方法で書かない
「私の場合、台詞だけに絞った脚本仕立てで書いて行ったの。シーンが変わる時は”S~”ってナンバー振ってね」
「随分と思い切りましたね!」
「描写は私の頭の中にあればいいから、とりあえず話として成立する最低限の要素って言ったら”会話”でしょ? だから会話で最初から最後まで通ればいい訳よ」
「で? どうなったんです?」
「書きだしたのが1987の9月くらいだったのよね。そして終了したのが88年の1/17の未明。忘れもしないわ。一生憶えておこうと思ったものね」
「四ヶ月で書ききったんですか!?」
「まあ内容的に足りてないもんだし、何よりも楽しかったものね。
ルーズリーフにして3パックほど使ったから、原稿用紙にして600枚くらい?」
「勢いって怖いですね……」
「しかし、今、原稿用紙型のルーズリーフって無いのね。今の人達って、手描きだとマジ原稿用紙みたいなデカいの相手にしないといけないから、メモ的な勢いで書くってのが出来ないんじゃないかしら……」
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「……ちょっと待って下さい?」
「何よ」
「88年の1月に書き上がったということは、計算が合わないです?」
「アー、私が中二からクロニクルとホライゾンを書き始めたってこと?」
「88年の1月だと、まだ中一ですよね」
「そうよ? だからそこにもう一段落入るの」
「一段落?」
「台詞だけのクロニクルは草稿というか、一種のネームプロットよね。
じゃあ本格的に”書く”のは何かって話」
「それは――」
「ええ。うちには、新しいもの好きの親が買って放置してあったワープロがあったの。
CANONのキャノワードα10。十年近く付き合うことになる名機よ」
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「ちょっと検索で見ましたが、かなり大きなモデルですね」
「あら? キーボードセパレートだし、キャリングハンドルがついていて、実はフルキーボード型よりもコンパクトよ。
しかしA4合わせで画面は横に50文字、縦に15文字可能。
FDDも2Dが多かった時代に2DDが使えたから720kbものデータを格納。
本体RAMも同様でA4にして40×40の文章を30ページくらい一気に表示出来たんじゃないかしら」
「アー、アレですね? A4の40×40でいつも書いていたから、他の作家さん達の”速筆枚数自慢”を聞いて”俺、遅いんだなあ”って思ってたっていうアレ」
「そう。アレのアルファー10。それが発売は87年3月だったんだけど、88年の年賀状を作れってことで、放置されていたのが私に回ってきたのね。
で、当初は実家の工房の仕事用として使ってたんだけど、段々とその頻度が下がって、”自由に使っていい”ってことになった訳」
「だとすると、”二年生のときに執筆”っていうのは……」
「ええ。α10を使って、先に作った台詞だけのアレをベースに書き出したの」
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「α10は流石にベッドの宮台に置いて寝る前執筆は出来ないから、床置きね。
ラグの上にワープロ置いて、猫背でキーボードをカナ入力で始めたのが私のデジタル執筆の始まりかしら」
「若いから出来ることですね……!」
「そうね。ともあれ二年になったとき、ルーズリーフにGENESIS-SYSTEMなど書いていくのはそのままに、まとめとなるものをワープロに打ち込み始めた訳。
そしてクロニクルも、ホライゾンも、ね」
「今に繋がる活動の黎明期ですね……!」
「そうね。88年の7月くらいにホライゾンで挫折する一方、89年の2月くらいに、GENESIS-SYSTEMの初期盤が出来上がって、89年の10月にはクロニクルの原盤となるものが書き上がるの。
そこからは、大学の時に買ったノート98の一太郎に移行するまで、少なくとも印刷物はα10を通してやっていたわ」
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「じゃあ、ずっと床上執筆を?」
「うちの部屋は暖房がストーブだけだったから、冬場は机で長時間作業がキツかったのよねー。だからCDラジカセで音楽聞きつつ、ずっと作業」
「原体験が床上ですね……」
「そう。そしてやはり記憶に強いのって、中学校~高校のあたりのことなのよね。
だから当時聞きまくっていたPSY・Sとか渡辺美里とか遊佐未森とか聞くと、床のラグ上でワープロ叩いていた感覚がいきなり蘇ってくるわ。
恐ろしいことに、ラグの埃臭さとかまで思い出すのよねー……」
「ホントに染みついてますね……」
「まあ感じ感じ。ともあれクロニクルの発案とかは、そんな処よ」
「ビミョーにまだ話題に穴があるのが恐ろしいですが、とりあえずこれでようやくホライゾンのテーマの変遷に行けますね……」
「ま、そんな流れで、皆、宜しくね?」
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