作り手としてのテーマの発露と形成(後編)

「今回の話は、作り手としてのテーマの発露がどのような流れで形成され、固まっていったかという……、よく考えたら超脱線なんですが、まあそれもありかな、という。そんな話ですね」


「ハッキリ言って今の人達はルーンクエストとウルティマⅤ解らないと思うので、ちょっと解説して下さい」


「検索一発だと思うけど、ルーンクエストは海外発のTRPGで日本版は1988年。

 ウルティマⅤは海外発のパソコンRPGウルティマシリーズの五作目。一作目は1981年、Ⅴは1988年の作品ね」


「約三十五年前……、って結構凄い時代ですね」


「そうね。この頃、私はクロニクルとホライゾンを書きつつあって、クロニクルは”書ける”手応えがあった一方、ホライゾンはお手上げになってしまったのよね」


「”世界”が理解出来てなかった訳ですね」


「そうね。当時出ていたパソコンやコンシューマ用のRPGって、”世界”があるんだけど、それは街などがユニット的な扱われ方で、つまり貿易や文化の行き来が無かった訳。

 だけどね?」


「だけど?」


「当然、小学校から中学校アガったばかりの当時の私も、そんなの気付いて無かった訳よ。だからその当時の”自分だけが作れるものを”だと、”世界に十個あるかないかの街”じゃなくて、もっと多くの街や村を各所にフルスケールで配置しようとか、そういう発想」


「何となく、現状のゲームだと世界に”足りないものがある”って解ってたんですね?」


「当時の”ゲームを将来作ろうと思ってる連中”だったら、そこらへん同じじゃないかしら。

 例えばLOGINやマイコンBASICマガジン(当時のパソコン雑誌)では、そういうことを啓発するような記事やコーナーがあったのよね。

 でもそういうものも、今のタイトルに対してのツッコミ的なものが多く、たとえば”世界とはどういうものか”については語れて無かったの」


「アー、つまり”そういうものの見本”や”始まりの思想”も薄い時代だったんですね……」


「ちなみに、私がTRPGを自覚したのって、ルーンクエストからなの」


「かなり飛びますね!!」


「それまでいろいろD&Dとかの紹介記事を見てても、ウォーゲームの一種だと思ってたのね。またはゲームブックの一種」


「確かにSLGからの派生で生じてる感ありますね……」


「そう。だからルーンクエストの紹介記事見て”ンンン?”って思って。

 ルールを理解していくときに”あ! コレ、自分が作ってるボードRPGと似てる!”って」


「アー……」


「自分のボードRPGから”ボード上フィールドを移動する”というルールを無くすと、TRPGになるの。その頃、物語を導入するためにGMのような”管理者”が必要になっていたし。」


「ええと、だとすると……」


「そう。ボードRPGから、フィールドを作るコストを無くせばTRPGになるなら、そうしてしまった方が製作の回転が速くなるじゃない?

 だからここで、所謂次作としてのTRPG”GENESIS-SYSTEM”への切り替えが行われることになった訳」


「でまあ、そんな感じで紹介されてきたルーンクエストとウルティマⅤ」


「一応、D&Dなんかも世界をいろいろ広げていた時期でしたが、”まず世界”ではなかったのでそこら辺は除外させて下さい」


「宇宙行ったりしてたもんねえ」


「どんなものなんです?」


「まあ何度か語ってるけど、ルーンクエストは世界丸ごと一個と、”何でも出来る”スキルシステムをウリにした作りなの」


「それはどういう?」


「ええ。ルーンクエストは多神教の国家連合と唯一神教の帝国が激突する時代を舞台にしていて、多神教側が”秩序”で唯一神教側が”混沌”。更にモンスター達も知性を持っていてトロルや純粋な”混沌”勢力もいて大騒ぎ。

 神々や混沌は、加護であるルーンを持ち、神殿が信徒であるプレイヤーにルーンを貸し与えたりして各所でのクエストをやっていく訳だけど……」


「うちも多神教なんで解りますけど、神々の伝播や、神々が得意とする武器やら文化によって、文化圏などが出来てる訳ですね」


「そう。貿易や文化というものを、”神々の浸透率や神々の関係性”で作って、色分けしてたのね。

 今考えてもこの世界設計は無茶苦茶に高レベルだわ」


「世界には神々が息づいていて、神ごとに加護や制約などがあり、更に他の神との関係もあるから、主審以外の神殿に行っても”うちの神とお前の処は兄弟だから加護貸して”と頼めるとか、”世界ありき”のロールプレイが出来るのよね」


「神道の”神の横のつながり”がある訳ですね……」


「更にシステムはダメージ部位制(六カ所)で、スキルシステムによってあらゆる行動が可能。そして戦闘はターン制では無く行動時間を計上して動いているストライクランクシステムと、激重システムなんだけど、よく出来てんのよねー……」


「オーパーツ扱いされるシステムなだけはありますね……」


「じゃあ、ウルティマⅤの方は?」


「こっちはドラクエみたいなフィールドタイプのRPG。昔のものだからキャラの移動時にキャラ絵が横向くとかそういうのも無いし、街はあっても貿易とか文化の行き来とか、そういうのは無いわ」


「じゃあ何が凄かったんです?」


「時間が存在していてね? 街や城、そういった場所にいるキャラクターが、全員、スケジュールに従って活動してるの。

 夜は寝て、朝起きたら食事して、午前の仕事をしたら昼にはまた食事、午後の仕事を終えたら散歩して帰宅して……、と、そんな感じでね」


「えーと当時のゲームで言うと……」


「無いわよそんなの。

 ちなみに日本で1987,88年って言うと、こんな感じね」



・87

:イース(PC)

:ドラクエⅡ(FC)

:ロックマン(FC)

:デジタル・デビル物語 女神転生(FC)

:ファイナルファンタジー(FC)


・88

:ドラクエⅢ(FC)

:ファイナルファンタジーⅡ(FC)


「かなり重要な時代ですけど、そういう”世界”へのアプローチは無いですね……」


「なおウルティマは、人との会話では”単語をタイピングする”必要があるの。

 ちょっと面倒に感じるかもしれないけど、たとえばこんなフローになるわ」



・仕事:漁師をやってる

・漁師:海に出て魚を獲る

・海:最近変わったことがあった

・変わったこと:海の上に~


「一人あたりがかなりの情報量を持ってますね……」


「そう。だからレジスタンスの合い言葉とか、そういうのが解ると、世界中の人々を一気に洗い直すんだけど、言葉一つで世界の見方が変わる時とか、ホント最高だわ」


「どんなのがあったんです?」


「ええ。辺鄙な港町で、夜に住人達がいつも畑に集まって世間話してるから、何かと思っていたんだけど、実は全員レジスタンスでね。合い言葉をもって話しかけると、これまでの井戸端会議に見えたものが全く違うものになったりとか」


「浪漫ありますね……!」


「なお、フィールドを歩いてるとき、森や山の向こうはブラインド処理されて視界制限されるし、月の形によって拾える魔法触媒が変わったりとか、いろいろ」


「ルーンクエストが神々と神話という文化で世界のリアルを作っていたとしたら、こっちは時間と人々と情報ですか」


「そう。ルーンクエストはグローバルな世界の作り方。ウルティマⅤはライフスケールとしての世界の作り方を実現してたのね」


「いやー、海外スゲーわ、ってのが当時の感想。正直、かなり”先にやられた”感あったのよね。

 何しろ考え方が違うじゃない? リアルにするには街とかをたくさん作ろう、ってくらいの発想だったのが、”文化を創ろう””人々の生活を作ろう”みたいな処まで一気に行った訳だから」


「その頃には、ホライゾン書こうとして失敗してたんです?」


「ええ。失敗してどうしようか、って処でルーンクエストに出会った訳」


「それがどうやって結局”自分だけの”に戻ったんですか?」


「いろいろショックは受けたけど、初心に戻ってみた感じ?」


「初心?」


「うん。自分が作っていた世界観。つまり遙か未来で、今の世界が形を変えて存続していたファンタジー、しかも和風ってのを考えたとき、――あ、コレは、他には無いなって思ったの」


「どういうロジックでメンタル無事だったんですか?」


「いや、ルーンクエストがあって、ウルティマⅤみたいなものも出た以上、今後、”世界を再現するシステム”は次々と生まれてくるだろうと思ったのね。

 そしてまた、どちらも”世界を再現"しようとしているけど、システムによってそれを為している部分があって、”自然”かどうかでいえば、そうではない訳」


「だとすると……」


「ええ。システム化を想定しない、”本当の世界の動勢の再現”は突き詰める意味があるし、それによって表現される自分の世界は、ルーンクエストやウルティマⅤなどにと比べても充分に差別化出来てると思ったの」


「そういう意味では、ルーンクエストとウルティマⅤは、それまで漠然と”フィールドにたくさん街や拠点を作れば良い”みたいな”世界”の捉え方から、どうすればいいかという方向性と、自分だけが作れるものの自覚を促してくれたのね」


「そこから、どうなったんです?」


「ええ、自分が”追っていくジャンル”としてゲームとTRPGを核にしたわ。私はゲームを作る道に進もうと思っていたから、ゲームを追う意味はあったし、TRPGはシステムの雛形を考慮するのにも適していたものね。

 だからクロニクルを書き終えた後、いろいろとゲームのアイデアを考えたりしつつ、自作のTRPGシステムとしてGENESIS-SYSTEMを作りながら、自分の世界にあるもの、必要なものを積み重ねていった訳」


「アー、何となく解りましたけど、自作TRPGを作っていたのって、つまりTRPGとして作ることで”世界に必要なもののリスティング”が出来るからなんですね」


「そういうこと。"世界の作り方”なんてマニュアルどこにも無いけど、ゲームとして動かす場合、それはルール化され、リスト+ライティングされてないと駄目でしょ?

 だから世界観重視のTRPGを作り上げていくことで、自動的に”世界に必要なもの”は解っていくし、揃っていくわよね。

 そうやって素材が溜まったら、あとは”世界全体がどのようにして連動しているのか”を勉強すればいい訳よ」


「しかしホントに”世界を作る”にまとまっていくんですね……」


「そうね。小学校のとき、漫画家志望者だった頃は”漫画を描きたい”くらいの漠然としたものしかなくて、そしてゲームに触れても、当初においては面白いけど、”これを作りたい”という具体性は弱かったの」


「それが”夢幻の心臓Ⅱ”で火がついた訳ですか」


「ゲームと言うよりも、そこに”もう一つの世界・生き方”みたいなのを感じてしまったのよね。

 でもそれが”どうやって作れば良いか解らない”となっていた小学校五年生のとき、ボードRPGを閃いて、ピースがハマってしまった訳」



・小学校初期

 :漫画家志望

  :描き方本などから”オリジナリティの大切さ”を学ぶ

  :将来のこと考えたら今から”自分だけのもの”を作った方がいい

・小学校中期

 :ゲームに触れる

 :漫画家からグラフィッカー? 志望に

  :”自分だけのもの”は根底にあるが、作れる環境に無いので希薄

・小学校後期A

 :”夢幻の心臓Ⅱ”に出会って、”世界”を作れると知る

  :その方法が作れる環境に無いので燻り期間

・小学校後期B

 :ボードRPGを閃いて、”自分だけのもの”が戻ってくる。

・中学校初期

 :クロニクル執筆、ホライゾン挫折

 :ルーンクエストとウルティマⅤで”自分だけのもの”の見直し、強化


「こんな感じよね」


「ロジックっぽく見えますけど、大概な生き方してますね……」


「将来のため、って言い訳有るから、買うものからなにからこれらに全振りだものねー……」


「小学校時代のその段階で、二重三重の”自分だけ”があるように思います」


「たとえば?」


「そうですね。



・和風ファンタジーの世界観

・ボードRPGという発明

・自分だけの成功体験


「こういう”自分だけ”が、その時期に一気に集まったんですね」


「強いて言うなら、当時、パソコンを持っていた家はまだまだ少なくて、ちょっとしたステイタスになっていたし、絵を描けるとか、そういうのも、ね。子供ながらの自意識過剰が”自分だけ”を自覚させたんだと思うわ」


「なお、私が中学校に入るあたりから、”ゲームデザイナー”という言葉が使われ始めたように思うわ」


「今で言うゲームクリエイターの事ですね」


「そう。故 多摩豊さんの”コンピュータゲームデザイン教本”は1990/04だけど、この頃にはゲームはデザインするものだという考えがあってね。それはTRPGの方にも波及していたから、GENESIS-SYSTEMを作るあたりでは将来の志望はゲームデザイナーになっていたのよね」


「そうなると”自分だけのものを作る”が、いろいろ紆余曲折したり、強化されながら”自分だけのものを作るゲームデザイナーになる”という具体になった訳ですね」


「そうね。人生、何が転がってどうなるか解らないもんだわ」


「……何というか」



・テンプレとか一切拒否

・逆張りする

・自分のものしか作らない

・譲らない

・支持者を大事にする


「ここらへんの原因の一端を見た気がします」


「マーホントに、自分のものを作ることに特化して生きてきたからねー……。だから支持者は大事にするのよ。そんな偏り1億パーセントについてきてくれる訳だから」


「しかし、いろいろ解ってきた一方で、解らないこともあります」


「? 何が?」


「……コレ、”自分だけのものを作る”っていうテーマで追ったせいか”世界”や”作り手”としてのものについてはかなり追えた一方で、”物語”は別ですよね」


「そうね。私が小学校のとき、漫画家志望者だった頃は、まだクロニクルやホライゾンの物語は考えてないわね」


「それはいつ、どんな風に発生したんですか?」


「それはまあ、別の時、ということでいいんじゃない?」


「次回ですね!? そうしないと忘れますからね……!」



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