テーマというものについて


「今回の話は、本を書くにあたってのテーマの捉え方を、さて川上稔はどんな感じでやっているのかな、ってことと、ではテーマとは何だろうね的なことを考えて見ようと、そんな話ですね」


「実はホライゾンについて、テーマの遷移を語ろうとしたら、”テーマ”という事について深掘りしてなかったわね、って」


「アー、企画書の時に軽くまとめましたけど、確かに深掘りしてなかったですね」


「そう。だからまあ、自分はどういう風にそこらへん考えてるのか、ってのを語ってみようかと」


「成程。しかしテーマって言うと何かアレですね。高尚感ありますね」


「それがまあ、あんましそうでもないのよ」


「そうなんです?」


「じゃあテーマって、どういうもんだと思う?」


「えーと、……以前あった”企画書の書き方”では、こんな風に言ってましたよね」


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「簡単に言えば、自分がその作品で、業界や読者達にどういう影響を与えたいか、って処ね。主語はどんだけデカくてもいいわ」


------------------

「……そんなこと言ってたのね私……」


「そういうボケをしない……!」


「じゃあ、この”企画書の書き方”で言った台詞から、テーマには二つの傾向があるって、解る?」


「二つの傾向?」


「そう。創作物、特に商業物にはテーマが常に二つ存在するの」


「えーと……」


「…………」


「……あ、コレですね!? ”業界や読者達”!」


「そう。商業作品には、”業界向けテーマ・読者向けテーマ”があるの」


「二つあるのに、何で企画書の時に明確に分けなかったんですか?」


「え? ぶっちゃけこの二つを常に提示出来る人ってまずいないし、どっちか片方書いてあれば編集者にとっては充分だから」


「アー」


「というか、編集者の人だって、今のコレ見て”あ!”ってのが多いと思うのよ。何となく解ってたけど成文化してなかった、みたいな。

 だとすれば”業界や読者にどういう影響を与えたいか”で思いつく回答で、充分過ぎる訳」


「それが事実だからと言って細分化すると解りにくくなるというアレですね」


「PS1の時代とか、そういうゲームが多かったわよねー……」


「アー、タイヤのネジ一本ずつのトルクを調整出来るとか、そういうアレですね……」


「しかしこの二つのテーマ、どう違うんです?」


「いや、書いてあるままよ?」



・業界向けテーマ

 :業界にどういう影響を与えたいか

・読者向けテーマ

 :読者にどういう影響を与えたいか


「ホントそのままですね……」


「だからそう言ってる言ってる。でも、コレ見ると、さっき言ったことが解るでしょ?」


「? 何か言いましたっけ」


「ほら、テーマって、高尚じゃないって話よ」


「アー」


「何となく解るでしょ? ”影響を与えたいか”って処から」


「つまりアレですね? ”野心”ですね」



1:分を越える(ように見える)大きな望み・たくらみ。

2:人になれ服さないで、とかく害をしようとする心。


「まあ基本的には1の方よね。ともあれ”何かブチ上げてやろう”ってこと」


「…………」


「どうしたの?」


「……テーマって聞くと、たまに”俺の書くものにはテーマなんて無いぜ!”とか”そんなものは必要ないぜ!”って言う人いますよね」


「ええ。格好付けてるようで野心が無いから草食系よね。

 恐らくはテーマっていうものを、さっきのアンタみたいに高尚なものだと勘違いしてるの。

 たとえばだけど――」



・自分が好きなものを書く

・PVを稼ぎたい


「コレ、充分にテーマだかんね? こういうのも無いって言うなら――」



・意味の無いものを読んでる人間を観察したい


「ってことかしら」


「……ぶっちゃけ、何に対してでもテーマって発生します?」


「ええ。それが生じて、見られた時点で、自然発生するわ。

 テーマとは、表現としては野心だけど、本質としては作られたものが証明するから」


「……表現? 本質? どういうことです?」


「アレよ。口ではそう言っててもカラダは正直だな、ってアレ」


「最悪な例えが来ますね!!」


「伝わってるならその例えは最良じゃないかしら……」


「アーマア、つまりこういうことですね」



・テーマを企画段階とかでいろいろ決めても、最終的には作品がテーマを証明する。


「そういう意味では企画書って全体的に”決意表明”よね。とりあえず設計書ではあるけど、現場の判断でいろいろ変わることもある的な」


「ま、まあ、それはそれとして、テーマの話に戻しましょう」


「ええ。じゃあさっきの二つを、もうちょっと深掘りするわね」


「業界向けテーマって、何です?」


「ええ。”俺はこのネタで業界の流れに一石投じるぜ”ってこと」


「それは読者に対するものと、どう違うんですか?」


「そうね。単純に言うと、――”読者にウケる”ということを考えなくてもいい」


「ンンンン?」


「あら? テーマとしての意味を考えたら解るでしょ? 業界の流れに一石投じるってことは、既存とは何らかの意味で距離を取るってことなのよ。

 外からじゃなきゃ石投げ込めないものね。後はその石が駄石か宝石か、ってこと」


「じゃあ、何が大事なんです?」


「ええ。業界に与えるインパクト。つまり先進的であるか、突出しているということね。

 それが読者にウケるものであればよし、しかしそうでなくても”先進的・突出的”であるならば、それだけで充分な価値があるわ」


「ええと、……それは、意味があるんですか?」


「え? 価値はあるけど意味はほとんど無いわよ? これだけ出版物がある中で、一冊そんなの仕込んだ処で、誰が見つけてくれるって言うの?」


「一応ね? 賞の公募なんかだとそこらへんは考慮に入るわよ? たとえばラブコメが流行なときに、出来の良いだけのラブコメに大賞与えるレーベルは無いでしょ?     ラブコメと完成度の他に、”今まで無かった上で、これは広めるべき価値”がある作品にそれを与えるの」


「……出版物が莫大にある昨今でも、”受賞作”って大きな肩書きがあると、その”価値”は見落とされないから行ける、ってことですか」


「そう。そしてどんな価値を選んで推したかによって、レーベルの存在意義が示されることになるの」


「だとすると、その”価値”を見ずに”これは売れる”で受賞させた場合は――」


「その”レーベルの個性”は出ないから、レーベルにつく読者はいなくなるわね。

 ついでにいうと”価値を認められて受賞”した作家は、次作など出すときに”自分の認められた価値は何だろう”をちゃんと考えないと、”自分がない”ものを作ることになるのよね」


「……何となく解ってきました」


「でしょ?」


「業界向けテーマ。つまり”今の流れに一石を投じよう”という行為は”違う味”を求める読者に届くし、それが受賞作であるならば、レーベルにつく読者が増えるんですね?」


「ケッコー忘れられてることだけど、”本を作る”って文化事業なのよ。

 ”価値の創出”を行っている訳」


「”新しい価値を生む”ってことですか」


「そう。先進的という意味では、”最初にそれをやったパイオニアになる”、ってことだし、突出的という意味では”その価値を大いに問う”ってことになるのでね。

 解る? 本を作るって、――”新しい価値の一番乗り”や”新しい価値の提唱者”が出来るってことでもあるの」


「まあ、創作物って、全て”そういうもの”なんだけどね」


「誰も彼もに、次のムーブメントや次代の担い手の権利があるということですか」


「そう。そして”一番乗りや提唱者になることと、ウケることはイコールではない”わ。

 そうであるのがベストだけど、なかなかそうもいかないものよね。

 そしてレーベルに必要なのは、ウケることもだけど、一番乗りや提唱者を確保しておくことなの」


「何故です?」


「宣伝に使えるし、作家やレーベルの個性になるから」


「ここらへん、担当さんごとにかなり差がある箇所だとは思います」


「まあね。こういうの一切興味がない担当さんだっているわ。

 レーベルにつく、という考え自体が古いという意見もあるし。

 何よりも、一番手や提唱者になっても、ウケなければ意味が無いという意見もあるわ。

 でもね?」


「でも?」


「意味が無いなら、それをやり続けてきた私が、何で電撃の最古株やってんのか、説明がつかないわね」


「アー……」


「作家として長くやって行く場合、テーマとして”読者に何か影響を与える”ものとは別で、”業界に何か影響を与える”があるといいと、私はそう思ってるのね」


「どうしてです?」


「新しいことをやっていく作家は、ウケるかウケないかは別として、その業界の歴史を作って行くから」


「お、大きく出ましたね……!?」


「あら、でもホントにそうよ? 誇大妄想含みでね? 私は何か作るときによくこう考えるの」


「それは?」


「遠い未来、誰かが文化史をまとめていく際、”ラノベというものの歴史の中で、●●を最初に行なったり、大きく扱ったのは誰だろう”って深掘りしたら、この作品と、私の名前が出るといいな、って」


「――お前はこの世に何を遺したの? って死ぬ前に言われた時、多くの読者を楽しませました、って言えるのは当然として、”世界をチョイとでも変えました”って言いたいのよね、私は。他の人は知らん」


「えらく面倒な人ですね……」


「そうかしら? 読者としても、”その本を持っていること”が世界のちょっとした変化や、そうなることを応援した証であるというのは、結構大きいと思ってるのよね。

だって”業界に影響を与える”テーマは、読者にとっても、作家とその作品を通して、リアルの歴史や世界に手を掛ける行為に繋がるの。

 将来の文化史における、一行あるかないかどうかの事柄に、関わっていたんだってね」


「アー、”業界向けテーマ”って、正にそういうものではありますね……」


「しかし、いつからそういう誇大妄想じみた発想に?」


「なかなか言うわね……。って、でもね? コレ、80年代くらいから何か作ろうって考えていた人は、必ず持っていたものだと思うのよ」


「そうなんですか?」


「ええ。80年代中盤から、ファミコンやパソコンを始め、いろいろなゲームが作られたり、または漫画やアニメ、特撮とかいろいろ生まれて行ったのよね」


「アー、そういう勢いあった時代ですね」


「そう。だからそういう中にいると、皆(極大主語)してこう思うのよ。

”俺だったら、俺だけが作れる、こういうのを世に出すね!”って」


「アー……」


「そして私は、そういう頃から作っていたものを、今でも続けている訳。

 今に合わせてとか、今のものを勉強して、というのはあるけど、そこから生まれるものの基本は”俺だったら、俺だけが作れる、こういうのを世に出すね!”なのよね」


「他と合わせてとか、テンプレとは相性クソ悪いですね……」


「根本がソレだからね。そしてソレ以外で作ったら自分がやる意味が無いと思ってるから、そうなるわけ。

 なお、私、今でも自作で業界トップを取ることを諦めてないわよ?」


「そうなんです?」


「ええ。年齢とか大人げないとか身の程知れとかあるけど、そういうことを思うのは自由でしょ? 叶う可能性がゼロではないのだから、常に掲げてていいことだわ。

 そして、そのくらいの意気がない作り手に、読者がついてくると思ってないのよね」


「しかしまあ、”業界向けテーマ”って、業界向けだけじゃなくて、いろいろな意味がありますね」


「私、自分がそういうの重視するポリシーだから、コレを否定する人とは仕事したくないのよね。

 一方で、こういうものが無いものを否定しないわ。私のコレは私の選択だけど、他人の選択は他人の選択だから」


「ちなみにどんなことをやったんです?」


「いろいろあるけど、先進的という意味の”一番乗り”で解りやすいのここらへんかしら。とりあえずラノベ上ってことで」



・戦闘機の近接戦=1935

・行動を完全にスキル表記する=OSAKA

・神州世界対応論=クロニクル

・滅ぼした異世界残党との戦後交渉=クロニクル

・各国神話のマルチバース化=クロニクル

・ラノベ初の1000ページ超え

・日本史と世界史の融合世界=ホライゾン

・九大罪の導入=ホライゾン

・歴史再現、襲名者などのルール=ホライゾン

・運命のキャラクター化=ホライゾン

・超巨大魔法杖による戦闘=ヘクセン

・パンガイア神話の導入=神々

・人類史と神話の伝播=神々


・アイコントークの導入

・デジタル専門レーベル(電撃文庫Born Digital)の発足

・ラノベ原作アニメが”原作準拠”に向かうターニングポイント(アニメ版)


「……コレは違うとか、アレが先だとかいろいろあるかもですが、大体はこちらと”条件”が違うものだと思うので御容赦ください」


「よくあるのが昔のレーベルを出してきてラノベ扱いね。今から見たらジャンル的にそうかもだけど、当時はそうじゃなかった訳で。私、そういう歴史修正みたいなの好きじゃないのよね」


「しかし、それなりに出ますね」


「先進的だけじゃなく、突出を含めたり、細かい処を言ったらもっと出るわよ。それこそカーチャン表紙とか1501回とか」


「というか”ラノベ初の1000ページ超え”は企画というかテーマではないのでは」


「マーだから”一番乗り”って話ね」


「アー、成程」


「でもこれらによって、時代に影響を与えていったり、今の人達が気づいて無い”土台”になってると、そう信じるわ。例えば今”七大罪”を題材に書こうとしたら、何処かからツッコミ入るでしょ?」


「時代が進んだ訳ですね」


「エンタメも進化していかないとね。それも、身内だけで回してるようなものじゃなく、時代に合わせて、いろいろなものを外から吸収していかないと。

 そしてそういうものが出るのが”業界向けテーマ”の部分なの」


「じゃあ”読者向けテーマ”とは一体」


「そうね。企画書の時に、こういうこと言ったじゃない?」



-------------

「簡単に言えば、自分がその作品で、業界や読者達にどういう影響を与えたいか、って処ね。主語はどんだけデカくてもいいわ」


-------------

「テーマを二つ以上書いて、合成するの。テーマって大仰しいから、それを二つ以上並べて合成すると、急激に特殊感出るの」


-------------


「”読者”は”業界”よりも想像対象にしやすいわ。だから”野心”をしっかり語っていいと思うのよね」


「このネタを読んだ読者を、こういう状態異常にしてやるぜ! みたいな感じですかね」


「こっちのテーマの方が”売るメソッド”に直結するから、そこらへん考えてもいいんじゃないかしら」


「うちの場合、読者向けテーマとしては、どんなのがあります?」


「うん。そこらへんになって、ようやく本来の話」


「本来の話?」


「ええ。ホライゾンの処で書こうとした”テーマの遷移”ね。ここで語るテーマの大部分が読者向けのものだったから。

 ともあれここまでで、下地というか、準備が終わった感だわ」


「成程……、という処で、次はホライゾンの項目として”テーマの遷移”ですね。

 前後編という訳ではないんですが、ちょっと繋がりある感で。宜しく御願い致します……!」


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