アニメ化の時に気をつけていたこと・放送編

「今回の話は、ホライゾンのアニメ化の際、どのようなことをしていたか。実際の中でのいろいろとか。そんな話ですね」


「さて、……アニメ化の準備が着々と進んでますが、何故、そのときに”これは御祭”だって、そう思ったんです?

 まあ確かに御祭ですけど、”気をつけよう”って、どうしてです?」


「いい? 作家の仕事は本を作ることで、アニメのスタッフじゃないの。

 だからアニメは始まって、やがて盛り上がるけど、いずれ終わってこれまでと同じ日常に回帰しなくちゃいけないの。

 つまり以後は”アニメがあった世界”にはなるけど、そのことを忘れてると、いつまでもフワフワしてて、下手するとアニメロスになってしまうのよ」


「そうなんですか?」


「ええ。アニメの制作中は”外様”だけど、皆から持ち上げられるでしょ? そしてアニメが始まって出来がよければ、自分が褒められたような錯覚を得て、しかしそれは放映が終わるといきなり無くなるの。

 書店のフェアも消えて、各所から”アニメがあった”ことも消えていくのよね。

 それに慌てると、”凄い自分”がいる錯覚だけが残って、次の作品もアニメ化しなくては、と思うんだけど……」


「そう都合良くいかないですよね……」


「そういうこと。そして自分の方向性を見失ったり、ロスのギャップからメンタル病んだりするのよ。ただでさえ、アニメの準備期間中は守秘義務でピリピリしてるのに現場では持ち上げられるからメンタルバランス崩れてるのにね」


「アー」


「だから原作者は覚悟しておく必要があるわけ。始まった、と思った処で」



・これは御祭である。


「だからこそ精一杯全力で楽しまないとね」


「確かにそうですね! 終わるものだと解ってるからこそ、その時間を大事にしないと」


「そういうこと。ゆえにこれはアニメの発表があったあたりでTwitterでも言ってるし、うちの読者はアニメが終わった後もロスなど無く本編やいろいろの展開について来れたと思ってるわ。

 アニメが終わった後、全てが終わる訳じゃないわ。祭が終わって、その祭は誇れるものだった? だったらそれを勲章にして先に行こうって、そういうことよね」


「なお、私の側と担当側で、やったことが三つあるの」


「何です?」


「一つは、担当さんに、アニメ期間中のマネージャーをやって貰うこと。つまり制作会社との打ち合わせと、出版スケジュールの両方を管理して貰うの。

 これが出来るのは、担当さんだけだものね」


「アー、確かにそうなりますね……」


「あと、制作会社とのメールの遣り取りは全て担当さんを介することとする。これによって、”出した・出してない”が明確になるし、スケジュール的に”今はコレはヤバい”も、担当さんの判断で出来るから」


「成程。……それを二つ目として、他、もう一つは何です?」


「担当さんを間に介するせいもあるけど、制作会社からのメールが来たら、そのレスポンスを最優先とすること」


「最優先ですか!?」


「そう。全ての仕事を止めて、最優先で返答する。何故なら、制作会社が原作者にメールを投げた場合、その返答が無いと、制作会社は次の動きに行けない場合が多いの。

 迂闊に止めたらその時間、現場が止まってる可能性もあるわ。

 だから最優先で返す訳」


「……あの、うちの場合は……」


「ええ。平山Pが言ってたわ。

 夜十一時にメールを投げて、”うん。これで明日の昼辺りまで、ゆっくり出来るなあ、って思ったら翌午前二時に資料付きでメールが返ってきて帰れなくなった”とか」


「アー……」


「”何で年末年始にメールが返ってくるんです?”とかも言われたわね……」


「存在自体がメーワクな……」


「でもまあ、レスポンスを早くすることで、こっちの担当さんは楽になるのよ。スケジュールが進んだ、ってことだから。

 それに、そのときに他の仕事を止めても、理由は担当さんと共有出来てる訳でしょ? そのメールを担当さんが介してる訳だから。だからこの方法はどちらも連動してるのよね」



・担当さんにマネージャーをして貰う

・制作会社からのレスポンスは最優先で返す


「意外に大事な箇所ですね……」


「しかし現場に対してはこれで安心出来たと思いますが、他にもしていたことはあったんですか?」


「そうね。実況は私しかしないだろうと思っていたから、脚本会議や設定会議に出て、脚本の流れや各所の設定がどうしてそうなったのかを確認していった感じ」



・脚本や設定が、アニメになる際、どうしてその作りになったかを知っておく。

:ここが苦労したとか、ここは工夫したとか、そういう話

 :聞くのではなく、現場の雰囲気でも充分


「これによって、実況で、ただ画面の動きを説明するだけじゃなく、どうしてそういう風になっているのか、制作側として言えるわ。

 現場の空気を知ることって、見る側にとっては”見ているもの”が急激に手応えを持ち始めるものだと思うのよね。感覚的には”共犯”? シェフの手捌きを目の前で見てる感よね」


「脚本会議で”この言い回しはどうだろうか”とか、そういう話でも聞けると面白いですよね。自分達が好きなコンテンツを、プロの人達が頑張ってアニメに納めようとしてるのが解りますから」


「そういうこと。だから背景や武器なんかでも、現場にいるとエピソードが生まれるから、それを実況に絡めるようにしておくのね。

 作る人達って、ケッコー濃いから、その人達との遣り取りだけでもネタになるし」


「原作者が現場の一員になっているというのが解ると、読者としてもアニメに対しての安心感が生じますよね……」


「そう。それで画面に出るものが、原作準拠で、原作では省略していた箇所や絵になってなかった箇所がアニメになってると、盛り上がると同時にアニメ全体への信頼感が増すわよね。このアニメは、原作読者に対して原作を補完し、広げてくれるものだって」


「アニメの出来については、強く実感したときがあったわ」


「いつですか?」


「PVが出た時もだけど、一番はプレ上映会ね。一話を二回、町田の劇場で流したんだけど、観客の反応が面白かったのよ。

 初めは皆、ちょっとザワついててね。だから一話目が始まって、オリオトライの話を聞いてるあたりだと、皆、御約束みたいな反応しかしないの。この流れだったら笑おう、みたいな。

 どう反応していいのか、解ってなかったみたいなのよね」


「解ってなかった?」


「ホライゾンがアニメとして成立するものなのかどうか。信じてる人だって、それが裏切られる場合があるじゃない? 実際、PVが出た時は予防線としての反感も結構あったの。だから皆、目の前のものの出来がいいとしても、戸惑っていたのね」


「それが、どうなったんです?」


「ええ。それがまあ、キャラが一気に動き出したらホットになってね。

 ”始まった!”って解ったんだと思うわ。だからザワつきが大きくなって、期待がアガって、そしてアレで決まったの。――いきなり出たアデーレの三段突きで」


「アー……。アレ、不意打ちで出るからビックリしますよね」


「そう。アレで場内がいきなり静まって。皆が画面に集中して一言も無くなってね。

 何というか、ある程度のレベルが来ることは想定していたんだろうけど、それ以上のものが飛び込んで来たから、無駄口叩いてると見落とすかも知れないと、そういう反応よね。

 アレは見ていて”勝った”って思ったわ。読者の期待を上回ったわよね、って

 スタッフの頑張りが報われた感で、次の打ち合わせの時に報告して盛り上がったわ」


「PVでも三段突きの一部が出てましたけど、アレ、何でです?」


「ええ。第一話の脚本を浦畑さんが書く際、原作補完として原作では削った箇所を入れて欲しいと提案したんだけど、そのとき、アデーレの動作のシークエンスを渡していたのね。だからそれがキャラデの鈴木勘太さんに渡って、先行して作画となったの」


「アー、つまりまだ脚本が無くてもそこは絶対入るぞ、って箇所で、原作者コンテみたいなのがあるからですね」


「そうそう。だから鈴木さんに質問されたとき、鈴木さんをオリオトライ役にして、私がアデーレで、こういう動きをします、みたいなの実際に示して」


「何してるんですかねこの人……」


「ではアニメが始まってからの、実況とかについて聞いて見ましょう」


「実況については、空回りを序盤は避けつつ、発火点を見逃さないようにしようと、そんな感じね。実際、プレ上映会では、第一話は皆の期待を上回った一方で、だからこそ本放送ではあの一話だけだとまだ騒げないわけ」


「? どういうことです?」


「ええ。本放送は読者じゃない人も見るから、原作読者はあの第一話をスゲーって騒いでも、他の人達から見たら”動きは良いがよく解らん……”になるのよね。

 そうなると結局、”このアニメは内輪ウケなんだろうか”で止まってしまうから、次の”スゲー!”が来ないとダメなの。

 一話目は読者の信用を得るため。次の”スゲー”は読者が他の人達に推すための回ね」


「ええと、その発火点の回は……」


「第四話に決まってるでしょ。収録のとき、遅れてやってきた平山さんがノートPCいきなり広げて”見て下さいコレ! さっき出来たんです!”って鹿角vsアゾゥル戦見せてくれたほどだもの」


「盛り上がりすぎでは……」


「感じ感じ。だからこっちも実況が空回りしないように第一話~三話は解説として過ごしてね。そして第四話が終わったあと、急激にコレまでのも含めた解説ツイートがRTされまくり始めたの。来たなあって」


「それで、どうしたんですか?」


「ええ。かなり好評だったのはバンダイビジュアル側にも伝わっていて、別局で放送している間に公式Twitterが言ったのよ。

 ”BDの予約ページは明日の昼には開きますので”みたいなことを」


「あの、まさか」


「ええ。担当さんにソッコ電話して言ったわ。

 ”今 開 け ! ! ! ! !”」


「アー……」


「だって今、ホットなのよ? 発火したのよ? 読者は全員(極大主語)このアニメは信頼に足るものだと判断して、他の人にも勧め始めたの。

 そこで、勧める素材にもなるBDが明日の昼って、駄目でしょ?

 本放送時、バンダイ本社には広報の人が残ってるのは解ってるから、だからこの別局放送が終わるまでにその人捕まえて、ソッコで予約ページ開くように担当さんに言ったの」


「どうなったんです?」


「ええ。状況理解した槙本Pの指示で開いた予約ページが軽く回線落ちしたけど、翌朝、秋葉原の各ショップでホライゾンのBDが予約トップを埋めたわ」


「アー、”ホライゾン艦隊”って、そのときの……!」


「無茶苦茶な話だけど、結果に繋がったものね。だから次の会議でPさん達に凄い御礼言われたわ。

 あと、浦畑さんがその話聞いてゲラゲラ笑って”川上さん、喧嘩の仕方を知ってるもんな!”って」


「褒められてるんですかね……」


「ちなみに浦畑さんの名言としては、他にもあって。

 7話で拾えなかったミトツダイラの宣言を9話で拾うのを、実況では当然そのこと黙っててね。9話で拾ったとき、ガッツリとコレが7話目からの仕込みであったのを解説した訳だけど、それを見ていた浦畑さんが翌打ち合わせで”アオリ方が上手すぎて、この人、悪魔かと思った”って、そんな」


「あんま褒められてないような気がしますね……」


「だから四話目以降、未読者もうちの実況を見に来ると思って、一気に展開したわけ」


「展開……?」


「ええ。まず自分が見ることの出来ない局の放送があるでしょ? それに対しても実況するの」


「出来るんですか!?」


「ええ。シロバコ貰ってるから。だからその局の放送時間と同時にシロバコ再生初めて、CMに入ったら、頭の中でCMの経過時間を確認。大体、CM3~4本でスタートするし、別ウインドウで反応を見ていると、誰かしらその局の放送を見ているから、合わせるのは出来るわ」


「アクロバットですね……」


「一回やれば大体解るわよ? だから全放送局をカバーすることにしてね。

 そして設定話もだけど、それこそ未読者にはこっちの方が解りやすいだろうってことで、スタッフについてのトークなども入れていった訳」


「スタッフについてのトークって、アレ、どうやって情報得たんですか?」


「あら、小野監督に聞くと、大体教えてくれるわよ。8st内では割り当てが決まっていたし、放送時にはその作業は当然終わっている訳でね。だから直近の放送は間に合わなくても、良いシーンとかはシロバコ確認時にメールで出しておくと大体教えて貰えるわ。

 あとはネットで、その方の経歴を見て”ああ、アレもやってたんだ!”みたいな驚きは、それこそ実況のネタになるわよね」


「意外と地道ですね……」


「だからEDでは原画のスタッフとかちゃんと確認してね。誰がどこのカットをやったとか、そういうのを聞けるだけ聞いておくの。

 出来のいいものがあって、それを誰が作ったか解ると、見る側も安心出来るでしょ?」


「しかし、これだけ出来るのも、スタッフとの連携が取れてるからですね」


「そうね。スタッフとは無駄話も含めていろいろ話をするように心がけたし、その成果物については”否定を先にしない”を心がけていたわ」


「アー、大事ですねソレ」


「チェックするとなると、”否定を先にする”人多くなるけどね。

 でもまず、大体のものは自分以外の人が見たら凄い出来なのよ。だからまずその視点で見て評価するべきなの。そのあとで原作者として”ここをこうして貰えますか”って」


「上から目線は駄目ですよね」


「そうそう。当然。原作者だから、どう身を低くしても”上”になってしまうんだけど、”作って頂いている”という態度を忘れないことには意味があるわ」


「それにねー……」


「何です?」


「これ何度か言ったことなんだけど、こういう仕事をしていて、しかし私の仕事ペースについてこられる人間って、いなかったのよね。テレビも見ないし不眠不休でも動いてしまえるし、みたいな。

 だから何というか、自分が異常なんだろうかな、って感覚はあった訳」


「アーハイハイ自意識過剰な」


「そうそう。でも、8stに通うようになってから、”常に明かりが付いてる現場”ってのに、初めて会ったのね」


「あんまし宜しくないですけどね!」


「そうね。でも、8stから深夜にTENKYまで歩きで帰るときとか、気分高揚してるのもあったけど、あのあたりは他にもアニメスタジオ多くてね。どこもかしこも明かりが消えてなくて、凄く安心したのよ」


「安心?」


「ああ、私みたいなのがたくさんいるんだ。私はそれ知らなかっただけなんだ、って」


「アー」


「これは祭って言ったでしょ? それと同時に、私はこの仕事一辺倒に生きてる生き方でもいいんだって、そう教えて貰えたのよね。それも実際として。

 何というか、呼吸していいんだって、そう解った感じ。

 だから祭が終わった今でも、あの明かりが消えてないビルや他のスタジオのことを思い出して勇気づけられてる感じね」


「しかしスタッフとの交流とかもありますけど、どうやって馴染むんです?」


「ええ。スタッフの信頼を得るためには、やるべき事があるの」


「何です?」


「スタッフを、自分が信頼していると言うことを、伝えると言うこと」


「打ち合わせの現場には早く入って、そこでメシを食う訳よね」


「あと、仕事については、先に否定じゃなく、先に評価です」


「そう。あとはまあ、ぶっちゃけ地味でアレだけど、”差し入れ”」


「差し入れ?」


「陣中見舞いとも言うわね。一期の作成途中、プロジェクトが正式に始まって、皆が作画を始めようかというあたりから、以後、二期の作業終了まで、8stに行くとき、アレを持って行ったの」


「アレとは?」


「途中の駅ナカで買うミスドを120個」


「120個……!?」


「当時の8stが、人数前後するけどそんな感じでね。だからまあ、息抜きにもなるし、自分が来てるって伝えることにもなるし、何よりも応援になるでしょ?

 だから一年半、毎週二回、120個」


「どんだけになります……?」


「あのデカい紙袋の中に長い箱が3つ入るけど、大体が箱には10個くらいしか入らないのよね。だから一袋30だから、合計4袋提げて、自分の荷物は背負って、みたいな。一袋どのくらいの重さだったのかしら」


「えーとオールドファッションが大体70g、クルーラー系が40g弱ですね。平均55g程度でいいんじゃないでしょうか」


「一箱550gとしたら、12倍だから6.6kgね。思ったより重くなかったのね」


「袋は紐ですからねー……」


「いやー、毎回面白かったわ。会議が3時スタートだから、昼飯終わったあたりのミスドに入って、店員さんに”すみません、120個行けます?”って」


「無茶苦茶な客ですね……」


「でもまあ、あるものはあるし、”ちょっと待って貰えたら、補充すぐ出ますんで”とか、そういうのもあってね。店内で揚げてなくて、オーブン処理(当時)だってのは発見だったわ。ちなみに”これから一年くらい週二回来ますので”って、ホントその通りになったわ」


「顔憶えられました?」


「ソッコ。三回目くらいで、店長さんらしき女性が”担当”になって、自分が入って来たら箱の組み立てする感じ」


「アー」


「”今回何にします?”とか、そういう遣り取りホント面白かったわね。ただ手間を掛けさせてしまったのが、箱に詰めるのをなるべくバラバラにして貰った事ね。そうでないと、現場の各所に箱で持って行くのに全部中身同じだと駄目だから」


「アー、まあそうしないといけないアレですね」


「でもやはり店長さん慣れたもので、こっちが大体数を揃えて買うことにして、それをトレイ一個に三種類十個ずつくらい並べたら、各トレイからキレイに順次取り上げて詰めて行ってね。ホント、有り難かったわ。だから最後の日、御礼言って、向こうからも”これまで有り難う御座いました”って。一応記念に自分の分買って帰ったわ。

 場所言っておくけどJR拝島駅のミスドね。まだあるのかしら。店長さんは変わってると思うけど」


「しかし、何て説明していたんですか?」


「うん。守秘義務があるから、”ええ。学習塾の生徒のために。部屋が分かれてるので中身バラバラの方がいいんですよ”って、即座にコレがでる私、創作に向いてるわね」


「浦畑さんに”悪魔”って言われる所以ですよ!!」


「しかしミスド120個すごいのよ」


「何がですか?」


「ええ。匂いが凄いの。電車の中で、子供が振り返って”御菓子ー!!”ってテンアゲするくらい凄いし、混雑してるとき、網棚の上に置いたら、ミスドスメルが下に落ちてきて座席座ってる人が三人くらい訳解らなくて無茶苦茶ビビってた」


「アー、匂い結構ありますもんね」


「試しに空いてるときにやってみたら、ホント凄いわ。何だろうアレ、上から滝みたいにチョコとかシュガーとか油の匂いが落ち続けてくるの。なかなか無い体験よね……」


「なかなかどころかまず無いですよ……」


「でもまあ、差し入れ大事よ」



・打ち合わせには早く入る

・実況は可能であれば全局対応

・実況のために、何処の作画を誰が担当したかなど、聞ければ聞いておく

・実況は、画面の解説だけではなく、その回を作るときのエピソードなども

・差し入れは可能な限り持って行く


「まあコレ、ホントに大事ですもんね」


「初対面のスタッフさんと会うと”いつも差し入れ有り難う御座います”って言われるんだけど、つまり”知らない人と話すフック”になってたってことなのよね。

 ちなみに、コミケで当時のスタッフさんが本出してるときあるんだけど、そのときも”ホライゾンではいつも差し入れ有り難う御座いました”って、今でも言われるわ」


「結構強いですね、差し入れパワー……」


「一年半、週二回続けたものねー……。完全なミスドの手先だわ……」


「コスト凄かったんじゃないですか?」


「いや、それによってスタッフの人達に憶えて貰ったし、こちらが応援してることも伝わっていたと思うから、コストとしては充分見返りあったわよ。

 スタッフの皆が頑張ってるのを読者に伝えることが出来たし、会議とかで白熱してるのも伝えられたもの。

 下手に”熱意”とか、そういうの言って終わらせるより、やはり現物よね」


「しかし、ミスド以外には無かったんですか?」


「量と大きさとバリエよね。一応、牛乳アレルギーのスタッフさんがいて、その人には牛乳ゼロの大福が土産屋に売ってるから、それ買っていったわ。

 あと、ドーナツは油だから、紙使う仕事についてはどうだろうとも思ったんだけど、平山P達に聞いたら”ああ! 気にしなくていいですよ!”って。そういうのもあったわね」



「収録の時は、流石に差し入れ持って行かなかったけどね。ただ収録の時も出る役者さんの最新作は、DVD買ったりして予習したわ」


「予習大事ですよね」


「役者さんによっては、そういうことを伝えて感想述べたりすると、やる気出してもらえたりするし、自分もそういうの好きだからね。しかし当時だと”咲”の網羅感が凄かったわ……」


「苦労したのって、あります?」


「ホライゾンじゃなくクロニクルのCDのときね。佐山(ホライゾンではノリキ)の平川さんの最新作がBLCDで、全部聞いていって感想述べたら無茶苦茶恐縮されたわね……」


「何故貴方はモノを選ばないんですか……」


「いやまあ、あまり好き嫌い無いから……」


「まあ大体はこんな感じかしら。他、思い出したら面白エピ的にコラム設けてもいいかもね」


「結構ありましたね……」


「ええ。でも全部は繋がってるのよ」


・成功するためには、読者に制作側を信用して貰わないといけない。


「ええ。こういう熱意や”やってきたこと”が通じる読者が、うちにはついてくれていたってことよね。

 信頼出来るものだからこそ、安心して楽しんで、自分は楽しんでいるぞと言うことが出来たのは、ホント良いことだったわ。

 コアユーザーとして牽引してくれた読者の面々や、アニメから入って来て一緒に騒いで下さった人達も、今更だけど御礼を言うわ。有り難う御座います」


「そして今、”こんなアニメあったのか!”みたいなのがちらほら出て来てますが、一周した感ですね。まだまだこれからも”御祭”は続いて行くんだと思います」


「そういう意味ではスタートの”読者に制作側を信用して貰う”がマジ大事だった訳よね」


「ホントにこの通りで成功しましたね……」


「当時の電撃でBDの売り上げトップ。後のBOXも当時のバンダイビジュアルで最も多く売り上げたって聞いたし、本の方も現在では本編だけで総合300万部超えてるわ。

 大成功で、今もシリーズは存続。追いかけて損が無いシリーズになってるのよね」


「アニメが影響大きかったですねー……」


「そうね。そして、成功のためには、アニメから読者のヘイト原因になるものを摘み取って、読者の信頼を得るものを提案しないといけない訳だけど、これを通すのって、やはり読者代表として、原作者がスタッフに信用されないといけないの」


「アー、確かに。原作者が読者代表じゃ無いと、そもそも読者のヘイトのジャッジが出来ないですね」


「そう。だから設定とかは何故こうなっているか、理由など話せないといけないし、スタッフには自分が皆を信頼していると伝えないといけないのよね。

 そしてそういった遣り取りをちゃんとやるために、差し入れ爆撃は欠かさず、担当さんにはマネージャーをして貰って、レスポンスは最速最優先」


「そういうのを繰り返すことで、信頼感が増す訳ですね」


「そうそう。――でね? これだけいろいろやったように思えて、でも、ほら、仕事として見たら、私、原作者としての仕事以外、やってないのよ」


「アー! 言われてみれば!」


「そう、いろいろやってるように見えて、実際の仕事としては、設定資料出すことと、脚本会議に出てチェックと提案してるだけ。

 作っているのはスタッフで、私が他にやったことというのは”思い込み”くらいよね。

 だから私はホライゾンのアニメについては小野監督を初めとしたスタッフの尽力によるものだと思ってるの。私がしたことがあるとすれば、いろいろな関係の通りをよくしただけで、神道で言う”障害を排除すれば全力が出せる”という、禊祓のアレね」


「原作者は立場的に現場と読者を繋ぐ双方向スピーカーみたいな部分もありますが、それはそれで原作者としては当然のことなので、誇れるものじゃないですよね」


「ちゃんとやって当然よ。だからホント、私のした事って、資料出しと脚本チェック。あとは趣味の実況って処かしら。いいわよねこう言うの」


「学園祭というか、誰も彼もが参加者みたいな祭に関わってる感ありますね」


「そう。読者も制作側も、一緒に遊んだいい祭よね。私達はそれを経て今にいるんだから、誇れるわ」


「ちなみに今更だけど小野監督は結構凄い監督さんで、何が凄いって言ったら”原作準拠”が出来るの」


「……? どういうことなんです?」


「ええ、これ、本人からも聞いたんだけど”盛らない”の。オッパイの話じゃ無くて」


「アーハイハイハイ。でも、盛らない、って?」


「解るでしょ? 原作に書いてあったら、その通りに作るの。何故なら、”盛るのも改変で、それをやると不快に思うファンもいるので”、ってね。当時だから、今は違うかもだけど、そういう監督さんだから、うちには向いていた訳」


「だとすると……」


「盛らない監督が作って、内容が凄かったら、原作自体が凄いってことなの。

 だからホライゾンのアニメが評価されたとき、ちょっと自負してるのは、そこ。

 私はホントに凄い原作を書いていたのね、って」


「逆算的に言うと、小野監督が作ってショボい箇所があったら、その原作は……」


「言わない! 言わない!!」


「あと、憶えてる? 最初の頃に”外様”の話したけど、そのときに”自分がやった、を言わない”とか、そういうの気をつけてるって」


「あ、言いましたね。”他の人の仕事を虚栄でも実際でも奪わない”ってアレでした」


「そうね。でも結果を見れば充分でしょ? やることをちゃんとやってれば、そんな風に自己承認求めなくっても、原作者に対する信頼感とかは得られるんだから。

 ある意味、どうあっても原作者の株は上がるのよね。

 だったら余計なことを考えず、スタッフとアニメの株を上げて行くのがいいのよ。

 それは、”そういうもの”を支持してくれる読者や視聴者へのリスペクトにも繋がるんだから」


「浮かれるのと盛り上げるのは違うと、そういうことですね」


「ええ。また次があれば、とも思うけど、常に可能性があるのが、この”作家”業の面白い処よね。”次”があったら、どんな現場かしら」


「まあ、今後も頑張って行きましょう。そんな感じで……!」



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