アニメ化の時に気をつけていたこと・制作編
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「今回の話は、ホライゾンのアニメ化の際、どのようなことをしていたか。準備を経ての実際とか。そんな話ですね」
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「ちなみに書いていたらクソ長くなったので、ここ中編として後編と分かれます。
――で、どうして”制作側への読者の信頼”が、成功の要となるんです?」
「ええ。2010年までのラノベ原作のアニメって、ぶっちゃけ大半が読者を蔑ろにしていたと思ってるのよね。原作つきでありながら、――余計なことするじゃない?
あ、実例出して何か文句言うダシにするのはやめてね。既にそういう時代は過ぎたあとでの、うちの話だから」
「アー」
「ただでさえ尺の関係で削る処が出てくるのに、余計なことを付け加える。更には視点がそっちに行ったりする。そして”余計なこと”がマネージメント的にウケたりすると、販社は”原作とはまた違う魅力のあるアニメ化”とか言い出す。
原 作 を や れ って読者(極大主語)は思ってるのよ」
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「アレは変わった風習でしたよね」
「まあ今でもあるから奇習だと思うんだけど、ラノベが文字媒体だというのを除いても、コンテンツとしては足りていないものだと思われていたのかしら。そしてそれがいつの間にか常習化していて、誰も疑問に思ってなかったというか」
「映像を前提としていない文字媒体コンテンツを、原作準拠アニメで成功するのかどうか、と言われたら、”何か手を入れた方がいい”と思うかもですね……」
「マー博打をやって失敗するなら自分の手でやった方が諦めも着くって処かしら。
でもそういうのが積み重なったお陰で、2010年におけるラノベアニメって、原作改変が絶対で、読者としては、
”アニメ化は嬉しいが悪い予感しかしないし、それは現実になる”
”アニメと原作は別”
”アニメによって新規読者が増えるのを喜ぼう”
みたいな、そんなのばかりが私の目には入っていたのよね」
「今、凄く2010の空気を感じています……」
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「つまり2010年あたりにおけるラノベアニメって、極大主語で言ってしまうと、全ての制作側に対して、あらゆる読者の誰も彼もが信用をしてなかった頃だと思ってるの」
「個人の主観なので、私は違うとか、あのタイトルはそうじゃなかったという方は御容赦下さい」
「――でもまあ、これは商売なのよね。作るだけでなく、制作側はDVDやBDを売らないといけない。ではそこで、第一の顧客となる読者の信頼が無かったらどうなるかしら」
「……メインターゲットが買わないと、そういうことになります」
「そうね。だから成功の絶対条件として、ゼロ以下マイナスまで最初から落ちてる制作側への読者の信頼をアゲないといけない。
全ての方針は、直接であれ間接であれ、そこが根本に無いといけないわ」
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「ちょっと余談だけど、この方針基準を端的に示してることを。これまでに言ってるのよね」
「これまで?」
「そう、このコラムもだけど、2010年の当時においても、既に」
「それは何です?」
「――判断に迷ったら”どちらが読者にとって得か”で決める」
「アー」
「無論、その損得判断はこちら持ちだけど、想定するメインターゲットの大半が”得をしたと思う”だろうという、そちらで決めるということは結構大事。
これは、このアニメ化においては、実はかなり強力な指針になっていくの」
・判断に迷ったら”どちらが読者にとって得か”で決める
「コレ本当に大事だから、憶えておいて欲しいことね」
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「しかし、そういう読者の声をいろいろ見ていますが、自分で見た判断としてはどうだったんです? 2010年のアニメって」
「え? 私テレビ見ないから、もっぱらTLやネットでの声よ」
「テレビ見ない?」
「ええ。実家いた頃から。最後に見たのが仮面ライダーBLACK RXで、以後、特撮なんかはVHSよね」
「それはどういう?」
「単純に、テレビに拘束される時間があったら、自分の創作しようってこと。あとゲームとかやってたけど、メガドラなんかはRGB接続できたから、パソコンモニタで遊べたし。
ゲーム企画志望だったから、うちにX68000来てからはモニタでゲームはやるけどテレビは見なくなったし、後にSFCやPCエンジンとか、そういうののためにテレビ買ったけど、アンテナ線は繋げずにゲームモニタとして使ってたわね」
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「――で、以後そのままですか。しかしどうして?」
「いや、単純に、自分のアンテナ低いと、話題が入ってこなくなるのよ。90年代前半って今みたいにネット発達してないから基本的に雑誌と口コミだけど、雑誌はゲーム系に全振りだったし、口コミもほとんど無かったから」
「じゃあ、たとえばで聞きますけど、エヴァンゲリオンとかは」
「タイトル知ったのが最終回の二回前、みたいな? あとで気になったからプラモ(HG)は買ったわ。樹脂材コートの関節は格好良かったわね。
なお、そんな感じでテレビ見てなかったけど、一方でOVAとかはそれなりに友人が詳しかったから見てたわね」
「アー。何か変に偏りあると思ったらそういう……」
「うん。だから創作系でよくある”売れているものを俺は見ない、ってのは駄目だよ”みたいなのあるけど、全然OKだかんね?
自分自身のものとして作っているものがあるなら、それに時間費やした方がいいと私は思ってるわ。
寧ろ、見ていると影響受けてしまうし、何よりも自分の時間が無くなるから気をつけた方がいいわね」
「そうなんですか?」
「ベンツ買えた理論と同じだけどね? 週3で30分アニメ見てるとするじゃない?」
「ハイ」
「一年で78時間、テレビに拘束されることになるわけ。家で創作に使える時間があるとして、それが4時間だった場合、20日弱を食われる計算になるの」
「ま、まあ、息抜きとか必要ですし、何かヒントを得られることもあるので……」
「そうね。でも私は自分のものを作るのが楽しくて息抜きとか必要ないタイプだし、ヒントを得られるにしても、時間的なコストがデカ過ぎるわ」
「徹底的にコスト重視ですね……」
「漫画は読んでたわよ? 漫画は自分のペースで読めるけどアニメはそうじゃないし。――あ、映画は友人が詳しかったから、横で解説させながらVHSやLDで見てたわね。
そういう意味では、時間が最も重要なコストで、私がそのコストを認める媒体ってゲームだったのよね」
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「――で、話戻すけど、2010年当時のネットで私が観測する限り、友人知人も、他いろいろな処でも、ラノベ原作アニメだと前述のようなネガティブ感想ばかりだったのね」
「それで、まずどうしたんです?」
「ええ。最初の会議の時、平山P達からいろいろと話があって、熱意とかも聞いた処で、編集長がこっちに振ってきたのね。
”川上君の方で、何かこうして欲しいってこと、ある?”
みたいな」
「いきなりですね!」
「いきなりよ。でも最初のコレしくじったら絶対マズいじゃない。
だから確認で”商売ですよね”って聞いて、向こうが”売れないとヤバいです”って言うから、じゃあもう言うしかないじゃない」
「何をです」
「――”原作準拠で御願いします。でないと誰も買いません”」
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「――読者に対して変な信頼感ありますね」
「いやコレ守られなかったら絶対駄目だろうって、それは瞬間的に判断出来たのよ。
そしたら担当さんが即座に”私もそう思います”って言ってくれて、すぐに編集長も向こうに”原作準拠出来ます?”って聞いてくれて」
「それで?」
「ええ。向こうが、机の上の原作を見て”コレですかー……。全部は、ちょっと”ってね。だから、確かあのときは、担当さんがこっちにヒアリングするような言い方で、次の方針を出した憶えがあるわ。
・原作準拠で行く
・省略は問題無い
・改変は可能な限り駄目
・補完は問題無いが、原作側の原案提出かチェックを受ける
こんな処ね。
それで向こうが、まだ監督や脚本が内定してなかったせいだと思うけど、ここで持ち帰りになって。こっちは資料とかを向こうに送る流れになった訳。で、ね?」
「何です?」
「あちらが帰投した後、こっちはまだ3下の話とかあるから、AMWで担当さんとダベってたんだけど、そこで担当さんに、
”原作準拠、無理だと思いますか?”
って聞いたら、
”原作準拠じゃないと、ファンの方達が赦さないでしょう”
って言ってくれて。だから前回”企画倒れ”の話をしたけど、小野監督や脚本の浦畑さんが”原作準拠MURI”って言ったら、アニメ無くなってた筈なのよねー」
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「ちなみに浦畑さんや担当さんから後々聞いた話だけど、ホライゾンのアニメが成功して以後、出版社側も”原作準拠で”って言いやすくなったし、制作側も”原作準拠の方が売れる”って例になったから、ホライゾンが”ラノベ原作で原作準拠アニメのはしり”だと言っていいと思うとか、そんな感」
「以前・以後の分水嶺ですね……」
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「それから、どうなって行ったんです?」
「ええ。小野監督と浦畑さんとの顔合わせが、8stに初めて行ったときにあってね。でも事前にお二人のことを聞いていたから、それまでにまず、あることをやったの」
「何を?」
「最近の代表作を確認。当時だと”咲”のDVDを出てる分全部買って、仕事しながら流して、どんな作風なのかな、って」
「何でそんなことを?」
「いや、私の作品をアニメにしてくれる人達よ。その人達がやったこと、今やってることを知っておくのは礼儀でしょ。現場で話題にも出来るし。小野さんや浦畑さんが今後何かをした際、”何故そうしたか”を知る手がかりにもなるわ」
「アー」
「でまあ、これはアニメの現場に限らずなんだけど、私、何処かの現場で仕事するとき、――例えばAMWでチェック作業とかするときもなんだけど、絶対、現場の近くで弁当とか何か買って、現場で食いつつ作業するのよね」
「どうしてです?」
「原作者は外様だけど、現場の空気感を得ておくことは大事だから。
原作者にとって現場は”優しく接してくれるアウェー”だけど、そこでメシ食うってのは、少なくとも”自分はホーム”に出来る感覚を得るし。
ここはフツーにメシ食ってられるような場所だぞ、ってのは、会議の時とかにケッコーなメンタル補助になるのよ」
「現場の人達からどう見えてたかですね」
「知らん知らん。――あとまあ、現場の周囲の”食事事情”とか見ておくことで、スタッフが夜にどういう生活や作業してるのかも推測出来るからね」
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「それからキャラデザインとメカや背景、建物などの設定が主にスタートするんですね」
「資料を先行して出していたものね。脚本は当然吟味が必要だから後から合流するスケジュールで、まずキャラデが先だったわ。
最初の会議で藤井さん達のデザインが”うちが出した資料です?”ってくらいよく出来てて」
「そうなんですか?」
「AMWでの最初の会議の時に、トーリとホライゾン、あと二代のキャラデザインが出ていて、見せて貰ったら”やっさんが描いた?”って思う出来で。
でも、やっさんがその元となるようなの描いてないのは解ってたから、”絵としては万全”って思ったわ」
「じゃあ、後は内容ですね……」
「そうなんだけどね、キャラデザでちょっと引っかかったの」
「キャラデザ? 絵は万全なんですよね」
「いや、引っかかるキャラがいたのよ。――鈴ね」
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「アー……」
「当時のアニメの設定としては、キャラデザで”目が描かれない”ってのが、まず無かったのね」
「ここで”いや、ある”とか、そういう話はしてませんので宜しく御願いします」
「――で、始めに上がってきた鈴のキャラデは、アオリの時に閉じた目が描いてあって。思わず”鈴、こういう目なんだ……”って思ってしまったんだけど、”目無しで御願いします”って訂正した訳」
「そうしたらどうなったんです?」
「小野監督としては、”それはあり得ないのでは……”ってことで。
”このキャラは人間ですよね?”みたいな」
「アー。”表現と実際”の問題……!」
「そうそうそう。だからもし鈴が目の無い種族だったらOKだったんだけど、そうじゃないでしょ? そしてこの疑問は、他、多くの人達も持つ筈で、そういう人達は目の無い鈴の設定を見たらミスだと思うし、鈴のアオリや髪が揺れたときは目を描いてしまうだろう、って」
「どうなったんです?」
「一回こっちが持ち帰って、やっさんと相談。でも、やはり”無いでしょう”ってことになって、次の会議で午後三時から十時過ぎまでコレで議論」
「そんなに……!」
「九時くらいに、小野監督がいきなり席を立って、どうするのかと思ったら、下の薬局でドーナツの詰め合わせ買って来てね。多分、白熱してるこちらに気を遣ったと思うんだけど、そのときは流石に”済まんかった……。でも譲れないけど”って思ったわ」
「譲歩しないところが相変わらずですね……」
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「結局、槙本Pなども集めて、いろいろ説明したの。
まず、”メカクレ”というキャラの個性があって、それは、”目が描かれない”のだと。
そして難しいのが”目がある”という事実自体が発生した処で、そのキャラは”メカクレ”ではなくなってしまうのだと」
「……何で夜更けに性癖解説してるんですかね……」
「いやまあ……。
でも、ホントここ大事だったわ。だって私の中ではもうホライゾンのアニメは成功確定になってたのね」
「どういう!?」
「いや、座組は最強だし、”読者に制作側を信頼させる”という流れは掴んでいると思ったから。そしてこの鈴の件は、そこにダイレクトに繋がるの」
「そうなんです?」
「ええ。だって、成功した場合、資料集とか出るけど、鈴の設定画も出るわよね? そうでなくても設定画は公開される場合があるわ。
そこで鈴がちゃんとメカクレになっていたら、読者の支持は確実に得られるでしょ?
このアニメは、読者の方向いているんだって、示せる訳」
「アー」
「そういう”読者の信頼を得るためには準備からそうなってないと駄目です”って事を説明してね。
平山Pや槙本Pも納得して、小野監督もコアユーザーの信頼を得る重要性は解っているから、納得してくれて。
結果として鈴の設定には目を描かず、もし描かれたら作監修正と、そうなった訳」
「丸く収まったわけですね」
「うん。――あとで一回、AMWに召喚されたけど」
「何やってんですか!?」
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「いや、その鈴のことで、小野監督や平山Pが懸念したのね。
何しろ小野監督がこれまでやってきた”原作”と違って、小野監督が独自でジャッジ出来る箇所が”解らない”し、地雷が各所にあるでしょ?
設定とかの打ち合わせやっていて、小野監督自体が、こっちから”これはどういうことです?”って理解をしていく時期だったから、主なジャッジ権がこっちに来てしまってたのよね」
「準備段階では仕方ない時期ですね……」
「そう。でももしも今後、そういう状況が続いて、実際のアニメを制作する段階でいきなり原作者が”駄目”って言ってきたらどうしよう、って」
「アー、まあ、それは懸念ですね」
「そう。でも実はソレ、結構意外で」
「どうしてです?」
「いや、自分の中では既に基準が決まっていて、小野監督の実働においては障害にならないことが解っていたから。だから小野監督や平山Pの考えすぎなんだけど、それを改めて説明しようって。
ほら、”読者の得”の話」
「やはりそれが出ますか!」
「そう。つまり原作アニメにおいて、制作側の成果物と読者の損得は、次のような関係になるの」
1:それをやることで読者が得をする
2:それをやることで読者が損をする
3:それをやらないことで読者が得をする
4:それをやらないことで読者が損をする
「得をする=信頼を得る
損をする=読者のヘイトを稼ぐ
って言うと解りやすいですかね」
「この内、最も大事なのは何だと思う?」
「1じゃないんですか?」
「残念。――2よ。
原作もののアニメは、やらかしてヘイトを稼ぐ行為を、絶対にやっちゃいけないの」
●
「そうなんですか? 加点法ではなく、減点法を重視する、と?」
「ええ。厳しいけどね? 傷がついたら、それは延々と言われるの。
たとえベストセラーになって、大成功しても”あの箇所が駄目だったよね”とか”良いけど、原作とは別な箇所あるよね”って言われることで、その成功には傷が付いて、見る人が見たら”成功してない”ことにもなるの。
だから可能な限り、やらかしてヘイトを稼ぐのは止めないと駄目なの」
「その上で、じゃあ、加点ですか」
「そうね。やらかしの棘を抜くだけ抜いたら、やるべきことやって行きましょう。
1をやって、4を可能な限り無くすの」
・読者のヘイトを稼ぐようなことをやらない
・やらないことで読者のヘイトを稼ぐことを、可能な限り無くす
「1は解りますが、4は、2に比べて度合いが弱いように感じます。何でですか?」
「やらなくてヘイトを稼いでしまう場合、そこには制作上の理由が存在する場合があるからね。
それは説明出来るし、2010当時の読者でも、推測などを働かせて自分で補完出来たの。
だから”やらなくて生じるヘイト”は、可能な限り無くすけど、そこで残った”やらない箇所”って、大体はアニメにとって不要や、理由ある箇所なのよね」
「成程、つまり”省略出来る箇所”などは4に該当しますけど、”省略”になっていれば問題ないわけですね」
「そういうこと。一方で3は特殊で、これは例えば原作のミス箇所とか、そういう部分になると思うわ」
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「そういうことをまず、召喚食らって説明した訳ですね」
「そう。
つまり自分がチェックを入れるのは”それをやったらアニメが失敗する”と判断出来る箇所で、だとすると結論としては”やらない”になるから、小野監督の仕事は減ることになる訳。
そして自分の方で持っている方針としては、次のものがあるの。
やらかし箇所を削除したならば――」
・監督が無理って言ったら無理
「…………」
「……何で平山Pじゃなく監督なんですかね……」
「……現場のカースト感……?」
●
「でもコレで解るでしょ?
自分は”これをやったらアニメが失敗する、ということを止める”。
その上で”これをやると読者が得になる=アニメの成功率が上がることを提案する”
それは監督の判断でやるかどうかが決まる。
そして”省略箇所をどうするか”の思案や相談に加わり、省略の理由や、リカバリが可能かどうかを確認する」
「基本的には、脚本段階の処で止まる内容なんですね」
「成文化するとこんな感じね」
・これをやったら”読者のヘイトを稼ぐ”と判断出来ることは絶対止める
・これをやると”読者の信頼度が上がる”と判断出来ることを”提案”する
:脚本段階、またはそれ以前で行うこと
:但し原作の中にあるか、補完となるものであること
:これをやるかどうかは監督の判断に委ねる
:監督が無理って言ったら無理
・省略箇所などあれば、その内容思索に関わる。最低限、そうなった理由を聞く
:リカバリが可能かどうか確認する
「省略箇所の理由を聞くのは何故ですか」
「現場として考えた場合、代案など提案出来るし、補正も行えるから。
またその後に、実況などするときに説明が出来るものね。
それが公言出来ないような理由の場合でも、だからこそ聞いておくことで、読者に対して何か言うことが出来るじゃない?」
「アー、”大人の事情”とか」
「そうそう。そしてこの省略。関わっておくことで、ホント、”提案”によって救われることがあるのよ」
●
「救われる?」
「そう。”省略”した箇所って、当然、普通ならそれで終わりよね。
でも原作者がいれば脚本側は次の判断が可能になるの」
・省略箇所を、別の箇所でリカバリ、補完出来ないか確認、検討する
「アー……」
「ホライゾンのアニメだと、ミトツダイラの”我が王宣言”が解りやすいわよね。
第七話で、展開上と尺の関係でミトツダイラがトーリへの主従を確認する宣言。
キャラにとって大事だったんだけど、そのための話題を回している尺が足りなくて入れられないのが解ったの」
「あそこは前半にシロジロ君対朱雀がありますからね……。
つまりさっきの1~4で言うと、4の
4:それをやらないことで読者が損をする
これになってしまった訳ですね」
「そう。これがイカンというのは解ったから、どうにかしたい。
一番初めの提案で出たのは、8話の冒頭でシーンを設けて回収するという案。
だけど8話目はトーリの”やっぱ救けに行くのやめね”だから、ここに差し込むのはどうしても無理。9話目も二代の飛び込みから始まるから、やはり無理」
「手が打てないですね!」
「そう。でも検証したところ、9話後半の階段下りのシーンで、トーリが皆に話しかけるシーンがあったの。だからここで回収だ! って」
「随分ロングパスですね!」
「でもやった甲斐はあったわ。自分が遣り取りを考えて、それと担当脚本の富田さんがタイミング考えて上手く突っ込んで補完となった訳。
ここらへん、構成の浦畑さんが管理していたから諦めずに出来たことで、そういう意味では脚本チームのチームワークの勝利よね」
「台詞一つのために、手を尽くした訳ですね」
「それだけ重要な台詞だったものね。やってみたら、元からここにあったかのような入り方で、富田さんのいい仕事だわ」
「つまりこれは、さっきの1~4の内、4だったものが、あとで1になった訳ですね」
4:それをやらないことで読者が損をする
↓
1:それをやることで読者が得をする
「裏返った感ですね……!」
「そう。省略や、やらないことは、後々での”やる”に出来れば、評価が一気に上がることにもなるわ。そしてこれは、原作者がいないと出来ないことなの」
●
「そんな訳で小野監督達と自分達のスタンスを確認した後は、何かもう”勝った! 第一部完!”みたいな気分になってたわ」
「そうなんですか?」
「ええ。だってスタッフは万全だし、このアニメは読者にヘイトを抱かせず、リスペクトされる作りになることが確定したから。
後は宣伝と告知だけど、これはバンダイビジュアルと自分の仕事だし、そこらへんはやる気があったものね。
だからその打ち合わせの場から、既に終電過ぎてたからタクシーで直帰になったんだけど、夜の高速道路を揺られながら、ああコレは楽しいこと”始まった”けれど気をつけよう、って思ったの」
「何をですか?」
「これは御祭だってこと。学園祭よね」
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