戦闘描写や駆け引きの思案(後編)
「今回の話は、戦闘の駆け引きとしてスケールについてですが、まずは”フィールドを広く使う”という意味は何か。そんな話ですね」
●
「……私、二週間前にそんなこと言ってたのね……」
「ハイ! ハイ! すぐ思い出す!」
「ハイハイ。まあそんな感じで始めましょうか」
●
「”フィールドを広く使う”って……、それはまあ、フィールドを移動する、ということですよね」
「そうなの? でも、戦闘って、別に向かい合って殴り合ってもいい訳よね。わざわざフィールドを移動する意味って、何?」
「え? ええと?」
「答えは簡単。フィールドを広く使うということは”戦闘の状況を変化させる”ということなの」
「……え? そうなんですか? フィールドを広く使うということは、……広い戦場を全面的に移動して戦うとか、そういうことでは?」
「ソレつまり戦闘の描写の話よね? そうじゃなくてね?
戦闘の形を書くんじゃなくて。
戦闘で何をしているかを書くの。
このあたり、凄く勘違いされることなんだけどね」
●
「フィールドを広く使うには、方法が三つあるわ」
1:フィールド内を実際に移動する:移動視点
2:フィールド内に点在する視点を用いる:複数視点
3:フィールド内を見渡せる視点を用いる:単独視点
「この内、1~3はそれぞれを兼ねる場合があるわね。また、戦闘に出ている人物配置としては、1~3全てを使う場合もあるわ」
「それで、これらがどのようにして戦闘の状況を変化させるんでしょうか」
「ええ。描写としては”主体・客体”があるわ」
・主体:自らがそれを行う :戦闘の状況に変化を与える
・客体:自らがそれを行わない:戦闘の状況の変化を受ける
「こんな感じだと思って。
そしてフィールドを広く使う場合、そこにいるキャラクターが1~3のどれであるか、また、戦闘に対して主体と客体のどちらの関わり方をしているか、よく考えて頂戴」
「ちょっと掛け合わせてみると、こんなイメージになりますね」
1:フィールド内を実際に移動する:移動視点
:主体:戦場を移動して戦闘を主導するヒーロー視点
:客体:戦場を移動するが戦闘を見るだけのレポーター的視点
2:フィールド内に点在する視点を用いる:複数視点
:主体:各拠点や作戦主導者のサブリーダー視点
:客体:各地で戦闘の推移を見るモブ的視点
3:フィールド内を見渡せる視点を用いる:単独視点
:主体:戦場の指揮を執るリーダー視点
:客体:戦場の推移を見る記録者視点
「視点の持ち主についてはいろいろあると思いますが、解り安く、という処で」
●
「さて、ここで憶えておいた方がいいことがあるわ」
「何です?」
「――視点が変更、または移動した時、以前とは状況が変わる、ということ」
「時間が経過して、戦闘が推移する、ということですか?」
「ええ。時間経過と戦闘の推移は、現状維持というものも含め、次の状況へ移行していくことになるの」
「もうちょっと解り安く」
「極端な言い方すると、――視点の変更、移動をすることで、戦闘の組み立て直しが出来るわ」
●
「なお、前述の1~3視点の内、3の場合は視点が変更にならないけど、フィールドを見る”視線の行く先”が同じ効果を持つから御容赦ね」
「現場と管理者の差みたいなものですね……」
●
「――で、当然のように”仕込み”は必要だけど、視点の変更や移動をしたならば、時間が経過して戦闘が推移しているわよね。
だからそこで、戦闘の組み立て直しをしていいの」
「戦闘を、その状況からまた新しくやり直す、ということですね?」
「ええ。前の状況からの引き継ぎだから、無理なことは出来ないけどね? だけど”仕込み”が許す限り、戦闘の組み立て直しが出来るわ。
これ、どういうことか、解るかしら」
「ええと……」
「……逆説的に言うと”組み立てのある戦闘は、視点の変更や移動があると出来る”ということですか?」
「ええ。そういうこと。――駆け引きを書くには、相手と自分の視点が交換されるでしょ? あれも視点の変更を自分と相手の間でやっているのよね。
だから駆け引きを描くとき、片方の視点が長く続くと、追い詰まったり追い詰めていく描写にはなるけど、ダレもするから注意ね」
●
「戦闘の組み立て直しについて、もうちょっと具体的に話せますか」
「そうね。まあこれは戦闘に限ったことじゃないけど、次のロジックを憶えておいて」
・障害の発露:困難な状況が発生、または発見、予見される
↓
・障害の打開:困難な状況を解決する、未然に防ぐ
「これが”組み立て直し”の構造。
つまり戦闘というものは”勝敗”ではあるけれど、その中には幾つものこのロジックが存在していて、次のようにしたものが勝つの」
・勝利に至るために必要な障害を、先に全て打開したものが勝つ
「じゃあ戦闘の組み立てとは何なのか。言える?」
「ええと、以下のようなことですか?」
・その戦闘を勝利するのに必要な障害と、打開方法を用意しておくこと。
「そうね。じゃあ、戦闘の組み立て直しとは、どういうことかしら?」
「ええと、ここまでの言葉を使うと、こうなります」
・発露した障害に対し、打開する態勢を作ること
「そうね。強敵であればあるほど障害は多く、そのためには正面から殴り合っていたのでは打開のバリエーションが尽きやすいわ。
だからフィールドを広く使い、視点を移動させたり変更して、障害に合った打開を発生させてあげるの」
「今更ですけど、組み立て直し、という言い方が何となく通じにくい場合”仕切り直し”と言ってもいいかもですね」
「初めはその言い方考えたんだけど、それは劣勢挽回のイメージが強くなっちゃって。だからフラットにいうと”組み立て直し”かな、と、そんな感じね」
●
「――で、大きな敵を相手にしたり、城攻めとかする場合、攻撃する位置を変えることがよくありますが、それはつまり、移動することで相手の防御の隙を突いたり、攻撃されないようにするという、そういう”障害に対する打開”をやっているんですね」
「隙の解る場所への移動と、攻撃の来ない位置への移動は、解り安い”フィールドを広く使う方法”であり”障害への打開”よね」
●
「なお、参謀や軍師キャラって、多くの場合”優れた作戦を立てる”みたいな役目だから、戦闘が始まると賑やかしになりやすいんだけど、フィールドを広く使う場合”障害の打開方法に気付く”とか、そういう役目が得られるから、軍師キャラも活かせるわよ」
「ああ、うちの軍師キャラは効果的な処でろくなことしませんよね……」
「あれもタイミング読んでるから嫌な組み立てよね……」
●
「あとまあ、”移動”とか言ってるけど、もしも移動をしていなくても、相手側との攻防が無ければ、そこには”時間が発生する”わ。
”フィールドを広く使う”ことと、”移動による時間の発生”は直結していて解り易いからメインとして挙げているけど、それ以外の方法でも条件次第では時間が発生すると思って」
「防御や、例えば逃走でも、時間は発生しますよね」
「そう。でもそれらは”フィールドを広く使っているか”と考えると首傾げるから、メインとしては扱わないだけと、そう理解して」
●
「距離を作ることで時間を得ると言うことは、”距離を空けて仕切り直し”とか、そういう感覚ですね」
「ええ。アウトレンジに移動することで、相手の隙を見つけたり、自分の有利な位置につく。そして武装を調整し直す、とかね。
フィールドを広く使うというのは、そういうふうに時間を得ることで”戦闘の準備”に近しいことを出来るようになるということ。
これは、戦闘が単調にならないで済む、という利点があるわ」
●
「これは、2D一対一では、無いことなんですか?」
「2D一対一だと基本は”読み合い”だけど、こういう”時間の発生”は、あるわよ? さっき、アンタ言ったじゃ無い? ”防御”って」
「アー」
「2D一対一の場合、多くは距離が近すぎて、距離を取るような時間はなかなか得られないわ。バックステップとか、そのくらい?
だから2D一対一の場合”読み合い”が重視されるけど、もしもこのような”仕切り直し”のようなことをしたいなら、”回避・防御・剣戟の攻防”などで”凌ぐ”中で、それを行うべきよね」
「つまり”時間が経過するが、状況はさほど変わらない”という時間帯であれば、”時間は生じる”訳ですね」
「ええ。特に、それら回避動作や防御動作、剣戟の打ち合いが、そのまま別の新しい攻撃に繋がるならば、一瞬の思考から、違和感なく仕切り直しが出来るわ」
「あと、バックステップとは逆に、”突き飛ばし”みたいな風に、強引に距離を空けて1ターンくらいの間を生むのも有りですよね」
「そうね。ガード崩しやブロッキングとかも同じかしら。
2D一対一の場合、キャラクターは”読み合い”を通常としてるような連中だから、”わずかな間”で充分に仕切り直しを出来る説得力があるわ。無論、出来ることも大がかりなものじゃないけど、でも戦闘のアクセントとしては充分。
そのあたり、いろいろ気付いたら仕込んでいくのがいいわね」
「2D一対一では読み合い差し合い。
箱庭ではじっくり距離や時間を取って仕切り直し。
スケールの違いによって、戦闘の速度感や、戦術の濃さが変わりますね」
「そう。近接戦の”読み合い”がどうも上手く書けない、という人は、こういう”距離や時間の発生による仕切り直し”を作るようにすると、解決出来るかもしれないわ。
うちの場合、意識して両者を組み込んでるから、マー常に反射神経と思考のやり合いになって密度が濃くなるわね」
●
「つまり3Dフィールドの戦闘は、そんな風に”読み合い”が出来ないレベルのキャラでも、フィールドを広く使って何度も仕切り直しやアタックが掛けられるの。これは、どんなキャラでも戦闘で活躍出来るということに直結するわ。
如何にも”今の作風”っぽいでしょ?
それを理解した上で、前回で出した図を見てみて」
「アー、確かにこの動きの動線の中で、リロードしたり、相手の術式の仕組みを推理したりとか、そういうのをやる訳ですね」
「そのとき、写実派としては、見据えた相手の後ろに広がる風景を描写すると、一気に浪漫度が上がるわ」
「浪漫度?」
「ええ。浪漫度よ。何しろ描写する意味が浪漫以外の何もないけど、でもコレ読者の支持を絶対得られるし書いててアガるから忘れちゃ駄目よ。ちなみにコレ、御気持ち指南だから忘れても全く構わないわ」
「ロマンドって書くと、ブルボンの御菓子みたいですよね……」
「まあそこらは冗談として、周辺の風景などを描写するのは結構大事。
何故かというと,――頻繁かつ長い距離を移動するため、フィールドにおける自分や他の位置関係を読者に把握させる必要があるから」
●
「アー、確かに……。2D一対一の場合は、相手と自分だけで、距離も短いから、攻撃の左右とか、そういうのだけ気をつけていればいいんですが……」
「3Dの場合、横に移動しただけで(フィールド中心から見た)自分のいる方角が変わるからね。だから細かく、しかしうるさくならないように、何が見えているか、自分が何処に向かうか、などは書いて行く必要があるわ。
特に大事なのは、移動をする際、”何のために移動するか”を示しておくと、読者は目が滑らずに済むから憶えておいて」
「”回避のために右へステップ”と”右へステップ”では、結果として回避が出来ても、頭の中に入ってくる情報の重さは全く違いますからね」
「基本的に、
・行動には目的が伴う
・行動の目的を示した方が、読者の目が滑らない
こんな風には憶えておいて」
●
「しかしコレ、作者側は”何かをするためには、どのくらいの時間が必要か”を理解していないと駄目ですね」
「そうね。”一秒でどれだけ移動できるのか”とか”剣を振って・止めて・戻すまでに何秒かかるのか”とかは、読者側でも想像が出来るものだから、ここらへんは想像の中に計上しておかないと駄目ね。でも――」
「でも?」
「例えば誰かの戦闘描写が長引いた場合、そこでどのくらい掛かったかを想像することが出来れば、他のキャラがどの程度の行動をしていたか、割り出せるでしょ?
時間を把握することで、”書くべきキャラの行動”を区切りの基準として、タイムラインを進め、その中で、書かれてないキャラの行動を管理していくの」
「大変ですね……!」
「そうね。でも、この管理をしておくと、いいことがあるの」
「それは?」
「戦闘の伏線が仕込めるの」
●
「戦闘中、視点となっているキャラからは、当然、他のキャラの行動が見えてもいいし、言葉だって聞こえてもいいわよね。
だから、それらの中から”決着に必要なもの”を抜き出して描写しておくことによって、決着の際、それを伏線として使う事が出来るの」
「位置関係や動きを把握することは、さっき言ってた”ワープ”とかをやらかさないだけじゃなくて、逆に”伏線を作れる”ことになるんですね」
「そう。”戦闘が書ける”というのは、書き手としてこういう”差”を生むの。
上質な戦闘シーンは、振り返ってみると全てが決着のための導線だったと解る芸術品だから、そういう書き手は大事にしてあげてね」
●
「でもまあ、そうやってフィールドを広く使う訳ですが、しくじるとどうなるんです?」
「ええ、こういう感じ」
「フィールドを”広く使ってる”けど、実質2D戦闘!」
「コレ、勘違いしやすいのよね。ちゃんとフェイントとか後ろに回るとか、隙を突いたり次の戦術のためにいい位置取りをしたり、そういうのもやらんと駄目よ?
そしてこのミスをやらかしてるってことは、ほら、今さっき言ったばかりの、
・戦闘の組み立て
・位置関係の把握
という概念が頭の中に無いの。
その概念があれば”アー! 今、同じ処を行ったり来たりしてるだけ!”って気付くから」
「……このミスをやらかす場合、書き手が、
・キャラがフィールドの何処にいて何処に移動するとか、そういう描写をちゃんとやったことが無い
・戦闘を始まりから終わりまで組み立てたことがない
ってことになるんですね」
「ええ。無論、そういう大きな位置変化が必要ない戦場だってあると、そんな言い訳もあるでしょう。
でもそれと位置関係の把握についての概念が無いことは、別問題よ。
位置関係の把握の概念があれば、位置を変えないことについて”何故、位置を変えないのか”が戦術として書けるし、それは読者の得る面白さに繋がるんだから」
「……この箱庭、つまり平面3Dフィールドは、意識してないといけないことが多いですね」
「あら、幾つか書けば憶えるわよ。
大事なのは、意識忘れがあったとしても、次でもっと良いのを書こうと思うこと。
一生の全てが一回の意識忘れで終わる訳じゃないし、こういう”技術”は、”高めていくもの”であって、失敗したからって、そこまで積んだ高さが失われる訳じゃ無いのよね」
「いいこと言いますね! 無責任ですけど!」
「当たり前じゃない! 無責任だから言いたい放題よ!」
●
「じゃあ、最後のスケールになりますが……」
「ええ、これはもう、見れば解るわよね」
「ランドスケープ。今ではFPSとしての対戦型STGとかがコレに該当するかしら」
「コレ、どう書くんです?」
「あら、箱庭とほとんど同じよ」
・範囲が大きくなった(端が無い)
・勝利条件の幅が広くなった
・狙撃、またはアウトレンジ攻撃方法の充実
・密集する建物(オブジェクト)の間に、道や広場が存在
・戦闘自体は箱庭と同じか、2D一対一の場合が多い
・遭遇戦が多発するため、戦闘要員の交換、補充、脱落が発生する
・オブジェクトを利用した戦闘だけ注意
「ほとんど同じな一方で、色々ありますね!」
「そうね。ただ、要素と手段が増えても、運用は同じ。ゲームで言うなら、生産の畑が増えて街にも出られるようになりました、って処ね」
●
「範囲が大きくなったというか、果てが無いですね……」
「そうね。それによって、箱庭で大事になった”時間と距離”の最大値も膨大となるわ。
つまり、フィールドがほぼ無限である以上、相手と距離を空けられるなら、無限に”戦闘の組み立て直し”が出来るの。
これ、意味解るわよね」
「アー、たとえば、ゾンビものとかのシティサバイバルって、無限に近い仕切り直しが可能な”戦闘”ってことですか……」
「そう。だからこれまでのような”相手を倒す”が勝利条件の場合、かなり気が抜けることになりやすいわ。だって、逃げ切って仕切り直しが何度も出来るんだもの」
「だとすると、勝利条件によっては、時間制限や、敗北条件なども別で儲けて、緊張感出さないといけないですね……」
●
「距離が広くなったと言うことは、戦闘方法に幾つかの追加要素を得ることになるわ」
・狙撃、アウトレンジ攻撃方法の充実
・移動手段の充実
「私なんかは魔女だから、機殻箒による狙撃と移動を両方持ってるし、実際、艦間狙撃とか航空戦闘とかよくやってるわよね」
「私も遠距離狙撃がありますが、つまり一都市クラスのフィールドで戦闘をする場合、狙撃のような攻撃や、高速の移動手段が、それぞれの装備などにあっておかしくない、ということになるんですね」
「そうね。近接戦は戦闘の華だけど、狙撃やアウトレンジ攻撃も、もはやこの3Dフィールドでは花形となり得るの」
「でも、遠距離攻撃は有利ですよね。接近するまでにガンガン撃ち込めるので」
「あら、相手側だって同じような狙撃系を準備してるだろうし、このフィールドには障害物となる無数のオブジェクトや通路があるのよ。そして遭遇戦や人員の補充もあり得るわ。
書き手の用意次第だけど、”●●だから有利”はあり得ないわね」
●
「……そんなこと言って気付いたけど、アンタ障害物とか無視の貫通砲撃だし、範囲攻撃もぶち込むのよね……」
「対人は禁止! 禁止ですから!」
●
「でも、これだけ広いフィールドで、基本は箱庭と同じなんですか?」
「ええ。市街や屋外が舞台となった場合、階段や歩道橋など立体交差を戦場としない限り、立ち回れる範囲はあまり箱庭の平面3Dフィールドと変わりが無いわ。
狭そうな場所の広さを見てみると――」
・道路幅=3m~3.5m:歩道などがあると5mを超える
・6畳間=352cm×264cm×240cm
「大体の数字だけど、こんな感じかしら。それなりにあるのよね。
狭いかどうかは戦い方や、使用する武器次第だと思って」
「道路上だと遠隔系は撃ち放題ですけど、六畳だと駄目ですね……」
「逆に言えば、障害物があれば遠隔系には近づいていけるってことよね。
この事から、位置取りの重要性が増すわ」
「つまりランドスケープの場合、内部スケールとして、戦闘のスケールが複数あるんですね」
・遠隔 :遠隔系が攻撃出来て、近接系は近づくだけのスケール
・中距離:遠隔系が攻撃出来て、近接系も自分の移動を含めて届くスケール
:箱庭の戦闘スケールに近い。
・近接 :遠隔系が攻撃出来ず、近接系だけが攻撃出来るスケール
:2D一対一の戦闘スケールに近い。
「まあ凸スナとかもあるから一概には言えないけど、こういうスケールの戦闘が同時に存在しているのが、このランドスケープの戦場ね。
これらはキャラクターの位置関係によって切り替わるけど、それはキャラごとに行われるものであって、全体が一斉にそうなる、ということではないわ」
「それぞれのキャラを管理するあたり、箱庭と同じですね……」
●
「……使う装備や戦術は変わりますし、複数のスケールが内部に存在しますが、それを管理しているのは”時間”なんですね」
「そう。時間を把握することによって、移動と攻撃を含めそれぞれが出来ることのコストが計上でき、それによって行動を決めることが出来るわ。
箱庭戦闘で、そこの概念を理解しておけば、後は戦場の要素として増えたものを理解するだけで、書き方をアップデート出来るの。
逆言うと、距離と時間の概念を理解してないと、どんなにいいキャラや戦術とかを用意していても、散らかった戦闘になるから注意ね」
●
「さてまあ、戦闘スケールについて語ったことで、とりあえず”戦闘の表現”は大体示せたと思うわ。
戦闘シーンで示される”戦闘”は、そのスケールによって描かれ方が変わる。
そしてこの”戦闘の表現”から”戦闘の納得”に対しても、フィードバックがあるの、解る?」
「ええと、”戦闘の納得”では、戦闘の決着に納得性を与えるために、”仕込み”をどのように仕込むかと、駆け引きのルールも含めて話をしましたが……」
「そうね。では、”戦闘の表現”と、それらが密接に絡むのは、何処?」
「――”時間”です!」
●
「正解。
時間の管理によって、”戦闘の組み立て直し”が可能となるのよね。
だから、”仕込み”において、戦闘開始前に仕込んでいないもの。つまり戦闘中での”仕込み”を行うには”時間”を管理しなければならないの」
●
「戦闘を完成させるには、二つの要素を理解しておく必要があるわ」
・戦闘の納得:どれだけ仕込みを見せれば読者が決着に納得するか
・戦闘の表現:”距離と時間”の管理によって、”仕込み”の回数を管理する
「納得側が要求する仕込みの回数を、表現側が用意しなければならないんですね」
「そういうこと。
これが噛み合ったとき、その戦闘は完成するわ。
逆に言えば、どれだけデカいスケールの戦闘などを作っても、両者が噛み合ってなければ、スッキリしない戦闘になるの」
●
「でも、どれだけ”仕込み”をやるべきなんです?」
「”仕込み”=駆け引きとした場合、私は、少なくとも4回はすべきだと思ってるわ」
「4回も!?」
「”必殺技”だって仕込みの一つとして考えると、ブッ放し系だって、仕込み+1なのよ。そしてまたゲームの話になるけど、私達は、”駆け引きの面白さ”を、あるゲームによって知ってるのよね」
「ここでボンバザル(KEMCO)とか言い出したら全て台無しですよね……」
「あれも”クリア出来ない面”とか、そういうの無ければねえ……。
でもまあ、そうじゃなくて、――TCG。遊戯王とかMTGとか、如何かしら」
●
「TCGブームによって、今の二十代~四十代の多くがルール化された”駆け引き”の面白さを知っているわ。それも派手な逆転劇の流れを、ね。
だとしたら、ラノベだってそれと同じ密度の戦闘を見せなければ、読者が過去に通過した面白さにも満たないことになるわね」
「じゃあ仕込みの回数は……」
「4回。こんな感じでどうかしら」
仕込み1:敵側が押してくる
仕込み2:自分側が逆転
仕込み3:敵側が逆転
仕込み4:自分側が逆転
「同じテンポでタラタラやってると飽きられるから、3は即座にひっくり返して、4はピンチを楽しんでから逆転、ってのがいいんじゃないかしら」
「つまり戦闘の場合、仕込みを4回やれる分の”時間と距離”を管理しなければならない訳ですね……」
「そういうこと。
難しく考える必要は無いわよ?
戦闘に入るとき”4回状況をひっくり返すために、どういう流れにしようかな”って考えてるだけでも充分違うから」
「あと、この”4回”をメインパターンとすれば、敢えて3回や5回とか、崩していくことで読者の意表を突くことも出来るから、基礎としてのパターン構築は重要ですね」
●
「まあこんな処ね。大体、こういうの考えながら書いてるわ」
「いつ頃からなんです?」
「そこらへんは今度別で語るとして、今回は、マーこれ見てみて」
「これは?」
「ホライゾンを書くとき、2009年に友人の作家達に見せた図ね。言ってたことも、今回とほぼ同じだわ。
でも、13年前にコレを示してるとか、ちょっと予言者くさくない?」
「進歩してないと、そういう言い方も出来るんじゃないですかねえ……!」
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