『機甲都市 伯林』更に固まる装丁
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「今回の話は、ちょっと重めのネタが続いた昨今の中で、久し振りに装丁紹介です。以前にあった巴里とDTの間、新伯林五巻分ではどのような設計がされていたのでしょうか。そんな話ですね」
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「実は今、コミケの準備中で忙しくてね……」
「内情を出さない! 出さない!」
「じゃあ、何か聞きたいこと、ある?」
「新伯林は巴里とDTの間にある作品ですが、装丁としては、DTでちょっと極まってる感ありますよね。では、その前にある新伯林の装丁を今更見直す意味って、何なんでしょうか」
「アー、それは簡単な話ね」
「?」
「巴里が、うちの装丁の始まりで、DTが装丁として出来ることを当時として突き詰めたものだったとしたならば、新伯林の装丁は”大シリーズを前提とした装丁”なの」
「それは一体……」
「ええ。うちの長尺シリーズ。クロニクルやホライゾンのことを前提とした、そういったシリーズものとしての装丁の試作なのよ」
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「試作? どういうことなんです?」
「ええ。じゃあチョイと新伯林の装丁を見て行きましょう。今になって見直すと”アー、コレ!”みたいな、今に通じる装丁になっていたりするから」
「一巻目となる”37”、口絵はタイトル付きの中扉ですね」
「この空の色が各巻で違うのが特徴ね」
「巴里などと同じく、キャラ紹介としての口絵ですね」
「他ページではメカとかガジェットの紹介やってるけど、ちょっとここで、最終巻となる”43EE”の口絵、見てみましょう」
「あ、伯林の市街と歴史の解説ですね……!」
「ホライゾンのためにいろいろ資料持っていて良かったわ、って感じね。各国の代表都市の歴史とか、資料を集めていたからコレ出来てるの。巴里でもチョイと市街の解説入れていたけど、それも同様ね。
既にホライゾンの準備から生まれた、派生としての知識でここらへん作られてるわ」
「都市が始まりではない、という話ですね……」
「口絵の8ページ目は、世界観と繋がったネタページ。一応、新伯林の世界の中でこんなのがある、という前提で作っているわ。
巴里ではちょっとラフな作りだったけど、ウケが良かったから、新伯林で力を入れた作りが始まってるのよね」
「注力するところが間違ってる気がしますが、まあそういうものですよね」
「感じ感じ。だから、ネタページの始まりは香港やOSAKAの真面目な年表とかからスタートして、巴里で軽く砕けて、そして新伯林で確立してるのね。
以後、方向性とかいろいろ変化しつつ、しっかり素材立てて作る、というのは、ここで決まったの」
「目次が画像使用。各巻で背景の画像が違って”新伯林の事件の資料”を見ている、ということになっています」
「そう。つまり新伯林は、後年に当時の記録を文章起こしされたもの、という設定なの。作品に対し、深みを与えるというか”格”を上げるような意味で、その作りにしてあるわ。
つまり装丁が、そういった設定を肯定していて、一個の作品となることを補助してるの」
「あ! 連続見開きですね!!」
「巴里ではここでタイトル見開きが一つ入ったけど、新伯林では世界観を見せる見開きが一つ入って、そしてタイトル見開きね。
巴里などとは違って、”歴史”あるタイトルとして、やはり格上を示すために見開きを多めに作った感じね。
そして、この後で序文があって、章タイトル」
「序文は、音楽家ネタですか?」
「新伯林のガジェットとなっている”強臓式”のアーティファクトは、どれもクラシック音楽の名前がついているの。それもあって、各所に音楽ネタが散らばってるのよね」
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「……今更ですけど、クラシックとか、聴くんです?」
「……ぶっちゃけ、私個人としては”クラシック解ってます!”なんて風に見られる自分は想像したくないわ……。寒すぎるもの。あ、他の人はどうか知らん、って感ね」
「アーまあ個人の価値観として」
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「さて章タイトルを見れば解るけど、この時点ではまだアンチエイリアスを切った二値化線画で出しているのよね。つまりまだ印刷所のデジタル対応が甘く、線の縁がジャギりやすい時代だったってこと」
「なかなか技術の進歩がもどかしいですね……」
「そうね。でも新伯林を進めている間に、印刷所も内部を更新して、直後のDTではそこらへん出来るようになってるから、そういう意味では新伯林はボーダーの時代の最後に立ち会ったタイトルとも言えると思うわ」
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「章タイトルの裏は、DTでもあったような解説ページ。このような注釈チュートリアルは、新伯林からスタートしているわね」
「ここらへん、新伯林が”ここから始める都市シリーズ”みたいな役目を持っていた事に由来しますね。シリーズものとして”代表作”になることを想定した作りです」
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「しかしまあ、ちょっと今回の装丁から外れた話が、この例としてアップしたページにあるんだけど」
「ええと、……カール大帝とか、異族と人が共存とか、ありますね。十世紀に救世者が現れ、それらをまとめた、とか」
「後の巻で、ビッツマンとエルリッヒ(二人とも新伯林の重要人物)が、当時の過去の再現の中で最初に出会う敵は何だったかしら?」
「竜ですね」
「ちょっと話が飛んで、巴里の下巻、ブルゴーニュの山奥に住み着いていたのは?」
「竜ですね」
「ハイ結論をどうぞ」
「HDDDじゃないですか!」
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「超遠投の伏線よねえ」
「どういうことなんです?」
「どういうことも何も、そのままよ。ホライゾンの世界を中学校時代から構築していく中で、こんな風に考えたの。
”人類と異族達が仲良くやっていくとしても人類と異族は性能や特性が違いすぎる”って」
「アーまあ精霊と人とか、似てるようで結構違いますよね」
「だとしたら、そこに不公平や不平等を感じる者達による覇権戦争があって、それを経たことでお互いが不可侵や協調をした、と考えられるんじゃない?」
「だとすると、その不公平や不平等って……」
「ええ、生物として極大性能を持つ竜属」
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「とはいえルーンクエストなんかでも、過去に人類と竜属の”ドラゴン戦争”が起きていたりするし、古代では竜が世界を支配していた、とか、そういう設定のあるファンタジー世界って、結構あったのね。
ザナドゥやソーサリアンの”ドラゴンスレイヤーシリーズ”も、竜属の侵略を受けているような話だし」
「それが”うち”だと、古代ゲルマンのアレになる訳ですか」
「中学校時代、ローマ滅亡の話を授業で受けていて”意味が解らなかった”のよね。無茶苦茶デカい帝国が、民族の移動とかで滅びるもんなのか、って。
今だと、通信技術の未熟とか、そういうのも解るけど、当時はよく解ってなくて。
そこに”ドラゴン戦争”とかの流れが来たから”無茶苦茶強力な種族が、巨大な帝国を席巻する”って、置き換わりイメージが頭の中に出来たのよね」
「――で、それが、ここで出てきた訳ですね」
「そういうこと。何で中世の欧州に竜が? とか、都市シリーズの頃は理由付けが解らなかったと思うけど、今だと簡単よね。
都市世界でも同じようなことが起きていて、メインはカール大帝の戴冠で大体決着したけど、残党や余波は各地にあったの。それをまとめて平定したのが救世者よね」
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「何が何だか、という感ですが……」
「だからまあ、”都市を読んでおくとホライゾンが面白い”なんて意見が昔にはあったかもだけど、今だと逆じゃないかしら、と私は思ってるわ。
”ホライゾン読んでおくと都市が面白い”っていう風に」
「確かに実際の設定の影響からすると”都市→ホライゾン”よりも”ホライゾン→都市”の方が遙かに量がありますからね……」
「都市は商業的に先に出たけど、実際の設定とかはホライゾンなんかの方が遙かに先で、都市はそれをベースにしてるものね」
「それはもう、世界観が作られていく流れと、分量的なもので、当然のことではありますね」
「そうね。これはクロニクルに対しても同様だから、ホライゾンは全体のグレートマザー感あると思ってるわ」
「じゃあ、ホライゾンに対しての、そういうのって、ありますか?」
「”神々のいない星で”がソレじゃないかしら。ホライゾンの教譜や神々、地政学的なものに対し、神話の伝播などから超古代の地政学や神々のあり方を示しているから。だから都市や、クロニクルなんかに対しても、知識のベースとして読めるわよね」
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「いきなりの深掘り話が始まるのが、このコラムの恐ろしい処ですよね」
「油断してるとサドンストライクするけど、ホント、気分と”あ、思い出した”で話し出すから、何処のコラムに何の情報があったか、私でも解らないのよね……」
「何てアバウトな25周年……」
「ともあれ装丁の話をしましょうか」
「挿画の話ですね」
「挿画は枠あり。始まりの37と終わりの43EEで、ちょっと対比的な構図があったりしますが、ここらへんもシリーズものの面白さですよね」
「”ベルガーが立ち上がって視線を等しくするようになった”ってだけで、世の御母様方は感涙するわよね……」
「不良息子を見守るアレですよね。新伯林の場合、初めは”何だかんだで頼れるキャラ”に見えていたベルガーが、ヘイゼルの成長と対比して読者側でも”コイツ、実は面倒くさい輩なのでは……”って解っていくあたり、ちょっと変わった構成です」
「作中時間が8年あるものね。そういう、”視座の変化”があるのも、シリーズものの面白さよね」
「挿画はそういうものを明確にしますよね」
「そうそう。そんな感じで口絵から挿画も見たとして、もう無いと思いきや、まだこれらがあるのよね」
「末文に次回予告……! 今だとシリーズ存続確定が解らないので、到底出来ない方法ですね……!」
「いや、コレ、1939って言ってても、次が”新伯林”だとは明言してないので、たとえば新伯林が打ち切りになった場合、別都市で1939やれば辻褄は合うのよ」
「アー」
「まあそんな感じで、いろいろとやりようはあるのね。それでコレが、一巻目にあたる37の場合」
「他、パターンがあるんですか?」
「ええ。やはり最終巻となる”43EE”、それは末文の処から、こういうのが始まるの」
「独逸創始記」
「新伯林は、十世紀に独逸の異族達を平定した”救世者”の物語が深く関わってるのね。
救世者は皆の幸いを導いた。でも個人の幸いは得られなかったっていう、そんな内容でもあるんだけど、これがまず、4作目である”43”の冒頭で、絵本調にして全文載るの」
「気合い入ってますね!」
「ホントホント。
でまあ、ネタバレ上等で言うけど、新伯林の主人公ヘイゼルが、実は時間を超えて過去に落ち、そこで救世者となっていた事が解るのね。そして彼女は、ある方法で現代に戻ってくるんだけど、その流れは悲劇的な結末となるの」
「マズイじゃないですか。悲劇決定とか」
「そう。独逸創始記がこういう内容である以上、ヘイゼルの悲劇は確定している。だけどそれを何とか変えよう、という試みも行われた後で、ヘイゼルは過去に降りることを決意。
それでこの創始記が、良い方に書き換わったものが最終刊の末に全文掲載されるのね。差が解るかしら?」
「本編では、ヘイゼルが幸いな未来を得たかを語らず、この絵本で間接的にそれを見せる訳ですね」
「そう。そしてこの創始記はこんな感じで結ばれているの」
「おお、煽りますね!」
「そうそう。そしてこの次のページが、見開きでこんな感じ」
「コレ、小説の作りとしては、どういうことだか解る?」
「……つまり、本文で真の結末を語らず、装丁で語ったんですね!?」
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「そういうこと。読者が新伯林5巻分を読み、本文と装丁がどのように機能しているかを理解しているからこそ出来る技よね。
独逸創始記で語られている過去の内容なんて、本文で書いたらどれだけの量になるか解らない。だけど絵本調なら”本の中の本”として機能する。
その上で、最後の見開きは、やはり挿画として機能しているから、どちらも”文庫本”の装丁として逸脱していないし、浮いてもいない」
「何となく、映画のスタッフロールの横で流れるアレと、その後で入ってくるラストのカットとか、そんなのを思い出しました」
「ああ、香港映画でNGシーン流しながら広東語の歌が聴けるアレ」
「それはまた別ですけどね!」
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「しかし、いいエンディングだわ……。何か他の小説で、ラストの見開きに喜ぶ全裸と、ドロボウ風呂敷担いだヒロインが出てたのあったけど、格調が全く違うわよね……」
「あれはうちの芸風! 芸風!!」
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「全体として見ると、装丁は物語のイメージアップや、補完に貢献してるわね。
一巻目の冒頭から、歴史に触れて、最終刊に向かっては更なる歴史を”実物”を見せるように推移し、更にその書き換えとラストで、これまでの本文が培ってきた内容を”本文で語らずに見せている”と、そういうこと」
「テンプレ的な装丁ではなく、”新伯林専用の作りをした装丁”が、幾つもありました。
コレ、シリーズものだから出来ることですね……」
「上下巻でコレやったら、流石にちょっと大仰感あるわよね。だからDTでは、序盤で見せるにしてもキャラクター達の過去くらいで、歴史的な大過去には触れてないわ」
「適材適所ですね。そしてこの”シリーズ用の装丁”が、後のクロニクルや、ホライゾンに活かされていく訳ですね」
「そうね。まだDTPが黎明だった時代。デジタル入稿が切り替わるボーダーの時代に、まあこういうことをやり始めて、今に続いているのがうちら、ということね。
逆に言えば、ここまでのことが今ならもっと上手く出来る筈だから、皆には”夢”を見て欲しいわ。
――自分の物語に合った装丁って、どんなだろう、って」
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「そんな訳でオマケコーナー」
「何ですかいきなり」
「いや、巴里と新伯林は、実は私が背景描いてんのよね、だからまあ、こういう絵があった場合……」
「実は背景にこんなの描いてるわ」
「あぶねえー。キャラの影で隠れて良かったわね……」
「何してるんですかね一体……。あ、でも、真面目なネタとして。実は独逸創始記、カラーなんですよね」
「白黒化する場合でも、元色があった方がそれっぽってことで、リアル水彩で色をつけてるわ。何はともあれ、本気度高いし、ここでこれだけやったから、以後のクロニクルやホライゾンの装丁でもレベル高いものを頭の中に描いて居られたのよね」
「装丁だけに想定が出来るとか、正純のネタみたいですよね……」
「ソレ、実はここまでに何度か書きそうになって、逐一書き直したのよね……」
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