戦闘描写や駆け引きの思案(前編)

「今回の話は、戦闘の駆け引きがやたらと充実している川上作品、どうしてこういう作風になったのか、そのやり方や発想とは何か。そんな話ですね」


「戦闘シーンについてはぶっちゃけTwitterでケッコー言ってしまってるのよね。Twitterの発言をスクショして貼り付けて終わりにしたら駄目?」


「二十五周年はTwitterでやってないんで、ちゃんと言わないと駄目じゃないですかね……」


「アーまあ確かにね。じゃあとりあえず戦闘シーンだけど、ちょっと定議が必要よね」


「定議?」


「戦争と戦闘の違いは何?」


「アー……。えーと」


「戦争は、戦闘の集合? あと、国家間の戦い? でしょうかね……」


「なかなか良いわね。辞書で言葉の解釈を見ると、こんな感じね」



・戦争

 :国家が他国に対し、自己の目的を達するために武力を行使する闘争状態。国際法上は、宣戦布告により発生し、当事国間に戦時国際法が適用される。

・戦闘

 :戦うこと。特に、兵力を用いて敵に対し、攻撃・防御などの行動をとること。


「戦争は”状態”、戦闘は”状況”って処かしら。

 そういう意味では、今回の話はまさしく戦闘ね」


「戦争は戦闘を伴いますけど、戦闘は戦争を必須としない……、そう考えて大丈夫ですか?」


「そうね。戦争に関わるものだけが戦闘じゃないわ。戦闘って、結構、広範囲な争いごとを含む”枠”的言い方なんだと思って」


「そういう意味では、私達がラノベとかでよく見る戦闘は”戦うこと”を意味してるんですね」


「そんな訳で、今回の話は”戦うこと”の中でも一対一やグループ戦くらいの話ね」


「何となく思いましたけど、”一対一”とか、そこらへんに対応する日本語って、あまりいいの無いですよね」


「タイマンとか決闘じゃあ、ちょっと違うものね。一応、英語ではいろいろ区分があるけど、こんな感じね」



WARFARE

 :戦争行為、武力衝突

BATTLE

 :(特定の地域における組織的で大規模な)戦い、戦闘、(個々の)戦争、闘争、勝利、成功

COMBAT

 :交戦、戦闘

CONFLICT

 :対立する、矛盾する、戦争する

STLUGGLE

 :苦闘、格闘、闘争

GRAPPLE

 :取っ組み合う

FIGHT

 :喧嘩、口論、試合

DUEL

 :(二者間の)闘争、決闘


「BATTLEが面倒な区分の投げ込み場所ですね……!」


「マー大体BATTLEで言っておけば正解? みたいな。しかしFIGHTが喧嘩ってのが、ちょっと意外よね」


「試合もあるから、有りと言えば有りですけど、……海外はいろいろありますね」


「スポーツ的にトーナメントやってた流れかしらね。BATTLEが個人も含んで、グループだとCOMBAT、二者限定だとDUELって処かしら」


「日本語だと、やはり決闘とか闘争とか、ちょっと強めなイメージになる気がします」


「だからいろいろなコンテンツだと、ここらへんを”FIGHT!”とか”DUEL!”って言い換えているんだと思うのね。うちでも、ほら、あるじゃない?」


「何がですか」


「”相対”」


「……アー! アレはそういう言い換え……!」


「交渉とか戦闘とか、何でもまとめて言う場合、戦闘の内容や規模よりもその状態を言った方がいいと思って。だから”相対”なの」


「では”戦闘”について、軽く」


「軽く? 解ったわ。あれは私が小学生の時……」


「軽く! 軽く!!」


「二度ネタだからもうちょっと叱っていいのよ? ――で、戦闘についてだけど、基本的にここでは一対一やグループ戦程度の規模の話をしていくわね。

 そして、書き方ではなく、エンタメにおける戦闘というものが、今、どのようなレベルのものを望まれているのか、という、自分の観測だけど、そんな話をしていくから」


「どのようなレベルって、……どのような?」


「ええ、まず、これを考えるべきなの」



1・戦闘の納得

2・戦闘の表現


「……どういう?」


「ええ。戦闘というものは、二つの要素から出来上がっているだろう、という話。

 つまり、こういうこと」



1・戦闘の納得=戦闘の決着を、どう納得させるかというロジック。

2・戦闘の表現=戦闘が、どのようなアクションをしているか。


「戦闘の決着を納得させるロジックと、戦闘のアクションって、別のものなんですか?」


「よく考えれば解るけど、これがもし同一のものだとしたら、戦闘の決着は、いつも同じアクションでなければ納得できないことになるわ」


「アー……。そう言われてみると確かに」


「無論、そのように”固めた”ものもあるわ。ウルトラマンや仮面ライダーの”必殺技”は、そこだけ見れば”戦闘の決着のロジックと、戦闘のアクションが同一している”ことになるものね」


「勝利がそれでしか得られない、という条件をつけているから、そうなる訳ですね?」


「そういうこと。では、その場合、それまでの戦闘の表現は”無い”のかしら?」


「……え?」


「無かったら、即必殺技で終了よね? そうではないのは何故? ――と、まあ、そういう話をしていこうってのが、今回の話よね」


「じゃあまず、戦闘の納得についてです」


「戦闘の決着については、いろいろなものがあるわよね」


「ホントにいろいろあるというか……。どういう風に考えたもんですかね」


「そうね。だとしたら、やはり簡易チャートで考えましょう」


「どんな区分です?」


「ええ。戦闘の決着を、”手段”と”展開”で、分けて考えるの」



・手段:何を用いて勝つか

・展開:どのような流れで勝つか


「こういうことね。戦闘の決着は、手段と展開の組み合わせで決まる。

 チョイとそれぞれの種類を見ていきましょう」



■手段

・必殺技

 :必殺技によって決める。

・大技

 :必殺技ではないが、大技で決める。リアル寄り。

・蓄積

 :多種の技の蓄積によって決める。

・自爆

 :相手の自爆によって決める。事故。

・応援

 :仲間の介入で決める。

・想定外 

 :本来の勝敗基準とは外れた部分で勝敗が決まる。

 :不意打ちなどもここに入る。

※他色々思いついたらそれで。


■展開

・秘匿

 :勝敗の流れを敢えて書かない。ナレ死。

・瞬殺

 :一瞬で決める。

・順当

 :手順を重ねて順当に決める。

・抵抗

 :攻撃を余裕で受けて、反撃で決める。

・逆転

 :攻撃を何とかしのぎ、逆転によって決める。

・想定外

 :上記の流れを無視したタイミングで決める。

※他色々思いついたらそれで。


「組み合わせだけで結構なバリエになりますね……!」


「これ、一緒に考えてる人が結構居るのよね。バリエーションが狭まるだけだから、別で考えてワンパを避けた方がいいと思うんだけど」


「どうしてワンパにしちゃうんですかね」


「そりゃもう簡単。受け手の求める決着パターンという、錯覚が生じてしまうからよ」


「こういう風に”手段・展開”の組み合わせで幾つもの戦闘を作るとね? あまりコストを掛けずに見る側をアゲることが出来る流れが、幾つかあると解るの」


「さっきの、ウルトラマンとかの必殺技固定のアレですか?」


「そうね。”手段”で用いてる方法が、あまりにもインパクトが強い場合、まずはそれに手段を固定されやすいわ。

 そして、その”手段”に至る”展開”の内、見る側が最も喜ぶもので、なおかつ、最もコストの低いものが選ばれて、固定されるの」


「今更気付きましたが、この”展開”を分けたのって、”尺(残り時間)を任意化する”ためですよね?」


「気付いた? 映像なら残り時間、本だったら残りページ、それによって、”展開”は出来るものと出来ないものが生じるわ。

 プロット段階からそれを予測できる場合は、尺を考慮しながら”展開”を各戦闘に振り分けて、”手段”との組み合わせで、もっとも格好良いのをクライマックスに持ってくればいいわ。

 そして書いてるとき、尺を変更したかったら、尺の短い”展開”と、それであっても効果的な”手段”を組み合わせて、変更箇所に入れれば良いの」


「そういう意味で言うと、”展開”は書き手側として大事ですね……」


「ええ。”展開”は、尺によって出来るものと出来ないものがあって、たとえば”手段”が”蓄積”や”応援”の場合、蓄積のための描写が必要になるし、応援に入るための前振りなども必要になるの。

 そして”展開”側でも”順当・抵抗・逆転”は、やはりお互いの攻防がある程度続かないと説得力が無いわ。

 そういった制約から、常に全てを選べるわけじゃ無いのよね。このあたりは、経験や、いろいろなものを見てきたかどうかで発想の幅が広がるから注意ね」


「まあ裏技として描写の短縮なんかもあるから、”長い展開を短く納める”ことは可能よね」


「”蓄積”や”順当・抵抗・逆転”系ややるときも、最初の数撃を遣り取りして”そこから数十の打ち合いが生じた後――”とかやると、一気に”長い攻防があったこと”に出来て、短縮いけますよね」


「ラスボスにぶつける必殺技を中ボスで試験したいけど、先に見せてしまうのは勿体ないと思ったら、中ボスの戦闘をしっかり書いて、しかし決着の処でいきなり”秘匿”とかね。上手くやると期待感上がるわ」


「さて、では戦闘の決着を納得させるためにどう書くか、というのは出来ました。

 でも、これは、文章としてどう書くか、ということであって、これが直接、納得に繋がる訳じゃありませんよね」


「そうね。決着のパターンを決めて、”本文が作られる”ということを担保した訳だけど、これが納得のメソッドになる訳じゃ無いわ」


「だとすると、これを用いて、どうやって納得性を付加するんですか」


「ええ。そこで用いるのが”仕込み”。これで解決するわ」


「……”仕込み”?」


「あ、これ、私の造語?だから。人によっては”戦術”とか”駆け引き”とか言うかもしれないわね 」


「アー、”駆け引き”って、今回のタイトルにあるのが、ここで出ましたね?」


「そうそう。だからここで”駆け引き”って言ってもいいのかもしれないけど、”駆け引き”だと対応出来ないものがあるのよね。だから”仕込み”」


「それは一体……」


「ええ。考え方としては単純なの。つまりこういうこと」



・”仕込み”の多い方が勝つ。


「解りやすいですね!」


「解りにくかったらメソッドにならないものねえ」


「では、”仕込み”って、どういうものなんです?」


「明確にどういうもの、というものではないわ。次のような概念だと思って」



・勝つための手段

 :一手段=一仕込みと換算する。


「勝つための手段だったら、何でもあり」



・事前の準備

・現場での判断

・外からの応援


「こういうの、いろいろあるわよね。これらを一個一個計上して、数が多い方が勝つ。そういうこと」


「例をあげると、どうなります? というか仕込みゼロとか、あるんでしょうか」


「あるわよー。ナレ死とかナレ勝ちって、仕込みゼロで出来るし。

 フローとして書くと、こんな感じね。戦場はまず”仕込み0”からスタート」



仕込み:0

 :ここで決する場合、ナレ死、ナレ勝ち、何の描写も無く勝つこととなる。

仕込み:1

 :戦闘者、特殊兵器、戦術など(その存在だけで+1)が戦場に出現したら、そのまま勝つ。

※対する相手側が、こちらと同様に”仕込み+1以上”をしてきた場合。

仕込み:2以上

 :戦場に出現した戦闘者(その存在だけで+1)、何か用いたら(+1)勝つ。

以後、戦闘者が何か用いるごとに+1し、最終的に相手を上回った方が勝つ。



「2以上は同じなんですか?」


「そこから先は仕込みの数の勝負だから、どんだけ積んでも同じね」


「じゃあ、ええと、仕込みゼロが”ナレ死・ナレ勝ち”だとするなら、1は一体……?」


「うん。

 たとえば戦場で”有名な武将”が出現して、相手が”げえ! ●●!”で勝敗が決まるような状態ね。

 このとき、何も発生してないし、行っていないようでいて、しかし戦場という、元々はゼロの場所に、+1である”有名な武将”が出現したわけ。

 そうなると、ゼロのままの相手は何も出来ず、だけど”有名な武将”は、”仕込み+1”として、その”存在していること”だけで勝利する訳」


「名前勝ち、みたいなアレですね……」


「”名乗り”とか”鬨の声”って大事よねー」


「じゃあ、その状態から2になる場合は、どういうことなんでしょうか」


「ええ。その場合、まず、相手が存在することになるわ」


「そうなんですか?」


「うん。こちらが”仕込み+2”にする必然性とは、相手が”仕込み+1以上”で出てきて、それを上回らねばならない場合だものね。

 ――相手が”仕込み+1以上”で出てきたら、こちらは最低でも”仕込み+2以上”でなければ勝てない。そういうこと」


「”仕込み”を、こちらと向こうで積んでいくゲームなんですね」


「そんな感じ感じ。

 だから”仕込み+2”以上が発生している戦場とは、ネームド級、またはそういう武装や戦術による”味方vs敵”という対立構図が発生し、その積み重ねゲームが始まったことになるの」


「実はこの”仕込み”で考えると、昔話の”桃太郎”ってよく出来てるのよ」


「そうなんですか?」


「そうよ。鬼ヶ島につく処からからスタートしてみるとわかるんだけど、”桃太郎・鬼陣営”で”仕込み”を競うと、桃太郎が勝つように出来てるの。

 フローで見せてみるわね」



・鬼ヶ島(戦場)に入る前の仕込み

 :桃太郎=0

 :鬼陣営=0

・鬼ヶ島(戦場)に入った際の仕込みは、

 :桃太郎=0

 :鬼陣営=1

  :鬼陣営のホーム

   ※桃太郎を-1すると、デバフ感が出る

・戦場に桃太郎投入

 :桃太郎=1

  :桃太郎の存在

 :鬼陣営=1

  :鬼陣営のホーム

・戦場に鬼投入

 :桃太郎=1

  :桃太郎の存在

 :鬼陣営=2

  :鬼陣営のホーム

  :鬼の存在

・桃太郎、凶器(刀)使用

 :桃太郎=2

  :桃太郎の存在

  :凶器

 :鬼陣営=2

  :鬼陣営のホーム

  :鬼の存在

・鬼陣営、凶器(金棒など)使用

 :桃太郎=2

  :桃太郎の存在

  :凶器

 :鬼陣営=3

  :鬼陣営のフィールド

  :鬼の存在

  :凶器

・桃太郎、犬を投入

 :桃太郎=3

  :桃太郎の存在

  :凶器

  :犬

 :鬼陣営=3

  :鬼陣営のフィールド

  :鬼の存在

  :凶器

・鬼陣営、増援(ホーム効果)

 :桃太郎=3

  :桃太郎の存在

  :凶器

  :犬

 :鬼陣営=4

  :鬼陣営のフィールド

  :鬼の存在

  :凶器

  :増援

・桃太郎、猿を投入

 :桃太郎=4

  :桃太郎の存在

  :凶器

  :犬

  :猿

 :鬼陣営=4

  :鬼陣営のフィールド

  :鬼の存在

  :凶器

  :増援

・桃太郎、雉を投入

 :桃太郎=5

  :桃太郎の存在

  :凶器

  :犬

  :猿

  :雉

 :鬼陣営=4

  :鬼陣営のフィールド

  :鬼の存在

  :凶器

  :増援

鬼陣営に追加の”仕込み”がないので、桃太郎側の勝利


「こんな感じよね」


「鬼のホーム分、増援分の有利性を、桃太郎は仲間で打ち消してることになりますね」


「桃太郎は強いんだけど”ケダモノ三匹を仕込んで置かないと勝てない”というのも、これで解るわよね。

 そして鬼の方も、もう一回増援をやればドローゲーム。二回やれば勝てるけど、それは同じ展開を繰り返すことになるからダレて駄目よね」


「鬼達は、ここからどうすれば被害を停められますか?」


「鬼ヶ島を大噴火させて仕込みの数を合わせ、ドローゲーム。または雉が出る前に財宝をだして仕込み+1して、ドローゲームとか、そんな処ね」


「先ほど、”手段と展開”、というものがありましたけど、”仕込み”はどちらでしょう?」


「”仕込み”は主に”手段”の方ね。

 しかし仕込みの数は”展開”に影響を与えるわ」


「あー……」


「”手段と展開”をゴッチャにして考えてしまう人って、恐らく、”仕込み”を考えて、そこで終わってると思うのよね。

 でも実際は、仕込みから”手段と展開”が生まれるし、特に展開は尺に関係するから、ページ数を考慮するプロの場合、手段と展開から”仕込み”を再構築出来るようにしておいた方がいいわ」


「仕込みの積み重ねゲームを何重にも行うと、自動的に戦闘は長めの”蓄積”や”順当・抵抗・逆転”系になりますからね……」


「あとまあ、”仕込み”はね? 何だっていいの。”強い武器”でもいいし”これまでの訓練”でもいいし、”実は因縁があったという回想シーン”でもいいの。

 勝つ理由になりそうなものがあったら、それを明示してやることで”仕込み”になるわ」


「”速度を上げる”とか、”気合いを入れる”でもいいわけですね」


「”目が合った”とかでもいいのよ。無論、そこに”勝ちが見えた”とか、そういう描写は必要になるけどね」


「最高の”仕込み”って、何ですか?」


「動作」


「その戦闘描写の、相手と自分、全ての動作を書き切るの。

 足の踏み込みや、肩をどう入れたか、とか、バランスをどちらに傾けたか、とか。歩数の一つ一つ、呼吸の一つ一つも全て計上するの。

 基本、”動き”だけ。

 そうやってお互いの動作を書き続けていって、全ての動作がお互いの”仕込み”であり、しかし最終的にどちらかが上回って決着したとき、――本当の意味で”アクションを書き切った”って言っていいんじゃないかしら。

 言い換えるなら、――最初の一歩で勝負が決まっていた戦闘、よ」


「出来るんですか?」


「うちだと5下の天竜(白竜)戦と、段蔵戦が近いかしら。だからここまで読んで”アー、自分、やったことありますよ”みたいなことを思った人がいたら、それ絶対出来てないからゼロから出直して欲しいわね。想定のレベルが違うんで」


「き、厳しいですね……!」


「まあ理想よ、理想。ただこれが頭の中にあるかどうかで、アクションシーンの出来は違うものになると思ってるの。――気を抜くな、自惚れるな、ってね


「えーと、途中ですが、これまでのものがどういったものか、とりあえずまとめてみると……」



■戦闘は、手段を展開することで成立する。

 ・手段:何を用いて勝つか

    :”仕込み”となる。

 ・展開:どのような流れで勝つか

    :”仕込み”の影響を受ける。

    :ページ数などによっては、”仕込み”に影響を与える。


■決着を納得させるためには、”仕込み”の積み重ねゲームを用いる。

 :”仕込み”から、手段と展開を生むことが出来る。

  ※人によってはこちらの方を先に考えた方が楽。

 :しかし手段と展開はページ数を想定するため、”仕込み”にフィードバックもあり得る。


「こういうことですね。では、”仕込み”について、まだなにかありますか?」


「ええ。”仕込み”から”駆け引き”を作る方法ね」


「あのね? 今までやってきた”仕込み”や”手段と展開”って、そのままやると、パワー合戦になるの」


「パワー合戦?」


「ええ。次から次へと強いものを出して行って、それが尽きたら決着、っていうアレ。パワーインフレ型、またはエスカレーション型って言ってもいいかもね」


「アーそうですね……」


「でも、もうちょっと賢い戦闘、見せたいじゃない? 相手の裏をかくとか、相手をブラフにハメるとか、そういう”駆け引き”ね」


「アー、格好いいですよね!」


「そういうのも、”仕込み”で作れるの」


「そうなんですか? それは――」


「ええ。駆け引きのパターンは主に四つ」



・回収

・推理

・欺瞞

・変換



「とりあえずこの四つを憶えておくといいわね」


「それぞれどういうことなんです?」


「ええ。”仕込み”ルールと共に示すわね」



■回収

・戦闘中に、仕込みに見えない”裏の仕込み”を配置していく。

※戦闘中、相手は自分の”仕込み”をプラスしていく

※戦闘中、こちらの表向きの”仕込み”は、相手以下で進行する

・ある一定のタイミングで、配置した”仕込み”を一気に回収する。

・回収した”仕込み”量と、自分の持っている”仕込み”量の総量が、相手の”仕込み”量を上回り、逆転する。


「駆け引きの基礎と言えるのが、この”回収”型ね。ある意味、他の駆け引きも、基本的な構造はこの”回収”型なの。

 だからこのロジックだけ憶えておけば、他は応用編くらいの考え方でいいわ」


「一気回収は、追い詰められたようなピンチから、一気にクレバー逆転するのが格好いいですよね……!」



■推理

・戦闘中に、相手の”仕込み”を見破り、相手の”仕込み”を減らしていく。

・ある一定のタイミングで、相手の”仕込み”の根幹を見破り、相手が”仕込み”を発生できないようにする。

・自分が持つ”仕込み”総量に対し、相手は”仕込み”を発生できないため、逆転が生じる。


「”回収”の逆動作ともいえるのが、この”推理”型。自分の”仕込み”を積むのじゃなくて、相手の”仕込み”を削っていくの」


「インターセプト系ですね」


「そうね。この”推理”型は、他の型とも相性が良く、同時に使える場合も多いわ。他の型と使った場合、相手を完全封殺することになるから、これが出来るなら狙って欲しい処よね」


「推理ものみたいな、ロジックの看破も盛り上がりますよね」



■欺瞞

「”回収”の応用で、嘘の”仕込み”を行うことで相手を調子に乗らせ、しかしそれが嘘だったと解らせることで、相手が積んだ”仕込み”を一気にゼロにするやり方ね」


・虚偽のミス、不注意、または勝利に繋がらない行動(意味の無いフェイントやブラフ)を行い、相手を釣りながら、裏で別の”仕込み(手段)”を行う。

・相手は、こちらの欺瞞に釣られる。

 :このとき、”相手は、以下のどちらかの反応をする。

  A:こちらに騙され、調子に乗って攻撃してくる

  B:こちらの動きを欺瞞か疑い、迷う

※Aを選択した敵は積極的に攻撃してくるが、騙されているため、こちらは実質的な損害を受けない。

・こちらの虚偽が明かされたとき、相手の仕込みは消失する。

 :同時にこちらの”仕込み”が明かされ、こちらの”仕込み”はプラスされる。

 :相手の”仕込み”総量よりもこちらの”仕込み”総量がプラスしていれば、逆転する。


「特徴的なのは、相手が釣られた時、二つの選択肢が有るという事ね。


 A;騙される場合

 B:騙されない場合


 パターンとしては、Aの場合はこっちが負けていると思って仕掛けてきて、カウンターで逆転される。

 Bの場合は、こちらが実は勝っているのかどうか迷って、疑心暗鬼で自滅する流れね」


「Bはアレですよね。こっちの手札かブタかどうか解らなくなって自滅するアレ」


「どっちも決まると格好良いわよね」


「しかし構造で話せるものですね……!」


「マー基本こんな感じで、ヒネったり通したりしてみて。大事なのは、相手がこちらの欺瞞に気付かないと、最後にタネ明かししても意味が無いってことね。気付かせて、攻めさせるか、懸念させる。これが”頭がいい”って錯覚させる秘訣よ」


「錯覚」


「構造で再現性があることをやっておいて、頭がいいとは言えないわよね」


「しかしこの欺瞞は、いろいろバリエがありますね。

 ブラフをやるのも、ミスと見せかけて相手の油断や誘導を行うのも、これですよね」


「正直、”これで何が出来るか”は種類が多くて言い切れないわ。

 だから構造で話をしてるの。あとはいろいろな例を見て、この構造をもって読み解くことで、自分の糧に出来るから」


「……こういうの、実例を出して説明するのって、全バリエを網羅できる訳ないから、無理ですよね……」


「実例ごとに構造はちょっと違うし、構造のどこに軽重持つか、どう見せるかも違うから、一つの例を憶えても、他の例の再現性が低いのよね。そのやり方だと”不可能な全バリエを網羅”しないと身につかないから注意してね」


「料理から調味料の使い方を知ろう、みたいなものですからね……」


「感じ感じ。――で、次は”変換”」



■変換

・”仕込み”をお互い進行している中で、勝利条件や価値観を別のものにしてしまう。

 :適用範囲によって、四つの進行がある。

  :自分だけに適用=自分は新しい”仕込み”をプラスしていくが、相手は出来ない。

  :相手だけに適用=相手はズレた”仕込み”をプラス、またはマイナスしていく。

  :お互いに適用 =仕切り直し、または影で自分は”仕込み”をプラスしていて逆転。

  :お互いに不適用=まずあり得ないが、相手への脅しや、外部の敵や味方を巻き込む。


「これはフローいらないわね。いきなりぶち込むことに価値があるから。

 ただ、仕込んで置いていきなりぶち込むと一気に突き放すし、仕込みなしでぶち込むと仕切り直しと、そんな感じになるから使い分けてね」


「……何だか、コレ、凄く憶えがあるような……」


「ホライゾンや喜美、二代なんかがこれを多発するのよね……」


「アー……、槍でマジの戦闘ガンガンやってるのに、いきなりジャーマンスープレックスでキメるような……。あとホライゾンはコレで出来てる気がします……」


「実はコレを導入したのって、ホライゾン以降だから、結構新しいのよねー……」


「まあ細かい処では区分も生じるけど、”回収・推理・欺瞞・変換”のロジックを頭の中に入れておけば、要所要所でメリハリ付いた”頭のいい戦闘”や”頭の悪い戦闘”が組めると思うわ」


「じゃあさっきのと重ねてみると……」



■戦闘は、手段を展開することで成立する。

 ・手段:何を用いて勝つか

    :”仕込み”となる。

 ・展開:どのような流れで勝つか

    :”仕込み”の影響を受ける。

    :ページ数などによっては、”仕込み”に影響を与える。


■決着を納得させるためには、”仕込み”の積み重ねゲームを用いる。

 :”仕込み”から、手段と展開を生むことが出来る。

  ※人によってはこちらの方を先に考えた方が楽

 :しかし手段と展開はページ数を想定するため、”仕込み”にフィードバックもあり得る。


■仕込みがパワーインフレになりそうだったら、”回収・推理・欺瞞・変換”の駆け引きを持ち込む。

 ・回収:相手に気付かせぬ”仕込み”をバラ巻き、後で一気に回収して逆転。

 ・推理:相手の”仕込み”を見破って、相手の”仕込み”を減少して逆転。

 ・欺瞞:相手に欺瞞を気付かせて、その反応を経て逆転する。

 ・変換:”仕込み”を進めつつ、勝利条件を変えてしまう。


「こんな感じね。――一気に詰め込んだからアタマ飽和してると思うけど、後々でツマミ読みすれば理解も進むと思うわ」


「……というか、コレ、”戦闘の納得・戦闘の表現”の内、まだ前者だけですよね?」


「そう。だからここで切って前半としましょう。かなり濃いめのものをやったから、後編はちょっと離れてもいいかもしれないわね。

 それまでに、納得できる戦闘の構築の仕方と、格好いい”駆け引き”の仕方を憶えておいて貰えると嬉しいわ」

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