『終わりのクロニクル』分厚く重ねられる戦後交渉(前編)
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「今回の話は、”終わりのクロニクル”と言えば異世界との戦後交渉がテーマ。では何故そうなったのか……、というのは発想の話でもあるので別として、ではどのような交渉が行われていたのか、主人公である佐山の成り立ちから見ていこうと思います。そんな話ですね」
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「今回も、あまり話すことが無い気がするわ……」
「やる気! ほら、やる気……!」
「いやあ、最近、AIのいろいろあるじゃない? それでまあ、どんな感じかと見てみたら、タグでうち関係のもある訳よ」
「アー、まああるでしょうねえ」
「それでさあ。Horizon Ariadustってタグがあったから、プロンプトにそれを入れてみたら、こんなのが出て」
「……流石ホライゾン……、っていうか”そう来たか!”って思わず声に出しちゃったわ」
「…………」
「一応、武蔵の”メカ”感とか、出してるんでしょうか」
「そんな親身になって見なくてもいいんじゃない? ――でまあ、ホライゾンがこうなら、ミトツダイラはどうなのよ、見たら、タグがあるのよ。nate mitothudairaってのが。
だからやってみた訳よ」
「ミトどうなりました?」
「ええ。こうなったわ」
「…………」
「……起伏がありますね……」
「アンタそれ本人の前で言いなさい。でもうちらのこと知らずに、タグ見て興味本位で試した人って”Oh! ニポンにはmitotsudairaという地形があるのデスネー”って誤解すると思うのよね」
「……今の口調で誤解云々言えたもんじゃないと思いますが」
「まあそんな感じ感じ」
「私の場合、どうなります?」
「アンタの場合、髪が横跳ねした吊り目の並胸キャラが出てきて”誰?”って感じ。ある意味、一番面白くないパターンよね……」
「アー……」
「甘似くらいだとネタになるんだけど、そうじゃなくて”違う”と、ホント、どうしようもないのよねー……。ちなみにアンタの水着の二色分けとか不可能だかんね?」
「結構試したんです?」
「Two-Tone bikini という単語は、今日、皆に憶えて帰って貰いたいわ」
「やる気出ました?」
「とりあえず掴みは出来たと思うから進めてみましょうか」
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「じゃあ、何が聞きたいの?」
「何で戦後交渉か、っていうのは、発想の部分を含むので、別の処でやろうと思ってるんですね。だから、どんな風にそれを行ったのかとか、佐山のキャラについてで」
「んー。発想の部分と凄く絡むからやりにくいわね。とりあえず佐山のキャラから行きましょう。主人公であり、交渉役である佐山ね。挿画があるわ」
「中央が佐山ね」
「中央いない! 右! 右!!」
「アンタ今回ケッコー乗ってくるわね……」
「まあそんな感じで」
「じゃあその佐山だけど、ベースとなった旧EDGEでは、後発組のキャラだったの」
「後発組?」
「ええ。旧EDGEは最終的に二部構成で、佐山は第一部の後半から出て、第二部ではメインキャラの一人として出るキャラだったのね」
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「えーと……」
「何?」
「クロニクルは一部構成というか、一作で固まってますよね」
「ええ。そうね」
「――で、ワープロ打ち出しが現存してる旧EDGEも、一作で固まってますよね」
「ええ。そうね」
「じゃあ、二部っていうのは、何処で?」
「ええ。プロット段階。まず第一部のブロットが出来て、第一部を書くじゃない? その後で、第二部のプロットを書いてるの。そして第二部の本文をある程度書いてストップ」
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「何か色々出てきましたが、……プロット?」
「本文のワープロ打ち出しをする前、原稿用紙型のルーズリーフに、”展開と台詞”だけを思いつくままに書き出して行ったの。頭の中の物語がどんなものか、って」
「ま、また勢いだけで生きてる話が出てきましたね!」
「まあそういうものよ。中学一年の夏休みに、実家が改築してね。自分の部屋が出来たのが原因ね。
だから友人らの間で流行していた深夜ラジオを朝三時まで聞きながら、ベッドの上に画板置いて、まず第一部となったもののプロットを、三ヶ月くらい作業してたかしら」
「深夜ラジオ! やはりオールナイトニッポンですか?」
「デーモン小暮閣下のが87年に始まって、直撃よねえ。翌年にはFM79.5も始まったから、夜はほとんどラジオで過ごしていたような時期ね。高校入ったら、ちょっとラジオ離れが生じて、逆にゲームとかそっちに傾向するんだけど」
「良い時代ですねー」
「いやホントホント。――で、そのルーズリーフプロットが、今思うと、ケッコー自分の芯になってるのよね」
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「芯? アデーレのような?」
「うーん、ちょっと違うけど、似てると言えば本質的には似てるような……」
「そんな真剣に考えなくていいので、話を」
「ああうん。この頃、私は文章とかの訓練とか、やってなかったのね。
あ、一応、本は結構読んでたの。小学校の担任が、生徒の”本の読破ページ数”を壁に貼って煽るタイプで、私、二年間で21000ページ読んでぶっちぎりだったから。
初め柱状グラフでやっていたら、私だけ桁がおかしくなって1/10特別ルールが適用されたわ」
「何読んだんです……?」
「いや、図書館の本棚を端から攻める的なアレ。当時のラノベであった朝日ソノラマ(緑背)とか、幻魔大戦とかも一通り読んでたのよね」
「嫌な小学生ですね……」
「いやー、先生が上手く煽ったものよね」
「良い先生だったんですねー」
「うん。隣のクラスの担任と不倫して別の学校にトバされたけど」
「要らん情報を出す必要は無いんですよ……!」
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「でまあ、読むのと書くのは別よね。そしてマー、子供のプライドというか何というかだけど”小説を書いてる”って、何か当時的にはシェイムフルな感覚があったわけよ」
「アー。ありますね。意味も無く”何かの真似ごとしてる自分”が恥ずかしいというか」
「そうそうそうそう。それ。それもあって、小説作法とか学ばないで、将来、ゲームとかに使う”脚本”を書こう、って、そんな気分でスタートしたのね」
「脚本」
「読んだ本の中には、そういう類いのものもあったから、”起きている事象+台詞”だけのものを書いていったの。今考えると、アレ、文字ネームに近いプロットよね。
確か、20×20の用紙を両面使って、160枚くらいでアガった筈」
「原稿用紙320枚って処ですか」
「ええ。それが旧EDGEの第一部となるプロット。その第一部を書いて、後に第二部のプロットを80枚くらいでアゲたの」
「その中に、二部メインで佐山がいた訳ですね」
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「しかし、何でプロットから本文まで立ち上げたんです?」
「いや、プロット状態で友人に見せたら”読めねえ”って言われて。じゃあ本文作るしかないか……、ってなったのよね」
「消極的理由で執筆スタート……」
「いやまあホント、そういうもんよ」
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「佐山は旧EDGEだと、”冴山”だったのよね。名前も”烈”で”れつ”。
オールバックのサングラス着用で、何となくうさんくさいけど、趣味でバンドやってて主人公達の上役になる、という設定。パートナーとして異世界由来の姫がいたわ」
「何か一気に出てきましたけど、濃いですね……」
「ええ。この”冴山”は、フリーダムに各異世界を制覇していった主人公達に対し、UCATから派遣された目付役であり、交渉役」
「交渉役だったんですか?」
「いろいろ軍隊とか、異世界の王家とか出てくるから、それに対応する役で出てきたの。だから一人だけ二十代。ワゴン車で主人公達の移動もやるキャラバンリーダーね。
口が立つし皮肉も多い、みたいな」
「アー……、何かいろいろ混じってますね」
「クロニクル本編の大城・至+Sfコンビの要素が入ってるわよね」
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「でも、第二部って、どんな話だったんです? というか旧EDGEって?」
「旧EDGEだけど、第一部は、クロニクルの親世代ともいえる話と似てるわね。
日本に落ちてきた各異世界を主人公達が制覇していくの。
相手も、大本は火場(旧飛場)や出雲家に代々から抗う敵集団だったりして。
そいつらが美影を掠って彼女を生け贄に異世界を召喚しようとしたら、火場達の介入でミスって異世界落下」
「意外と敵が頼りないですね」
「今の私達だったら駄目出しするわよね。でまあ、そんな流れだから、異世界側もビミョーに被害者なのよね。だから、異世界側とも手を組んだりして、混乱の諸元を倒す、みたいな?」
「異世界を”帰す”んじゃないんですね」
「うん。異世界を”帰す”のは、ダンバインとかで見てるし、コレは自分が小物だろうからそう思ったんだろうけど”帰すのは勿体ない”って思ったのよね。折角、異世界が落ちたなら、そのままの方がいいし、更にはこの頃、ホライゾンの発想も生まれつつあったから、ホライゾン世界のバックボーンとして異世界の融合した現実があるといい、と」
「……打算が凄い……」
「いやまあ中学校入りたてくらいだと、何でも大切に思えるもんよ」
「それで、第二部は?」
「ええ。第二部は、異世界が落ちた日本に、世界各国が攻めてくるって話なの」
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「……何かいきなり何処かで聞いたようなのが来ましたね!」
「まあそういうものよ。歴史は繰り返すし。ちょっと前後するけど、1985年は戦後40年で、この周辺の年代ではいろいろな戦後キャンペーンが行われたし、戦争に関する書物やマンガ、アニメ映画なんかもよく作られたわ」
「アー、ありましたね……。小学校の夜の映画会みたいなので”はだしのゲン”が上映されて、皆が泣き叫んでトラウマゲットみたいな」
「主催側としては大成功で”してやったり!”みたいな気がするけど、こっちとしては良い迷惑よね」
「まあ世代として、そういうのを直近で通過してた訳ですね」
「その一方で、近くには横田基地があったから、夏とかに基地の祭でゲート開放されると中に遊びに行って向こうのアーケードゲームに金を突っ込んだり戦闘機見て盛り上がったりする訳よ」
「あー、UCATが奥多摩にあるのって……」
「奥多摩の土地が当時クソ安かったってのもあるんだけど、横田基地があって、そこから西の山奥に……、ってイメージね。日原鍾乳洞とか、そういうのもイメージを助ける感じ」
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「――で、第一部のプロットを書き上げて、本編も書いて”やった! 俺、天才!”ってモードに突入したんだけど、このキャラや世界が勿体なくてね。
補足としての第二部のプロットを書き出したの」
「本気でアッパー入ってますね……」
「当然ってもんよ。
でまあ、第一部の後、異世界の技術を求めてやってくる各国の軍隊とか、異世界の代表相手に、戦闘したり交渉したりで、最後は国連と日本の包囲戦で、駐日米軍や他の仲間になった軍隊と組んで防衛戦。
そして異世界の代表が、”冴山”のパートナーの姫を大代表として、日本に落ちた異世界の”土地的パワー”は失われるが、現実世界に異世界の力を拡散して物語は終了」
「クロニクルの”よく馴染む”をやって終了ですか……」
「そういうこと。でもねー」
「でも?」
「この第二部は、プロット段階のものであって、本編としては途中までしか書かれてないの」
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「未完だったんです?」
「そう。米軍が攻め込んできて、異世界側と駐日米軍がこっちの味方になって、美影の正体がバレて、とか、そういうのをやったあたりでストップ。いろいろ理由はあるわ」
・丁度、高校に入って、環境が変わって、視野も広くなった事。
・メインである第一部は出来てるので、補足としての第二部は途中ストップという感もあった事。
・X68Kやメガドラなどが来て、ゲーム制作や企画作成に時間を割くようになった事。
・ホライゾン挫折から作り始めたGENESIS-TRPGシステムの作成に時間を割くようになった事。
「そして何よりも、これが理由」
・第一部と第二部、合成していいんじゃない?
「アー……」
「解るわよね? 第一部って、こう言ってはなんだけど、子供が勢いで書き出したものだから、未熟以前に展開がワンパ傾向にあったのよ。第二部のプロットで、最初から”冴山”が入ってきて、ようやく交渉とか第三の敵としての軍隊が入ってきたんだけど、第一部を実際に書いてみるとワンパ傾向が実感出来てねー……」
「”物語”のガジェットは多かったけど、”展開”の要素が少なかったんですね……」
「そんな感じ。だから第一部を実際に書いた時点で第一部の欠点は見えていて、第二部プロットを立てて書き出したら”アタマいいキャラが話を回していくの、いいな……”って思ってね。
しかしメインとしての第一部は”完成”してるから、やるなら大改修入れて”合成”かな、とか」
「あ、でも、そうなると、アレですよね」
「何?」
「それまで、”火場”や出雲が主人公だったのを、第二部から出る”冴山”が主役みたいになるのって、そこまで作ってきた作り手としては”そうやっちゃっていいんだろうか”な感ですよね」
「そうよねー……」
「だからまあ、自分の初志としては火場と出雲が主人公なんだけど、話としてはどう考えても冴山をリーダーにして、火場と出雲がアクションとか担当の方がいい」
「主人公の交代ですね」
「そう。それを自分が納得できるかどうか、インターバルを置こうと思ったのよね。何故なら旧EDGEは自分が最初に完結させた作品だから、思い入れもあって」
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「何となく、理解できたことが幾つかありました」
「何?」
「ええ。第一に、過去に”クロニクルの原版を書き上げた”、と言ってましたけど、その内容は”異世界が日本に落ちてきて、それらを平定する”とあった一方で、戦後交渉などの要素が無かったことです」
「そう。原盤となる旧EDGEは、”異世界を平定する”という内容で完結しているのね。第二部がつくと完成度あがるけど、でも私の中では”第一部”で充分”一作として完結している”だった訳。
そしてクロニクルに繋がる最大の骨子は完成していたから、第一部がクロニクルの原盤になるの。交渉とかの話は、その上乗せだものね」
「ですよね。そして、第二に気付いたこととして、――いろいろ過去話を出してきた訳ですけど、ホライゾンについては中学校から高校、大学からデビュー後まで、ずっと並行してる感があるんですよね。
でも、クロニクルについては、中学校で書き上げたという処から、クロニクルが始まるまで、空白期間なんです」
「そりゃまあ、第一部と第二部を合体させた方が面白いと解っていたし、異世界を構築するための資料とか集めてた蓄積期間だものね。改修を行うまでは話にならないし、それが行われたのは結局、都市の”次”のターンであった訳。
つまりこんな流れね」
・旧EDGEのプロットを書く
↓
・旧EDGEの本編を書く
:俺天才……!
↓
・いろいろ勿体ないので第二部のプロットを書く
↓
・第二部を書き出すが、諸処理由で放置
↓
・都市を一段落して、クロニクルを再編して書く
「第二部の放置は、ホライゾンのように”挫折”になってないですけど、何故です?」
「そりゃあプロットはあるし、第一部があって、補足感強かったから、”書こうと思えば書ける”なのよね。ホライゾンのように”書こうと思っても書ける気がしない”じゃないわ」
「ホライゾン、……そんなに、という感ですが」
「ホライゾンの方で挫折したのは、ホライゾン側のコラムで書くわね。どうしてそうなったのか、ってのを、ちょっと示せると思うから」
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「結局、発想の話はしてないですけど、発生の話はしてますね」
「マーそんなものよ」
「で、クロニクルは異世界との交渉になりましたけど、この交渉については?」
「これは後々にも発想として語る部分だけど、シリーズとしての長編を思ったとき、昔に書き上げた第一部のワンパ具合が引っかかっていたのね。
だから”交渉”というものの最大限の利点を出そうと考えた訳」
「利点?」
「相手のキャラ性を全て洗い出せるということと、読者に判断を投げられるということ」
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「交渉は、相手の問題とこちらの問題を付き合わせて、妥協点を探ったり、問題点を解消することよね。
このあたりでは、ジャッジとしての言い負かしの面白さもあるけど、自分としては”どちらの見ているものが有利か”というディベートやディスカッションを重視してるわ」
「ジャッジとディベート? ディスカッション?」
「ええ。コレ、私は90年代に交渉関係の資料調べて独学で理解したことなんだけど、今だとどうかしら。
厳密じゃなく、こんな感じで扱ってると思ってね」
・ジャッジ
:審判。何らかの基準に立って、ものごとの善悪、是非を交渉役が判断し、問う。
・ディベート
:討論。相手の問題点や、対する解決法を提示し、その優劣を交渉役以外が判断する。
・ディスカッション
:論議。ものごとの問題点、解決法を提示し、妥協点や解決の創出を行う。
「ディベートはディスカッションの一種。交渉役の人数は限定されていないわ」
「交渉役が一人として、一対一(交渉役・裁判官)か、一対多(交渉役・陪審員)もある、ということですね」
「気をつけねばならないのは、相手側の交渉役もいる場合、ディベートやディスカッションをやってるつもりが、内容的にはジャッジになってしまうケースが多いことね」
「どういうことです?」
「討論や論議の場で、相手側に対しジャッジで”負かす”ことで勝てる、と勘違いしやすいんだけど、実はそうじゃないの。
言い負かすことは攻撃的に見られるし、相手側が被害者、または弱者の場合、”負かす”構図は強者が弱者を潰そうとするようにも見えて、裁判の場合、陪審員は弱者救済に働きやすいわ。
そしてこれは、”本”である場合、一つの失敗を作るの」
「――読者=陪審員になる場合もあるので、作家は交渉役を勝たせているつもりが、読者には”やり過ぎ”に見えるということですね」
「そういうこと。妥協点やすりあわせのない”勝ち”は、相手を潰していることになるわ。物語の”見せ方”として、それが正しいように見えても、物語の”現実”では、それが問題を生じることもあるから注意ね」
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「…………」
「……そのような”見せ方”をする作品だと、物語の”現実”はそのレベルにないから、別にそれでいいんじゃないですかね……」
「そもそも審判と討論の区別が作家側に無いと駄目よね……」
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「でもそんな考え方を、何処で?」
「旧EDGEを書いてた時は当然そうじゃなかったわ。屁理屈で言い負かせば勝ち。そんな感じだったわね。
でも、80年代から90年代に変わるあたりから、交渉というムーブが急激に上がってきたの」
「それは?」
「海外、特に米国に日本が進出していった先で、現地で訴訟対策チームを構築していなかった現地法人が負けまくったのね。
現場では日本式のなあなあ(緩いディスカッション)が効かず、裁判(ディベート)で負けて、向こう有利の進行に持ち込まれることが多かったの」
「あー、海外で通じないアレ、みたいな」
「その原因は何かというと、陪審員制度がある米国は裁判の席で”ディベート”が大事なんだけど、日本は裁判官一人を納得させればいいと思ってしまうのよね」
「お前はジャッジ役じゃ無いのに何やってんだ的な」
「そう。そんな感じで、日本と海外との差について、語られるようになったのよね。
日本人はディスカッションが好きだけどディベートが苦手、みたいな? だからディベートについての本もよく見るようになったわ」
「日本も、福沢諭吉の時代からディベートは広まってた筈なんですが……」
「第一次大戦からの流れで停滞して、第二次大戦後に復活したと思ったら1960年代の学生紛争の流れで、恣意性のあるディベートが行われたこともあって、また停滞するのよね。
――で、その世代が海外出てやらかし始めたせいか、80年代からディベート教育が復活してね。
私達世代はつまり”教える側もよく解ってないディベートというもの”を、手探りで勉強したり、海外の法律テーマの小説や映画から”これか!”と学ぶことになるわけ」
「何でもDIYな時代ですね……」
「マーいろいろ本が出てたから有り難いわ。そういう意味ではいい時代ね」
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「しかしまあ、時代劇のように”奉行や将軍といった、個人が善悪を判断して悪を切る”が好きなのか、ディベートは出来るのに、いざとなるとジャッジをしたがる派はいるのよね」
「そんな勧善懲悪のジャッジ式や、なあなあ付き合いのディスカッションに慣れた日本に対し、海外ではディベートで陪審員全員にアピールしなければならず、単に法治だけではなく、エモーショナルな部分や、個人の問題感に訴えねばならない……、と」
「そういうこと。陪審員はいろいろな階級や職、宗教の人々がいて、考え方も千差万別。そういった人達に通じさせるには何が必要か、何が問題なのかをよく考えないといけないわ。多角的に見て、しかし物事の本質を捉えてないといけないの。
無論、法治国家だから最終的には法に委ねられるけど、法の適用範囲や罪の軽重の思案や、そもそも法に掛けるべきか示談に回すかなど、そこらの判断基準は揺らぎの範囲だものね」
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「大学では、ディベート授業があるっていうので国際政治を取ったのよね。時期としては”米の自由化”の頃で、教授がディベートしろって言う訳よ。判断は生徒全員でつけるってことで」
「……何となく先が読めました」
「まあいいじゃない。――で、教授が指定するのは、当然、教授のゼミの連中で、まあポイント稼ぎよね。ゼミで”米の自由化”についてやってんだから。
それで向こうは否定派、こっちは自由化派で、ええ、――私が手を上げて」
「相手は無事でしたか」
「そりゃまあ海外の米の種類や、海外の珍しい米料理や歴史で興味引いてトークが面白けりゃ私が8割支持されるわよ。”この米、産業革命時代のイギリスでは朝の主食になってたんですよ! カレー系のスパイスで食ってたんですね!”みたいな。一方で向こうは日本の農家の苦悩や法律の話ばかりだし」
「教授は?」
「一番良い評価くれたから大人よねー。しかし”お前が勝っちゃいけないの、解る?”って言われたから、皆にV字ポーズとって拍手されたわ」
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「……何となくですけど、以前に話をした”敵、悪役がいない”に通じる部分があるように思います」
「そうね。ディベートやディスカッションを技術として持ってると、どんな相手でも、相手の中にロジックがあるのは解るから」
「そういうものなんです?」
「それが法や倫理として間違っていたり、ズレていたとしても、事故や衝動ではない限り、そこには当人のロジックがあるの。そしてそれが自分側のものと対してどのような妥協点があるのか、または問題なのかを出して明らかにするのが、私の”交渉”。
単純に勝ち負けは、やらないの」
「スカっとした方がいいとも思いますが」
「それは相手のキャラを潰すし、潰されるためのキャラを作る事にコストを掛けるより、活かして潰されないキャラを作る方にコストを掛けたいわ。そういう判断ね」
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「そういう意味では、うちはジャッジの場合でも、相手の言い分を聞くし、妥協点や解決の創出も行うから、最終的にはディスカッションに至るディベートや同様のジャッジを行っている、と考えているわ」
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「でまあ、佐山の交渉を経て、更にディベートとディスカッション性を高くして正純のソレになっていくんだけど、それはまたホライゾンの方で語る事ね」
「佐山の発生から交渉の”質”の部分まで、という感ですね……」
「まあいろいろね。正直、第二部を書き終えずに保留としたから、クロニクルの本番までに交渉とか多くのことが思案を深められたのかもね」
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