『閉鎖都市 巴里』反応速度というものへのアプローチ
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「今回の話は、巴里における大事な要素の一つ。”反応速度の加速”についてです。人型ロボである重騎に搭乗した際、ある方法で反応速度を莫大に上げることが出来る。かなりのチート能力ですが、これがどのあたりで発案されたのか、また、世界観的にどのようなバランスをとっているのか。そんな話ですね」
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「今回、早く終わりそうな気がするわ……」

「そうなんですか?」

「いや、結論がすぐに出る話題だと思うから。マーそこから派生してどうなるか、というのはあるけど」

「まあ、とにかくスタートしてみましょう」
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「では、反応速度が上がる、というガジェットですが、どういうことでしょう?」

「巴里では重騎って言う人型メカが出てきて、これに乗るとき、操縦室でレバーとペダルをガチャコンするんじゃなくて、搭乗者を情報的に分解し、メカの操作系にインストールするの」


「思い切ったやり方ですね!」

「今で言う、”ロボットを動かすAI”の部分を、人間が代用する感じよね。これだとメカを操縦する際、自分自身がメカそのものになるから、よく言われる”コクピット振幅・荷重”問題とか一切なくなるわ」

「まあ、思い切った分の恩恵は大きいですね……」

「だけど、人間としてインストールされるので、メカの方の知覚系、反射系に対しては、”人”基準で関係することになるの。
もしもメカ側に合わせて反応速度を上げると、脳とかが焼き切れて、インストール解除をしたときにダメージを食らったり、または操作系が齟齬を起こして解除されるわ」

「? じゃあ、その方法では反応速度が上がらないんですか?」

「そう。だから魔改造する訳」


「ページ左側、パンツァー・リッター計画というのがそれで、搭乗する人物を機械化していくことで、重騎との合一性を向上。
このハインツ・ベルゲは現状、重騎と合一したとき、117倍の速度を得ているのね」

「117倍というと……」

「1秒を117秒として知覚出来ると言うこと。自分の動作速度は上がらないけど、反射系が上がっているから、相手の如何なる動作にも対応可能。無敵って訳ね」

「チートですねえ」

「まあそういうのを巡っていく話でもあるのよ、巴里は」
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「じゃあ、この”反応速度”についてですが、当時というか、今でもレアなアイデアだと思います」

「まあでも、無いわけじゃないわよね」

「そうなんです?」

「たとえばTRPGでいう”ヘイスト”なんかの加速術は、大体が被術者の反応速度も上がっているわ。あと、マンガで言うと”サイボーグ009”の”加速装置”も同様よね」

「アー確かに」

「このあたりで自分的に推すのは、マンガで”電夢時空”(1995)。メカ型の宇宙寄生生物の補助を得て、百万倍加速の世界で戦い合うという内容で、その速度で動くにはどうしたら、みたいなアイデアも面白いわね」
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「ヘイスト系も含めると、結構ありますね」

「そう。どれも”主観性”が薄いから気づいてないだけで、実際は結構あるの。
うちの特徴があるとしたら、”上がるのは反応速度のみ”だということ。
やはり動作まで数百とか数万倍になるのは、物理的なタガを外れるので設定がいろいろ大変だし、パンチ一発だけで大破壊力になるから、”それで充分じゃん?”みたいな」

「”別の面白さ”になると、そういう判断ですか」

「そういう感じ。”反応速度”に絞った方が主観性が高くなる、というのもあってね。
でもまあ、”別の面白さ”があるのは確かだから、”加速術式”はあるのよね」

「そっちはそっちで、みたいな感覚ですね」

「使い分けた方が”専門家”も生まれて、キャラ性になるものね。
だから”反応速度"ネタとしては、こっちの発想としては、
・反応速度の向上を主観として書く
これが”レア”なネタとして捉えられたと、そう思ってるの」
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「じゃあ何でコレ、発想出来たんです?」

「うん。中学校の生物の授業」

「…………」

「……ンン?」

「いや、ホントホントホント。当時はカエルの解剖っていうのがあってね」

「今、ほとんど無いですよね……」

「代わりにイカの解剖をやるとか、そんなニュースあったわよね」

「ありましたありました」

「そうよね。だから今の人達の参考には全くならないんだけど、アレ、解剖で内臓関係を見るだけじゃなくて、ある実験したじゃない?」

「えーと」

「――筋肉に電池で電流流して、その部位が動くっていうアレ」
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「アー、ありましたね。死んでるはずの脚が動くの、やりました」

「でまあ、そのときに先生が言った訳よ。
――人間の場合、指先から脳まで、神経の伝達は0.02~0.05秒掛かる。往復だと約0.1秒。
って、そんな話。確か、火傷をするロジックも話してて、熱源に触れた瞬間に手を引けばいいけど、その0.1秒と判断時間のせいで、熱が伝達して火傷になるとか、そんなのも言ってた憶えがあるわね」

「ああ、ホントかどうか解らないけど、何かそんな話、ありましたね」

「――で、私はちょっと思いついていたアイデアもあったから、こう解釈したの」
――手先から脳まで、約0.75m、往復で1.5m。つまり人間の神経伝達は、0.1秒で1.5m。一秒で15m。
そして電気の速度は光速に近しいから、一秒で約299,792,458メートル。
つまり人間の神経系を電子的に置き換えた場合、最速で、本来の(299,792,458÷15=)1990616.3倍となる。
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「…………」

「……久し振りにクソ雑な理論を聞いた気がします」

「まあ中学生の考えたことだから」

「巴里の時はどうだったんです?」

「当時も脳は中学生だったから」

「今はどうなんです?」

「フフ、私は過去に生きる女よ」

「つまり更新してないんですね?」

「いやまあこのくらい派手な方がおもしろいかな、って」
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「ホントに”中学校時代の発想で今でも食ってる”ですね……」

「私、実は中学校時代が一番頭良くて、あとはただただ脳細胞が死んで行ってるだけなんじゃないかしら……」

「アー」

「アーじゃなくてそこはフォロー。フォローよ普通」
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「で、荒っぽく換算して最大200万倍。そこまでの計上が出来たとき、凄いものを思いついたわね、って思って友人に話したら”ヘイスト?"って言われて死にかけたわ」

「車輪の再発明みたいな」

「そう。だからこっちとしては、身体動作とかが早くなるんじゃなくて、反応速度に限定しようと、そういう風にシフトした訳」

「アプローチを変えた訳ですね」

「そう。見た目的な”ヘイスト”は、加速術式に振る事にした訳ね。実際、ヘイスト系は加速”術式”な訳だし」

「なかなか上手く行かないものですね」

「感じ感じ。だけど概算200万倍。ハッタリ効かせて”1000万倍!(気分)”とかやるのもいいわね、と、そんな感じだけど、やっぱヘイストとあまり変わらない気がしたから、この時点ではその”倍率”を頭に入れて置いて、別の設定の強化に入ったのね」

「別の設定?」

「さっき言った、ちょっと思いついていたアイデア」

「それは何です?」

「スーツ型の反応装甲」
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「何となく先が見えてきましたけど、聞くことにします」

「そうね。パワードスーツ。それも普段着として使用出来て、義体とかを接続した際の補助になるもの、と、そんな感じのものを思案してたのね」

「フツーにスーツ型のパワードスーツでいいんじゃないですか?」

「スーツの操作システムが判断つかなかったのよ」

「そうなんです?」

「ええ。だって、パワードスーツの運用を考えた場合、たとえば義腕などを接続した際の補助にした時と、各部の強化をする時って、”パワードスーツとしての機能”が違うでしょ?
だから”補助用・パワー用・防御用”、とかでスーツを分けるか、と考えると、”そんな一長一短が強すぎるものは採用されないし、じゃあこの場合、義体の人はパワーも防御も使えないよな……”
とか思って」

「意外と頭の中での義体の比重が高いですね」

「当時のファンタジーではほぼ無い要素だったのよね。だから大事にしたかった感」

「で、どんな風に思案したんです?」

「ええ。基本、防御+補助系で、必要ならばパワーの割り振りとかが出来る、って方式。モードチェンジする感じね」

「結局、一着で複数機能を切り替える、みたいな?」

「そう。戦闘に入ったらモードチェンジ! ちょっと変身ヒーロー的でいいか、とか思ってたのね。メタルヒーロー的な? でもねえ……」

「……何か不穏な言い回しが来ましたね」

「いやまあ、ホント、その通りよ」

「何があったんです?」

「いや、カエルの脚。――つまり二百万倍反応速度と、加速術式が発生したの」

「アー」

「解る? ”モードチェンジ!”みたいな悠長な機能変更システムだと、高速反応と加速術式には間に合わないの。または”不意打ちに対応出来なくて壊滅する”のよ。そういうトロいシステムは」
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「確かに……、攻撃側の速度が”モードチェンジ!”を上回った時点で、勝負は決まってますね」

「そう。だからこれをクリアするには、幾つか方法があると思ったの」
1・モードチェンジが高速かつ自動で行われる
2・防御側も超反応と加速術式を常時使う
3・モードチェンジなど不要な防御システムを作る

「1と2は無理があるのよね。不意打ち側が電子反応速度の限界まで行っていた場合、絶対に防御側は上回れないから」

「ゲームで言う”行動順番1を上回ることは誰も出来ない”っていうシステム的限界ですね。
じゃあ、やるとしたら3ですけど、どうするんです?」

「複数機能を叶えた防御スーツを持つ、ということになるけど、ぶっちゃけ無理があるわ、って思ったのね。
それでまあ、余分な機能を切り捨てよう、と考えたとき、一番大事なのは防御力だと思ったの」

「アー、命守らないと駄目ですからね」

「そうそう。それで、防御が出来るなら、ギリで義体の保持機能もある程度行けるかな、って。そこまで考えたのね。ただ、コレでもスーツは装甲入れたりしないといけないし、どーしたもんかな、って」

「それが、どう解決したんですか?」

「うん。いろいろ思案していて、やはり”モードチェンジ”があった方がいいって判断になってきたのね。スーツが普段はノーマルで、チェンジすると装甲が充填されて防御用になるとか、そういう方が”普段はスマート”だもの」

「普段使いが出来るものの方が売れるし、支持されると」

「そうそう。でも、モードチェンジをやる場合、無改造の人間だと、指示を出すのに腕の先まで0.1秒かー、とか思ってて。でもそこで、気付いたのね」

「何をです?」

「モードチェンジを装甲側にさせればいい、って」
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「AIですか?」

「それも考えたけど、AIは高価になるし、普段使いするにはバッテリーとか必要になるじゃない? だから、何となく考えたのは”カサブタ”だったの。
被弾したところが、硬化すればいいって」

「それはつまり――」

「そう。衝撃を受けた箇所の密度が上がって硬化する、AI不要の自動防御システム。
対衝撃反射装甲-AntiShockReactArmor-ASRA
これを思いついたの、現国の授業中だったんだけど、慌ててノートに設定書き込んだ憶えがあるわ」

「何してるんですかね、この中学生……」

「まあそんなものよ。でもこのASRAだと超高速反応や、加速術式を使用した相手が居たとしても、また、不意打ちを食らっても問題ないわ。何故なら被弾することが防御行動そのものになるから」

「初手一撃は確実に防ぐ、みたいな、カードゲームとかでありそうなアレですね!」

「そういうこと。反応速度と加速術式という”矛”が生まれて猛威を振るう可能性があった処に、ASRAという”盾”が生まれた訳。
ある意味、この”矛盾成立”によって、うちの世界観は、一般人が攻撃を食らっても死ににくくなったし、速度が強度に繋がるようなイメージを持つことにもなったのね」
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「巴里の話がカエルの脚に飛んでどうなることかと思いましたが……」

「ASRAの機能が”地味だな……”と思っていた人は多いと思うんだけど、つまりこういうチート対策を主眼に想定して設定されてたのよね。
でもホント、コレのおかげで一般人の生存率も上がるし、大事な設定だわ」

「矛と盾の関係という感じで、何がどう転ぶか解りませんね……」
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