『エアリアルシティ』自動人形という存在の発祥

「今回の話は、川上作品の中で定番種族? となっている自動人形。その存在の発案とか扱いの変化についてですね。一体どのあたりで世界観に組み込まれて、変わっていったのか。今後はどういうものになっていくのか、そういう話ですね」


「凄い便利存在よね、自動人形……。だって自動人形っていうだけで、読者の大半は何かのバイアス掛かった目で見てくれるから……」


「言い方! 言い方!」


「マー”種族”ってのはそういうもんよね。たとえばエルフなんかも。――で? 何か質問あるわけ?」


「川上作品での自動人形の立ち位置です」


「アー」


「何です? ”アー”って」


「結構面倒な処が来たけど、倫敦視点というか、つまり”始まり”的な処ね」


「そんな感じです。どういう発案だったんです?」


「元々はAHEADでEDGEだったのよ」


「は?」


「いや、中学二年の時、クロニクルとホライゾンの原盤作りつつ、他の世界も大体の案は出来てた訳ね」



・FORTH

 :現代(中学二年次の自分としての現代)

・旧EDGE

 :近未来。”クロニクル”。後にAHEAD

・旧AHEAD

 :遠未来。外宇宙。”神々”。GENESISにおける神代。後にEDGE

・GENESIS

 :超遠未来。ホライゾン。



「このあたりまでは中二の段階で確定していたの」


「元々はCITYが無かったので、OBSTACLEも無かった訳ですか」


「アー、そのあたりは忘れてなければオブスタの枠で話すわ」


「で? 何がAHEADでEDGEなんです?」


「うん。まず、自動人形って存在からのスタートね?」


「いろいろあって自分の世界観を作ろうって思ったのは中一で、それまでいろいろゲームとか漫画のアイデアとかで溜めてたアイデアが、急激に一つのものにまとまっていったの。

 ――で、そこでまあ、”種族”ってのが出てきたのよ」


「RPG的な発想ですね」


「そうそう。ウィザードリーもPC88版(1986)が出て、ハンドブックとか見ながらプレイしていたわ。でも、種族的なことで考えると、影響が大きかったのがザナドゥ(FALCOM・1985)」


「それは一体?」


「以前にも別の処で話したことがあると思うけど、ザナドゥのシナリオ1(無印)には、全ての敵キャラの”キャラ解説”が載ってるの」


「それは?」


「うん。全キャラのステータスだけじゃなくて、文字通りの解説。画像出したら駄目って言われたから項目で言うと、


・名前

・生命力:※数値表記

・攻撃方法:※文章で表現

・攻撃力:数値表記

・鎧タイプ:※文章で表現

・防御力:※数値とどういう状態でその数値化を表記

・移動力:※数値表記

・知力:※文章で表現

・使用魔法:※文章で表現

・魔法効果:※文章で表現

・出現数:※文章で表現

・行動性格:※文章で表現

・所持財宝:※文章で表現

・得られるEXP:※数値表記

・特徴:40×6行ほどの解説


 こんな感じで80キャラくらい? 文章で表現っていうのは、テンプレ的なものがほとんどなくて、例えばアサシンバグだと、


知力:種族保存本能により活動を行う


 って感じだけど、カッパードラゴンだと、


知力:その知力は馬よりも劣ろう。逃げる事すらもしないのである。


 なんて風に、全てのモンスターに異様なレベルの愛込めて個別に書き込んであるのよね」


「濃いですね……!」


「そう。特筆すべきは、単に数値とかの説明じゃ無くて”何故、その魔法を使うのか”とか”何故、これだけのステータスを持っているのか”など、”そのキャラがそうである理由が説明されていること”なのよね。

 そしてこのステータス解説、どこかで見たこと無い?」


「…………」


「……キャラ設定作るときの項目……!」


「そう。小学生時代の自分にとって、メジャーゲームが提示した”設定”って、ホントにインパクト強くてね。

 ステータスというと数値とかスキル名とかを考えるものだけど、文章によって”何故、そういうことをしているのか””何故、そうなっているのか”が説明されているというのは、かなり説得力があったの」


「それはつまり、……そのキャラが、何故そのようにして存在しているのか、という、本当の意味での”設定”ですね」


「だから、このXANADUと出会わなかったら、私の人生多分変わっていたわねー……」


「で、これが”自動人形”にとって、どのような影響を?」


「ええ。これらのお陰で、私の中では、モンスターだろうと何だろうと”その世界で生きている理屈””その生活様式”などを考えるのが必須になったのね。

 そして更にちょっと話を重ねると、この時期、日本のTRPG界隈に、一つとんでもないモノがやってくるの」


「それは?」


「”ルーンクエスト”」


「アー」


「解る人は解るわよね。もの凄いデータ量で、世界というか”星”一個を作ってしまったファンタジーRPG。

 戦闘は行動量を示すSR(ストライクランク)単位で進み、無数のスキルや部位HPなど、革新的な作りの上、完全に出来上がった神話群と、それら多神教の勢力と、唯一神教の勢力が争う世界で、――どんな種族でプレイしてもいい。ここが大事」


「順番的な流れで言うと、こうなるわ」



・ゲームなどで”種族”の概念、知識を得る。

 :WIZ、XANADUなど

・自己流ボードゲームやPCゲームの作成から、世界や物語の構築を始める。

・TRPGを知る

 :ルーンクエスト

・クロニクルやホライゾンを書き始め、ホライゾンで挫折



「アー、何となく解った感あります。クロニクルやホライゾンを書き出す際に、前提となる”導き”みたいなのがあった筈だと思っていたんですが、ルーンクエストとかがそれに該当したんですね!」


「そう、つまり、”世界を作ることを挫折”する前に、”作られた完成形の世界の一つ”として、ルーンクエストを見ていた訳」


「日本のRPGじゃなかったんですね……」


「いや、日本のファンタジーって、当時、島一個とか、何か定かになってない大陸の何処かとか、そういうのが基本だったし、政治や商業とかの詰めが無かったのよね。

 ”ファンタジーだからあり得る”じゃなくて”何故、それがあり得るのか”の結果としてファンタジーが生じて欲しかったのよ。XANADUとか、そういうのを経てきた身としては」


「だからまあ、自分の中では、まず、どのような種族も、その世界の中で生活していて、そこには設定による”基盤”がある、というのが当然になっていた訳ね。

 挫折の後、世界を固めていく過程で、つまり種族としての存在があやふやだと世界もあやふやになるから、そこらへんしっかりしよう、と」


「それで”自動人形”は、どういう風になったんですか?」


「ええ。初め、自動人形は、自動人形であって、自動人形じゃ無かったの」


「……ンン?」


「さっき言ったでしょ。AHEADであり、EDGEである、って」


「それはどんな意味です?」


「ええ。ホライゾンが挫折する一方で、クロニクルは書けていたのね。

 当時のクロニクルは”EDGE”というタイトルで、主人公は火場だったの。

 あ、火場ってのが誤植じゃなくてホントに”火場”、後に”飛場”になるわ。

 そしてヒロインは美影ね。

 で、この、美影の設定がちょっと複雑」


「複雑? クロニクルでは、3rd-Gの末裔ですよね」


「ええ。だけどクロニクルの原版では、現実世界に落ちてきた幾つもの異世界、その技術を用いて米軍が試作した人型機械だったの」


「…………」


「……また複雑な。でも、この美影さんは”自動人形”じゃないですよね」


「ええ。戦闘用に作られていたからバトルドロイドとか、そんな呼び方を初めは考えていたわ」


「随分と未来形ですね……」


「これもまた理由があってね。さっき、80年代のパソコンゲームの話したじゃない?」


「ありましたねえ」


「そういったゲームの中に、マイクロキャビンっていう会社が、1986年に”カーマイン”っていうゲームを出すの」


「ほほう?」


「この”カーマイン”、広大な3Dの地下研究所にパワードスーツで乗り込み、三体のバイオドールを破壊することが目的なんだけど、3DRPG(成長はしない)をベースにしたAVGでね。

 物語の”味”となっているのが、登場人物の誰かにバイオドールが化けていて、誰が本当に味方か解らない、ってのが面白さになっていたのね」


「今だとボードゲームとかでありそうですね」


「感じ感じ。これが結構、私の中で印象すごく強い設定だったの。何故かというと、その頃までに触れてきた創作物だと、人間型の機械って人に奉仕したり、また、メカだったりというのを”表”に主張してたのよね。それが人に化けて、って言うのは、何かもの凄く”生きようとしている”感あったの」


「さっきの、XANADUで言う”何故そうなっているのか”が、ある訳ですね」


「そう。理由付けが、存在そのものを示してるのよね」


「ブレードランナーとかも、そういうテーマでしたよね」


「ブレランはレプリカントが”人造人間”なのよね。だから見ていて”人を模して作られたものと人との差異を考える”にはなるんだけど、カーマインのように”生き延びるために人を模す”とは違って、後者は凄く生々しかったわけ。更に――」


「更に?」


「”カーマイン”の宣伝コピーで、こういうのがあるの」


自らの影に脅え、愚かにも

その影を消し去ろうとするものがあった

だが、影は既に影ではない


「格好いい一方で、無茶苦茶ヒネってますねコレ……!」


「コレ、恐ろしいことに、さっき確認のための本文見たら、頭の中にあるのと一字一句同じだったわ……」


「どんだけ」


「いや、でもコレ、格好良いわよねー……。人に化けるバイオドールの悲哀というか。

 ここ凄く大事なんだけど”格好良い”って、ホント、重要なのよ」


「まあ確かにそうですが、何故ここで”格好良い”が?」


「ええ。私、クロニクルとホライゾンを作りながら、”クロニクルとホライゾンが時代違いの同一世界”って設定にしていたじゃない?」


「してましたねえ」


「じゃあその場合、気をつけないといけないことって何?」


「……誤字を無くす?」


「あのね? 誤字をやらかしてる訳じゃ無いのよ。ええ。校閲さんに仕事を作ってるの」


「モノは言いようですね……」


「まあそんな感じで。気をつけないといけないのは”用語の共通”ってこと。

 つまりクロニクル側で使った言葉は、基本的にホライゾンにも受け継がれるんだけど、ここで一つ、問題が生じるの」


「問題?」


「ええ。クロニクルは現代で、ホライゾンはファンタジー。

 ――だからクロニクルで美影のことをバトルドロイドとか言ってると、その言葉を受け継ぐホライゾンでは、彼女と同じような種族がファンタジーなのにバトルドロイド呼びになっちゃうの。

 コレ、駄目よね」


「話の流れが何となく見えてきました」


「でしょ? 長い年月が設定としてあっても、”種族名が変わる”なんてフツーあり得ないわ。だからクロニクルで美影がどう分類されたかによって、ホライゾンでも同種族=自律で動作する人型機械は、その呼び方になるの」


「アンドロイドとかじゃ駄目なんです?」


「さっきも言ったとおり、未来過ぎて浮くのよね……。

 XANADUとか経てきたから、自動人形を種族として見た場合、そこに”ナンタラドロイド”とか入ってたら、それをどう説明しよう、って。

 大体、ホライゾンとクロニクルが繋がっているっていうのは、ホライゾン(当時)の中では隠し設定だったから、その中に”ズバリ過去と繋がる”みたいなのがあると、それはそれで駄目よね的な?」


「解らんでもないです……。って、ああ、つまり”格好良くない”んですね」


「そう。だから”人を模す機械”を、どう名付けたらいいんだろう、と思っていたら、あるものがうちに来たの」


「あるもの?」


「ええ。1980年代半ばから、”CD”ってものが市場に出始めてね? うちは何か意味も無く、親が新聞広告のCDクラシック全集を買ったのよ。CD30枚くらいのアレ。

 それでまあ、どういうものだろうって見ていたら、それがあったの」


「アー……」


「解るわよね? 歌劇”コッペリア”。第二幕”自動人形の音楽”」


「…………」


「……今、すごく、雑な話を聞いています……」


「いやまあ、そういうもんよ。でも”自動人形”って言い方が凄く引っかかったのね。ツボに来たというか。だからコッペリアを調べたら、話としてはコッペリアが主人公じゃ無いことにウヘーとか思ったけど、勝手に動いて人になっていく人形って、ちょっとよくない?」


「興奮しない。しない。でも何となく解りますね」


「そうそう。バトルドロイドとか、そういう名称を未来過ぎるからどうしようかなあ、と、そんなのを考えていたときに、コッペリアで”自動人形”が来たわけ。

 アー! これだ! って感じよ、ホント。

 つまりカタカナで考えてると未来形になるから、敢えて漢字、和名にすればいいんだわ!」


「逆転ですね。未来形の単語じゃなくて、ファンタジー的単語が当たる」


「そう。だから美影については”自動人形”で決まり。

 カーマインで感じていた悲哀も、人になることが出来るなら、ハッピーエンドの出口があるじゃない?

 人を模す機械が、人になるということで、美影には異世界を攻略する中で”人と化していく”というコッペリア設定も付いたわけ」


「……つまり美影さんが自動人形の始まりで、始まりの自動人形はコッペリア効果を持っていた、と?」


「そう。うちの自動人形は、スタートから”人になっていく”存在だったの」


「……何が何だか……」


「物事の流れって、単純じゃ無いのよねー……」


「コッペリアだけで生まれたものかと思っていましたが」


「種族として、っていうのがあるものね。その世界にいる理由があるし、だからこそ名称は格好良くしてやらなきゃいけなかったわ。

 だから”自動人形”。

 後に”人にならない自動人形”と分ける場合でも、”コッペリア式”とか、そういう枕の有無で区分け出来るようになってるの」


「じゃあ倫敦のクラウゼルは?」


「ええ。当然のようにコッペリア式自動人形として出たわ。だってそれは、うちの自動人形として王道というか、これこそが”うちの”と言い切れるものだから」


「クラウゼルのバックには、祖としての美影さんや、そこから生じる”種族”としての自動人形という、厚みが”押し”てくれていた訳ですね」


「マー、うちの自動人形って、こういういきさつで生まれた訳」


「自動人形としてのスタートでは無く、”人を模した機械”に”人となっていく機械”が重なることで出来たというのが、何とも無茶な話ですね……」


「よく考えると、以前から言っている”ワンショットのアイデアで始めず、別のアイデアを重ねてオリジナリティにする”の一例ね」


「アー、結果論ですね。結果論」

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