『電詞都市 DT』VR世界での物語を一足先に


「今回の話は、都市シリーズの電詞都市-DT(デトロイト)。2002年に出版されたもので、所謂VRモノ。MMORPGモノみたいな要素を多く持ちます。しかし20年前? そんな時代に作られた内容が、どんだけ未来を想定していたのか、ヴィジュアル面から見てみましょう。つまりお気軽DT観光? そんな話ですね」


「そんな感じで、DTの内容をまず軽くお願いします」





「兄弟子が、チョイと世界のルールを書き換えようとして電詞都市DTに逃げ込んだから、弟弟子の青江・正造がDTに潜入、かつての後輩である優緒と共に、DTと世界を巻き込む騒動を決着する、って話ね」


「このDTが、つまりちょっとファンタジー入ったMMORPG的世界だった訳ですね。2002年のVRモノ、どんな風だったのか、見てみましょう」


「じゃあまず表紙から見てみます」





「ゲーム的、というのが第一の発想よね。表紙のデザインもロムカセット時代のパッケージをイメージしたものになってるわ。

 全体的なイメージとしても、世間的にはどんどんリアルポリゴン化していくんだけど、ちょっとレトロなピクセルがVR空間の中の構成要素として生きてる、みたいな。

 だから術式の散り方はグリッチ的になる訳」


「全体的にスクエアデザインだったり、ボタン的な”●”が配されたりと、そんな感じですね」


「しかしこのグリッチ的手法、当時じゃなくて今の方がフツーにあったりするから、何が時代と噛み合うかは解らないものね……」


「あれは結構真面目にやると、処理能力必要ですからね……」





「舞台はデトロイト。説明文にもあるとおり、言詞爆弾の暴発で情報バケしてしまったデトロイトに、OSとしての機能を与え、情報空間として再構成。電詞技術などをベースにしたのでクロック数が高く、現実に比して100倍速度で通常動いている、という世界ね」


「周囲がループ構造の水場で覆われていたりと、ちょっとドット絵時代のRPG感ありますね」


「空間としては大体リアルに40キロ四方。オープンワールドとして考えたら、破格の広さじゃないかしら?」


「1600平方キロって、ちょっと今でもなかなか見かけない数字ですね……」


「今のゲームよりも次世代になったら、そのくらい行くかしら? とはいえDTのこの広さは実際の地図からの割り出しなので、ゲーム云々の意図があった訳じゃないわね」


「中央の湖が爆心地ですが、よく考えたらうちの方の三河も同じようなことになってましたねー……」





「術式説明ですね。

 DTでは術式を発動すると、キャラの作用箇所にこのような紋章がダウンロードされます。コレ、今見てもいいアイデアですね」


「当時のゲームだと、術式のムービーやリアタイエフェクトで魔方陣が出たりってのはあったけど”魔法”感がどんどん御強めになっていく一方で、デジタルのゲームならでは魔法表現=魔法のデジタル表現ってのは何かな、って考えたりしてたのよね。

 そこで生まれたのが召喚=ダウンロードって概念で、見た目解りやすくこうなった訳」





「そして本文側ですが、目次がメーラー目次……!」


「結構、気合い入れて作ったわ……。ええ、”ゴミ野郎”がやりたかっただけって話もあるけど、マーそんな感じ感じ。もう、何から何までデジタル系で固めるって、そういうデザインなのよね、DTは」





「導入もグラフィカルに! という感じで、イラストノベル的な表現で4ページほど。こんな風に前日譚が書かれます」


「枠がウインドウ形式なのはDT独特のデザインね。今見るとマック系っぽいけど、恐らくX68系のウインドウだわコレ」


「しかしここで召喚されている術式が”Explorer”なあたり、やはり2002年ですね」


「まさかOSのオフィシャル会社のメインブラウザが消えるとか、当時は思わないものねえ」





「DTの内部のイメージですね。これ、人々の台詞が見えてるんですか?」


「いや、設定として、内心を表にこうやってフキダシで出すことが出来るの。喋るの面倒なときとか”察して”って時に使うし、コレばっか使うことで”DT住人アピール”にもなるわ」


「ちょっとした文化ですね……!」


「当時は何となくやってたネタだけど、今だとエモートとか、そっちの一種ってことになるのかしら」





「章タイトルは、何ですコレ?」


「登場人物というか、DTの外と中をつなぐ担当者が、DTの状況を実況してるの。これは外の反応も含んでいるから、つまり読者はここで内部の状況進行と、それに対する外の世界の反応を知ることが出来る訳ね」


「ネタだけかと思ったら、存外に大事ですね……!」


「閉鎖空間の中に閉じ込められている……、というネタはMATRIXとかメジャーにもいろいろあるけど、その内部を実況してるってのは当時だとレアじゃないかしら」





「ええと、これは解説ページです?」


「ええ。DTでは、前章で出た用語とかいろいろを、章タイトルの裏ページで即座解説するの。可能であれば本文中に差し込みたかったんだけど、版組とかの調整がキツくてね。

 こういう即座の解説性なんかも、最近は漫画とかでよく見るわよね」


「アー、今で言うチュートリアルみたいなものですね」


「今の読者は解説嫌いかと思えば、ヴィジュアル化されたり、本文中や章ごとのは有りなのよね。”読んでる”というリアタイへの組み込みは有りなのかな、と思ったりだけど」


「ありますあります。えーと、あと、この見開きは……」


「うん。DTは情報の世界だから、キャラクターが幾つもの”状態”を持ってるの。普通にキャラとして移動や言動が出来る”普通の本文”状態を”言解議状態(サイトモード)”、高速の遣り取り用に、視界を塞いでチャット状態になるのを”言定議状態(ボードモード)”。

 そして巴里のように、自分の視界をキャッシュクリアして更新するのには”言像更新(オーバーリロード)”っていうのを行うわ」


「これ、今だとアイコントークですよね……」


「そうね。うちがアイコントークの導入に対してスムーズだったのは、ホライゾンのチャット会話が由来するけど、その元とも言えるのがコレね」





「このあたり、解りやすいわよね。今のバッファーとアタッカーって言えば一発かしら」


「そのあたりの概念が広まる元となったFF11が2002年スタートですが、リリースは5月。DTは3月なので、ちょっと外れてますね。そういう意味では、既存のRPGなどから発想したバッファ概念が用いられている、という処でしょうか」


「そうね。DTでは、青江に機能制限が入っていて、このダウンロードは優緒の担当と、そうなっているの。バフと密接なアタッカーが両者協力してクリアしていくのが基本スタイル……、という概念は、当時のMMORPGでは珍しかったんじゃないかしら」


「プレイヤー人口が多くないと出来ませんし、モラルのルール化なども要りますからね……」





「DT住人は、時折、リアル頭身からSD頭身になりますよね? これは一体?」


「ええ。彼らは情報体だけどコード性が高いから、自分達の”機能””スキル”をアプリのようにインストールして生活してるのね。――で、リアル頭身だとそういったものを多くインストールできるけど、やはりコストも掛かるし疲れるわ。だからある程度自分のカスタマイズが出来る連中は、時折多くの”機能”や”スキル”をアンインストールや停止状態にして、己を軽くするの。

 そのとき、姿がSDになるのね」


「獲得スキルのコストを考えて自由に脱着、というのは、システムとしては結構面白いですね。剣士になったり術士になったり、いろいろ出来そうです」





「なお、NPCは多く存在していて、基本は業務を行う程度のAIだけど、一部はしっかりした人格も持っていて青江達の前に立ち塞がる、という話ね。

 彼女は描画系の術式を用いるNPCのミスト。他三体、皆、天使に属する構成で派手な技を使ってくるわ」


「AIの持つ矜持や過去とか、そういうのもいろいろありましたね-」


「さて大体ビジュアル的に特徴を見てきましたが、結構、要素がありますね」


「今更気づくけど、広大な3Dオープンワールドだったのよね」


「そうですね。そのあたりメジャーにしたGTAⅢが海外だと2001年、日本だと2003年なので、概念的には結構先取りしています」


「そのあたり考えて見ると、こんな要素になるのかしら」



・広大なオープンワールド

・自由に組み替えが効くスキルシステム

・逐次解説の導入

・高速の遣り取り専用のモードがある

・ポジティブ、ポップな世界観

・エフェクトがデジタルとして派手

・各所、細かいところまでデジタルデザインで、軽いファンタジー要素あり

・SD化なども可能

・個性在るAIのNPCがエスコート

・自分の思考を外に出すことも可能なエモート

・バフ、アタッカーなどのチームプレイで強くなれる!



「……ということを2002年にやっていた訳ですね」


「箇条書きマジックが入ってる気がするわ……」


「まあそんなもんです。しかし、記憶に残ってる分で、印象的なイメージというのはありますか?」


「今回、見ていて思い出したけど、はじめの見開きの優緒が見上げてる空ね」


「空?」


「ええ。私の中にある空の原風景って、連射王を書き上げた翌日に見た夏の青空だったりするんだけど、原点は何かって言ったら、実はアウトラン(SEGA:ドライブゲーム)の青空なのよね」


「……また変な処に飛びましたね」


「そうね。夏の晴れた青空。解りやすいブルーの一色に、白い雲。ゲーム画面に大きく広がる架空の青空がものすごく記憶に残ってて。

 RGBの青空に向かって椰子の並木の海岸道路を突っ走っていく、っていう、その全体的な絵も含みで、架空の世界が見せてくれるものに圧倒されたのよね。

 ファミコン世代以降は、”風景”の原点がゲーム内にあるよ、って人も少なくないと思ってるんだけど、DTのその見開きが出来てきたとき、何か感慨深かったのを憶えてるわ」


「他に伝わらないような感慨ですねー……」


「感じ感じ。でも私の中で、DTはいつもポップな天気模様で、人々は王城が作ってくる”仕掛け”や、オープンワールドのそこかしこを毎日刺激として楽しみながら生活してると、そんなビジュアルなのよね」



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