『奏(騒)楽都市 OSAKA』日本というものの捉え方


「今回の話ですが、都市シリーズOSAKAの世界は、日本の中で学生の自治力が高まり、一般の政治経済とは別に、学生世代はその世代の中で日本を治める二重の社会構造がある……、という、そんな変わった日本がどんなアイデアで出来たのか、という話です」


「日本というものの捉え方……、と来ましたが、以前話をした神州対応論じゃないですよね?」


「そうね。これはちょっと別の話。日本に限らず、というか、国内とかいろいろなものを見るにおいて考えてみることがあるわね、と」


「? どういうことなんです?」


「学園都市とか、学園国家モノって、今ちょっと珍しいわよね」


「アー、確かに。学生の自治力が高い、みたいなのはあまり無いですね」


「それがどうしてかは、私、web小説とかの方は詳しくないから別に譲るわ。語っても御気持ちにしかならないでしょうし、恐らく、総体として語れるものでもない=能動としてそうなったのではなく、結果としてそうなったように思うし」


「解ったような物言いは避けるのが吉ですね。だとすると、こっちの話として、OSAKAは設定的に日本国内に学生自治勢力があることになってます」



・一般政治、経済

・学生政治、経済



「そうね。ここらへんの分化がありつつも、OB達によって混在して、協働が進んでいるという話」


「じゃあ、ちょっと流れをお願いします」


「1900代半ばから、学生達の社会運動参加や、そこにおける術式(神技など)の使用レベルが国際的に上がっていって、学生側の中から、それを自治する動きが出てきたのね。

 これによって、各管区ごとに学生の番付を行い、代表者によって自治を行わせる。

 つまり番格制度。

 総長・副長・副長補佐×2・特務×2・広報長

 この八人体制で各管区を担当するの」


「総長連合と似てますね……!」


「というか総長連合にこの番格制度が似てるの。元はGENESIS-SYSTEMのルールだから」


「またいきなり出てきましたねGENSIS-SYSTEM……」


「うちのを語るときには必修科目みたいなものよ。ちょっと由来を話すと、GENESIS-SYSTEMのYAMATIC-SUPPLEMENT……、つまり私達ホライゾンのベースとなったシステムは、学生が主なプレイヤーキャラという設定だったの」


「? どうしてです? 一般人がプレイヤーキャラではないんですか?」


「作者(川上稔)が、それを作り始めたとき、中学二年だったから。

 ホライゾンを書こうとして”解らん!”で始めた以上、システムとしてまず取りかかるもので”大人・一般”をやろうとしても”解らん!”になるから、だったら”解るんでは?”という等身大の学生を主役としたシステムを作り出したのね」


「変な処で理に適ってますね……」


「当時の私、キモイくらい真面目だわ……」


「中の人! 中の人……!」


「でまあ、こっちとしては、冒険者というものに対してケッコー懐疑的な処があってね。――だって、国とか好きに行き来していろいろな処に行って仕事をするなら、つまり傭兵の何でも屋バージョンよね」


「ええ、そうなりますね。それが何か?」


「でも国家間を行き来するとき、身分保証とか無いと駄目でしょ? パスポートもしくは手形? みたいな? だとすると、この何でも屋は国際的、またはある程度の国家間での保証が成されてないといけない訳。

 そして何でも屋に保証されるものは何かと言ったら、技術力よね。技術力って言うとDEXしか考えない人も居るから、ここでいう技術力とはスキルってことね」


「スキルのレベルを、国家が保証するというのは、つまり免許とかもそうですね」


「そうそう。中学生にとっては、試験とかってホントそういうものよ。卒業証書を貰うためにいろいろ研鑽するわけだから。

 でまあ、そんな何でも屋に保証を与えるんだったら、その国家または国家群は、もっと数の多い一般人にもそういうものを与えている筈よね。

 だとすると、そういうものを効率よく与える機関が必要でしょ?」


「アー! そこで学校……!」


「そう。自分的にはRPGのトレーニンググラウンドがコレに該当するのかな、という感覚だったわ」


「ウィズが基礎なんです?」


「いや、トレーニンググラウンドって言うと、すぐにウィザードリィが出るけど、それとは別。実際、当時のパソコンゲームの多くではキャラメイキングの出来るゲームの場合、トレーニンググラウンドやギルドの設定があったし」


「アー、ファンタジー(海外RPG)なんかもそうでしたね!」


「私としてはザナドゥ(日本ファルコム)のトレーニンググラウンドが印象深いわ。地上部分に各修行場があって、そこで”金を払うと能力値が一定数上がる”のよ。金で能力を買う! 85年にここまでシステム的に”学習”という社会構造の一つを示したゲームって、なかなか無いわよね……」


「で? GENESIS-SYSTEMでは、どのようなゲームを参考にしたんですか?」


「いや、GENESIS-SYSTEMではキャラメイキングが選択チャート式だから、そういうのを参考にしてないの」





「こんな感じで、チャートによって出身地や階級、性格などを決めていくと、それにあった数値やスキルがキャラシに反映されていって、全ての選択を終えたとき、キャラが一人出来上がるって話」


「ダイス振らないんですか!」


「ええ。たとえばザナドゥのトレグラだってノーダイスよ。それに当時のTRPGシーンにおいて、キャラメイキングでダイス運の云々でケッコー汚いの見てるからね。

 それに、当時の中学生から見たとき、自分ら、体格とか生まれとかの差はあるとしても、義務教育とかそのあたりでは、ケッコー”平均”が生じてるよな、と思ったのよね。

 だからランダム要素に頼らず、”同じ人生の時間を歩んだキャラは、その時間分において似通っている”ように、チャート式にしたの」


「…………」


「……理屈臭……」


「目指してるものが”世界の把握”だものねえ。ランダム要素なんてある訳がないのよ。しかし全ては連動してる。そういうことよね。

 なお、トラベラー(TRPG:日本では1984年)のキャラ作成がこれに近しいと聞くけど、トラベラー、私がTRPGを始めたときには市場には無かったのよね。メガトラ(メガトラベラー:TRPG:日本では1991年)の頃にはもう大体こっちのキャラメイキングシステムは出来上がっていたし」


「……で、このトレーニンググラウンドというか、チャートが、つまり”学生の修練”となっていた訳ですね?」


「そう。このチャートを学年ごとに済ませて、完了。だからホントに”その世界の学生”をロールプレイするシステムだったのね」


「だとすると、たとえばクロニクルの尊秋多学院は……」


「ああ、原盤の方では、アレがGENESIS-SYSTEMでプレイヤーキャラ達が通う学校という、そんな裏設定」


「繋がってるとか繋がってないとかじゃなくて、直結ですね……」


「マーそういうもんよ。だからうちの”学校”設定って、つまり私が世界を作り始めたとき、解る範囲から始めたから”学校”が世界の根幹になってるに過ぎないのね」


「じゃあOSAKAに話を戻しますけど、その”学校”が、国際的に、そして日本の中でも自治とかの力を持つようにしたのは、どういうことなんです?」


「ぶっちゃけ、将来的にホライゾンやるからってのもあるけど、”学生の社会進出”を叶えたかったから」


「それは一体?」


「いや、学生の時って、いろいろ知らないがゆえの”俺は出来るぜ!”があるし、そしてホントに出来るヤツがいるってのも、何となく解ってるじゃない? それは”学生”という枠の中で、ようやく一人、二人くらいかもしれないけど、さ。

 そういうものをもっと世界観的に支えて行こうって思ったの」


「つまり世界観として、学生が世界を動かすような社会を作る、と?」


「そうそう。だってほら、あるじゃない?」


「何がです?」


「学生主体のラノベや漫画とかで、凄い魅力的なキャラがいっぱい出てきて”すげーぜ!”ってやってるんだけど、最後、大人が出てきたら”かないません……”みたいにおとなしくなって”この、大人に対する挫折も青春だ”みたいな釈然とされるまとめ方されるアレ」


「…………」


「いろいろ危険な処に突っ込んだ気がしますが、言いたいことはよく解ります」


「何で読者の私達がリスペクトして”こいつらは世界的にすげーぜ!”って認めたキャラが、いきなりおとなしくなって”学生ではどうしようもないことがある……”みたいなキモい諦めポエム始めるのよねえ? 抵抗して、暴れなさいよ、って」


「マー何というか、美学的終わり方なんですかね、アレ……」


「まあ、昔からいろいろ読んだりしていて、学生メインの世界観を作っていたら”俺はそういう風にはしないぞ”ってのが出来ちゃってね。

 多くのそういうコンテンツが、”キャラは立っているが、大人の社会に負ける”から、じゃあ”キャラは立っていて、大人と張り合う学生の社会があればいい”って思った訳。

 だからGENESIS-SYSTEMの方の学校も、高校の初期あたりで作ってるものでは、国の軍政と並び、ともするとクーデターを起こすかもしれないと、自治と管理の狭間にあるような位置づけになっているのね」


「バチバチですね……」


「そう。そしてそういう二重社会というか、対立社会の世界観を作っていくと、あることに気づく訳よ」


「何です?」


「――大人も学生だったら、いいんじゃね?」


「…………」


「アー……」


「解る? OSAKAのような”大人・学生”の二重社会としての学生社会って、恐らく多くの人が思いつくのよ。だって私と同じような”学生が太刀打ちできないなんてつまらない!”って思ったら、対立社会の構造になるものね。

 でも、そのアイデアを経た上でなければ出ない”大人も学生だったら?”は、他の誰も思いつかないアイデアだと思ったの」


「……何か、似た話を聞いた覚えがあります」


「クロニクルの”異世界間戦争”なんて、誰でも思いつくから、じゃあこっちは”異世界間戦争の戦後処理を書こう”ってのと、同じね。

 近しいけど、他の人達が思いつかないネタをやるのが”うち”よ」


「ホライゾンの世界は大人も学生。このアイデアは高校の半ばくらいで出てきて、GENESIS-SYSTEMの方だと”学生は学籍を除籍しない限り、学年を重ねていく、そして学生以外の職業に就いてもいい”ということになり、今の雛形が出来た訳。

 だとすると、全てこっちに統一しても良いんだけど、折角ネタを二つ持っている訳じゃない? そして当時、学園都市とかはあったけど、学生と大人の対立社会構造とかをやってるのは無かったからね」


「ええと、じゃあ、OSAKAは……」


「ええ。原盤の頃から、二重構造の大人と学生の社会で出来てたわ。ちょっと不遜だけど、学園都市とか、そういう処で止まっているなら、まずこのOSAKAで一つ先に行こうと、そう思ったの。そしてもし、後に誰かが追いついてきたとしても、そのときにはホライゾンの”大人も学生”で突き放せるから」


「――学生の居場所、社会的地位みたいなものを、どう表現するか。”学園都市”の多くは”舞台としての学生の居場所”であって、社会構造に食い込んでないのね。

これはクロニクルの尊秋多学院も大体同じなんだけど、あっちは”異世界間戦争”の方が主ネタだから違うのだと御理解ね」


「まああっちは00年代の話ですから、二重社会構造やったら別世界になりますね……」


「なお、二重社会構造の方が、学生の年齢とかが大事になるから、”学生感”あるのよね」


「アー……、極東の”学生上限年齢”って、まさか……」


「OSAKAで、そこらへん考えると解るでしょ? ゲーム版で安先生(初老だが、訳あってまた学生として入学する)が異質な存在に感じるのは、学生の上限年齢ってものが私達の意識の中にあるからよ。

 だから極東=主人公側と考えたとき、上限年齢を設けるのは、設定としても合ってるし、読者としてもトーリ達に”学生感・感情移入”をさせるものでもあるの。

 OSAKAは今でも人気あるけど、あの”学生感”がその理由の一つではあると思うわ」


「では、そういう”学生と大人”の社会を持った日本ですが、更に激動しますよね? 東西に分かれる、という」



■近畿動乱

OSAKAでは、作中の13年前に、甲子園のジャッジミスを巡って学生同士の抗争が開始。近畿地方を大きく巻き込んだそれは、名古屋にて”格”爆弾の暴発を起こした上、最終的に東京圏と大阪圏の総長が犠牲となることで決着。日本は東西分裂の抗争状態となった。



「1983年の甲子園だから、現実の方だと清原・桑田を一年スタメンで採用したPL学園が優勝ね。清原と桑田の、どちらに対してもジャッジミスで勝負が変わったら、そりゃ暴動も起きるわ……」


「PL学園の野球部が無くなるとか、当時は思いもしませんでしたね……!」


「まあそんな感じ。東西分裂が生じたのは話の流れではあるけど、あれは、東京に住んでいた自分から感じられていた”東日本と西日本の関係”の表現なのね」


「それはどういう?」


「うちは母方の田舎が鳥取でね。夏休みとか、車や新幹線とかでそっちに行くことがあるんだけど、マー、行ってみると”東京のルールが通じない”のよね。

 言葉が通じる異世界、みたいな」


「凄い評価が出ていますが……」


「いやホントよ? テレビのチャンネルが4つしか無かったり、流れてるバラエティ番組が”これ、半年前に見たな……”だったり」


「……時差?」


「アンタが一番酷いこと言ってるわ。――で、食もケッコー違うでしょ? その違いから言って、学生達が社会を持った場合、つまり関東と関西はお互いにとって”修学旅行でなければ行かない”みたいな感覚だと思って、その感覚を誇張したのね。

 それが東西分裂」


「名古屋良い迷惑ですよね……」


「うちらの時代(ホライゾン)でも新名古屋城と一緒に吹っ飛んだもんねえ」


「あれは、OSAKAの場合、何でです?」


「ええ。東西分裂を考えたとき、最も得するのは名古屋でしょ? 仲介してもいいし、拒否で独立してもいいし。

 でもそうだとすると、東西側から見たら、名古屋をまずどうにかしよう、ということで暗黙の了解になると思ったの」


「ええと、じゃあ、”格”爆弾の爆発というのは……」


「作中の台詞では”落とされた”って言ってるから、名古屋側では望んでなかったってことね。それがどのようなものだったかは別として、名古屋や各勢力がどう立ち回ろうとしていたか、っていうのは、解るんじゃないかしら」


「まとめてみると、無茶苦茶な日本ですね……」



・社会構造に、大人と学生の二重化がある。

・日本が東西に分かれている



「ある意味、四つに分かれてるとも言えるわね。でも各国の動きに対応しなければいけないから、そういう意味では各勢力は協働するし、この状態が駄目だと気づいてるの」


「作中でも、大人にしろ学生にしろ、東西の統合の重要性を話題にしますよね」


「ええ。実は作中に入ってないバートとして、そこらへん重要なものがあるの。

 主役格の一人、大阪圏総長、難波・総一郎の婚約者である法善寺・久枝。

 彼女の家は法善寺グループっていう巨大な企業帯の長なんだけど、最終決戦の行われる間際、総一郎の出撃に応じて、法善寺家から詞変線を越える処理をされたハリアーGR.1/3が東京に向けて離陸する、という、そんなシーンがあったのね。それを見送る岩井・参三、みたいな」


「ハリアーGR.1/3だと英国の機体ですから、法善寺家が架空都市とも繋がっている、という話ですね?」


「ええ。それが東西の和解を西の経済から請願する書類を持ってる、みたいな話」


「無茶苦茶大事ですね! それがどうして入らなかったんです?」


「いやまあそれは別の機会ということで……。あ、悪い話じゃないわよ? 変な話」


「何が何だか……、という処ですが、OSAKAは東西分裂と大人と学生の二重化社会の日本を舞台としてる一方で、東西の和解と、大人と学生の協働を書いた話でもあったんですね」


「日本、というものを使って、巨大な多重社会の動きを書いてた訳ね。そしてOSAKAの動きって、つまり学生が社会に出て行く契機になるから、ある意味、ホライゾンのような世界観の可能性をも示唆してるの」


「変化が激しいですね……」


「まあそういうのも都市シリーズの面白さよね。

 ”日本というものの捉え方”として見た場合、”学生”という視点が凄く強いわ。

 さっきも言ったような”関西と関東の差”を、断絶という処まで誇張してあるもの。

 でもこれは、私が学生時代、母方の田舎に行ったり、修学旅行で近畿方面とかを訪れたときのインパクトを”日本”に当てはめた感ね」


「言葉が通じる異世界みたいな、……そこに学生の社会で、後々のホライゾンの世界も視野に入れられるように、となると、ホントに”学生視点の日本”ですね」


「そうね。でも、良いでしょう? うちの日本だと、”最後に大人に負けてポエム詠むような諦めいい学生”は、一人も居ないのよ」

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