群像劇!

「今回の話は、川上作品は群像劇と言われますが、さて書いていた本人としてはどうだったのか。そしてどのような思案でこの形になったのか。

 マーいつも通りテキトーですよと。そんな話ですね」


「そういえば、川上作品は群像劇、ということ言われます」


「ホント? 何処? ソースは?」


「いや、”川上稔 群像劇”で検索掛けると、それなりに出ますよ?」


「…………」


「……ホントだわ……」


「……どうしたんです? ホントって」


「……いや、実はね」


「何です?」


「私、その、自分が書いてるものが、群像劇って自覚がなかったり、そもそも群像劇ってのが解ってなかったのよ」


「……What?」


「うん。私、古文からスタートして変な流れで文章構築したもんだから、本とかはそれなりに読んできた一方で、文章の技法とか、方法論? そういうのスっ飛ばしてきたのよね。

 だから群像劇とかそういうの、解らんで書いててね。

 実は今でも”群像劇ですね”とか言われると、そうなの? って思ってるし、群像劇の意味については、実はさっき生まれて初めてネットで検索したわ……」


「この25周年で何が素晴らしいかって、野人がネットを使うようになったってことですね」


「アンタ後で憶えておきなさい。まあそれでも25年やってられるからいいのよ。でも、当時は今よりも野人度が高かった訳で、ぶっちゃけそういうの、名称は知っていても、自分がそうだったとは気付いてなかったのよねー……」


「……じゃあ、何で、もう35(PANZERPOLIS1935)の頃から、敵方をちゃんと書いたんです?」


「うん。――整合性が合わないから」


「……整合性? どういう?」


「いや、まず、自分達がそうであるならば、敵役は、思想とか方針とかいろいろあっても、文化、文明のレベルとしては同じものを持ってるじゃない?

 例えば蛮族で掠奪とかやってるような連中だって、家族居るし、飯食ったり寝たりするし、”その時代”にいる以上、”その時代”のルールに縛られる処があって、そこには日常が生じるわよね?」


「まあそうですね」


「じゃあそれ書かないと、世界全体としての整合性がとれなくない?」


「いや、別に書かんでも……」


「書かないと”在る”ことにならないじゃない」


「アー……」


「つまり書かないと、敵役が”おかしくなる”のよね。どこに立脚してんのか、って。だから書く訳よ」


「……整合性……」


「……ってホントにそれだけなんですね!?」


「当たり前じゃない。御話とか物語とかドラマとかあるけど、キャラがその世界と自分の環境の中で生きてたら、書くときはそうなるでしょ?」


「あのですね。……さっき聞いてておかしな処があったんですよ」


「何?」


----------------

「いや、まず、自分達がそうであるならば、敵役は、思想とか方針とかいろいろあっても、文化、文明のレベルとしては同じものを持ってるじゃない?

----------------


「敵役に思想や方針とかいろいろあるってのが、フツーに前提になってるあたり、もう既におかしいんですよ」


「……そうなの?」


「基本的に、敵役は”やられ役”でもあるので、主人公達に対する理由があれば充分だったりします。敵役は、倒されるのを読者に見せて、読者がスカっとするための存在とか、そういうものでもありますので」


「アー、まあ、そういうのやってないってのは、35の時に話したじゃない」


「確かにそうですけどねー……」


「――で。フツーの群像劇は、物語をどう見せるとか、キャラを立たせるとか、そういう”演出”のために各キャラの登場シーンがある訳です」


「いや、だから、一応、物語としてフックになるようなシーンを選んでるわよ?」


「アー……。何て言ったらいいんですかね」


「ほら、何が言いたいの? 頑張れ! もうすぐ! もうすぐ出るわよ!」


「要らん応援をしない!」


「マーどんな感じよ」


「ああハイ、アレですね。

 つまり、”物語とかストーリーのために作られたキャラ”が、物語を進めるために最適なシーンを作っていて、それを渡り歩くような”群像劇”ではないんですね」


「アーそう。そんな感じ」


「ハイ説明」


「――周囲状況とか、人間関係によってキャラの関係や主張に動きや変化が入っていってね。

 そうやって変化や関係を重ねて動き出すキャラの中から、全体のストーリーに適したキャラの時間(シーン)を切り出してる感じ」


「つまり手段と目的が逆……!」


「物語の最適部分を各キャラに割り振って、ガンガン話を進めるような、”物語主導の群像劇”ではなく。

 物語に何となく近しいキャラを渡り歩いて、”各キャラの言動の結果として物語が動いていく”……”キャラ主導の群像劇”なんですね!」


「ええ。だからまあ、うちの場合、エンジン掛かるのが凄く遅いのね。物事に気付く処からスタートじゃなくて、物事が何か始まってるのを素通りする処からスタートとか、フツーにあるから」


「何でそんな書き方に?」


「いや、登場人物多いから、憶えて貰うには順次出していかないといけないし、同じキャラがずっと出てると、飽きるじゃない? そんでもって、敵方とかも、いきなり登場すると”ワープの使い手!”みたいなことになるから、ちゃんと前もってここにいますよー、とか、ここでこんな動機がありますー、ってやらないと駄目じゃない?」


「あのですね」


「何?」


「群像劇書く人は、基本、キャラがクローズアップされるときは、物語のエンジンとして牽引して、次のキャラに渡すようにするんですよ。

 ある程度、能動的に、物語に沿っていくことだってします。

 つまり物語の牽引力が強くて、キャラクターは物語の表現手段になるわけです」


「そうなのねー(棒)」


「何でそれをしないんです?」


「いや、……自然じゃないから?」


「アー……」


「考え方としては、たとえ大きな事件があったとして、それは基本的に、主人公達を選んでない、っていうのがあるの。

 起きる事件は、その影響するのが誰でも良くて、それに誰かが気付いたり、巻き込まれたり、自ら関与していって、ってのが自然でしょ? そして巻き込まれたとしても、その当初は”お客様”だから、やはり段取り必要よね?」


「そしてまた、他のキャラ達も、同様にそういう段取りで気付いていって……、って全員分やると、それはまあ、エンジン掛かるの遅いですね……」


「逆に言うと、物語として抜き出す箇所は無数に発生してるから、それをどう抜き出すかの取捨選択が肝心、ってことでもあるのよね……。

 つまりこんな感じ」



A・物語を動かすためにシーン(登場人物)を切り替えていく群像劇

B・発生している物語を見せるためにシーン(登場人物)を切り替えていく群像劇?



「うちは後者な訳ね?」


「……でも何で、そんな風に?」


「理由は幾つかあると思うの。

 まず、うちはプロットを立てて話を書くから、書くときにはもう物語が出来上がっているのね。要するに、話が始まって、そして終わる保証は出来てるから、無理に物語を進めたり、動かす必要がないの」


「アー……、じゃあ、後は物語を見せるのを細分化すればするほど、物語の解像度や説得力が上がっていく訳ですね……」


「そういうこと。そして自分的には”物語”を前に出さない方が、粋じゃないか、って思ってるのね」


「それは?」


「うん。物語主導じゃなくて、キャラがちゃんと自分で考えて、判断して、そして動いていって”全て、そのキャラの選択”にするの。

 なるべく、作者の作為=物語を進めるために、キャラが不自然な判断をしないようにしたいと、そう思ってるわ」


「アー……、つまり物語を重視するあまり”よく考えたら助けられる方法があるのに、何故かそれを選ばない”というのを避けたり、去って行く誰かに救いの声を掛けられる処で、何故か”まあ今はいいか”とか思うようなのを無くしたり、と?」


「そうそうそう。物語の進行にとっては不都合であっても、キャラとして正しいならば、そっちを選択したいの。

 そしてそれらが集まって、尚、話が進むとき、それはストーリーが作られたのではなく”発生”したのであり、結果として”物語の本体は解る人には解るかな……?”くらいが、粋だと思ってんのよね」


「あの、それはつまり……」


「うん。どいつもこいつも物語に協力的じゃないし、キャラも多いから、話が長くなるわよね」


「そんな風になったら、進行が遅くなって、飽きられません?」


「いや、細分化されても、解像度が上がれば、ストーリーには起伏が生じるのよ。

 大きな波をそのまま拡大したら駄目だけど、解像度を上げれば、そこには色々な要素が見えてきて、”書くべき内容”が生じるわ」


「微分積分みたいな話になってきましたね」


「それだけ物語や、世界をしっかり見ておこうね、って話。

 それに、キャラがちゃんと書けていれば、キャラを見てるだけでも楽しいし。だからうちの書き方の場合、目に見えていなくても、常にストーリーは着々と進行しているのよね」


「今更ですけど、私達の存在している”コレ”は、群像劇なんですかね……」


「昔はザッピングって表現もあったけど、そこまでランダム感ないのよねー」


「しかしまあ、強力な物語のプロットがベースにあって、だからこそ、キャラをその上で動かしていれば、物語に引っかかっていて、自然と物語が進む……、というのは、うちの特徴かもですね」


「物語を強く牽引しない群像劇って感じで、まあこんなやり方でも充分有りだってのが解って貰えると幸いね」

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