ページを縮める際の思考法”実践編”

「今回の話は、前回に続いての実践編です。既に実用している作家さん達もいたりする究極法? うちはこれで毎度ケッコー縮めてますが、結果が大事ですよね! ともあれこれをやると絶対ページが縮まる削り法。用法を守ってお使いください。そんな話ですね」


「さて、前回というか、前ので準備が終わって、ここからは実践作業ね。でもその前に、ここまでのものを保存したら、ここからは”別名で保存”したファイルで作業してね」


「保険ですか?」


「保険と言うより、いつでも戻せる無事な素体があると、これから先の削減で、思い切り作業出来るようになるの。そういう意味での安心感を得るためね」


「さて、ではページ削減の前に、またアレを考えましょう。準備編の最初に考えたこと」


「あ、……”単価を下げる”ことで、読者に手にとって貰いやすくすると言う、アレですね?」


「そう。そういうこと。でも、ちょっと解って無いことがあるわよね」


「ええ。……どのくらい削減すると価格が下がるのか、解らないですよね……」


「じゃあ、まずすることは一つね。

 ――削減の、目標ページ数を決めること」


「……とりあえず削って、それで終わりってことじゃないんですか?」


「それも野生のページ削減って感じで有りだけどね?

 でも、削減と単価下げのロジックを考えてみて?

 ――本というものは、紙を使って製本するでしょ?」


「ええ。しますね」


「そのとき、ページ一枚一枚を切り出して製本するんじゃなくて、実は結構ドデカい紙に、複数ページを両面印刷してね? それをページ一枚の大きさになるまで折って、外縁を裁断するの」


「……え?」


「こういう感じね」



「丁度”神々のいない星で 僕と先輩の超能力学園OO下巻”に、いい絵があって救かったわ……」


「宣伝! 宣伝ですね!」


「まあそんな感じで、つまり大判の紙に印刷してから、折って最後に裁断。この方が、紙を作るコストも、裁断回数も節約できて良い訳。

 そしてこのとき、裁断によって生まれるページ数は、大体が16ページ分。

 この16ページ分(紙八枚)を”一折”って言うの(※電撃文庫の場合)」


「えーと、じゃあ、文庫なんかは、数百ページあったりですけど……」


「そう。この16ページ単位の”折”が、複数重なって出来てるの。

 だから”扉~巻末”までのページ数。ノンブルが振ってない処まで数えると、必ず16の倍数になってるわ」


「……待って下さい。原稿は、必ずしも16の倍数じゃないですよね? 原稿を16の倍数にしても規定ページとかプラスされるとズレますし。

 そういう、ズレた時は、どうなるんですか?」


「ええ。ズレた時、16倍数に入らなかったページは、白紙になるわ。場合によっては裁断後に廃棄ね」


「捨てるんですか……!」


「うん。メモみたいなページが入っていても仕方ないでしょ? でもまあ、多くの場合、白紙ページを利用して宣伝ページにするわよね」


「アー……」


「何よここで”アー”って」


「巻末に、たまに、凄い量の無関係な広告がある文庫って、あるじゃないですか……」


「それはまあ、16倍数で余ったページが出来たってことね。何しろ、最大で15ページの空白が生まれる場合があるんだから」


「……ウワア」


「16倍数に入らなかったページは、つまり紙の無駄。宣伝や告知として、狙ったならともかく、ね。そしてまた、もしもその余分を詰め切っていたら、どうなると思う?」


「ええと、その場合、”折”が減ることになりますから……」


「そう。――本の値段が下がるの」


「解るかしら? ここで考えるべきことがあるでしょ?

 ページを削減して、総ページ数を16の倍数(折)に収めれば、紙という資源を無駄にしなくて済むし、関係ない宣伝を読者に与えることもない。そして本の単価も下がるのよ」


「良いことづくめですね……!」


「ええ。こっちのメンタルがゴリゴリ削れるけどね……」


「まあこのことから、目標とするページ数は大体解るでしょ?」



・まず、今の総ページ数から、最も近い16ページ倍数



「これが、最低限のページ削減よね。これでも現状のページ数で製本するより、単価は下がるんだから、”最低限の仕事をサービスはした”って言っていいと思うわ」


「そこから深くなると、大体、どのくらい出来ます?」


「これは私の経験上だけど、今の総ページ数の10パーセントは大体削れるわ。

 でも、削るのは20パーセントがほぼ限界ね。

 それ以上を割り込むと”文章の意味が通じなくなるからやめる”わね」


「だとすると、……280ページくらいの総ページ数だったら、28ページは削れる?」


「そうね。さっき示した”最も近い16ページ倍数”にした後で、もう一折(16ページ)の削減が出来ると思うわ。

 もう少し詰めれるなら、あと一折削減していいと思うけど、更に一折となると20パーセント以上削る事になるから、駄目。意味が通じなくなるわね」


「成程……。じゃあ、240~300チョイくらいで総ページとなってる人は、こんな風に考えるといいんですね」



・まず、今の総ページ数から、最も近い16ページ倍数にまで削減。

・その上で、16ページを追加で削減する。



「そうね。大体そんな感じで目標を決めるといいわ」


「ちなみにうちの場合は……」


「うちは大体、80~180ページくらいを削減してるわね」


「何かフツーのラノベの半分ほどが消えてますね!」


「まあ総量多いし? そしてうちの本の巻末見て貰うと解るけど、ほとんど宣伝ページないでしょ? パリ以降、この”折”のルールに気付いたから、詳細教えて貰ってね。だから宣伝ページがあるとしても、基本、うちのタイトル紹介になるように狙って入れてる訳」


「そんな昔から……!」


「うちほど、読者の負担にならないように単価を下げようとしたり、内容を詰めるためにページ削減してるのって、なかなか居ないんじゃないかしら。コレについてはちょっとした自負があるわね」


「さて、それじゃ目標も決まったと言うことで、削減です。どうしましょうか」


「うん。まず始めに、”御気持ち削減”行きましょう」


「御気持ち削減?」


「うん。原稿をアップしてから、この状況に来るまで、ちょっと冷静になったでしょ? 改行入れたり、章分けしていると、ページが増えていって”アッ、アッ”みたいな気分にもなるものね。そして、何となく”あの箇所を削減しようか”って目処がついた場合もあると思うの」


「アー、確かに。何となく”あそこ削れるな”ってのが出ますね」


「じゃあまず、そこ削っちゃって」


「――いいんですか?」


「いいのよ。この削減は、作者側が”削減すべきと解っている箇所”だから、ここでいきなりやってしまっていいの」


「アー、じゃあ、まあ、やります」


「やった後で、章終わりの改ページとか、各節の間の処理とか、見直しておいてね」


「……ビミョーに釈然としませんが”御気持ち削減”しました」


「そう。どうだった?」


「はい。削減もしましたし、ビミョーに加筆もしました」


「そうね。加筆もした。うん。それでいいわ」


「いいんですか? ページ、増える場合もありますよ?」


「いいのよ。後で本気の削減するから帳尻は合うの。そして憶えておいて欲しいんだけど、今後、削減中に”これが足りなかった!”って加筆の必要性を感じたら、迷いなく加筆しなさい」


「え!? 加筆、有りなんですか!?」


「有りよ? だって、この削減処理の間、私達は書き上げた原稿を、最初から終わりまで幾度となく行ったりきたりするの。それはつまり、作品の全体を把握するという行為に他ならないわ。

 このとき、不足を感じたならば、それは本当に不足しているということなの。だから今後気付いた不足や修正については、確実に入れて行くこと。そして最後に削減で収める。

 そうやって、切った貼ったをしていくのが、ここからの作業だからね?」


「ええと、じゃあ、加筆も修正も入れて、御気持ち削減終了です。ページの加工処理も入れ直しました」


「うん。じゃあ、ここから、”何ちゃって台割り”を作るわ」


「”何ちゃって台割り”?」


「ええ。その本の中で、章や挿画の位置が何ページ目にあるか、っていう図表ね。初稿段階になると、担当さんに言えば寄越してくれると思うけど、この時点では無いから、自分でそれなりのものを作るの」


「えーと、手順はどんな感じです?」


「そうね。簡単に、まず章数を最初から最後まで順番に、並べて書き出すの。縦でも横でも構わないわ」


「章数を順番に並べる……」


「そうしたら、各章が何ページ目で始まっているか、何ページ目で終わっているか、章数の横にメモして」


「各章の開始ページと終了ページをメモ……、と」


「それが出来たら、各章が何ページあるか、各章の横に書き出して。

 ――つまりこんな手順ね」



・章数を並べて書く

・各章の開始ページと終了ページをメモする

・各章のページ数をメモする



「ちょっと汚いけど、例示するとこんな感じになるわ。これはホライゾンの11下を削減するのに使ったものの一部ね。結構深めにやった後に、追加で入れるときね」



「ホントにクソ汚ねぇですね……!」


「マー自分が解ってればいいのよ。――で。ここまでやったら、次は各章の終わり方を確認するの」


「? どういうことです?」


「ええ。各章の終わり方がどういう状況か、分別して、記号をつけるの。これは私の場合だけど、こんな感じね」



☆:左ページの、数行だけで終わっている

○:左ページだけで終わってる、または右ページでも数行で終わってる



「例示すると、こんな感じね。さっきと同じ11下の一部で見せるわ」



「随分と☆が多いですね!」


「これはかなりラッキーな状況よねー。でもこうしてみると、何が解るかしら?」


「ええと、……削減しやすい章の、可視化です!」


「そうね。この状態で、以下のことが解るわ」



・各章のページ的ボリューム

・☆マークの章は、かなり削減しやすい

・○マークの章は、他の章よりも削減しやすい



「……つまりこの”何ちゃって台割り”は、削減しやすい章を可視化することで、作業工程を明確にする意味があるの」


「星マークの章は、ボーナスのようなものですね。だからこの章を削減して目標に届く、または越えるなら、それで終わりでいい訳です」


「そう。だからまず、星マークの章の、チョイ出しを削減して、ページを詰める。それでも足りなかったら、○マークの章のハミ出しを頑張って削って、ページを詰めるの」


「あのですね? ☆や○が幾つもある場合、優先度って、ありますか?」


「あるわ。――各章のページボリュームが大きい方から削減しなさい。

 ページボリュームが大きいってことは、削減するマージンもあるってことだから、そっちを優先」


「じゃ、じゃあですね? ☆や○の章を削っても、目標に届かない場合、どうするんです?」


「ええ。ここからが本番よ」


「それは――」


「各章のページボリュームが見えているじゃない? だったら、さっき言ったように、ページボリュームの大きい章から、順番に削減していくの」


「なお、コツがあってね? ページボリュームが大きいからって、一つの章を連続して削減しないこと。一回削減したら、次は、その次にページボリュームのある章を削りなさい」


「どうしてです?」


「削れる箇所って、ある程度限られているのよね。だから同じ章に何度もアタック掛けると、その章がスカスカになるの。だから削減するときは、均等にやっていく訳」


「アー……、整地するとき、山があるからってそこを集中して削ると、地殻削っちゃって面倒になるというようなアレ……」


「そうそう。景観を残すように、バランスよく、ね」


「あと気を付けたいのは、章の始まりが、デザインじゃなく章タイトルとして1ページを設けている場合ね。

 この場合、前の章終わりのページは右ページになるけど、このページを削減しても、その前にある左ページが残っている以上、章タイトルページを詰める事は出来ないわ。

 章タイトルページがある場合、2ページ単位で削らないと駄目だというのは憶えておいて」


「章タイトルページがある本は、大変ですね……」


「そうね。でも、一章あたり確実に2ページ削減する、って考えると、8章分で一折削減できるから、意外にバランス良く大幅削減出来るのよ。

 このあたり、割り切りもあるけど、章タイトル派の強みね」


「ええと、それでも削減仕切れない場合は?」


「え? そんなことないわよ? ――削減しきれるまで、”ページボリュームのある章から順番に削減”していくの」


「……随分と機械的に処理しますね!」


「…………」


「……作品愛とか、そういうの、どうします?」


「馬鹿ねー。”作品愛があるから、削減部分は吟味しなければならない”なんて、そんな風に作品愛を持ち出すなら、”作品愛があるから削減には応じられない”って出版社にそのくらいは言いなさいよ。

 ホントに作品愛があるなら、作品が望むのはアンタに削られないことじゃなくて、多くの人に読まれることだと理解しなさい。そしてその最終手段として作家が出来るのは”価格を下げること”よ」


「も、もうちょっと譲歩を!」


「そうね。――時間があるなら、そういう”作品愛で吟味”もいいんじゃないかしら。でもここでは”最悪の状況を想定”していて、たとえば”明日の昼までに”って言われたときでも可能な方法を示してると思ってね」


「まあ、かなりキツい状況になっても、コツはあるの」


「どういうものです?」


「ええ。――均等削減をするの」


「均等削減?」


「ええ。まずページボリュームのある章を見つけるの」


「あ、ハイ、そういう章を見つけます」


「見つけた? じゃあ、あと何ページ、削れば良いか、明確にして」


「……ハイ、明確にしました」


「じゃあ、次のような削減を行って。

 ――その章の1ページにつき、1行削るか、詰める」


「まさか、これって……」


「ええ。1ページあたり1行ずつ削ったり詰めたりして、17ページ分処理すると、1ページ分の削減が出来るわ」


「豪快な方法が来ましたね!」


「そう? でも17行の内なら、1行は詰めたり削減出来るわよね?」


「……出来ないページがあった場合、他ページで補填は有りですか」


「マー有りにしておきましょう」


「じゃあ確かに、結構、その機会はありますねー……」


「やってみると行けるものよ。そして、この均等削減を、もしも全ページに行ったとするならば、250ページの本の場合、14ページ強、削減出来るの」


「結構削れますね……」


「なおコレ、ページ単位って今言ってるけど、そこまで切羽詰まってない場合は、見開き単位でやっていいわ」


「アー……、34行だったら、1行削ったり詰めたりは出来そうですね……」


「その場合、34ページ分の削減処理で、1ページ詰まるから、例えば一章が30ページちょっと、って構成の時は、かなり楽に詰めて行ける事になるわね」


「しかしこの均等削減、全ページを見直すような作業になりますね……」


「マラソンみたいなものよ。だから私は、こういう削減をするときはこう言うの。

 ”――アタックを掛ける”って。

 一種のスポーツよね」


「そして均等削減を行った後、暫くしてからまたその章を見ると、”もう一回くらい行けそうだな……”って思うのよね。均等削減は大幅な削減じゃないから、本来大幅に削減する箇所が、何割か残るから。

 均等削減を行うと、そういう余分箇所が引き立って来るわ。

 だから、こんな風に行うと良いわね」



・章ごとに、均等削減を行う

・暫くしてから、章ごとに見直し、余分と思える部分を削減する。



「下地作りと、下地を壊すものを補修、という流れですね……」


「そういうこと。他、削減にはいろいろな手筈があるけど、究極的にはこのあたりかしら。――頑張って削減して、手に取りやすいようにしてね」


「いやはやホント、頑張って下さいね?」


「――で。他、何か補足はありますか?」


「ええ。削減の際、作家には一つだけ、御褒美があるの」


「それは」


「――挿画の位置を、指定誘導すること」


「仕掛けは何となく解るでしょ? もしも担当さんが”挿画は自分が決める! 作家にその権限は無い!”って言い放つ御強い人だったとしても、”空きページにしか挿画は差し込めない”のよね」


「……確かに!」


「つまり、作家は、挿画が欲しい位置があったら、次のようにする」



・総ページ数を16倍数に収める。

・その上で、空きページを、挿画の欲しい章に差し込む



「妥協案として、空きページの完全指定じゃなくて、章末に空きページを作って置く、というのでも良いわね」


「でも、もし、それを無視して、担当さんが自分の好きな位置に挿画を置いたらどうなります?」


「その場合は、ページ数が増えて、16倍数を超えるでしょ? そうなると単価も上がるから、その担当さんとは縁を切っていいと思うわ。

 自分の権限を行使するために、作家にも、読者にも、出版社にも損をさせた訳だから」


「なかなか厳しいですね……!」


「そうね。でもまあ、そうならないために、先に話をしておくといいと思うのよね。

”大体、ここらに挿画欲しいので、この章に空きページを設けておきます”とか、ね」


「まあそんな感じ。担当さんとコミュニケーション取りつつ”読者に手にとって貰うために、価格を下げるための削減”という共通目標で、削減頑張ってね」


「もはやちょっとしたDTPですね……」


「マーこんなことも、うちは巴里以降やってきたわけだから、つまり二十年分くらいの技術ね……」

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