『都市シリーズ全体』都市シリーズの開始

「今回の話は、川上作品のスタートとなった都市シリーズについてです。しかしこの都市シリーズ、シリーズ三作目からそう呼んでみたりと、ちょっと変なんですが、何故なんでしょう。今回はそういった謎解きというか、そんな話ですね」


「今回のネタですが、都市シリーズって、途中スタートですよね」


「アー。確かにそうね。香港から……、って言っても、どういうことか解らない人、多いんじゃないの?」


「そんな訳で私の方から解説すると、都市シリーズはPANZERPOLIS1935からスタートして、文庫では伝詞都市DT、ムック本の方では矛盾都市TOKYOと、そんな括りになっているのが現状ですね」


「何か、以前の”シリーズ化”の話でいろいろ言ってしまった気もするけど、そんな感じね」


「そうですね。そしてこの都市シリーズ、今はこんな括りですけど、実は都市シリーズって名称がついたのは、香港からなんですよね。

 それまでの二作、PANZERPOLIS1935とエアリアルシティには、その名称が無いんです」


「何で香港からそうなったんです?」


「ンンンン。ぶっちゃけ凄いいろいろな要因の結果ね」


「どういう?」


「まずね? 私、第二回電撃ゲーム大賞に”架空都市-倫敦”を応募して落選してるんだけど、落選時に聞いた話だと、”●●都市-□□”っていうパターンのタイトルが、既にいろいろな媒体やジャンルにあってオリジナリティが無い、っていうのがあったの」


「アー……、小説だけじゃなくて旅行ガイドとかでもそういうアオリとか有りますからね……」


「自分としては他の都市も幾つか書いてて、都市間差を出す表記ルール? みたいに考えていたし、寧ろ旅行ガイドのパロディ的な面白さ=興味の向け方とか、そんな風に考えていたのね」


「だとすると、タイトルに●●都市、みたいなのはつけられない、ということになる訳ですね」


「そう。だから本来のタイトルを訳してつけた訳。

 機甲都市→PANZERPOLIS

 架空都市→エアリアルシティ

 って感じね」

 

「……あれ? でも、訳して付けたなら、伯林や倫敦、という地名は?」


「これもう解りやすくて、”BERLIN”を読める人が少ないだろう、っていうのと、当時のコンプラ的に? ドイツを避ける傾向だったから」


「……WHAT?」


「いや、90年代中盤くらいだと、第二次大戦の影響もあって、ドイツ=過去に悪いことした国家、ってイメージがあったようなのね。うちらタイガー戦車とかタミヤのプラモで作りまくって”ウヒョー”とか言ってた派だから、そこらへん解らないんだけど。

 だから担当さんから、ドイツ側をよく見せる描写はやめて下さい。WW2でのドイツを支持してるように見えますから、とか、そんな当時的コンプラ」


「アー……」


「おかげでドイツ側の兵士達のギャグ描写とか無くなったし、戦闘中にエルゼがブラドリックブルクの一艦が爆発するのを停める、みたいなのも無くなってるのよね。最後、オスカーが道を開けるのは死守したけど」


「当時コンプラ厄介ですね……」


「まあ編集者としてはそうならざるを得ない処あるわよね……」


「そんな感じでBERLINと付かず、年号の1935がついたのね。担当さん的には”年号が付いてると昔の本の復刻に見えるからやめてくれ”みたいなのもあったけど、当時の編集長が元々BERLIN表記でも良かったんじゃね派で、もうそこらで結としなさいよ、って判断でそうなった訳」


「思ったよりも紆余曲折ですねー……」


「そう。だからエアリアルシティは、やはり倫敦の名前がつかず、年号もついてないのね」


「アー……」


「――で、倫敦の時点で、”都市としてのシリーズ”は有りじゃないか、って提案はしていたの。それで担当さんと話し合ったんだけど」



・都市シリーズ

 :都市、って名称がタイトルに無いから駄目


・CITYシリーズ

 :シリーズ名から何か解りにくいから駄目


・年代記シリーズ

 :倫敦に年号表記がつかなかったから駄目



「……って感じで、何にも付けられない、って話になって」


「アー……、としか言えませんが、アー……、って言うか」


「担当さんとしては、別のもの書いて欲しかったみたいなのね。よく”エヴァンゲリオンみたいなのを書いて下さいよ”って言われたわ」


「…………」


「エヴァ見てないですよね、うちは……」


「マー、部屋にテレビ無い(モニタはある)生活してたからねー。まあこれは結果論だけど、メジャータイトルを見ていないことで得した事があるとしたら――」



・~みたいなのを書いて、と言われても相手にしなくて良い



「こういうことよね……。もう既に書きたいものがある作り手にとっては、前例があるものを作れ、ってのは鬼門だし、そういう要望って”どのくらい似せたらいいのか”の匙加減が御気持ちだから、加減のズレがあるとお互い地獄見るのよね……」


「……曖昧な要望は地獄の入り口ですよね……」


「そして香港の初稿が出来たんだけど、当時の担当さんから”何が書いてあるのか、意味が解らないです”って話になってねー。

 こっちとしては意味が解るから、これはもう相性だな……、とお互い同意の上で担当さんが変わって、ここで転機になるの。

 仕切り直しっていうか」


「香港で、何か一気に変わった感ありますね。都市シリーズってついたし、背表紙に各世界観の概念図がつきました」



「そうね。実は背表紙のアレ、OSAKAスタートなの」


「…………」


「……WHAT?」


「いや、香港の出版が、担当さんの交代とかで延期? ともあれ延びてて、実の処、自分の中では”香港の出版は無しかなー”と思ってたのね。前の担当さんから”意味が解らない”って言われた訳だし。

 一方で自分の方では、TENKYに就職してゲームの企画とか作り始めるでしょ? だからまあ、”小説がボツったらゲームに活かそう”とか、そんな感じ」


「今で言う”逃げ場があった”んですね……!」


「そういうこと。だから担当側がもしも”修正しないと出版出来ませんよ”って言ったとしても”じゃあゲームの方に回しますんで”って言える訳。

 以前、倫敦を書く際に”小説ならではの手法”に気付いたけど、それはつまり、逆転発想で、小説でいけるアイデアをゲーム側にもシフト出来るってことでもあるの」


「えーと、そこでOSAKAの話が出るって事は……」


「そう。香港の出版が長引いてる間に、ゲームOSAKAの企画が進んでいたのね。

 OSAKAは、小説版としてベースに出来るものがあるし、小説が出なくてもゲームは出せる。

 だからもし、香港が出版されない場合、小説に寄せていくのはリスクが高いから、メインはゲームで、小説はそれのノベライズくらいで行こうか、という構えもあったの。

 そういう意味では、香港は、ゲーム側に寄るか、小説もやるか、という転機だった訳ね」


「でまあ、新担当さんがついて、最初の話し合いがあったんだけど、新担当さんは香港が読める人だったのね。倫敦なんかもちゃんと読めて」


「アー……、相性」


「そういうことそういうこと。――それで香港の出版が決まって、取り急ぎ挿画を誰に描いて貰おうか、というのが議題になったわけ。原稿はもうあるから、あとは絵だ、ということね。

 そして幾らか候補となる方達が上がったんだけど、スケジュール的に上下巻分の確保が出来ない、ってのがあって。担当さんとしては、”川上さんでもいいのでは”という事だったんだけど、そこで丁度、TENKYにOSAKAのデザイナーとして”さとやす”が入って来たわけ」


「アー、そういう流れ……!」


「そう。だから担当さんとはOSAKAの企画も含め、他の都市の話や、AHEAD(クロニクル)やGENESIS(ホライゾン)の話とかもしていたら、担当さんの方から、OSAKAでも、やっさんの絵が使われるなら、だったら香港からもうイメージを統一して”シリーズ化”にしようと、提案があったのね」


「担当さんの方からですか!」


「そう。別で話をしたけど、シリーズ化している方が有利って時代だったこともあって、こちらの世界観の話とかを聞いていたらトータルで大きなサーガ? みたいな、そういうものを前に出しましょうと、そうなった訳」


「そして、シリーズ名はどうするか、ということと並行で、挿画の方は”さとやす”が描くことになったんだけど、トータルとしてのデカい世界観を何処かに示したい、というのが担当さんから来たのね」


「つまりは背表紙のアレですね」


「そうそうアレアレ。担当さんとしては、前二作からの仕切り直しと言うことで、イメージを変えたい、というのがあったのね。前二作の挿画フォーマットは、所謂背表紙にも挿画のある”通常”タイプだったから、背表紙に世界観のイメージを出そう、と」


「それで、あの概念図を作ったんですか?」


「いや、アレはもう、その前に出来てたの」


「……WHAT?」


「ええ。つまりゲームOSAKAの企画書。香港の出版が順延してる間、こっちはゲームOSAKAの企画を進めていたんだけど、TENKY社長の成田さんとしては、うちの世界観が面白かったらしく、そういう”大きなもの”をウリに使えると思ってたみたいなのね。

 だからOSAKAの企画書に、これが大きな世界観の一つであり、今後も広がって行きますよ、って意味も含めて、象徴的なアレを自分の方で作って企画書の中に入れてたの」


「えーと、じゃあ、あの概念図は……」


「ええ。ゲームOSAKAの企画書用に作ったもので、説明書の裏にもあるでしょ? アレが実はスタート」


「……何がどうなるか解らん流れですね!」


「そうね。完全に手作りだから、香港の背表紙に使うとき、デザイナーさんに作り直して欲しいって要望出したんだけど、いろいろ複雑な加工してるから”MURIです”みたいな返答が来て。じゃあしょうがないからそのまま行こうか、って」


「……場当たり的な……」


「いやホントそんな感じ感じ。ちなみにアレ。フォトショップの4.0で作ってるから、画像固めちゃってて。分解出来ないのよね……。

 だから上に被る連番表記がちょっと御強めなのは、下と馴染ませられないから、ああいう風になってるの」


「アー……。だからクロニクルやホライゾンとか、他のシリーズの時、アレが流用出来ないんですね……」


「固めてあるから、他のシリーズ部分を強調ってのが出来ないのよねー」


「えーと、じゃあ、背表紙のアレも出来たとして、シリーズ名が”都市シリーズ”になった由来は……」


「ええ。前の担当さんにはいろいろ理由あって駄目になったけど、改めてどうしようかってことになったの」


「どんなシリーズ名が出ましたか?」


「やっぱり”都市・CITY・年代記”で、後はトータルの世界観に全部押し込める形で”六大世界”ってのもあったわね」


「六大世界、ちょっとうちら(ホライゾン)感ある名称ですね」


「そうそう。でも、その時既に”この世界観に追加する可能性も有りますよね”ということで、それは外してるのね」


「何でも押し込められるObstacleがあったとしても、ですか?」


「ObstacleやCityを経た上での”先”は、Obstacleの中に入らないでしょ? そういう可能性。当時はまあ、長くやるにしても、今ほどいろいろ広がってないんじゃないか、って思っていたんだけど。可能性としてはね」


「アー、成程……」


「そしてまあ、いろいろ話合った訳。

 年代記、ってのは現代や未来を舞台にしたとき、ちょっとズレますよね、っていうのと、年代を限定されると”縛り”が強くなるから、これは無し、と」


「年号から想像されるものが、人によって違うとか、ありますからね」


「そうそう。――で、自分としては”CITYシリーズ”かな、って思ってたのね」


「ああ、”架空都市-倫敦”の名称が、第二回の電撃ゲーム小説大賞で不選考理由の一つになったからですね」


「そうそう。だから香港も”●●都市”じゃなくて”●●街都”になってるのよね」


「でもそこから、どうして”都市シリーズ”に?」


「ええ。担当さんと話していて、こっちが”CITYシリーズ”の案を出したら、OSAKAの企画とかの話になって、”でもOSAKAは『都市』ですよね”って言われたの。

 そこで自分が、”●●都市”は駄目なのでは? って言ったら、こう返されたの」


「どのように」


「――”いや、気にしなくていいんじゃないでしょうか”って」


「……担当さんが変わると一気に変わりますね……」


「いやホントそうよね……。だからいろいろ話合って、今後のタイトルは”●●都市”で統一しよう、ってことにもなったし、何より”都市シリーズ”って、一瞬意味が解るけど、実の処はよく解らないってのがいいじゃない、ということで、そうなった訳」


「アー成程。……一方で、香港が風水街都なのは、間に合わなかったという事ですか?」


「そうね。そこらへん、本文で使ってる場合もあって、急ぎで修正すると間違いが多発するだろうっていうデバッグ理論で、街都のままね」


「――えーと、それから35とエアリアルが、組み込まれる訳ですね」


「新伯林が始まる時に、都市の一斉重版が掛かったの。そこでリニューアルすることになって、組み込まれたんだけど、実は正式な組み込みをすると権利云々発生するから、表紙側だけに書いてある暫定組み込みなのよね」


「アー……、いろいろありますからね!」


「そういうこと。でもまあ、こんな流れで”都市シリーズ”っていうものが、香港スタートで、やがてトータルとして全部飲んだ訳ね」


「…………」


「……何か凄い”場当たりだけで生きている”話を聞いてますね……」


「25年生きていくのに必要なのは1パーセントの準備と99パーセントのアドリブとか、そんな結論になるかもしれないわね……。

 昔に私、受賞とかそういうのは”実力”って鼻フンで言ってたもんだけど、今になって自分限定で言うなら”運よね!”って大声で言える気がするわ……」

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