書いたものが”在る”ということ・前編

「今回の話は、言葉って何でしょうね、という疑問からスタートです。私達がフツーに使っている言葉。でもこれが、情報をどうして他者間で伝達出来るのか。この定理が解ってしまえば、文体など些細なことにすぎませんよね。ちょっと踏み込んで魔法のような”言葉”の仕組みについて。そんな話ですね」


「何かコラムのタイトルから見て、ビミョーにテツガク的だなあ、と思うんですが、どういう話を振りますかね今回」


「いやまあ、今まで、ギャグの話とかやってるときに言ってきたことだけど、ちゃんと語ってなかったわよね、と」


「アーマーそうですね。ともあれどういうことなんです?」


「もうホント、単純な話で、文字とか言葉ってのは何なんだろうね、って話」


「いきなりだけど、文字というものって、何なのかしら?」


「……えーと」


「……言語として意味を為す記号?」


「”言語”は文字通り音も含むからちょっと違うわね。

 ――言語を表記する際に用いる記号の組織体系が、その言語の文字である、と、そういうこと」


「……何か難しい言い方ですが、それは、何か今回言いたい”文字”の説明ではないように思います」


「アンタが言い出した分類なんだけどね……。でもまあ違和感解るわ。つまり”文字”とはどういうもの、って説明に対して、”文字”からスタートしてないのよね、この説明」


「アー、そうです。”私”の説明を求めたとき、浅間一族の何処に所属して……、みたいな話になってるというか」


「そうね。でも逆算的に言うと、こういう事よね。

 ――文字とは、所属する言語を表記する際に用いられる記号の組織体系である、って」


「あ、確かにそうなりますね……」


「…………」


「……でも何だか、まだ、違う気が」


「そうね。現状の説明では、記号としてどんなもんだ、って話になっていて、情報伝達のシステムとかには突っ込んでないわ。何でか解る?」


「えーと……」


「……大事なのは、文字ではなく、言語の方なんですかね? 情報伝達とか云々は言語の方にあるもので、文字はそれを表記するための記号に過ぎない、と」


「――大体アタリ。コレちょっと面倒なんだけどね? さっきも言った通り、”言語”は音も含むものなんだけど、音と文字なら、主従的にいうと”音”が優先されるの」


「アー……」


「言語は声や発音から生まれるものであって、文字から生まれない、って処ですかね……」


「プログラミング言語を言語とするならその定義は間違ってる気もするけど、まあ大体そういうこと。歴史上、文字が存在してなくても言語は存在出来たものね」


「……って、ここまで話していて思ったけど、”文字が無いけど言語がある”って状態を想像出来ない人も、それなりに居そうよね……」


「うちだと”神々のいない星で”あたりで、ここらガッツリやってますけどね……」


「――今でも、文字が無いままに独自の言語を喋り、伝えながら生活してる人達がいるんだけどね。日本語は表音文字ってこともあって、音が文字化されてるもんだから、”言葉があるのに文字化がされてない”って状態が解りにくいのよね……」


「今、解ってる文字で最も古いのって、どのくらいです?」


「紀元前3400年くらいに、メソポタミア(シュメール)のウルクで使われていたと推測されるウルク古拙文字っていう絵文字で、これが楔形文字のベースではないか、って。紀元前4000年くらいまで遡れるかも、って話になってるわね」


「また古いですね!」


「そうね。ただ、絵文字は”ものごとを、絵を使って文字のように示したもの”で、言語となっていないことが多く、象形文字ほど統一表記が出来てる訳じゃないから、厳密には体系だった文字とは言えないのよね」


「事象や記録を想起するための記号、みたいな?」


「そう。ピクトグラムは文字じゃないでしょ? でもまあ、そういう絵文字が象形化して、洗練されて楔形文字になったって話なんだけど……」


「……話を戻すと、つまりそういう文字が無い時代から、人は言語を話していた訳ですよね」


「そういうこと。――神話が文字として継承されない時代から神が居た筈だ、っていうのが”神々のいない星で”の探求テーマの一つだけど――」


「……だけど? 何です?」


「ここ、宣伝タイムじゃない?」



『神々のいない星で』シリーズ好評発売中!

 最新刊『神々のいない星で 僕と先輩の超能力学園OO〈下〉』は2022年7月15日発売!

『EDGEシリーズ 神々のいない星で 僕と先輩の惑星クラフト〈上〉』

https://dengekibunko.jp/product/kamigami/321902000159.html



「商機は逃さない方向で。ハイ復唱」


「商機は逃さない方向で」


「そうね。で、何だっけ。そうそう。人類が言語を獲得したのはいつかってのは当然解って無くてね。今の処、最古だとすれば30~40万年前にはアーとかウーとか何かソレっぽいので性癖語りとかしてたんだと思うけど」


「後半完全に創作ですよね!」


「当時の人類、ケダモノナイズだから、話してたと思うんだけどねえ。

 でもまあ、今の私達の語圏でいうと欧州~インド方面で喋られてる言語の元。印欧祖語なんかは、紀元前7000年には話されてただろうって言われてるのね」


「9000年前ですか……。あ、でも、それが”出来た”のがその頃だとするなら……」


「ええ。まだまとまってない、方言的なものだったら、もっと昔から喋られていた訳。たとえば、6万年前には、ネアンデルタール人が数を骨に刻んで数えてたってのが解っていて、だとすると、その頃から言語はあっただろう、って事になるのね」


「…………」


「……宣伝いいですか?」


「どうぞ?」


「ちなみに”神々のいない星で”は、こういう検証から”神話はいつ生まれたのか”、”神という存在はどのように伝達されたのか”を探りつつ、神様や神話がマウンティングやバトルしつつ、地球クラフトしていく、という内容です」


「商機は逃さない方向で……!」


「しかし、言語が生まれてから文字が生まれるまで、随分ですね……」


「そういうこと。人類の言語の歴史からみたら、文字なんて短い時間のものでしかないわ。それに”声があれば言語が出来る”訳だし、ジェスチャーなんかでも言語が生じるってのも確認されてるの。文字は言語に対して必須じゃないのね」


「……えーと、だとしたら、文字というのは、このコラムにおいてはどういうものになるんです?」


「ああ、もう、単純よ。――魔法」


「……魔法? どういう?」


「いや、そのまま。たとえば文字が無い人達の前で、彼らの話してる声を、私達は表音文字の使い手として表記出来るし、その表記から声にして再現出来るのよね。

 これって、文字を持たない人達から見たら、驚異的な技術で、魔法や神の行いに近いものだってこと」


「アー……、確かに。見た目よく解らない絵? 記号? その羅列が、自分達の話してることを”記録”したものだ、ってなったら、大騒ぎになりますね」


「そう。文字ってのは、当たり前のようでいて、その機能である”記録性・再現性”においては、本来だったら有り得ないものなの」


「つまり、本来あった”言語”というものに対して、文字というのは、超強力な機能拡張アプリみたいなものですね?」


「そうよね。声主体の言語では出来なかった”記録性・再現性”をアタッチメント出来るオプション。これが文字が持つ機能の主たるものよね。

 ゲームで言うと、セーブ機能がつくオプション、って言うと解りやすいかしら」


「あ、それは欲しくなりますね……!」


「だから文字が無い世界に行ったら、どう生きていくかのネタとしては、記録官ってのが有りよね。ローマ字かカナ五十音で、相手が喋ってることを地面にでもメモしたら、相手も何が起きてるか大体解るだろうし。後はいくつかの表記や速記用の漢字とかを秘匿としていけば、行政に食い込めると思うわ」


「でまあ、ちょっと脱線したけど、この”記録性・再現性”が大事なの。以前、写実系の話をしたとき、こんな定理を言ったわよね?」



・文章は、理解させることで読者に通じる

・文章は、理解させなければ読者に通じない



「この”理解”って、どういうことか、解る?」


「えーと……、今回の、言語や文字からの流れで解答ですよね」


「そうそう。今回のキーワードで”理解”って言葉を言い換えてるものがあるんだけど、それを詰めてみれば解るわ」


「だとすると……、こうです」



・文章の理解とは、作者が記録した文の内容を、読者が自分の中に再現することである



「そういうこと。”記録性と再現性”。これが”理解”=”書いてあるものが通じる”ことのシステムなの。

 ――文章における理解とは、作者が文章としての記録した内容を、その文章を通すことで、読者が自分のものとして再現することである、と、説明的に言うとこんな感じかしら」


「……当然の様でいて、コレ、難しいですね……」


「そうね。先に出した定理と重ねると、よく解るわ」



・文章は、理解させることで読者に通じる

・文章は、作者の記録内容を読者に再現させることで読者に通じる



・文章は、理解させなければ読者に通じない

・文章は、作者の記録内容を読者に再現させなければ読者に通じない



「これらをもって、読者に書いたものが理解されること、されないこと、また、解釈違いや読み損ねにおいても説明出来ると思うの」


「アー……、こういうことですね。



・理解される  =作者の記録内容が、読者に再現された

・理解されない =作者の記録内容が、読者に再現されなかった



「コレ、結構”理解される”のが厳しいですよね」


「解る?」


「ええ。だって”理解されない”の”再現されなかった”には、あらゆる不理解が入ります。だけど、”理解される”の”読者に再現された”は、厳密に考えたら唯一しかありませんから」


「そうね。厳密に考えるとそうなるわ。

 例えば、


・解釈違い =作者の記録内容が、読者に間違って再現された

・読み損ね =作者の記録内容が、読者に間違って再現されなかった


 とか、こういうもの”再現されなかった”に入るから、不理解の”幅”って凄く大きいの。

 だけどね?」


「何です?」


「理解される……、ということを考えたとき、”幅”って、結構あるわよね?」


「アー、まあ確かにそうですね。”塩、適量”みたいな」


「そうそうそう。ある程度当たってれば問題ないわ、って、そういうの」


「ありますあります」


「じゃあ考えてみて? その理解の”幅”って、どういうロジックで決まってるのかしら? ――と、まあそんな処で長くなったから、ここから先は続きで、ね?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る