『OBSTACLE OVERTURE』ファンタジー世界観への新アプローチ
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「今回の話は、かつて存在した電撃文庫MAGAZINE、そして電撃hp、それらの市場で企画部門トップ人気を取り続けた知識企画”OBSTACLE OVERTURE”についてです。ファンタジーの各職業、彼女達がいる世界にはどういう要素があるべきなのか、その中で彼女達はどう生活しているのか、そんな設定の作り方や一例をしめした企画は、どう生まれたのか。そんな話ですね」
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「ぶっちゃけ、今回のコラム群の中でも、このオブスタについての部分は、かなりレアというか、”解らない人率高め”な気がするんですよね……」
「マー何か、いろいろ数奇な道辿ったコンテンツだものねえ。
ともあれどういうものか、概要を解説してみるわ」
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「オブスタってのは、全シリーズ中におけるObstacleのコンテンツの一つ。Obstacleは発生と滅びを多重に繰り返していく実験場みたいな世界がたくさんあって、それによって強固な世界が作られて都市(CITY)に繋がる……、という設定なんだけど、その一つでの企画なのね」
「ハイ。ちょっと話ズレますけど、――世界は滅びるんですか? だとすると、主人公達がどんな頑張っても、無駄では……」
「世界は多重発生してるから、世界の行き来による避難はあるし、滅びるときも、条件によっては新しい世界に”遺伝”出来るから、無駄ってことはないわ。そうでないと世界は強化されず、運任せになるものね」
「アー、成程」
「喜美みたいな言い方すると”花は枯れても無くならない”、そういうことよね」
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「――で、さっき、気になるワードがありました。”企画”って言いましたよね? ”話”ではなく」
「そうね。オブスタは、正式名称がObstacleOverture。要するに、今後展開するObstacleの前奏としていろいろな要素を見せたり、また改めていこう、って企画だったの。
オブスタの場合、企画としては”ファンタジー職業の再設計”ね」
「再設計?」
「そう。オブスタの第一回が始まったのは2004年2月なんだけど、それ以前、クロニクルを書きつついろいろ調べていて、自分の方の知識とかを刷新していたら、ある危機感が生じてきたの」
「危機感? 何です? それ」
「ええ。――ファンタジーとかに対して、日本のそれが、80年代くらいからその内容を更新してないのでは、という危機感」
「アー……」
「調べていろいろ知って行くと、何かズレというか、”あれ? 周囲と自分、どっちがおかしい?”という感じになっちゃって。特に神話とかいろいろ。民族史や人類史は遺伝子研究とかで多くの定説が引っ繰り返ってきていた時代だったのね。
神話なんかもいろいろ新発見があって、見方が変わったりして。
それなのに日本のファンタジーは、80年代くらいのRPGから変わっていないように見えて」
「別にそれでいいんじゃないか、って流れもありますよね……。知識を更新しなくても、誰も困らないので」
「そうよねー……。だから担当さんと話合って、”自分なりのファンタジーを考える”というアプローチで、企画を始めてみよう、と。
つまり、新しい知識で更新されないならば、新しい知識と新しい考え方で自分なりのアプローチが”ある”というのを知ってみるのはどうよ、と。
だから開始時、こういう告知を打ってるのね」
「言葉を選んでますね……!」
「まあそういう時代よね。今だとここらへん、ハッキリ言えるし、言ってるけど、当時はホント、新しい考え方とかのアプローチが受け入れられないことも多くて」
「で? どんな感じだったんです?」
「こんな感じで展開したわ」
「何処かで見たような装備が出たりしますね……」
「そうね。やってみたら電撃hp(電撃文庫MAGAZINEの前身となる書籍)での企画としては人気トップで、つまり需要があった訳。
いろいろな職業について、汎用的世界観の中で体系的にまとめながら、これまで何となく見過ごしていた処を見直す。そして装備類も、伝統とか様式じゃなくて、実利とかから生じるものを組み込む、と、そんな感じね」
「たとえば?」
「聖騎士のソードには連戦用のシャープナーを装備したり、装甲は攻撃を受け流しやすいよう、装甲形状だけじゃなくガイドをつけたり。
頭部などには、神への登録シリアルナンバーを付けてる、とか。
魔女は狙撃をするために伏せるけど、身体が冷えないようにシートを用いるとか」
「運用を考えての装備デザインとその見直しですね!」
「そういう感じ。これは途中の中断とかもあったんだけど、結構続いてね。でもこっちの仕事が忙しくなってる間に、連載書籍自体が無くなったりで、この形としては未完なの」
「この形?」
「ええ。実はこのオブスタ、2010年にガラケー用のゲームとして電撃モバイルのコンテンツとして登場してね。本編? のストーリーが補完された訳。
後にスマホ展開もしたけど、AMWがKADOKAWAに組み込まれるのに合わせてサービス中止になってるわ」
「アー、うちも英国編とかいろいろやってましたねー……」
「そんな感じ感じ。だから一応、ストーリーとしては補完されてるんだけど、文章として残ってないのよね……」
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「――で、タイトルとしての目的は、果たせたんですか?」
「そうね。これについては途上だと思ってるわ。
知識とか、考え方の更新、または”そういう知識、考え方がある”と知らせる啓蒙的なものは、うちの読者に対してはある程度出来たと思ってるし、うちはどのようなタイトルもそういう要素を持っているというのが、解ってると思うの。
でもうちのことを知らない人達は、”古いものを今でも書いてる”と思ってるでしょ?」
「古株って、そういうイメージですよねー……」
「うちは常に最新、更新なんだけどね。でもこれは、”古株”陣がちゃんとやってなくて、過去からのままだっていう話でもあるから、自分はまずメゲずにやらないと」
「うちに来ると最新、更新が見られる。――その始まりがこのオブスタだったとすると、これは”表明”みたいな企画だったんですね」
「勿論、別に新しいものを知ったり、更新する必要はないのよ。でも、それが無いと、文化としても、作家としても読者としても、死んでいくのよね。自分はそれが嫌なのよ」
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「うちとしては、このオブスタで出した考え方やアイデアが、以後のタイトルでの装備や組織、運用のあり方について、大きな影響を与えているわ。私やマルゴットの魔女運用とか、ミトツダイラの騎士感とか、結構あるものね」
「また表に出す機会とか、考えてます?」
「いや、それがまあ、古いものを更新するつもりで作ったじゃない? だから十数年経過すると、やっぱりこれらも”更新されるべきもの”なのよね」
「アー……。正しい話ですね……」
「そうでなかったら、今最新のタイトルが十数年前のものに劣ってる、ってことになるものね。それはあってはならないことだし、オブスタって、そういう”踏み台”になるための企画だったから」
「ああ、だから”話”じゃなくて”企画”なんですね」
「そういうこと。だから作るなら、今に合わせた新しいアプローチよね。
無論、ゲームとかで使ったテキストや絵なんかはこっちで全部回収してるから、それらをどうするか、というのはあるんだけど」
「いろいろ考えますねー……」
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