『エアリアルシティ』書物世界という設定とルール・前編

「今回の話は、”その世界は書物の中にある”という都市シリーズ倫敦。しかもそれが、本当に”書物”ルールの異世界なんですが、それってどういうものなの? どうやって思いついたの? と。いやはや必然って怖いですね。そんな話ですね」


「この前、倫敦の初期バージョンの話とかしたから、この話題をチョイスしようかしら」


「あ、コレコレ。ある意味、都市シリーズというか、作家的方向性? を決めるアイデアだったと思いますが、どうなんです?」


「そうね。これらの前に長編版TOKYOを書いたとき、既に”言葉として書かれたものは、そこに存在することになる”ってのに気付いていた、という話はしたわね」


「あ、はい。そんな感じで」


「だからまあ、倫敦の初期段階でも、”架空”って言葉をキーワードに、”架空世界=想像、イメージが具現化する空間”みたいな発想だったの。

 ケルトの術式によって英国を本土から守るためにそうなったとか、そんな設定。そこにケルト文化伝いで欧州から異族が流れ込んできて、いろいろあった末に”架空”を活かして行く場所になった、とか」


「ちなみにここで私が言ってるケルトは”80年代知識のケルト”だかんね?」


「アー……」


「90年代後半くらいから海外の方では”何か存在自体が怪しいぞ、英国ケルトや本土ケルト”みたいなことになってねー……。日本ではそんな情報がほとんど無い(勉強不足なのか、周囲で観測出来なかった)けど、海外でそれだとここら触れない方がいいな……、みたいな」


「というか当時でもケルトネタって珍しくないです?」


「ウルティマやってると、職業にドルイドがあるのよ……。ついでに言うとティルナノーグとか、そこらの下地もあったから、そりゃまあ調べていくわよね。あと、80年代後期~90年代序盤のTRPGブームの中で、それなりに認知があったのよ、ケルト」


「そうなんです?」


「まあ選択できるクラスの中にあったりもだけど、ファンタジー好きの人だったら、多分、音楽系でZABADAK、ENYA、OPUSⅢとかにプログレ含めて触れて、”何となくこんな感じ?”を思ってたんじゃないかしら。私、P-MODELやPSYSとかに突っ込んでたけど」


「途中から変になりましたが、アー確かに、という感ですね……」


「まあそんな感じね。なお、同時期、ウルティマオンラインが1997年10月から日本で発売。日本サーバが98年10月にスタートして爆発的に広まるわ。同じようにエイジオブエンパイアも、99年11月に発売されたⅡでケルトが登場。ケルトの文化には、それなりに触れることが出来るようになったわね」


「でも、ある意味、日本では80年代あたりからそういう情報が更新されてない感でしたねー……」


「だからまあ、そこらへん濁したりして。でもほら、アモンの元カノのアイレンが木霊でしょ? アレ、ドルイド系というかケルト系の文化圏の異族なのよね。つまり地元」


「何か話ズレましたけど、そういう”架空世界”が、どうして書物世界になったんですか?」


「まず、ベースとなった”架空都市-倫敦”は、電撃ゲーム大賞(当時)の最終選考に残ったとはいえ、落選してるのね。だからバージョンアップさせないといけないと、そう考えた訳。一手を加えなければいけない、と」


「アー……、まあ、確かに」


「それで、どうしようかなー、と、当時まだ大学に在学中で、往復70キロを車で走ってたんだけど、その帰り道の途中で、いきなり閃いたのね。

 これまで”言葉として書かれたものは、そこに存在することになる”っていうのは解っていたけど、コレを、”本限定”にしたらどうだ、って」


「……?」


「……”言葉として書かれたものは、そこに存在することになる”って、本限定の話じゃないんです、か?」


「いや、私の場合は違ったの。ゲーム企画者としての仕事も既にTENKY(https://www.tenky.co.jp/)で始めていたし、そもそも”ゲームを作るとき”としての発想だったのね」


「アー……。”畑が違った”んですね」


「そういうこと。だから架空世界のルールとかを考えているときに、”小説としてちゃんとした内容になるにはどうしたらいいか”と思案し続けたんだけど、そのときいきなり”小説だよ……! ゲームじゃないよ!”って思ったのね。

 要するに、これまでのルールを”小説限定という視野で見ていなかった”って訳」


「…………」


「……五種競技とかに出てる人が”100メートルを速く走るには100メートルに専念しなければいけない”って気付くようなアレというか……」


「マーそんな感じ。だから帰り道の途中で車止めて”本限定にしたらどんなルールが生まれるか”って、ノート98開いてメモしてねー……。今でもあのときの”発見”の感覚は覚えてるわ」


「コレはまあ、”物語”を記す媒体として、これまで自分の中では”何でもいいや”とか”最終的に色々出来るのはインタラクティブ感のあるゲームではないのか”って思いがあったせいだったんだけど、それを転換させる”発見”だった訳」


「……あの」


「ん? 何?」


「……何でデビューしてからそういうの気付くんですかね。フツー、先に気付いておくべきでは?」


「いや、だから自分については”始めの村のモブ”だって言ったっしょ? これが、勇者だったら、こういうの始めから気付いていて、デビューの時には姫担いで宿屋に入ってんだろうけどねえ? 違う?」


「へ、変な逆ギレされてますよ……!」


「まあそんな感じで、書物世界にしよう、というアイデアが出来たんだけど、ここから先はゲーム的発想に立ち返るの」


「書物世界の中のルール作成ですね」


「そう。情報の成立条件と、それを世界のルールに落とし込んだら、どんな風になるのか。

 まず思いついたのは、これまではトガキとして見えていた思考を見せるための外燃詞ね。これは元々、最終先行版の架空都市-倫敦でも、世界の設定として”架空ゆえに思考もトガキにすると見える”ってなってたのを、ルールとして名称化した訳」


「……よく”外燃”使いますよね。外燃拝気とか。どういう由来なんです?」


「これは中学校のときから作っていたTRPGシステムである”GENESIS・SYSTEM”が由来」


「アー何かいろいろ出ますよね、その独自TRPGシステム……」


「元々はゲーム企画者としての経験値やノウハウを学ぶために、数値管理やロジックのテストとして始めてたのね。プログラムはプログラマーの仕事で、企画者はこっちの方が大事だと、そんな風に思ってたから。

 でも、ホライゾンが書けなかった挫折以降”世界をシステムとして理解するための手段”として、自分の中では使われ始めたの」


「ええと、だとすると順番は……」


「元は将来を(未熟な子供なりに)考えた就職活動? の一環。でも、挫折以降はホライゾン世界を再現するためのツール。

 たまにホライゾンを”川上稔が作ったTRPGのノベライズ”って言うのを見るんだけど、逆。

 ”ホライゾンの世界を理解するために作ってたTRPG”が正解。

 だって、ホライゾンが自作TRPGのノベライズだったら、ルールが出来た段階でもうホライゾン書けることになるじゃない? そうじゃない訳だから」


「まあそんな感じだから”作り上がらないシステム”にもなる訳ですよね……」


「販売とか考えてないものね。――でまあ、そこで使用するマジックポイントとしての”拝気”がまずあったのね」


「アー……」


「何?」


「何で”拝気”なのか、って質問もしようと思ったんですけど、コレなんですね」


「え? あー? あ? あ、そうか! ”拝気”も、つまりホライゾンが神道ベースだったから”拝気”で、そこからGENESIS・SYSTEMに導入されてるのよ。

 そしてホライゾンが未発表でも、GENESIS・SYSTEMのデータはあるから、各作品に拝気とかいろいろなワードが持ち込まれるの」


「……何か、要らん処の謎も解けました」


「何にスっ飛ぶか解らん、事故の多いコラムよね……。

 ――でまあ、”外燃”に戻すけど、本人だけの拝気だと足りない術式とか、国家レベルでの術式とかをするには、”拝気が人の中にあるだけだと足りない状況”が生まれる、というのが解って」


「アー、だから本人の中で使用される拝気を内燃。外にプールしたり、他と共同で使う拝気を外燃、としたんですね」


「そうそう。そして同じ世界上で動いているから、都市でも”外に出して何かするんだったら外燃という表記”になる訳。今回で言うと、いつも自分の中にある思考は内燃詞、外に出す思考は外燃詞、そうなるのね」


「そんな訳で、こんなルール? みたいなのが出来た訳」



外燃詞:トガキに出した思考を皆に読ませる

内燃詞:思考をトガキに出さず、完全に封じる

字己清詞:表現の乱れた自分(極度の乱れは自壊を招く)を正す

字己詞震:己の表現が乱れた状態。

言像化:文章の中に、それまで出していなかったものを出す。更新時も用いる。

言影化:文章の中に、それまで出していたものを隠す。更新時も用いる。

吼詞:自分の存在を文章の中で強める

字我崩壊:表現の乱れによって自壊すること。



「アー、プラス効果のワードとマイナス効果のワードが対になってるんですね」


「こういうシステムの”味”もだけど、何でそのキャラがこのシステムを今使っているのかな……、と察するのも、倫敦の面白さよね」


「何となく思いましたけど、人狼系とか、そういうシステムと噛み合わせよさそうですよね、倫敦のコレ」


「駆け引きに使えるわよね。というか、書物というものは”情報を出す・出さない”の選択の場。そういう発想があるわ」


「――で、ここでようやくタイトルの”書物世界という設定とルール”の話になるんだけど、ちょっと長くなりすぎたから、ここで前編としましょう」


「無駄話の長いコラムですよね……」


「マー何というか、”こうするといいよ”みたいな事をクソ古い人間が言うよりか、いいじゃない? アレよ。如何にテキトーかつ思いつきで重大事が決まるかとか、そういう話だと思って御笑納」


「ともあれそんな感じで、後編に御期待下さい?」

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