”写実描写主義・前編”
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「今回の話は、文体についてです。川上稔が使用している文体は写実系ですが、それがどのようなものか、他の文体と比較など行い、今まで何となく流していた”文体のルールによって表現がなされる”ことを明確にしていきます。……ホントですかね? まあええ、そんな話です」
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「そんな訳でいきなりですけど、写実描写主義って、何です?」
「そう言うほど厳密じゃ無いけど、文章による描写と伝達方法が、直接表現じゃなくて写実描写を通した間接表現になってるって事」
「…………」
「……ええと?」
「つまりこういうこと」
・直接表現
少女は哀しいので泣いた。
・間接表現
少女は眉を下げて、目尻から涙を零した。
「前者はもう、文章読めば解るわね?
一方で、後者は”哀しい”ということを、少女の描写で間接的に示したのね。何故なら眉を下げて目尻から涙を零す=哀しいから生じることだから。
このように、感情や、ものの正体などについて、写実的に描写することで、読者に何が起きているかを推測、または感じさせるのがうちの文章な訳。
いろいろ面倒だから、前者を”叙情派”、うちみたいなのを”写実派”と呼んでるわ」
「ええと、システム的な両者の違いは――」
■叙情派
・文章を読む
↓
・文章で書かれている正解から、与えられた情報を理解する
■写実派
・文章を読む
↓
・文章で書かれている光景を想像する
↓
・想像した光景から、捉えるべきものを理解する
「こんな感じね。読解のシステムで見ると解るけど、行程数が違うから、叙情派に慣れた読者が写実派の文章を読むと二段目で終わってしまい、その文章が何を表現したいかにたどり着けず”目が滑る”ことになるわ」
「アー、目が滑る、ありますね……」
「そうそう。これは逆にも言えてね? たとえば叙情系の文章を書いてる人が自分の文章読んで”あれ? 何か目が滑る……”ってなったら、それはその箇所が写実的になってる可能性が有るわ。
ちゃんと文章が正解そのものを書いて読者に届けてるか、確認してみてね?」
「あの、もしも叙情系の人が、格好良く写実描写で破壊表現とかやろうとしたら、どうしたら?」
「叙情系の中に写実系を仕込みたい場合、ちゃんと”何が発生して、何が結果か、概要を示す”ことが大事よね。
可能であれば解像度を上げていく。
たとえば、爆発でビルが崩壊するのを書くならば」
■叙情派
有り得ないほどの爆発によってビルが真っ二つに折れ、勢いよく倒壊した。
「爆発・折れ・倒壊、の”発生と結果”を示す3ワードに、それぞれ解りやすく通じさせる”ありえないほど・真っ二つ・勢いよく”って修飾ね。
この修飾がないと目が滑りやすくなると思うわ」
「ええと、写実派がコレやると、どうなります?」
■写実派
ビルの中央から光が生じた。赤い焔が噴き出し、黒の煙が構造物と共に舞い上がり、散った。
爆発音が後からやってくる。
そして破壊の位置から上。巨大建造物が半ばから傾いた。
多くの”中身”を振り散らし、土砂が崩れるような音を重ね、ビルの上半分が倒れていく。
倒壊した。
「ぶっちゃけ細分化どこまでも出来るから、あと十行くらい余裕で行けるわ……。
でも大事なのは、”何が起きていくか”という順番は間違えないということと、”原因が起きてないのに、発生をしてはならない”ってことね。
言い換えるなら叙情派は”生じたことのまとめ”で、写実派は”リアタイドキュメント”って感が強いわね」
「……ええと、ちょっと要望があります」
「何?」
「そのビルの崩壊の写実描写、これを叙情系の文章に組み込むことって出来ますか?」
「出来るわよ? 方法は三つ。
1:何も考えずに組み込む
:読者の素養があれば問題無い
2:写実を組み込んでもいいように、前段の文章で慣れさせる。
:写実は短ければアクセントになるので、時たまそういうのを入れる習慣をつける。
3:煽る
:煽れ
こんな感じ?」
「……あの、1と2は解るんですけど、3は?」
「ええ。叙情系最大の武器である”作者が喋る”を使うのよ。
だから写実の前の本文で、”見るがいい”とか”見よ”とか作者が自分の言葉で煽るの。
そうすると読者にとっては、そこから先が”見るもの”になるから、写実であっても違和が薄れるのね。
解ってる人がコレ使うと、勢いが凄く上がって、目が滑ることが寧ろ読書速度のアップや集中に繋がるわ」
「アー……、ありますね……。
でも、うち、ホントそういうテクニカルな処、無いですよね……」
「いや、写実系って、ほら、アレよ、……地道な積み重ねがものを言う? みたいな?」
「写実派、面倒ですねえ!」
「そうそう。だから今の主流は叙情派なのよね。
作者の意図が通じやすいし、煽ったりとか、書いてる時に盛り上がるもんね」
「じゃあ、何で、写実系を使うんですか?」
「いろいろ理由はあるけど、写実派の文章は、つまり”文章で書いてる映像”なの。
アクションや緊迫したシーンとか、映像的な理解や迫力ってあるでしょ?」
「まあこんな感じね。
前者はカメラの撮影が空から始まって、八艦に近づいていって、そして八艦の中央後艦、その艦尾へとどんどんズームしていくの。
後者は二人の相対だけど、周囲の状況描写や”見る””気付く”行為を細かく拾っていく感じで、どちらかというとコマの多い漫画とか、そういうイメージね」
「”文章で書いてる映像”というのは、こういうことですね」
「まあいろいろ利点や欠点在るけど、これを改良したりで二十五年ね。補足みたいな濃いめネタは別でやるとして、まあ、主流じゃない文体でも生き延びられると、そういうのが伝わってくれると嬉しいわ。
このあたりの話、もうちょっと詳しく後編で行うわね?」
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