実はギャグベース

「今回の話は、クロニクル以降から顕著になって、ホライゾンでは呼吸と同様になったギャグやコント的な展開の解説です。何でフツーに進行してればいいのに笑いに流すの? 馬鹿なの? いやいやギャグの導入には一種の”無敵”があるんですよ。知っておくと得をする。そんな話ですね」


「……ギャグに厳しい戦闘国家が、確か何処かにあったように思いますが……」


「奇遇ね……、私、アンタや皆と一緒に、そこに在住な気がするわ……」


「いやまあ、それはそれとして、……ギャグベースでしたっけ?」


「……否定出来るの?」


「…………」


「……アルェ――?」


「いや、待って下さい。一応、死んだりとか、そういうのがある世界ですよね?」


「とんでもない方法で生き返らせたのがいるわよね?」


「いや! あれはまだ死んでないんで! 先っちょ! 先っちょだけ残してるとか、そういう塩梅だったんで!」


「……というかギャグベースっての、全然否定していないんだけど?」


「……いや、でも、うちは一応、設定山盛りとか、そういう話ですよね?」


「そうね。――でも、ギャグとかそういうものって、リアルであることや緻密であることと”分けなくていいの”よ」


「あの、……リアルとか緻密と”分けなくていい”ギャグって、何です?」


「それはもう簡単な話よ。そのギャグが、物語の一部になっていればいいの」


「解るような解らないような……」


「あるじゃない? 時事ネタやパロディみたいな感じで、作品とは全く無関係な”笑える”ネタとかを入れてくるネシンバラとか」


「名指し! 名指し入ってます! ――まあ否定しませんけど」


「アンタ何気に酷いわね……。ともあれ作品側から考えて見るわね。

 ギャグが、その世界の中で発生して、こっち(読者に)を笑わせるものだとして考えると、フツー、どういうのがあるかしら」


「ええと、こんな感じです?」



・その世界と現実の、両方に即したギャグ

 :その世界の中でのギャグとして通用している。読者にも解る。

 :主にキャラの言動

・その世界と現実の、齟齬によるギャグ

 :その世界においてはギャグではないが、読者にはおかしく見える。

 :主にガジェットの名や、文化、出来事などについて。



「そうね。つまり作中でどうであろうとも、読者にも解るタイプのギャグでなければならない。当然と言えば当然よね


「一応、世界の見せ方として”現地では通用しているが読者には解らないギャグ”というものもありますが?」


「それは世界をどう見せるか、伝えるか、という表現の手法であって、ギャグではないという見解で御容赦ね。

 今回で言ってるギャグって、”読者を笑わせるもの”だから」


「アー、区分しっかりしておきたい話ですね、今回」


「まあそんな感じ感じ。

 ――で、ギャグとして考えた場合、基本、やらかしてはいけないギャグって、あると思う」


「え? ええと、逆を考えるから、こういうことです? さっきのネシンバラ君のアレのような……」



・その世界に即してないギャグ

 :その世界に有り得ないネタ。読者には解る。



「そうね。作中で存在の整合性の取れないギャグは、存在自体が別世界だから、そこにあるのがおかしいと、そういうことになるわ。でもね?」


「でも? 何です?」


「さっき自分で言ったことを否定することにもなるけど、作中で存在の整合性がとれなくても、有り得るギャグって、それこそ”有り得る”と思う?」


「……その世界に有り得ないのに、有り得るギャグ……?」


「どうかしら?」


「世界に有り得ないと言うことは、別の基準や何かで有り得ると、そういうことですか?」


「――いい回答ね。ありとあらゆることは、この世界に有り得なくても、ある条件で有り得てしまうの。

 ――物語の展開に用いられた場合、ね」


「どうしようもない、整合性の無いギャグがあったとするじゃない?」


「あったとします」


「そうね。”あった”のよ。――じゃあそれって、無かったことになるの?」


「え? ええっと……」


「小説は”文・言葉”。漫画なら”絵”ね。そして作中に存在させられたものは、ではその存在を否定出来るの?」


「いえ、表記された以上、作中には存在してしまいます」


「そう、表記された段階で”在る”のよね。でも、整合性が無いから、それはただ”在る”だけなの」


「ええと、……浮いてるというか、そんな感じで?」


「そうね。ただ”在る”だけだと、意味が無いじゃない? だから恐らく、担当さんから”消せ”って言われたり、読者からは”無駄”って言われるわ」


「じゃあ、それを有り得るようにするには……」


「…………」


「……世界とかそういうものではなく、”物語の展開に用いる”?」


「そういうこと。荒唐無稽なギャグであっても、たとえばそれが物語の展開に用いられた場合”作品”に組み込まれてしまうの。

 ナンセンスギャグって、そういうことよね。

 無論、ナンセンス=荒唐無稽だから、作品のいろいろなものを破壊するんだけど、でも、この事実からは、憶えておくことが二つあるわ。



・荒唐無稽なものでも、表記されれば存在したことになる。

・物語の展開に組み込まれれば、それはナンセンスでも、不必要なものでは無くなる



「このことが解ってると、作中での選択肢が増えるの」


「ええと、どういう?」


「たとえば戦闘中、普通なら有り得ない解決を思いついて、それで決着とか」


「…………」


「……戦国時代と百年戦争がベースの世界で、……本人も槍使いなのに、戦闘中にジャーマンスープレックスをキメて勝った人、いましたよね」


「……大事な交渉だというのに架空の第七艦隊を出して、相手を追い詰めた馬鹿もいたわよね……」


「あの周辺は毎回やらかしてますよね……」


「言い換えるなら、ナンセンスや荒唐無稽を組み込んでもいいキャラや展開って、ありますよね」


「アンタのジェノサイドシャーマン振りとか1501回とか、アンタとあのシチュエーションだから赦されてるんだからね?」


「よく考えたらナルゼの”同人作家”もそうですよ!!」


「まあそんな感じで、どのキャラにも、そのキャラだけが出来る荒唐無稽ってあるのよ。それを否定してるような作風でなければ」


「……うちはそういうのを組み込み捲っている訳ですね……?」


「そうね。だって”荒唐無稽”を組み込めるようになると、いろいろな解決方法がマンネリを逃れるし、どういう結末を迎えるか、解らなくなるのよね。これは長編を書く際にとても大事なことで、インフレを防ぐ意味でも強力なの」


「だとすると、ギャグというのは……」


「もっとも荒唐無稽に近くて、皆の馴染みが深いものね。作中、本文で普段からそこらへん流して慣れていれば、仕込むタイミングが解ってくるのよ」


「アー、つまり”先の展開がサッパリ読めない”っていうアレ……」


「でも何でそういう方向性なんです?」


「さっきも言ったけど、作品の耐久度を上げるためね。マンネリやインフレを防ぐのには、想定外の解決こそが大事だから。

 あとは、まあ、これはうちの方向性だけど”見せ方が一つしか無い人間っていない”と思ってるの」


「それは?」


「常に格好良い存在なんていない、ってこと。誰だって失敗するし、生理現象はあるでしょ?」


「先に言っておきますけど、巫女はウンコしませんよ?」


「ええ、安心して、魔女もウンコしないわ。――でまあ、そういうのを描写しない、ってのも有りだけど”無い”ことにすると、それはリアルを失うと考えているのよね。そしてうちは、そういうのを見せて行こうって、そんな書き方を選択してる訳」


「アー……、だから”キメたらオトす”みたいなことを……」


「格好良いのって、疲れるのよね……。

 あとほら、アレ、あるじゃない?」


「何です?」


「昔に好きだった作品をさ、十年くらい経ってから読んでみたらどう思うか、ってアレ。

 格好良い作品って”アイタタタタタタ! お寒い!”ってなること多いんだけど、頭の悪い作品って”私、こんなので笑ってたのか-”ってなるじゃない。

 でも私、そうなるんだったら後者の方が良いなって思ったりするし、両者のバランスが取れてれば、歳食ってからも読めると、そう思ってるのよね」


「だけど、どうしてこういう”ルール”みたいなことに気付いたんです?」


「元々うちはnobody理論みたいなものが好きだったんだけど、学生自体に手塚治虫先生の”ブッダ”を読んだ訳よ」


「アー、名著ですよね。これ描くのどのくらいパワーがいるんだろう……、って」


「それの序盤、馬に乗って街中戦闘するシーンで、撃つ矢でゴム吸盤を使う、みたいなシーンがあるのよ」


「手塚ギャグは、いきなり吹っ飛びますよね……」


「ホント、ナンセンスをぶち込んでくるわよね……。私もそこまで読んだ時”この人、こういうの好きだなあ”って思ったわ。でも――」


「でも?」


「その戦闘の決着が、”ゴム吸盤だったからこそ勝敗がつく”っていう決着をするの」


「…………」


「それ見たとき、”何が正しいのか”解らなくなっちゃって」


「いや、まあ、確かに」


「ブッダって題材で、ナンセンスなギャグだと思ってたゴム吸盤矢が、話を決着するガジェットになるなんてねえ……。あのゴム吸盤矢、つまり、あのブッダの世界に実在しちゃってたことになるのよ」


「巨匠、流石というか……」


「そうよね。そこで気付いたの。”書かれたものは存在する”ってのは以前から解っていたんだけど、それがナンセンスな存在で終わるかどうかは”物語の展開に関わるかどうか”で決まるって。

 更にその上で、こう思ったのね」



・作中の存在の是非は、物語の展開に必要かどうかであり、設定などの有無は無関係である。



「ナンセンスであるかどうかを受け入れる覚悟があれば、ありとあらゆることが作中に存在して良いの。正に矛盾許容よね。

 そしてこの事が解っていれば荒唐無稽なナンセンスを、キャラや展開を通して違和薄く組み込むことが出来るって訳」


「その手段として、また、親和性を挙げるのがギャグだと、そういうことですね?」


「そう。だから真剣な時でも何でも、とんでもないことが起きるし、起きないときもある。そこに揺られるのは、読者にとって面白いことじゃないかしら」


「でも、昔はそういう作風ではなかった気もしますけど?」


「いや? 実はそういう風に書いていたのよ? でも担当さんからチェックが入りまくって削ることになったの」


「どういう?」


「当時の電撃レーベルでは、”ギャグは鬼門”みたいなのがあったらしく、”コメディ”とか”日常系に笑いがある”くらいの振りでないと駄目っぽかったのよね。

 ”笑える”のはいいけど”率先して笑いを取りに行く”のは駄目、みたいな?

 自分の芸風としては、ゲームOSAKAの日常部分みたいな感じで、実際、35や倫敦、香港なんかも、よく見ると各所そういうテイストが入っていて、削られはしたけど、今でもちょっと残ってるわよね」


「アー……、35だとヴァルターや相手のモブ兵士回りとか、倫敦だと警部とフィル回りとか、そういう……」


「そうそう。――でもそういう風潮が、あるとき、一気に変わったの」


「それは……」


「ええ。”撲殺天使ドクロちゃん”。hpに掲載されたとき、編集部に電話したわー。”コレ絶対成功しますよ!”って」


『撲殺天使ドクロちゃん』書籍情報

https://dengekibunko.jp/product/dokurochan/200305000099.html


「実際、その通りになりましたねえ……」


「そうよね。そしたら以後、作中にギャグ組み込んでも何も言われなくなったの。

 だからドクロちゃんについては、あの時代の電撃を変えたタイトルだと思ってるのよね。その恩恵は今でも充分に続いてると思ってるわ」


「何だか、ギャグベースの話をしていたら、思った以上に深掘りですね……!」


「作風に関わることだものねえ……。でもまあ、理由とかいろいろあるけど、こういうのが書いていて”楽”なのよね。堅苦しいのとか、格好良いのとか、ホント、やっていて疲れてしまうから」

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